カズマと名乗るのは恐れ多いのでカズヤと名乗ることにした 作:美味しいパンをクレメンス
前回更新から何ヶ月経ってんだって話で、この作品をお待ちいただいている皆様には本当に申し訳ありません。
そして、感謝しております。本当にありがとうございます。
来年度から子どもを保育園に入れるだ何だで毎日を追われていたら、気がついたらもう年末でしかもシンフォギアライブも終わってんじゃねーかという有り様。
絶対時間泥棒とかいう謎の組織や存在が悪事を働いていますよね、昔読んだ本『モモ』みてーな。
響の父親から連絡があったのは、カズヤがS.O.N.G本部に到着してから暫く経過した後。つまり今回の戦いにおける事後処理中であり、世間的にはだいたいの人々が通勤や通学の為に家を出る少し前の時間帯。
響に会わせて欲しい。その要望を受けた時、カズヤは関係各所に提出する為の報告書と始末書と反省文と謝罪文を作成し始めており、本人曰く『クッッッソ面倒で誰かに丸投げしたいけどテメェの尻はテメェで拭うから逃げ出せねー』という心境と状況に陥っていて無茶苦茶機嫌が悪かった(キャロルの掌の上で踊らされていた事実が発覚したことも要因)。うるせぇバカこっちは今忙しいんだよテメェと違って! と叫びたい衝動をぐっっっと堪え、響の為を思って最大限の理性を以て平静を保つ。
で、できた対応が顔を顰めながらの「まあ、別にいいけど、会えるかどうかは響次第だからな」という返答。詳細は追って連絡する旨を伝えて通話を切り、大きな溜め息を吐く。
「はーあ......響に連絡......あ、でもこの後本部で合流するのか......いや、早めにしておくのが報連相の基本」
俺は報告連絡相談を怠らない男、と内心で何度も繰り返しつつとりあえずメッセージだけでも入れておく。簡潔に纏めた文章を打ち込み送信。詳しい話はまた後で、としておけば問題ない。
「ふぅ」
胸の内に溜まった様々な感情を吐き出すが如く、再度盛大な溜め息を吐く。
今、カズヤは本部のレストルームで一人だ。クリスとセレナは深淵の竜宮内部での戦闘で、切歌と調は深淵の竜宮脱出後に襲来した巨大人形(レイアの妹)を迎撃する為に、各々がシェルブリットバーストを用いたことで体力を激しく消耗したので仮眠室で眠っている。
体力を回復させようと眠る四人を思いながら、ここ数時間のことを思い返す。
彼がサンを彼女の仲間の元に届けた後、突然姿を現した緒川からファラが語った内容を聞き、慌てて本部まで文字通り飛んで行く。
移動しながら通信を繋ごうと繰り返し試し、通信妨害の範囲内を抜けて一瞬繋がったと思えばまた繋がらなくなる事態が発生。後で聞いたら、巨大人形を切歌と調がシェルブリットバーストで爆散した際に本部側でも通信妨害が起きていたようだ。
結局、本部に辿り着き確認してみれば時既に遅し。イグナイトを稼働させた状態でシェルブリットバーストを使いレイアを粉砕したと自慢気に語り、えっへんと胸を張って褒めろと期待を込めた眼差しを向けてくるクリスに残酷な事実を打ち明ける訳にはいかず、ハグして頬擦りして頭撫で撫でして褒めちぎってやったら、満足気に微笑むと立ったままいきなり爆睡し始めたので仮眠室のベッドに運ぶ。
どうやら体力的に限界ギリギリだったクリス。彼女だけでなく、セレナと切歌と調にもハグ頬擦り頭撫で撫でコンボを決めたら泥に沈むように寝たので、四人にはまだ伝えるべきことを伝えていない。
なお、弦十郎をはじめとするオペレーター陣は話を聞いて顔を引きつらせることになったが。
それから、スパイ行為を自身の知らぬ間にやらされていたエルフナインは医務室で眠っている。
体力の消耗と疲労により寝ているクリス達と異なり、怪我によるものだ。
潜水艦であるS.O.N.G本部を襲った巨大人形──カズヤと未来との戦いで両腕を失っていたが、その巨体が持つ質量をそのまま攻撃に用いるのが脅威であることは変わらない。全体重を以て繰り出された頭突きにより本部は大ダメージを受け、その衝撃により破損し落下してきた天井の一部からあおいを庇ったことで重症を負ったとのこと。
なお、その際のダメージにより本部は大破した。なので、管制ブリッジを含んだ重要なエリアを中型艇として緊急離脱、及び分離した状態で航行中だ。
一応、お見舞いとして医務室まで足を運んだが、意識を失いベッドで横になるエルフナインを前にできることなど何もない。回復を願い無言でその場を後にした。
そして、最終的にやらなければならないこととしてカズヤに残ったことが、彼がS.O.N.Gで働く上で唯一面倒だと感じている書類仕事だ。
ちなみに、アルカ・ノイズの無限沸きを阻止する為の破壊行為に関してどのように報道されるのかについては、暫くの間は知りたくないので情報媒体の類いを見ないようにしている。
後のことは全部おっさん達に任せとけばいいんだよ! というのが本音であり、ささやかな現実逃避であった。
あー面倒臭い、と嘆きながらテーブルの上に置かれたタブレット端末に向き合う。書類のテンプレートであるファイルを特定のフォルダから引っ張り出して開き、真っ白な画面にキーボードを用いて文字を打ち込んでいく。時折、音声をそのまま文字にしてくれるツールを利用しある程度の文章を作成する。
そんなことをひたすら続けていると、レストルームに朔也とあおいが現れた。
「お疲れさん」
「「お疲れ様」」
タブレット端末から顔を上げ作業を止めて挨拶すれば、疲労を顔に色濃く残す二人が応じる。
朔也がカズヤの隣に、あおいが朔也の向かいに座った。
「書類の進捗はどんな感じ?」
「ボチボチー」
アイスコーヒー片手に質問してくる朔也に溜め息を吐きつつ返答しておく。
朔也と同じくアイスコーヒーを手にしたあおいが眠そうに目を細めながら言う。
「そういえば、そろそろカズヤくんの始末書提出が五十回目になるそうよ」
「二課時代からのを含めるとね」
「マジで?」
呆れながらのあおいの言葉に朔也が補足を入れ、カズヤは少し驚いてからくつくつと声を抑えて笑い出す。
「じゃあ五十回目突入したら記念パーティーでもするか、盛大に」
「どうしてよ? する訳ないでしょそんなこと」
「司令にしこたま怒られて、どうぞ」
『この大馬鹿者!!』
怒鳴り散らす弦十郎の姿が容易に想像できる。
カズヤはおかしくて更に大声で笑った。
「お偉いさんがごちゃごちゃ言うせいで躊躇ったり迷ったりするくらいなら突っ込んで殴る。そうじゃねーと救えるもんも救えねーよ」
「カズヤくんのその態度が実は司令にとって一番ありがたいんだよね」
「司令も司令で根本的にはカズヤくんと考え方が同じだけど、立場上は無茶苦茶できないから」
「俺は俺がやりたいようにやってるだけで別におっさんがやりたいことを代行してるつもりはないがな。ま、いざなんかやらかしても始末書一枚書けば後はお咎めなしってのはやり易くて助かるぜ」
誰よりもカズヤの暴れっぷり(人命優先の独断専行など)を内心で期待しているのが組織のトップで、口では馬鹿者と言ってお説教をかますがそれはあくまでポーズ。
そんな風に取り留めのない話をある程度した後、休憩を終えて発令所へ戻る二人を見送り、カズヤは書類仕事を再開するのであった。
これ終わったら後で絶対仮眠しよ、と心に誓いながら。
【たとえそれが力押しであろうとも】
新宿駅。ここが、響の父親の洸を響に会わせてあげることになった場所だ。
「しかし、手間掛けたな」
「響の為ですから、このくらい大したことじゃないですよ」
「......それでも、だ」
カズヤの労いに未来が苦笑したので、肩を竦める。
あの時、洸から連絡を受けたことを響に伝えれば、実は既に響はカズヤの了承待ちという状態だった。
経緯としては、
①洸がまず最初に未来の携帯に「響に会いたいけどどうしたらいいか」と相談する。
②未来が響にどうするか、会いたいか否か問う。
③響が「カズヤさんが許可したらいいよ」と返す。
④未来が洸に「カズヤさんから許可を取ってください、ご自身で」と返答。
⑤洸からカズヤに連絡が入る(これがさっきのやつ)。
⑥カズヤから響に連絡。
⑦響から未来、未来から洸へと話が伝わる。
⑧最後にカズヤと洸が場所と時間を決める。
という少々面倒な手順を踏んで現在に至ったが、そもそも話をややこしくしたのはカズヤの介入である。本来なら響と洸の親子間でやり取りを行えば電話一本で終わるし、それが一番望ましいのは誰もが理解している。しかし、最悪の形で終わった親子の再会やカズヤという第三者の介入などで、親子間での連絡のやり取りが──気まずいものが更に気まずくなって──できなくなってしまい、結局未来が連絡係を受け持つこととなったのだ。
ちなみに①から④までが昨晩の夜のことで、⑤以降が今朝のこと。
更に補足をすれば、昨晩から今の今まで響と未来は片時も離れなかったが、響が電話越しに洸と話そうという素振りを見せることはなかったらしい。
また、場所を新宿に指定してきたのは洸である。現在の彼の住居が筑波であることを考えると、今回のことは突発的なものではなく何日か前から計画し、事前に東京に来ていたと思われた。
人がごった返す新宿駅の前で、カズヤは自身の隣の未来を挟むようにして佇む響の様子を窺う。
普段の元気溌剌とした姿ではなく、これからのことに不安と緊張を抱えてソワソワとした表情。
(無理もねー、か)
ギクシャクした親子関係。そうなってしまった過去は仕方ないと言えば仕方ないことだらけなのかもしれない。洸にも同情の余地は十分にあると思う。
だが、一番辛かったのは当時まだ中学生だった響なのだ。あのライブでのノイズ騒ぎで大怪我をして、入院生活とリハビリで大変な思いをして、やっと学校に行けたかと思えば理不尽なイジメが待っていたのである。
何より洸は男で、大人で、父親だった。どんなに苦しくても守るべきものの為に踏ん張るべきで、逃げることは許されない。逃げるのなら、家族を置いて自分一人ではなく一緒に逃げるべきだ、というのがカズヤの考えだ。
(俺は、響の味方だ。響の親父さんには悪いがな)
響の笑顔が好きだ。いつも元気で太陽のように輝いている彼女が愛しい。だから彼女の笑顔を曇らせる奴は、悲しませたり傷つけたりする者は、誰であろうと許さないし容赦しない。
知らず、握り締めた拳に力が入る。
もしもの時は──
「カズヤさん、怖い顔してますよ」
「っ!?」
思考に耽っていたカズヤは、いつの間にか右の拳が未来の左手に優しく包まれていたことに気づいて我に返った。
「......ああ、すまん」
「謝らないでください。そうなっちゃうカズヤさんの気持ち、私もよく分かりますから」
微笑む未来に心配させまいと、意識して全身から力を抜き、固く握っていた拳を解く。
「未来が一緒で助かったぜ。俺一人ならどうなってたことか」
あえて軽い感じの調子で礼を告げてから、冗談めかして「なんかあったら響の親父さんのこと殴っちまうところだった」と宣えば、彼女はクスクスと笑いながらこう返した。
「もし何かあってもカズヤさんは一回頭突きしたんだからダメですよ。次は私がぶん殴りますから」
「......」
覚悟ガン決まりな返しに、スン、と真顔になって黙ってしまうカズヤ。
未来は残った右手で響の左手を取り「さあ響! 気合い入れて行くよ!!」という掛け声と共に大股でズンズン歩き出す。
「わわわっ!? そんなに引っ張らないでよ未来!」
「あはははは! 二人共私にしっかりついてきなさーい!!」
慌てて叫ぶ響などお構い無しとばかりに豪快に笑い飛ばし、やや強引に両手で響とカズヤを引っ張る未来。
気を遣わせてしまったのか、元気付けようとしてくれてるのか、言葉の通り気合いを入れろという意味なのか、それともこの件については何があっても私が二人を引っ張っていくから安心しろという意志を示しているのかは分からない。
分からないが、カズヤはこの場での未来の存在に心から感謝した。
「うわぁ、高い。カズヤさん、この建物って何メーターあるんですか?」
「......カズヤさん、建物も高いけどメニューに表示されてる値段も高いんですけど......本当にこのお店で大丈夫なんですか?」
窓の外から見える景色を眺めて感嘆の声で質問してくる響と、その反対側でこれから入る日本料理店の前で固まり震えた声を出す未来に、カズヤはイタズラが成功した子どものように笑う。
「確か新宿で二番目に高いビルで、二百三十以上だったっけ? ちなみに新宿で一番高いのは都庁な。ま、数メートル程度しか変わらねーらしい。で、予約入れてんのは間違いなくこの店だ。翼の親父さんのお気に入りでな、何度か来たことあるから安心しろ」
へー、そうなんですか、とそれぞれ口にするのを尻目にカズヤは臆せず店の暖簾を潜り入店。
おっかなびっくりついてくる女子高生二人。
「予約してた君島です」
「お待ちしておりました」
上品な和服を着こなす女性店員が恭しくお辞儀をし、「こちらです」と案内してくれる。
「あわわわわ、テレビとかでしか見たことないような高級感が溢れまくってるよ未来! どうしよう!?」
「うう......私達もの凄く場違いな気がしてきました」
キョロキョロと店内を見渡してから思わず萎縮してしまう二人。これまでの人生で来店したことがないレベルの高級、かつ和食を主とした日本料理店の空気にビビりまくっている。
現在はS.O.N.Gの実働部隊に所属している二人だが、出身は一般家庭。世間的にも年齢的にもまだまだ人生経験が少ないと言われても過言ではない若者。やはりこういった店は未経験だったようだ。
これが、ああ見えて実は良いところの出である翼なら緊張せずに何食わぬ顔でついてくるのだろう。
金持ちや芸能人、政府関係者などの本物のセレブが利用する店なので、二人が萎縮してしまうのも無理はないのかもしれない。
「前に慎次の弟の、捨犬のホストクラブ行っただろ? あれと似たようなもんだって」
「いや、あの時とはお店の雰囲気とか全然違うんですけど」
と響が自身の顔の前で手を左右に振った。
「ホストクラブと日本料理店を一緒にしたらお店に失礼ですよ」
小声で未来が苦言を呈する。
案内されたのは個室でありながら広々とした和室。靴を脱いで室内を見渡した響が、
「時代劇で悪代官と越後屋が山吹色のお菓子を受け渡ししてそうな部屋ですね」
と際どい発言。
「だろう? 俺も初めて連れてこられた時はそう思った」
「二人共、あんまり大きい声でそういうこと言わないの」
響の言葉にカズヤが共感したら未来から注意が飛ぶ。
八紘の話によると、この店は実際密談に使われたりするらしいのであながち間違いではないのだが。
「小日向悪代官、立花の越後屋、お主らも悪よのう」
「その台詞を言ってる人は誰なんですか、どういう立ち位置なんですか、そしてどうして私が悪代官なんですか」
「しかも『お代官様』って呼ぶところを『悪代官』って呼んじゃってる」
そんなこんなでカズヤは二人と向き合うようにして座った。
「さて、何頼む? 今日は俺の奢りだから遠慮しなくていいぜ。好きなの頼めよ」
「ソフトドリンクですら凄く高いから遠慮するんですけど!」
「た、高い......!!」
座布団の上に胡座をかいたカズヤがメニュー表を広げて渡してきて、可愛らしく女の子座りをする響と綺麗な正座をした未来が中身を確認し仰天。
たかがソフトドリンク、果物のジュースと侮るなかれ。一個云万円とかで取引される高級果物を惜しみなく使ったものである為、たった一杯でもベラボーに高いのだ。初めて八紘に連れてこられたカズヤも思わず「ヒェッ......!」と情けない声を上げた過去がある。
二人は高級料亭の値段設定に完全に腰が引けてる状態なので、しゃーねーなーと溜め息を吐いたカズヤが店員を呼びつけメニュー表を指差しながら「とりあえずここからここまで持ってきて」と豪快な注文を行う。
「普段はケチなのにどうしてこういう時だけ太っ腹なんですか!?」
「んなこと気にするなよ響」
「スーパーで買い物するといつも安くて量が多いものしか買わない癖に!」
「未来もんなこと気にするなぁっ!」
「「気にします!!」」
ギャーギャー言い合ってる間にソフトドリンクがやって来て、それぞれがグラスを手にした。
ちなみに響と洸の話し合いの場としてこの店を選んだ理由は、響に少しでも美味しいものを食べてもらって緊張を解して欲しいのと、ファミレスやファーストフードのような騒がしい場ではなく、静かで真面目な話をするに相応しい空間を求めた結果である。
新宿に向かった三人とは別に本部で待機することになった他の装者達は、食堂でのんびりとした時間を過ごし英気を養っている(一部除く)。
「マイターン!」
得意気な声と共にパチリと小気味いい音が立つ。マリアが目の前の将棋盤にて駒を動かした音だ。
「くっ、奏! ここから逆転するにはどうしたらいいと思う?」
「無理だと思う」
「そんな!?」
「だって翼側の駒ほとんど取られちゃったじゃないか。あと数手で詰みでしょこれ」
「まだ勝負は着いていない!」
「はいはい」
マリアの対面には、頭を抱えて必死に考え込みウ~ンと唸る翼。その隣にはさっきから何度も同じことを繰り返し言っているせいでそこはかとなく対応が雑な奏。
何処からともなく年季が入った将棋盤を持って現れたマリアに翼が付き合っているのだが、この対局は既に五回目に突入している。これまでの結果はマリアが四戦四勝。内容は文句のつけどころがない圧勝。五回目も勝敗は素人目にも翼が敗色濃厚なのは明らか。同じ動画をループ再生で見せられている気分の奏としては声を掛けられても雑な反応しかできない。
マリア軍に対して果敢に攻める翼軍ではあったが、あっさりと知将の策に嵌まり返り討ちにされ次々と撃破され拿捕され懐柔され、兵達は軒並み寝返って襲いかかってくる。
素人ということに加えて純粋に下手っぴだと思われる将棋クソ雑魚なめくじな翼に対して、将棋が趣味で経験豊富なマリアではどう転んでも相手にならない。そもそもマリアは暇を持て余すと誰かと(主にセレナやカズヤ)対局しているのは周知の事実だし、一人の時でもスマホのアプリでネット対戦をしてたりする。しかし翼は翼で何度負けてもその度に「......もう一度だけ!」となかなか諦めず食い下がり、マリアもマリアで「フフン、いいわよ。何度でも相手になってあげるんだから」と優越感に浸りながら全力で叩き潰す大人気なさを発揮。
まー、二人がそれでいいならいいけど、と完全に第三者の立場でそんなことを思いながら視線を勝利の美酒に酔ってるマリアの隣に──自身の正面へと移す。
「ふう。やっと書類仕事が終わりましたー」
溜め息を吐き疲れた様子でアイスコーヒーに手を伸ばすセレナ。なんでもそつなくこなす彼女でも、報告書に加えた反省文と謝罪文と始末書のコンボには流石に苦戦したようだ。報告書だけならともかく、やらかした際に提出するべき書類の作成経験はカズヤと比べて圧倒的に少ないのだ。
「あそこ沈んだの全部敵のせい、ってことでいいよな普通。そうすればそんなもん書く必要ないってのに」
セレナの対面に座り──つまり奏の隣──右手で頬杖を突き左手をポテチの袋に突っ込み、敵側に全て責任転嫁するカズヤみたいなことを宣うクリス。彼女はセレナと異なり報告書のみでとっくに書類仕事は終わっていた。拳による一発目とショットガン状のアームドギアによる二発のシェルブリットバーストは威力が高い代償として射程が短い為、それによる破壊がないが故に。
「うう、セレナと違って報告書だけなのに書類仕事アタシがビリッケツデース......」
「切ちゃん、あとちょっとだから頑張ろう?」
更にセレナの隣で涙目になりながら眼前のタブレット端末を睨む切歌と、そんな彼女を横から慰める調がいた。
丁度、旧二課組(三名)と元F.I.Sメンバー(四名)が向かい合う形で席に着いている構図。
そろそろ翼とマリアの将棋観戦にも飽きてきたし、切歌を除く深淵の竜宮突入組の書類仕事も終わったので、奏は今の今まで気にしていたことを口にした。
「響、お父さんと上手くいくのかなー」
この一言に誰もがピタッと動きを止める。
翼は頭を抱えた状態で動かなくなり、マリアは翼から奪った大量の駒を片手でじゃらじゃら弄んでいたのをやめた。
ストローを咥えていたセレナも、ポテチの袋に手を伸ばしていたクリスも、タブレット端末を覗き込んでいた切歌と調も動きを止めたまま視線で奏を窺う。
「みんなはどう?」
と問えば、全会一致で「気になるに決まっている」という返答が口々にされた。
「はっきり言えば心配よ......響のパパさんが怪我しないか」
「こわーい保護者が二人もいますから」
握っていた駒をテーブルに置くマリアの動作に合わせてセレナもグラスを置く。
「殴りそう」
「雪音の言う通りだ」
濡れた布巾で手を綺麗にしてから天井を仰ぐクリスに、腕を組んでウンウン頷く翼。
「未来さん、響さんのお父さんがこれまでのことを謝らなかったら殴ってでも土下座させてやるんだから、って拳握って語ってましたよ」
「それ完全に思考がカズヤと一致してるじゃないデスか」
その時の未来を真似しているのか顔の前に握り拳を作る調と、タブレット端末の電源を切りつつ半眼になる切歌。
「ま、こればっかりは響がどうするか、響のお父さんがどんな態度を取るかにかかってるからね」
外野がピーチクパーチク言ってもしょうがない、と少し寂しげに奏は続けた。
結局のところ、どんなに力になってあげたいと考えていてもできることには限界がある。これは響と洸、家族の問題だ。部外者は必要以上に踏み込むべきではないし、普通であれば踏み込めない。
その問題にさも当然と言わんばかりに首を突っ込んでいる二人については、あの二人だから、としか言えない。
響の笑顔を曇らせたくないから、彼女に後悔して欲しくないから、いつもの笑顔を見せて欲しいから、その為だけに動いている二人は悪い言い方をすれば自己中心的で利己的かつ独善的だ。他人の家庭事情というデリケートなことに干渉しようなど聞く人が聞けば眉を顰めるだろう。本人達もそれは百も承知である。
だがあの二人にとってはそんなことなど知ったことではないのだ。自分がやりたいことを必ずやりたいようにやり通す。たとえそれが大切な人の家族のことであっても。
それしか考えていない、まさにエゴの押し付け。誰もが一歩引かざるを得ない事柄に中指を立てながら『うるせぇバカ』と吐き捨て躊躇せず突っ込む姿は、己のエゴを具現化するアルター能力者らしいと言っても過言ではない。
これがアルターに覚醒する前の未来であれば、一歩引いた立ち位置から前へ進もうとはしなかっただろう。親子間の連絡役は請け負うが、響に同行しようとはしなかったと思われる。幼馴染みという響に最も近い存在だからこそ、そういうことへの線引きはちゃんとしていたはず。
しかし彼女は覚醒した。欲しいものは力ずくでも奪う、進む道の邪魔をする奴は全員ぶっ飛ばすと豪語するカズヤと同等の力を手にし、彼と同じように己の信念を貫くと決意し、覚悟した。もう自重なんてしないし遠慮もしない、我慢なんて以ての外。そういう意識改革が起きていた。
そんな風にカズヤ寄りの精神的成長──当然ながら酷く歪で極端なもの──を果たした未来が、洸を『殴ってでも土下座させてやる』と宣告したのは自然の流れだったのかもしれない。
いや、むしろその思いはカズヤよりも強い。響及び立花家が一番苦しい時期をそばで見続けていただけに。
『アルター能力者って自制したり感情を抑制したりする脳機能の一部が壊れ、おほん! じゃなくて正常に機能しにくくなるんじゃないかしら?』
言外に頭おかしい、と以前に調の肉体に宿るフィーネの魂が言っていた。勿論その後、調に強制的に肉体を明け渡された彼女はカズヤからコブラツイストを食らって泡を吹いて昏倒する破目になったが。
「......響が殴るのは分かるけど、その前にあの二人が殴りそうで怖いのは確かだよね」
洸が下手なことを言って、噴火した火山のように怒り狂ったカズヤと絶対零度の眼差しで無表情な未来が、キャッチボールをするかのように洸を延々と殴り飛ばし続ける光景を想像する。
キャッチボール? いや、攻撃する意思が込められてるからドッチボール? いやいや見た目的にはピンボールかな? でも響のお父さん的にはデッドボール? ボールそのものが本当にデッドしそうだけど......と奏はしょうもないことを考えてから目を細めるのであった。
土下座。
いきなり披露されたそれにカズヤは固まってしまう。それは響と未来も同様である。
美味しい料理をたらふく食べて、本来の目的も忘れて「美味かったな~。ところで何しにここに来たんだっけ?」「なんか忘れてる気がします」「何だっけ?」と三人揃って膨れた腹をポンポン叩きながら言い合ってたら、唐突に現れた──自分でこの店に来いと呼びつけておいて──洸が、
『すまなかった響!!』
と叫ぶと同時に土下座した。
この瞬間、カズヤと響と未来の三人は背中に宇宙を背負う猫みたいな顔になっていたはずだ。
「......あー! そうだ忘れてた! 響の親父さんのこと!」
「忘れてたの!?」
誰よりも早く再起動を果たしたカズヤが思わず声を上げれば、ガバッと顔を上げた洸が驚愕に目を剥く。
洸のことを忘れる、そんなつもりなど毛ほどもなかったカズヤであったが、美味い料理を満足するまで食べて腹が満たされ思考が鈍りすっかり緊張も解れ、眠気を感じていた時に土下座がエントリーしてきたので頭が回っていなかった。当初の目論見通り緊張は解れたが、お腹いっぱいになったことで逆にリラックスし過ぎてしまった。
料理が美味し過ぎたのがいけない。だってこのお店の料理人、物腰が柔らかい海○雄山みたいな人だから。
自身の両頬を痛いくらいにバシバシ叩いて気合いを入れ直しつつ気持ちを切り替える。見れば響と未来もお冷やを一気飲みしていた。どうやらフリーズから復帰したようだ。
それから響が静かに声を掛けた。
「......お父さん」
「っ!!」
上げていた顔を素早く下げ床に額を擦り付ける洸。
「顔、上げて」
「......」
慌てるように再度顔を上げたその表情は、実の娘に向けるにはいささか情けないすがり付くようなものであったが、少なくともカズヤから見て演技をしているようには見えない。
「本当に悪かったと思ってる?」
「......」
娘の問いに父は黙って頷く。
「じゃあ、どうすればいいと思う? というか、お父さんはこれからどうしたいの?」
「それは──」
「謝って、それで終わり? だったら私だけじゃなくお母さんとお祖母ちゃんにも謝って欲しい。でも二人が謝罪を受け入れるか、お父さんを許すかどうか分からないよ? 罵倒されたり殴られたりするかもしれないけど平気?」
淡々とした口調の感情が込められていない響の言葉が矢継ぎ早に降りかかる。
「......謝るさ。いくら罵られようが殴られようが俺は謝らなければならない。今の俺にはそれくらいしかできないんだ」
また改めて頭を下げつつ更に言い募った。
「響、確かに俺はダメな父親だ。あの時響が言ったようにカズヤくんと比べたら情けないにも程がある男だ。自分のことしか考えてなくて、現実に立ち向かう覚悟もないし男の意地も張れない、家族皆が苦しんでいたのに一人で逃げることしかできなかったクソ親父だ」
「......」
「でも、一人になって暫くしてから気づいた。一人は寂しくて、そっちの方がもっと辛いってことを」
今一度顔を上げた洸の目は潤み、やがてポロポロと涙が零れていく。
「なのに、一度勝手に出て行ったからには今更戻れないって変なプライドが邪魔して、どの面下げて会えばいいのか分からなくて、帰りたいのに帰れない、そんな日々がこれから何年もずっと続くのはもう嫌なんだ!!」
「お、とう、さん......」
慟哭する父につられた娘が涙ぐむ。
そんな響を横目にカズヤと未来は互いに目配せしてからホッと息を吐く。どうやら自分達が実力行使に出なくても上手く纏まるらしい。
「響、すまなかった! 本当にすまなかった! すぐに許してもらえるとは思っていない、だけど少しだけでいい、俺があの家に帰れるように手を貸してくれ!!」
そう叫んだ父に対して娘は泣き笑いのような表情で立ち上がって一歩踏み出し、
──ビシリッ!!
「「っ!?」」
突如、硝子に罅が入ったかのような妙な
音ではない。実際には何も聞こえていない。硝子に罅が入ったとしか表現できない何か、そんなものを感じた。そしてそれは"向こう側の世界"への扉が開く際に感じるものに似ていたが故に二人は緊張状態に陥ったのだから。
唐突に立ち上がり纏う雰囲気ががらりと変わった二人に対し疑問符を浮かべる親子をよそに、カズヤと未来は己の感覚に従い視線を窓へと向ける。
「......ちっ、そういうことかよ」
窓の外に映るものを見て理解を示したカズヤが忌々しげに舌打ちした。
「空が!!」
すぐそばで同じものを見た響も驚き叫ぶ。
それぞれの視線の先──窓の外では、文字通り空間に罅が入っている光景があった。都庁の真上にまるで目に見えない硝子が空中に浮かんでいてそれに罅が入るかのように。
やがて罅をクモの巣状に広がり大きくなると、これまた硝子が砕け散るようにして空間に穴が穿たれる。
その穴はこことは別の何処かに繋がっている、目にした誰もがそう悟った。
空間歪曲と異空間の存在。二人のアルター能力者が真っ先に反応したのは、それが"向こう側の世界"への扉が開く際のものと酷似していた為だ。
やがて姿を現すのは宙に浮く巨大な建造物。間違いなくチフォージュ・シャトーというキャロルの拠点にして世界を破壊する為の施設のはずだ。
「あのクソガキ、これからいいところだってのに、漸くいい感じに纏まりそうだったのに、空気読まずに仕掛けて来やがって......!!」
怒りで全身をワナワナ震わせたカズヤが、それでも努めて冷静になろうと鼻息を荒くしながらお冷やを一気飲みし、大きく溜め息を吐いてから靴を履き、土足で畳を踏み締め窓の外を睨む。
「響、悪いが親父さんとの話し合いは一旦終わりだ。S.O.N.G本部に連絡してから未来と一緒に親父さんは勿論この店の店員達、つーかこのビルにいる人全員を避難誘導してくれ。俺がこれから全力で暴れるって言えば、大抵の人間は我先に逃げんだろ」
感情を無理矢理押し殺しているような低く震えた声で言い終わるや否や、
「シェルブリットォォォォ!!!」
ついに我慢の限界が来たのか握った右拳を高く掲げ、店内に響き渡るどころか店外まで轟く怒声を放つ。それに伴いアルター発動。
全身から淡い虹色の光が放たれテーブルを含めその上にあった食器の数々と、部屋の窓が虹色の粒子になり消滅。
右腕が肩口から消失したかと思えば、粒子が集まり橙色の装甲に覆われた鎧のような腕を形成。
右の瞳が金色に光輝く。
右目周囲にも粒子によって構成された橙色の装甲が現れる。
最後に右肩甲骨に金属のような光沢を放つ金色の回転翼が出現し、戦闘形態への移行が完了。
掲げていた拳を顔の前に下ろして構え直せば、右手首の拘束具が勝手に外れて畳に転がる。拘束具が外れたことで装甲のスリットが展開し、それにより手の甲に開いた穴に向かって周囲から螺旋を描くように光が収束していく。
ヒュンヒュンヒュンヒュンと回転翼がヘリコプターのローターのように高速回転し、ふわりと足が宙に浮く。
「え? え? え? ええええええ!?」
「私達もすぐに向かいます」
「気をつけてください、カズヤさん」
何がなんだか分からず狼狽える洸に構わず、響と未来がそれぞれ声を掛ければ、カズヤは肩越しに振り返りシェルブリットと化した右手の親指をピッと立てて応えた後、回転翼の軸部分から銀色のエネルギーを噴射、今さっき消滅させた窓の外へ飛び出して行く。
「いい加減
オマケ
【ダブルコントラクト】
それはある日のこと。その日は一日待機ということで、皆が皆S.O.N.G本部の食堂で思い思いに時間を過ごしていた時。
「カズヤ、実は私、ダブルコントラクトなの」
「......ダブ、コン......何だって?」
マリアの趣味である将棋の相手をしていたカズヤは、どうやれば対面に座る彼女の牙城を崩せるのかと必死に思考していたところ、その思考を遮られるように話し掛けられたので呆けた声を返した。
「だから、ダブルコントラクト。知らない?」
「何だそれ? 知らねー」
何かを期待しているかのようなウキウキした態度と口調、笑顔のマリアに彼は正直に応じる。
すると彼女は笑みを深めて静かに立ち上がり、「百聞は一見に如かずよ」と言うと、何を思ったのか調と一緒に切歌の勉強を見ていたセレナに背後から飛びかかった。
「ぎえええええ!?」
「ちょ、いきなり何してんだ!!」
突然後ろからギアペンダントを力任せに引っ張られて白目を剥きながら絞め殺される鶏みたいな悲鳴を上げる妹など全く意に介さず、姉はそのまま強引にギアペンダント──アガートラームを奪い取る。
マリアの奇行、いや最早凶行に誰もが──ダメージでテーブルに突っ伏しているセレナを除く──「何してんだコイツ!?」と注視する中、彼女は聖詠を歌う。
「Seilien coffin airget-lamh tron」
食堂のど真ん中で光が瞬きマリアがアガートラームのシンフォギアを身に纏った。その姿は普段の黒いガングニールとは異なる白銀。いつものセレナのものに共通する部分が多少はあるが所々意匠が違う、初めて見るマリアのアガートラームの姿だ。
「ダブルコントラクトって、そういう意味か」
やっと意味が分かり納得するカズヤの前で、マリアは上機嫌に、見せつけるようにくるりと横に一回転。
「どう? 悪くないでしょ?」
「ああ、スッゲー可愛いぜ」
感想を求めたら率直な誉め言葉が躊躇なく飛んできたので、若干頬を染めながら続きを促す。
「......カズヤ的には、ど、どのくらい可愛いのかしら?」
「今すぐギューッてハグしたいくらいに可愛い」
腕を大きく広げてさあ来いと言わんばかりの反応は、まさに彼女の目論見通りであった。
「もう、カズヤったらぁ! しょうがないんだから!!」
喜色満面で抱きついてきたマリアを受け止め、宣告通りギューッと抱き締め返す。
未だにダウンしているセレナを除いた女性陣がそんな光景を見せられて黙っている訳もなく。
「なあ」
「はいクリスちゃん」
まずクリスと響が互いに己のギアペンダントを相手に投げ渡す。
「翼、以前やってダメだったけど今ならいける気がする」
「私もだよ奏」
続いて奏と翼も。
「調!」
「たぶん無理だと思うけどなぁ」
そしてノリノリな切歌と乗り気ではない調という対称的な二人も同じようにギアペンダントを交換。
しかし──
「聖詠が、浮かばない......イチイバルが応えてくれないよ!!」
「動け、このポンコツが! 動けってんだよ!!」
絶望的な表情で響が嘆き、その正面でクリスが借りたペンダントをポンコツ呼ばわりし地団駄を踏む。
「ガングニール、動け、ガングニール! 何故動かん!!」
「動け天羽々斬! 動いてくれ! シンフォギアァァァァ!!」
動かなくなってしまった人型ロボットを無理矢理動かそうとしているかのような叫びを上げる翼と奏だが、適性的な問題で起動する訳がないし、そもそもこの二人はそんなことなどルナアタック以前から百も承知のはずである(何度か試した過去があるので)。
「動け、動け、動け、動け、動いてよ! 今動かなきゃ、何にもならないんだ! 今動かなきゃ、今やらなきゃ、みんな死んじゃうんだ! もうそんなの嫌なんだよ! だから、動いてよぉぉぉ!」
「......調、やる気があんまりなかったのにキャラに入り過ぎデス」
乗り気じゃない癖して迫真の演技を披露する調の豹変ぶりに、流石の切歌もドン引きしていた。実はこの二人も奏と翼同様、過去に試してダメだったことを知っている。四人が何故ダメ元で試してみたのかは、カズヤの"向こう側の力"の影響で以前と異なる結果になるかどうかの確認と、程度の差はあれ彼に可愛いと言って欲しいから。あと単純にマリアだけオイシイ現状が許せん。
そんな彼女達をマリアが嘲笑。カズヤの腕の中を堪能(体を密着させ体温を感じながら胸元や首筋に顔を埋めてスーハースーハークンカクンカ)しつつ、勝ち誇りながら宣う。
「フフン、無駄よ。ダブルコントラクトはこの中でも私だけ。私だけが唯一、複数のギアでカズヤから愛でてもらうことができるのよ!!」
「......それを私が許すとでも? マリア姉さん」
いつの間にか復活を果たしたセレナがマリアの背後に回り込み、地獄の底から響いてくるかのような声音を出しながら腰をガッチリ抱き締めた。
「せ、セレナ!?」
「確かにマリア姉さんは私達で唯一のダブルコントラクトです。ですが、忘れているんですか? ギアの適合率もアガートラームの適性も、私が上だということを!!」
姉をカズヤから力ずくで引き剥がしそのまま妹は歌う。
「Seilien coffin airget-lamh tron」
歌声が食堂に響けば、目を灼く閃光が生まれる。
皆が皆、その光の眩しさに瞼を閉ざす。
やがて光が消えたのを感じて目を開けば、通常の服に戻ったマリアの腰にアガートラームのギアを纏ったセレナが抱きついているという光景が広がっていた。
「くっ」
悔しげに顔を歪ませるマリアにセレナは情けもかけないし容赦もしない。
マリアを抱えて勢いよく後ろに反る。
「せーのっ!」
「は? ちょっと、離しなさ──」
ズドン!! という重低音を轟かせマリアの上半身は背後の床に叩きつけられた。
「なんて綺麗なジャーマンスープレックスなんだ」
「まるでプロのお手本のようだ」
「惚れ惚れするな」
「セレナさん上手です」
「グッジョブ」
「で、でも、床に罅が入るどころかマリアの形に陥没してるんデスがそれは......」
奏、翼、クリス、響がしきりに感心し、調が親指をピッと立てて、切歌が再度ドン引きする。
「......星が、星が見えるスター......」
床にめり込んでいるマリアが目を回しながら呻く。
どうやら無事らしい。どう軽く見積もっても受け身なんて無意味なパワーで、床が粉砕されるほどの威力があったにも関わらずだ。生物として何か致命的に間違っている気がする、というのが食堂での一部始終を目撃した一般職員の感想だ。
「さて、カズヤさん」
「え、アッハイ!」
姉を沈めて晴れ晴れとした表情のセレナがカズヤの眼前に立つ。
何故かカズヤは姿勢を正して『気をつけ!』となってしまう。そうせざる得ない圧力を彼女の美しい笑顔から感じていたのだ。
「アガートラームの真なるシンフォギア装者である私のこの姿を見てください。どう思いますか?」
「......凄く、可愛いです」
「それは、カズヤさん的には衝動的に何かしたくなるほど可愛いですか?」
「衝動的に抱き締めたくなるほど可愛いですハイ! 抱き締めさせてくださいお願いします!」
「もう、カズヤさんったらぁ......皆さんの前なのに仕方がないんですから」
両腕を広げて「どうぞ」と待ち構えるセレナに逆らえる訳もなく、カズヤは彼女を強く強く抱き締めるのであった。
「イチャつき始めたと思ったらいきなりコントになってプロレスでオチがついた件について」
「暇を持て余した時のドタバタ騒ぎなんていつものことじゃない」
「賑やかなのは良いことです」
「床、後でカズヤくんが直しておくんだぞ」
少し離れたテーブル席からコーヒーを飲みつつ朔也がぼやけば、あおいが呆れて緒川が微笑み弦十郎が苦笑しながら告げた。
「ううぅ......交換できるもの持ってないから誰も何も貸してくれない......今度の模擬戦でみんな纏めて叩きのめしてやるんだから」
なお、誰からもギアペンダントを貸してもらえなかった未来のしくしくしながらの恨み言は皆揃って聞こえない振りをしたのだった。
お偉いさん
「貴重な聖遺物がとある研究所で暴走したから何とかして。政治的な理由と今後の利益面から人的被害とかどうでもいいから聖遺物は絶対確保で」
OTONA
「畏まり(ふざけんな)」
バカ
「うるせぇんなこと知るかボケ! シェルブリットバースト!(溜め少なめ) シェルブリットバァァァスト!!(溜め中くらい) シェルブリットォォォォバァァァァストッ!!(溜め多め) 輝け、もっとだ、もっと、もっと輝けぇぇぇ!! シェェェルブリッッットォォォォォブワァァァァストォォォォォォッッ!!!(第二形態時の最大出力最大溜め)」
OTONA
「バカが命令無視したので聖遺物と研究所とその周囲一帯消し飛んで地図書き換えることになったけど人的被害ゼロやで(ナイス! でも絶対に連打は要らない、やり過ぎ。後で説教と始末書な!)」
お偉いさん
「......あいつなら仕方がない(震え声)」
バカ
「OTONAも大変やなー(鼻クソほじりながら始末書)」
この作品のイヴ姉妹は互いが互いに最愛の姉(妹)であることは間違いありませんが、原作アニメやゲームアプリの並行世界の彼女達と異なり、カズヤがいるせいで姉(妹)は最大のライバルだと考えています。
つーことでよく姉妹喧嘩します。姉(妹)だけには負けたくないので。
ついでに言えばマリアさんのアガートラーム姿は今後出番ありません(無慈悲)。
調はロボットアニメガチ勢。