カズマと名乗るのは恐れ多いのでカズヤと名乗ることにした   作:美味しいパンをクレメンス

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渇望するもの

朝。目が覚めてまず映るのは二課本部内にある仮眠室の天井。俺が仮眠室に寝泊まりを始めてまだ今日で三日目だが、すっかり居心地が良くなってしまった。

布団から出て布団を畳み、手早く着替えて洗面所に行き顔を洗って歯を磨き、トイレで出すもん出したら準備完了。女と違って化粧などないので、こういう点は男って楽でいいなとつくづく思う。

食堂で朝飯でも摂ろうと足を向ける。

二課の食堂は朝の時間でもかなりの人がいる。何故なら二課の業務内容の関係上、二十四時間年中無休で稼働している為だ。といっても業務によって勤務時間はバラバラだ。三交代制で働いている人もいればそうでない人がいる。

まあ、ノイズが出現した時だけ働くのは二課で俺だけしかいないが。

サンドイッチとコーヒーをもらいお盆に載せ、何処かいい席ないかと探しつつフラフラしていると、あおいと朔也と了子の三人が固まって座っているのを発見。向こうもこっちに気づいて手を振るので近づいた。

 

「おはようさん。ここいいか?」

「おはよう。どうぞ」

 

返事をした朔也の隣に座りサンドイッチに食らいつく。

 

「カズヤくんはここの生活慣れた?」

 

向かいに座るあおいが質問してくるのでコーヒーを啜ってから答える。

 

「まだ三日目だがそれなりに。それにしても三人は朝早いな、朝起きるの何時なんだ?」

 

食堂内の壁掛け時計は午前七時半を差している。出社するにしてはかなり早いと感じる時間だ。

 

「起きるも何もあったものじゃないわ」

「私達三人はカズヤくんがこっちの世界に来てから泊まり込み」

「さすがに何度も休んではいるけど、帰宅はしてないよ」

 

俺の何気ない質問に了子、あおい、朔也の順にとんでもない返答がされてしまう。社畜なのか仕事大好きなのかそれほど切羽詰まった状況なのか判断しかねる。

なんとなくだが思い当たる節はあった。

 

「...俺と響が原因か?」

「ご明察。ノイズを倒せる力を持った謎の人物"シェルブリットのカズヤ"はシンフォギアと同様に機密扱い、加えて響ちゃんという新たな装者の出現、カズヤくん固有のアルター能力という特殊な力、二人のメディカルチェックの結果、更に加えて昨晩の戦闘内容の分析......ここまで言えば調べることと報告することが山積みなのは、察してもらえるかしら?」

「大変だなー」

 

了子の返答に対して二つ目のサンドイッチを口に放り込みながら、完全に他人事扱いな感想を棒読み口調で言う。あまり興味引かれる内容ではないので仕方ない。

憮然とする了子を放置してあおいが聞いてくる。

 

「カズヤくんは今日どうするつもり?」

「ん~、昨日と変わんねーと思う。テキトーに街フラついて、猫でも見つけたら戯れて、腹減ったらなんか食って、テキトーな時間に帰ってくる」

「絵に描いたような自堕落っぷりに羨ましくなる...!」

 

俺の発言に朔也がマジで羨ましそうに嘆く。三日も職場で泊まり込みしてるところに俺みたいなこと言う奴かいれば誰でもそう思うだろう。

 

「猫、ねぇ」

 

その時、了子が目を細めてこちらを探るように見てきた。何だろうか?

 

「何だ? 猫嫌いか? 昔彼氏寝取られてそれ以来猫関連嫌いになったか?」

「生憎、泥棒猫の被害に遭ったことはないわ」

「どうして猫の話してたのに泥棒猫の話に変わるのよ...っていうか朝から寝取られてとかそういう話やめなさいよ」

 

話の転換の仕方、及びデリカシーのなさにあおいが呆れた。

 

「暇なら少し協力して欲しいことがあるんだけど」

「ん? 面倒なことじゃなければ」

「簡単よ。血液サンプルをもう一度もらいたいのと、アルター能力で再構成された物質の解析がしてみたいから、シェルブリットの装甲部分の破片とかもらえないかしら」

「そんなことか、別にいいぜ」

 

自ら仕事を増やしていくスタイルの了子の協力要請に二つ返事で了承する。

その後、朝食を摂り終えた俺は了子に連れられ研究室に赴き、採血を実施。それからシュレッダーにかける予定だった大量の紙ゴミをこれ幸いと発見したのでアルター能力を発動、シェルブリットに変換した。

 

「よっ」

 

肘と手首の突起部分をバキッとへし折ってから能力を解除。腕は元に戻るがもぎ取った突起部分は物質として現存し続けるのを確認し、了子に渡す。

 

「こんくらいでいいだろ?」

「ええ、ありがとう。っていうか、折る時痛くなかったの?」

「痛くなさそうな部分折ったし」

「ああ、そう」

「んじゃ、俺はもう行くぜ。仕事頑張れや」

 

用は済んだとばかりに研究室を出て、そのまま二課本部を後にした。

街をフラついていると、俺と同じようにフラついているクリスと遭遇。

 

「よー暇人」

「うるせぇ暇人」

 

互いの心を抉りつつ、なんとなく二人並んで歩き出す。

まるでダメな男と女、暇人まだおの二人組の完成であった。

 

「どうする?」

「どうすんだよ?」

 

問いに対して問いが返ってくる。他力本願の表れに、俺とクリスは同時に吹き出した。

 

「テキトーにフラついて、腹減ったら美味い飯食えそうな店入るか?」

「金は?」

 

通信機を掲げて自慢気に告げた。

 

「とりあえず限度額まで使えるぜ! 俺の金じゃないがな!!」

「そういや昨日もそんな感じだったな」

「人の金で食う飯は美味いぞぅ」

 

遠くで緒川の悲鳴が聞こえた気がした。

清々しいレベルのクズ発言にクリスはニヤリとする。

 

「じゃあ、財布は任せた」

「おうよ任せとけ」

 

こうしてクリスと一緒に出掛けるのが、二日目にして早くも日課になりつつあると感じた。

 

 

 

 

 

【渇望するもの】

 

 

 

 

 

気の向くままに二人で街の中をフラついて暫くした頃。

 

「"ふらわー"? お好み焼き屋みたいだな。クリス、入ってみるか?」

 

一軒のお店を見つけて足を止める。"ふらわー"って店名なのに花全く関係ない商品を扱っていることに惹かれてしまったのだ。

これはあれか。お客さんには花のような笑顔になって欲しいという願いでも込められているのか。

隣に目を向ければ、目を瞑って鼻をスンスンされているクリス。

 

「良い匂いがする...入るか」

 

ソースの香りが胃を刺激するので二人で暖簾を潜る。

 

「いらっしゃい」

「二人」

「お好きな席にどうぞ」

 

快活なおばちゃん店員に二本指で人数を示し、カウンター席に腰掛けた。

メニューを拝見。写真に映るのは定番のお好み焼きやもんじゃ焼き。他は鉄板焼や飲み物、サイドメニューの類いなど。腹が減ってるのでどれも美味そうに見えて目移りしてしまう。

 

「あたし、お好み焼き食べるの初めてなんだ」

 

ポツリと呟いたクリスの言葉に俺はそうかと頷く。

クリスは見た目銀髪外国人だしフルネームがハーフっぽいからこういう食い物に縁がなかったのかもしれない。

 

「なら俺が教えてやるよ。基本的なお好み焼きっていうのはメニューの一番最初に載ってるやつだ。これをベースに、他のやつは中の具材が少し違ったり追加があったりで差別化してる。例えばこれ、海鮮お好み焼きってのは文字通り具材にイカとか貝とかエビとかのシーフードが入ってる。こっちのにんにく爆弾とかいうヤバそうなのは、基本のやつに追加のにんにくが大量に入ってるみたいだな」

 

俺の説明を聞きながらクリスはフンフンと相槌を打つ。

 

「要するに、食いたい具材が入ってるのを選べばいいのか」

「そういうこと」

 

やがて得心した彼女が選んだのは基本的なお好み焼きだった。理由を聞くと、まずは基本となる味を知っておきたいとのこと。

なので俺もなんとなく同じものを頼んだ。

注文後、お好み焼きのタネが焼かれる音をBGMに色々とレクチャーする。

 

「お好み焼きってのは、店によっては自分で焼くことになる食い物なんだぜ」

「金払ってんのに客に自分で作らせるのか?」

 

どういうことだと驚くクリスに俺は笑う。

 

「違う違う。言い方悪かった。自分で焼くのを楽しむ食い物ってことだ」

「??」

「テーブルに鉄板があってな、それを自由に使わせてもらえる訳だ。注文したお好み焼きのタネが来たら、後は全部自分でやる。自分なりに焼き方とかこだわってる人はそういう店に行くしな」

「よく分かんねぇ」

「実際やってみれば分かる。また今度連れてってやるよ」

「おう」

 

そんなこんなで話してる間にできあがったお好み焼きを手にしたおばちゃん店員が俺とクリスの前に皿を置く。

 

「美味そうだな。熱いから気をつけろよ、いただきまーす」

「...い、いただきます」

 

美味い。これぞお好み焼きといった味だ。やはり店の人に作ってもらうと生地のフワフワ感が違う。

ふと隣に座るクリスを見れば、幸せそうな笑みで火傷しないようにゆっくり味わっている。初めてのお好み焼きで満足させることができて何よりだ。

 

 

 

お好み焼きが食べ終わったタイミングで突然、クリスの表情が一転して冷たくなる。

彼女が睨んでいるのは店内の壁掛けテレビだ。

 

『内戦状態のバルベルデ共和国では連日のように銃撃戦が──』

 

政情不安定な国での内戦やテロに関する嫌なニュースが流れている。

しかし、遠く離れた日本にしてみれば自分達には関わりのない世界の話だ。

ついさっきまでご機嫌だったクリスがこのニュースを見て不機嫌になる理由が分からない。

知り合ってまだ二日だが、馬の合う相手ではある。下衆な勘繰りはあまりしたくないが、少し話を振るくらいはいいだろう。

 

「物騒な世の中だよな」

 

あえてクリスを見るのではなくテレビを向いて口を開く。

 

「...カズヤは、あの国についてどう思う?」

 

そう問いかけてくるクリスの顔は依然硬いままだ。まるで親の仇を見るような、視線に憎悪が込められているように感じる。

 

「ニュースを見た限りじゃあの国がどういう歴史を歩んで今に至ったのかイマイチ分かんねー。けど、一言で言うとしたら国民が可哀想、だな」

「国民が、可哀想?」

「民あっての国だろ? 内戦やテロが起きるなんて政府の連中が余程の無能かバカか私利私欲に溺れたクズばっかだからだ。政治に不満がなければ内戦やテロなんて起きねーんだよ......あ、これは俺個人の見解だから鵜呑みにすんなよ」

 

お冷やを飲んでクリスの反応を待つ。

暫しの間黙していたクリスは、今度は躊躇いがちに声を出す。

 

「ならカズヤは、戦争や紛争を世界からなくすにはどうするべきだと思う?」

「随分難しい問題だなおい」

 

しまった。こういう話の流れになるんだったらニュースの話題なんて振るんじゃなかった。かといって今更話を変える訳にはいかず。

そもそも人類の歴史は戦争の歴史だ。

本来、人間は争う生き物。平穏を維持しようとすると()()()が生じる、というのは"スクライド"の"ストレイト・クーガー"、兄貴の言葉だったか。

俺が本格的に悩む姿を見て、クリスは待ちきれなくなったのかこう言った。

 

「あたしは、戦う意思と力を持つ者がいなくなれば根絶できると考えてる」

「戦う意思と力を持つ者...?」

 

それはそうかもしれないが、かなり極端な思想である。

それに穴もあった。力が無いのなら手に入れようと欲するのが人間だ。

だがまあ、クリスが平和を望む優しい性格なのだというのはよく理解できた。

 

「ま、世界が平和になるに越したことはねーけど飯食いながらする話でもねーな」

「ああ、ワリィ」

「ニュース見て話振ったのは俺だ、気にすんな。それよりまだ入るだろ? 追加でもんじゃ焼きでも食おうぜ」

「もんじゃ焼き?」

「もんじゃ焼きだ。これはな──」

もんじゃ焼きについての説明をしながら追加の注文について相談しつつ、この手の話題をクリスに振るのは今後やめようと心に誓った。

こいつはさっきみたいな何かを憎むような目をしているより、美味いもん食って幸せそうに笑ってる方が良いし、その方が可愛い。

 

 

 

お好み焼き屋で腹を膨らませた後、また暫く街を二人でフラフラしてからなんとなく解散となる。

 

「じゃあまたな、クリス」

「またな...カズヤ」

 

別れる際、彼女の寂しそうな表情が印象的だった。

 

「今日のあいつはなんとなく変だったな」

 

ニュースで見た内戦状態の国、バルベルデ共和国か。

クリスの態度が豹変したのはその時だ。

何か嫌なことでもあったのだろうか。

あの国について少し調べてみようかと考えたが、やめておく。いつかあいつから話してくれるのを待つとしよう。俺はまだそこまで踏み込むべきではないと思う。

そのまま足を二課本部に向ける。

ミーティングによく使う場所に辿り着くと、ソファーに座り誰かが来るか呼び出されるまで待つ。

何も考えず天井を眺めながらボーッとしていると、暫くして響、翼、奏と緒川の順に集まってくる。

続くようにオペレーターの朔也とあおい、弦十郎と了子が現れミーティングが開始された。

 

 

 

「それじゃあ、昨日のカズヤくんと響ちゃんが起こした現象について現時点で分かっていることについて説明するわね」

 

了子さんの言葉を皮切りに始まったミーティング。

私は内心ドキドキしながら話を聞く。

昨日発揮したあの力は、明らかにカズヤさんの力だ。それがどういう理屈で行使できたのか分からない。分からないけど──

チラリと隣に座るカズヤさんの顔を覗き見る。

彼はソファーにふんぞり返るように座って腕と足を組んだ態勢で、何か考えている表情だ。

......あの時の胸の熱さを忘れられない。

生まれて初めて味わった昂揚感。

誰かと身も心も繋がったような一体感。

気がつけばもう一度あれを、と求めている自分がいた。

 

「昨日の戦闘時のフォニックゲインの上昇率と、カズヤくんがアルター能力を行使する際に発生する特殊なエネルギー、今後はアルター値と呼びましょう、この二つについて面白いことが分かったの」

 

モニターに映し出される二つのグラフに皆注目した。

 

「カズヤくんが金の光を発生させると同時にアルター値が上昇するのはなんとなく分かるでしょ。でもね、それに合わせてフォニックゲインが一時的にかなり減少しているの」

「減少? 同様に上昇ではなくてか?」

 

弦十郎さんが何故と疑問を上げる。確かにアルター値の上昇に合わせてフォニックゲインが上昇するなら分かるが、減少すると言われてもイマイチ分からない。

 

「説明はこれからよ、それに一時的と言ったわ。焦らず聞いて」

 

落ち着かせるような口調で窘めると了子さんは続けた。

 

「確かにアルター値の上昇と共にフォニックゲインが減少するけれど、これはあくまで一時的。次の瞬間、急上昇するのよ」

 

グラフの線がガクッと下がったと思ったら、元の値を飛び越すように急な角度で右肩上がりになる。

 

「更にフォニックゲインの急上昇に合わせてアルター値が少し減少する」

 

アルター値が、下がる?

 

「そしてまたフォニックゲイン減少とアルター値上昇、フォニックゲイン急上昇とアルター値減少を繰り返す。つまり二つのエネルギーは上がったり下がったりを経て初期値と比べて桁違いに高まることが分かったわ」

 

おおっ...!! と私とカズヤさん以外が唸るが、私には何がなんだかさっぱりだった。

カズヤさんはさっきから顔色一つ変えずに黙ったまま。

 

次に、金色に光輝くカズヤさんのアップ姿が動画で流される。

 

「これを見て。カズヤくんのシェルブリット、手首の金具が弾け飛ぶと、手の甲の部分から肘にかけて装甲のスリットが展開して、手の甲の中心に光が収束していくのが分かる」

「まさかフォニックゲインの一時的な減少は......!?」

「そう、カズヤくんのシェルブリットが大気中のフォニックゲインを吸収、収束しているのよ」

 

そこまで言われて私は確信した。

カズヤさんのアルター能力は物質を分解、変換し再構成すること。でもそれはアルター能力の()()()()()()だ。そればかりに皆注目していて、()()()()()()()()()()そのものを見落としていたのだ。

 

「結論から言うと、シェルブリットが大気中から吸収したフォニックゲインを膨大なアルター値に変換し、変換されたアルター値から一部をフォニックゲインに還元する。これを繰り返すことによって加速度的に両者のエネルギーを高めているの...恐ろしいほどのエネルギー変換率でね」

 

誰もが感嘆の吐息を零す中、カズヤさんが漸く口を開いた。

 

「...そうだったのか!? そこまで考えて戦ってなかったぜ!」

 

この発言に私を含めた全員が一斉にズゴーとズッコケた!!

嘘でしょ...という空気から一番最初に復活したのは奏さんだ。

 

「そうだったのか、ってアンタ今まで散々やってきたんでしょ!?」

「まあな。でもこんな科学的な方法で解説されたのは初めてだぜ? シェルブリットが大気中のエネルギーを収束してるのはなんとなく知ってたがな」

 

何やら感心しているカズヤさんの様子に皆呆れ気味だ。でもなんか安心した。カズヤさんの理解度が私に近くて。私、この話難しくてついてくので精一杯だし。

 

「しかし待て。二つのエネルギーとカズヤくんのシェルブリットについてはある程度理解した。だがこれが響くんとどう関わってくるんだ?」

 

ソファーに座り直した弦十郎さんが了子さんに問いかけると、皆が私に視線を集める。

了子さんは溜め息を吐きながら言う。

 

「それがまだ分からないのよね。どうして響ちゃんだけがカズヤくんと同調していたのか。あの場には奏ちゃんと翼ちゃんもいたのに...でも、響ちゃんの今の表情を見ると心当たりがありそうだけど?」

 

意味深な言葉に私が何か言う前に奏さんが気づいた。

 

「響、もしかしてあの時アンタの体内でガングニールの破片が...!?」

「はい。あの時、カズヤさんのアルターを感じました。私の中で、バラバラだった破片が分解されて一つに再構成されるのを」

 

言って私はスカートのポケットからハンカチを取り出し、ハンカチに包んでいたものを皆に見せる。

 

「これ、昨日寝る前に胸の傷があった場所から剥がれ落ちた石です。しかも胸の傷が消えてて...カズヤさんと同調、でしたっけ? あの時凄く胸が熱くて、でも、信じられないくらい力が沸いてきて、きっと、カズヤさんの力が流れてきてたんだと思います...なんていうか、上手く表現できないんですけど、カズヤさんと心と体が繋がってるように感じました」

 

あれ? 何だろう?

なんだか自分で言ってて恥ずかしい気がしてくるのは何故だろう?

よく見たら周りの人達の雰囲気がおかしい。

まるで家族でテレビを見てたらエッチなシーンが流れて気まずい空気になるような──

 

「最後の一文だけ聞くと大好きな彼氏と初体験迎えた後の彼女みたいな発言でエロいな」

 

.........それだああああああああ!!!

カズヤさんの言葉に納得すると同時に顔が羞恥で熱くなる。

私はなんてことを口走っているのか!? ていうかカズヤさんの喩えが具体的過ぎて酷い!! 確かに言う通りかもしれないけどいくらなんでもデリカシーなさすぎ!!

 

私を含めた女性陣が顔を赤くして明後日の方向を向き、男性陣は俯いて誰とも視線を合わせようとしない。

唯一の例外はカズヤさんのみ。一人で腹抱えて大爆笑してる。信じられないこの人! 羞恥心とかないの!?

 

「...うおっほん!! そうか! 体内で摘出できなかった聖遺物の破片がアルター能力の分解の対象となっていたのか」

 

すっっっごいわざとらしく弦十郎さんが咳払いをして話を無理やり戻す。

 

「...現代医学では完治不可能な融合症例が治療されてしまうなんて...分解される対象は生物を除く...凄まじいわね」

 

弦十郎さんに便乗する了子さん。

 

「なー、いくつか聞いていいか?」

 

やっと気まずい雰囲気がなんとかなったと思ったらカズヤさんが小さく手を挙げた。

とりあえずまた変なこと言ったら今度は一発どついておこうと心に誓う。

 

「そもそも俺は響の体内の破片なんて分解したつもりはねーぞ」

 

え? と誰もが思う中、私は思い出す。

全身が虹色の粒子となって、この世界から消えてしまいそうだったカズヤさんの姿を。

 

「それについては、私から説明します」

 

あれからずっと考えていたこと。

カズヤさんは"向こう側"の世界からの来訪者。

こちらの世界に来る時は肉体が再構成されて、分解されると"向こう側"に戻る。これを何度も繰り返していたと聞く。

なら、戦闘後に分解される際、肉体を得る為、もしくは維持する為のエネルギーを外部から供給することができれば?

私があの時シンフォギアを纏ったままシェルブリットの手を掴んだことで、フォニックゲインがカズヤさんに直接流れ込んで分解が止まったのではないか?

それにより私の中の聖遺物とカズヤさんの間で何らかの繋がりができているのだとしたら?

カズヤさんの肉体が分解されなかったのはもっと単純に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

分解されなかっただけかもしれないが。

 

「カズヤさんの肉体が分解されなかった理由については憶測の域を出ませんけど、昨日は私のガングニールとカズヤさんのシェルブリットとの間に確かな繋がりを感じました。きっと、それが同調できた理由だと思うんです」

「なるほどねぇ...」

 

説明を聞いていたカズヤさんは顎に手を当て納得したように言葉を紡ぐ。

他の皆も私の説明に概ね納得してくれたようではある。

その時、奏さんが一歩前に出て提案した。

 

「ねぇ、カズヤと同調ってアタシと翼もできないの?」

 

タイミングを計っていたかのような質問に了子さんが答える。

 

「奏ちゃんならそう言うと思って今検討中なの。響ちゃんのような融合症例を前提としたものではなく、ギアを改修する方向でね。その為のサンプルを今朝提供してもらったし」

「今朝? あー、あれか」

 

思い当たる節でもあったのかカズヤさんがポンッと左手の平に右拳を載せる。

 

「何ですか?」

「採血とシェルブリットの破片の提供。再構成された物質を解析したいって話だったからな。奏と翼の強化に使うとは思ってなかったが」

「そう、カズヤくんの血液とシェルブリットの破片。これを素材にしてギアを改修、響ちゃんのように同調することができれば──」

「アタシらもあの力が使えるってことか!」

 

大きくガッツポーズをする奏さん。その横で微笑んでいる翼さん。

二人共やる気に満ちてるな、と眺めていたら、

 

「響。あと一個だけ答えろ」

 

カズヤさんが声をかけてくる。

 

「はい?」

「お前さっき、自分のガングニールと俺のシェルブリットが繋がってるっつったが、お前の体内の破片は分解と再構成を経て、何処に行ったんだ?」

「それは、まだ体内にあるかと」

「じゃあ、お前もっかいメディカルチェック受けろ」

「え?」

 

意図が分からず首を傾げるとカズヤさんは苦笑した。

 

「位置と形を確認したら、今度こそ体内から除去できるかもしんねーだろ?」

 

 

 

 

 

後日。

再度実施したメディカルチェック結果、私の体内の破片は、アルター能力による分解と再構成を経て、待機状態のギア──ペンダントの形となっていた。

これはカズヤさんが聖遺物の説明を受けていた際、奏さんと翼さんのペンダントを見ていたことで、無意識的にこの形へと再構成されたものではないかと推測された。

なお、その位置は心臓と肺に挟まれるように埋まっており、しかも紐の部分は心臓と動脈数本にぐるぐる巻きとなっていて、位置関係と危険性から外科手術による除去は不可能。

結局カズヤさんのアルター能力でもう一度分解と再構成を行い、漸く除去できた。

 

「...色が奏と翼が持ってるのと違くね?」

 

私の体内から出てきたそれは、全体的に金色と橙色で、縁などの一部分が赤色である。

二人が持つペンダントみたいに上から下まで赤一色ではないのだ。

 

「これカズヤさんのシェルブリットのカラーリングじゃありません?」

「あ、確かに」

 

言われて初めて気づくということは、このカラーリングもカズヤさんの無意識が反映された結果なのだろう。

...まあ、これはこれでペンダントとしては格好いいから全然いいけど。

 

「とりあえず今まで通り使えるかテストしようぜ」

 

その後実施した起動テスト、カズヤさんとの同調テストは問題なく完了した。

安堵の息を吐いたところでその日はお開きになる。

帰り際、思い出したように質問された。

 

「そういやあの石ころって最終的にどうなった? 響の傷痕から沸いて出てきた結石みてーな...結石」

「事情知らない人が聞いたら私が尿結石患ってるように聞こえる言い方やめてくれません!? っていうかなんではっきり結石って言い直したんですか!!」

「尿結石よりヤバい代物だったんだから気にするな」

「うら若き乙女である以上気にするに決まってるじゃないですかっ!!」

 

相変わらずデリカシーのない発言に怒鳴り返す。

対してカズヤさんは何故か大笑いしているので拳を振るった。

 

「いて、やめろ、みぞおち叩くな(タチ)(ワリ)いぞ」

(タチ)悪いのはカズヤさんの言動ですー」

 

暫くじゃれ合った後、了子さんから告げられたことを伝える。

 

「融合症例だった私の体がカズヤさんと同調することで一時的に高エネルギーの塊と化した際に生成された未知の物質については、研究班で分析中だとのことです」

「響、お前自分で言ってて半分も理解できてねーだろ。そんなに結石呼びが...いてっ、だからみぞおち狙うな...つまりまだ何も分かってねーと」

「そういうことみたいです」

 

そんなこんなでその日はお別れとなり、寮に帰る。

 

 

 

 

 

数日後。

 

「響。そのペンダントは、何? こういうの持ってたっけ? もしかしなくてもカズヤさんからのプレゼント? 最近常に肌身離さず着けてるなんて随分大切にしてるんだね?」

 

あっ......!!

 

 


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