Journey Through The Rainbow   作:がじゃまる

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家のWi-Fiがイカれて投稿するのも一苦労です()


10話 エンペラー・王の資格

 

 

 色鮮やかなステンドグラスから差す陽光が壇上を照らす。

 古びた埃臭さが少々不快な障りで鼻腔を擽るが、今はそんな事些末な問題でしかなかった。

 

 今の自分には彼女がいる。

 ここが・・・自分達の城だ。

 

『はあ・・・! やっと二人きりに慣れたね・・・・・・桜内さん・・・!』

 

 支配欲の対象であった彼女の全てを楽しむように長いワインレッドの髪に触れ、その触り心地や香りを堪能するアナザーキバ。

 見知らぬ、しかも人外の者に好き勝手身体を弄られているのにも関わらず、当の桜内梨子はそれを受け入れるかのように虚ろな目を怪物に向けていた。

 

「・・・一応、まだ私もいる」

 

 自分にキバを倒し、梨子を自分のものにする事を可能にした力を与えた少女が表情には出さずとも明らかに引いている様子でこちらを見ているが、そんなものはお構いなしにアナザーキバは愛撫を続ける。

 

 そしてもうそれを見るのに嫌気がさしたか、何か言いたげだったはずの少女は踵を返し、アナザーキバに気付かれる事のないままその姿を消した。

 

「・・・気持ち悪いから、帰る。もう好きにやるといい」

 

 

 

 

 

 

 

 

『どーするんすかせんぱーい! 姉御攫われちゃいましたよー!?』

 

『だあぁ・・・! ちょっと黙ってろタツロット・・・! 今はあのキバ擬きをだな・・・』

 

『姉御の事だって重要でしょうよ! 渡さんあのままにしてていいんすか!?』

 

『その為にまずあのニセモノの正体暴こうって言ってんだろうが!』

 

 ぎゃーすか騒ぐ珍生物二匹の騒ぎ声は殆ど耳には入って来なかった。

 重い沈黙と、拭い切れない敗北感。この場を満たすのはそれだけだ。

 

「・・・結局、奴は何だったんだ」

 

 その沈黙を打ち破ったのは名護だった。

 アナザーキバという共通の敵を得たからか、今は一時的に毛嫌いしていた登や渡との協力関係・・・という感じになっているらしい。

 

「・・・アナザーライダーだよ」

 

 続けて俺が声を発する。

 アナザーライダー。最初あのタイムジャッカーが口にした時は思い出せないままでいたが、どうしてか今になって蘇った。

 

「アナザーライダー・・・?」

 

「名前の通りライダーのニセモノって事だ」

 

 あのフィルとか言うのが持っていた時計―――アナザーウォッチを起動する事でその世界と時間軸に存在するライダーの力を奪い、それを誰かに埋め込むことでそいつをその世界のライダーとする。

 

「・・・まああれだ。この世界は所謂キバの世界。だからキバの力を奪う事であのアナザーキバが誕生した訳だ」

 

 しかもアナザーライダーは本質はニセモノであり本物という事。先程の登や名護のようにアナザーキバが本物のキバに見えてしまうなどと言ったのはまだ序の口だ。

アナザーライダーはその誕生から時間が経つにつれて本物のライダーの力と歴史を侵食し、やがては完全にその全てを奪い本物として君臨する。

 

 つまり早急にアナザーキバを倒さなければ本物の仮面ライダーキバが消滅する事となる。

 

「でもどうやって倒すの!? アイツ何回ぶっ飛ばしても復活するし・・・」

 

 俺がそこまで説明すると声を上げたのは登だった。

 確かにそうだ。ダークキバやイクサによって倒されたはずの奴はその度に復活した。同じ方法で何度倒そうと無限に復活してくるだろう。

 

 だが倒す方法がない訳じゃない。

 

「・・・アイツが復活する時、あの女がアナザーウォッチを埋め込み直してただろ? あれを壊せばいい」

 

 アナザーウォッチはアナザーライダーの力の源。つまりそれを断てばアナザーライダーは存在を保てなくなる。

 

「アナザーウォッチを壊せるのは元になったライダーの力だけ・・・・・・つまりこの世界だと―――」

 

 俺に続き、その場にいる全員の視線が一点に向く。

 

「・・・・・・渡、お前だけだ」

 

 自身の怪我に包帯を巻く渡の手が止まる。

 そして硬直のまま渡が答える事はなく、その様子に疑念と微かな憤怒を抱いたらしい歩夢が詰め寄る。

 

「迷う理由なんてあるんですか? 早くいかないと梨子さんが・・・・・・!」

 

「・・・アイツを倒したらそこで渡が王位を継ぐのが確定するの」

 

 そう、答えたのは登だった。

 

「・・・どういうことだ?」

 

「・・・・・・そういえばアンタは知らないんだっけ、ファンガイアの王位継承事情」

 

「・・・お前が先代ぶっ殺したせいで王がいなくなったって話だろ。今更どうしたんだよ」

 

 デリカシー皆無発言の主である俺に歩夢からのグーパンが飛んだのを尻目に、登が静かに続ける。

 

「アイツも王位継承候補の一人なの。・・・まあてか、他にあたしと渡しかいないんだけどね」

 

先日登は俺達に言った。ファンガイアの王を継承できるのは渡のような王の血筋の者であるか、登のような王を倒した者であるかのどちらかだと。

聞く話の状況からするに後者が二人以上いたとは考えにくい。となると―――、

 

「・・・アイツ・・・・・・ブラッドファンガイアも先代の一族だから、渡と同じで王位を継げるの。渡と違って純血のファンガイアだから他の奴等からの支持もあったんだけど、行方くらませてたから継がせるに継がせられなくてね。その事もあってずっと王位の継承があやふやにされてたの」

 

「・・・で、そいつが戻ってきちまったと」

 

「そ。なんで消えたのかずっと疑問だったけど、戻ってきたってことはそういうことでしょ。・・・あそこまで梨子に惚れこんでたのは予想外だったけど」

 

 つまり端的に纏めると、桜内を攫ったアナザーキバの正体はもう一人の王位継承候補者で、桜内を助けるために奴を倒せば自動的に王の候補が渡しかいなくなる。晴れて渡はキングに、登はクイーンとなる訳だ。

 

 だがそれは、渡が最も望まない道の一つでもある。

 

「・・・なるほどな。だったら話は早い。早くあのニセモノを倒しに行くぞ」

 

「・・・お前話聞いてたのか・・・・・・?」

 

 状況を把握した直後、迷うことなく腰を上げた名護に渡が怪訝の目を向ける。

 だが名護は至って真剣な面持ちであり、その行動に異を唱える者は渡を除いてこの場にはいなかった。

 

「王位がどうとかお前が人間でいたいとか、そんなゴチャゴチャした事情は俺には分からん。だが・・・・・・」

 

 渡が俺に吐露した心境を狸寝入りで盗み聞きしていた故か、渡を見る目は既に怒りや憎悪から寄り添うような情を含んだものへと変わっていた。

 

「・・・・・・お前のような奴が王なら、人とファンガイアでも手を取り合えるかもな・・・・・・そう思っただけだ」

 

 だからお前を王にする。そう語る背中を渡に向け、奴の元へと向かうらしい名護が外へと消えてゆく。

 

「・・・何なんだアイツ・・・意味わからん・・・」

 

「そう? あたしは・・・何となくわかるかな」

 

 続けて登が至る所に包帯が巻かれた身体を擦りながら、静かな口調で名護に賛同するように前に出た。

 呉越同舟、とかいうやつか。この場においては名護も登も、そして俺達の考えは同じらしい。

 

「ねえ渡。何で私が渡の事好きになったか、分かる?」

 

 前の言葉と文脈の繋がりが見えないその問いに渡が首を捻る。

 だが登にとってはそうするのが最も適した手段だったのだろう。

 

「・・・渡だったからだよ。同じ境遇だったからとか、キバだったからとか関係ない。渡だったから私は好きになったの。・・・・・・きっとさ、梨子も同じなんじゃない?」

 

 動物同然の求愛行為よりもこうして好きを直接口にする方が恥ずかしいのか、頬に朱を差す登。

 だがその口調はむしろハッキリ言の葉を紡いでおり、彼女の伝えたい事は前々から固まっていたのを伺わせた。

 

「人間だろうとファンガイアだろうと関係ない。渡は渡だよ」

 

 そう言い残し、登もまた名護の後を追うようにしてアナザーキバの元へと向かう。

 最後にちらりと俺の方を見てきたのは後は任せたという事だろう。

 

「・・・まあ、大体そういうこった」

 

 渡が誰にも吐露していなかった心境を俺に打ち明けたのだ。だったら俺も俺なりのやり方でコイツを前に進ませるべきだろう。

 この世界のためとか関係なく、一人の˝友˝として。

 

「桜内を好きになったのはお前が人間だからか? その好きになったアイツを傷付けたくないって思ったのはお前がファンガイアだからか? ・・・・・・違うだろ。お前がお前だったから。他の何者でもねぇ羽島渡だったからだ」

 

 きっとそれは周りも同じ。登や桜内がコイツに惚れたのも、名護が感化されたのも、渡が渡だったから。

 人間だとかファンガイアだとかは関係ない。渡が渡だったから惹かれたのだ。

 

 それに気が付いていないのは、もうコイツだけだ。

 

「・・・・・・人間だのファンガイアだの言う前に、お前がお前であることを忘れるな。そういうことだ」

 

 けどそれは誰かに教えられるのではなくコイツ自身で気付くべきこと。

 だから俺達に出来るのはせいぜいその手助けだ。

 

「先に行ってるぜ。・・・・・・待ってるからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なんなんだよ揃いも揃って・・・」

 

 士達までもが去った部屋の静けさに渡が絞り出すように零した声が溶け込んでゆく。

 

「・・・・・・それじゃダメなんだよ・・・。それじゃ結局梨子が・・・・・・」

 

『そうですかねぇ・・・?』

 

 俯くばかりの渡に掛かる気の抜けるような声。

 目線を横にずらせばタツロット。元は渡の血筋の件族だったはずなのに何故か桜内に付き従っているドラン族。

 

『姉御、たまにボクに言うんすよ。自分が渡さんを変えちゃったって、苦しめてるって』

 

「え・・・?」

 

 渡が声を漏らす。

 知り得なかった・・・いや、知ろうともせずに避けていた彼女の感情に。

 

「なんでアイツが気に病んでんだよ・・・・・・あれは俺が・・・・・・!」

 

『確かに渡さんが起こした事だし、向き合わなきゃいけないなのかもしれませんけど、姉御は渡さん一人に背負わせたくないって、一緒に向き合いたいって言ってました』

 

「・・・・・・なんで・・・」

 

『渡さんと同じっすよ。姉御も渡さんには渡さんのままでいて欲しい。姉御が好きな渡さんのままでいて欲しいんですよ』

 

 それが桜内の願いであり、選んだ道だとタツロットが続ける。

 

「・・・怖くないのかよ・・・・・・また襲われるかもしれないんだぞ!? あの時以上のことになるかもしれないんだぞ!?」

 

『・・・んなこたぁ梨子にはどうでもいいんじゃないのか?』

 

 葛藤する渡にさらりと告げたのは、最も長く渡に寄り添ってきた相棒だった。

 

『お前が梨子を好きだからこそアイツから離れたなら、梨子はお前が好きだからこそ一緒に向き合う事にしたんだよ。・・・でもお前がしたのは逃げだ。このままウジウジ逃げてても何も変わんねぇんだぞ』

 

 一句一句が刺さる。

 その指摘は何も間違っちゃいなかった。・・・・・・きっとこの現状も逃げた結果だ。

 

『何を選ぼうが苦しむことに変わりはねぇんだ・・・・・・だったら自分の心に従え』

 

 この生まれが故にこれまで苦しんできたし、それはきっとこの先も付き纏ってくるだろう。

 犯した罪だって、それから逃げ続けてきた過去だって消える事はない。

 

『その上で聞くぞ。お前は、人間でもファンガイアでもない羽島渡自身はどう思ってんだ。何がしたい』

 

 けど、もし許されるなら。

 それでも彼女が自分と向き合ってくれるというのなら。そんな彼女と手を取り合う事が許されるのなら。

 

「・・・・・・なあ、キバット」

 

『・・・なんだ?』

 

「・・・王になれば、ファンガイアの掟ってのは変えられるのか?」

 

 沸き立つ感情のままに漏れ出た問いかけ。

 その確かな欲混じりの問いにキバットはにんまりと口角を吊り上げ、いつものような陽気な声で答えた。

 

『・・・いくら王でもそう簡単にはいかねぇだろうな。・・・けど、出来ねぇ事じゃねぇ』

 

 それが聞ければ十分だった。

 

 正直迷いや恐怖が消えた訳じゃない。今やろうとしていることが正解なのかすらも分かりやしない。

 

 けど行動しなければ何も変わらない。相棒がそう背中を押してくれたから。

 

―――――・・・・・・だったらその両方を選ばなければいいだけの話だ

 

 ずっと、人間かファンガイアかのどちらかを選ばなければならないと思っていた。

 

―――――同じ境遇だったからとか、キバだったからとか関係ない。渡だったから私は好きになったの

 

 ずっと、この生まれ以外に価値などないと思っていた。

 

―――――・・・・・・人間だのファンガイアだの言う前に、お前がお前であることを忘れるな

 

 けれど、それだけじゃないと気付かせてくれる仲間がいたから。

 

「……不甲斐ないままだし、多分この先もずっとそうだとは思うけどさ・・・・・・俺に力を貸してくれ」

 

『・・・上等だ。男なら愛する女のために王座くらいものにしてやろうぜ!』

 

 支えてくれる仲間が、愛した人が前に進む力をくれたから。

 もうそれから逃げたりしない。そんな決意が、渡をその者達の下へと駆り立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ATTACK RIDE》

 

 

《SLASH!》

 

「・・・式場たぁ、また悪趣味なモンだな・・・」

 

 斬撃音、打撃音、そして怪物の悲鳴が上がる度に煌びやかに装飾の施されていたであろう協会が破壊されてゆく。

 そんな阿鼻叫喚の中、純白の衣に身を包んだ桜内はなおも虚ろな目を虚空に向けていた。

 

『なんで・・・・・・なんでまだ僕を見てはくれないんだ・・・!』

 

「キバキバと固執しといて結局渡の力盗まないと何もできない奴なんか誰が好きになると思ってるの?」

 

『・・・黙れ・・・!』

 

 周囲のファンガイアを粉砕しつつ挑発を入れる登に苛立ちと自尊心からアナザーキバが怒号を撒き散らす。

 キバから奪ったドッガハンマーを掴み取ると共に床を蹴り、怒りのままにダークキバへと殴りかかった。

 

『キングを倒した程度で調子に乗るな・・・! ファンガイアの血を穢した忌み子のくせに・・・王の僕を馬鹿にするなァ・・・!』

 

「ほう・・・貴様如きが王を名乗るか」

 

『ガッ・・・アァァ・・・!?』

 

 得物を振り上げたアナザーキバの背後からイクサが斬り掛かり、短い悲鳴と火花が上がる。

 

「笑わせるな。王とは誰かのために悩み苦しめる者・・・アイツのような者だ。己の都合でしか考えられず、剰えはその為に彼女を縛る貴様に王の刺客などない!」

 

『うるさい・・・・・・うるさいうるさい!!』

 

 またも自分を・・・しかも人間である名護に否定され、またもアナザーキバが憤慨を見せる。

 だが欠けてゆく冷静さとは裏腹にその力は増大してゆき、ドッガハンマーの一振りの下に二人のライダーを薙ぎ払う。

 

「・・・コイツ強くなってる・・・」

 

「・・既にそれだけの力をキバから奪っているということか・・・!」

 

「・・・・・・どけッ!」

 

《FINAL ATTACK RIDE》

 

 

《DE・DE・DE・DECADE!》

 

 

 距離を取ったダークキバとイクサの間を縫うように連なったカードの列が伸び、それらを突き破りながら猛進する俺のディメンションキックがアナザーキバへと肉薄。

 だが奴はまたもドッガハンマーの一撃でそれを跳ね除け、直後に放った飛び蹴りで逆に俺を吹き飛ばす。

 

『僕が・・・僕が王なんだ・・・! この力がその証拠だ!』

 

「・・・盗んだ力のくせによく言うぜ。中身のない力のハリボテに隠れて虚勢張るのがそんなに楽しいか」

 

『黙れェェッ!!』

 

 盗んだ力とは言え強力なことに変わりはない。激昂のままに撃ち出されたバッシャーマグナムの銃弾がキバ以上の威力で土手っ腹を打ち抜く。

 想像以上の痛みに体勢を崩すが、意地で踏ん張りライドブッカーの引き金を絞る。

 

 その狙う先は―――、

 

『なにを・・・?』

 

「教えてやるよハリボテの王・・・・・・真の王の姿ってやつを」

 

 罰当たりにも教会の扉を錠ごと打ち抜く。

 俺達は裏口からの奇襲だったが、アイツは正面切って突っ込んでくるはず。そう確信があった。

 

「・・・・・・そうだろ、渡」

 

 直後に留め金の破壊された扉が蹴り開かれ、差し込んだ光を背負って駆け込んでくる少年が一人。

 その顔にこれまで映っていた憂いはなく、彼をその場に立たせる程の揺るがぬ覚悟が窺い知れた。

 

「・・・遅いぞ。それでも王となる者か」

 

「・・・・・・ま、主役は遅れてくるっていうもんね。けど、お膳立てした分はきっちり決めてよ、渡!」

 

 俺のみならず、名護も登も信じ切っていた面持ちを見せ、驚く者はこの場にはいなかった。

 ただ一人、アナザーキバを除いて。

 

『キバ・・・・・・ああぁぁぁッ!!』

 

 焦燥や苛立ちに飲み込まれた偽りの王がヒステリックな声を散らす。

 だが渡は奴を意に介す様子を見せず、ただ一点、彼をここまで駆り立てたであろう少女を見つめた。

 

「・・・・・・キバット」

 

『任せとけ・・・・・・ガブッ!』

 

 迫るアナザーキバと衝突する本物の仮面ライダーキバ。

 アナザーライダーの性質上力ではアナザーキバが上回っているはずなのに、何故だかキバが押しているように見える。そう思わせる程の何かがあった。

 

『なんで僕の邪魔ばかりするんだよ・・・! なんで僕にないものばっかりお前が手に入れるんだよ! 王座も桜内さんも、お前さえいなければ僕のものだったのに!!』

 

 登によれば、アイツ―――ブラッドファンガイアは本来王位を継ぐはずの予定だったらしい。

 だが登にキングが殺され、その後にキングの血を継ぐ渡の存在が明るみになり、今はうやむやになっているそうな。

 

 そこは多少なり同情しない事もないが・・・・・・奴が王になり得ることはないだろう。

 

『・・・足りねぇよ、お前じゃ。王の器ってやつがな』

 

『キバット族の分際で偉そうに言うなァァァッ!』

 

「おっと? それはあたし達全員思ってる事なんだけどなぁ~?」

 

 鬱憤を晴らすように突き刺さったダークキバの蹴りにアナザーキバの状態が逸れる。

 続けイクサの振るった長剣が胴を切り裂き、仮面の下から名護が言い放った。

 

「人間だのファンガイアだのと種族で優劣を決め、気に入った女ですら束縛し支配しようとする貴様と、誰であろうと分け隔てなく接し苦しめる羽島・・・・・・どちらが王かなど考えるまでもない」

 

「あっれー? ちょっと前までファンガイアは殺すとか言ってなかったかなー?」

 

「憎悪が消えた訳ではないぞ限界女。皆殺しにするのと信頼に足る王に統治させるか、どちらが合理的か考えたまでだ。・・・・・・なんなら貴様だけここで倒してもいいんだぞ?」

 

「お? 何? また恥かきたいの?」

 

「・・・いいだろう。その舐め腐った態度叩き直して―――」

 

『僕を無視するなァ!?』

 

 時と場合を考えずにまた衝突しかけた登と名護にアナザーキバが怒声を浴びせかける。

 大きく上下する肩は自尊心を逆撫でされ余裕がなくなっているようにも見えた。

 

『大体! そいつは力や衝動の制御が出来ないだろ! そんな奴が王だなんて誰も認めない!』

 

 自ら己の器の小ささを示すようにアナザーキバが渡へ吠える。

 だが奴の目論見に反し渡が狼狽える様子を見せる事はなかった。

 

「梨子・・・・・・ごめん」

 

 小さく呟いた渡の声に、虚ろなまま俺達に反応を見せなかった桜内が初めてその方を向く。

 渡の声が、渡だからこそ届き得た。つまりはそういう事。

 

「・・・・・・自分勝手だったんだよな、俺。傷付けるとか歪ませたくないだの言って、結局全部俺のエゴ・・・俺の好きなお前じゃなくなるのが嫌だっただけだ。自分の都合しか考えてなかった。・・・・・・お前の気持ちも考えないで・・・・・・ごめん」

 

 アナザーキバを倒せばすぐにでも催眠は解けるだろうが、まず渡が選んだのは語り掛ける事だった。

 それが渡なりの謝意。自分の過ちを受け止め、前に進むことなのだろう。

 

「・・・・・・だからもう逃げない。こんな事言うのは都合がいいのは分かってる・・・・・・けど、お前が許してくれるなら・・・まだ俺に寄り添ってくれるなら・・・・・・・・・・・・俺はお前と一緒に歩きたい」

 

 その上で己の望みを語る。

 封じ込めていた自分を曝け出し、本当の意味で桜内と向き合うために。

 

「これがその為の試練だってんならいくらでも乗り越えてやる・・・・・・それが王だろうとな」

 

『その意気っすよ! 渡さーん!』

 

 覚悟を固めた渡の下へ場違いな陽気な声で飛来するタツロット。

 しかし声の雰囲気とは裏腹に弾丸が如き勢いでキバへと迫り―――、

 

『テンション、フォルテッシモ!!』

 

 直後、キバの鎧の至る所に巻き付いていた鎖が砕ける。

 肩や右足と、鎖により封じ込められていた鎧が開花するように解放され、やがてヘルズゲートより放出された黄金の蝙蝠の群れがキバの全身を包む。

 

『タツロット・・・・・・お前・・・!』

 

『へへ・・・・・・ドラマチックにいきましょう!』

 

 眩い光の収束と共に紅蓮の炎がキバの背後で広がり、真紅のマントとなりてはためく。

 陽炎の中にその姿を見せたのは、荘厳なる皇帝だった。

 

 

 黄金のキバ―――――エンペラーフォーム。

 

 

『な・・・あぁ・・・・・・!?』

 

「ッッ!!」

 

 ダークキバ―――暗黒の鎧と対を成す存在へ覚醒を遂げた渡を前に狼狽えるアナザーキバキバへ一直線に突っ込む黄金の影。

 それは前の苦戦の影など微塵も見せぬ勢いのまま炸裂し、偽りの王を一撃で吹き飛ばす。

 

「ハアァァァァァァァァァッッ!!!」

 

『グ・・・アアァァァァァァァ・・・・・・!?』

 

 いつの間にか握られていた黄金の剣―――ザンバットソードが煌き、次の瞬間にはアナザーキバの胴を深々と掻っ捌く。

 覚悟が呼び寄せた力か、寸刻前の猛威が嘘のようにものの二発で奴を圧倒していた。

 

『認めない・・・僕はお前が王だなんて認めない・・・・・・人間にもファンガイアにもなり切れない出来損ないがァっ!!』

 

「・・・・・・関係ねぇよ」

 

 アナザーライダーとしての力でザンバットソードを奪おうと試みるも、王たる資格のない奴はその剣に触れることすらも叶わない。

 嫉妬も、歪んだ愛も、空虚な力も、その全てを否定するように皇帝の剣は奴を切り裂いた。

 

「人間だとかファンガイアだとか関係ない。俺は俺だ・・・・・・俺として生きる。だからアイツの助けが必要なんだよ!!」

 

 前に踏み出したもののまだ未熟。王に相応しいのかと言われればまだ足りないものだって多くあるのかもしれない。

 けれどその決意は、黄金の鎧を目覚めさせるまでの覚悟は、きっとそういう事だろうから。

 

「梨子ッ!!」

 

 そしてその感情は伝播する。

 名護の考えを改めさせたように、登に背中を押させたように、アナザーキバの劣情と歪な愛が生み出した鳥籠へと囚われた彼女へと――――――届く。

 

「わ・・・たる・・・・・・」

 

 もう離さないと、手を伸ばした渡が抱き留めた桜内の瞳に光が宿る。

 

「・・・おそいよ・・・・・・バカ・・・」

 

「・・・ごめん・・・・・・・・・ありがとう」

 

 感情や思考が都合よく歪められようと、支配されていようと、一途な想いはそれを超えて届くものだ。

 一言で表すなら愛の力、とかいうやつだろう。

 

『・・・なんで・・・なんで何もかもアイツが選ばれて僕は駄目なんだよ!?』

 

「分かんねぇのか? ・・・まあ、お前に分かるわきゃねーわな」

 

 渡は自分の成すべき事を成した。だったら次は俺の番だ。

 この世界の仮面ライダーはもう前へと進める。後はあのニセモノを駆逐するのみ。

 

「お前は前に進もうとすることをしなかった。境遇を、不運を言い訳に悲観し続けて、進むことを諦めた」

 

 キバの隣に並び立ち、またもヒステリックに喚くアナザーキバ自身に否を突き付ける。

 コイツが恵まれていなかった事は認めてやろう。だがこんな奴に王の資格などありやしない。

 

「だが渡は違う。自分の弱さも境遇も全て受け入れて前に進んだ。人間もファンガイアも関係ない、自分自身でいるために進むことを選んだ。愛した人のために自分自身と戦える!」

 

 進む力も、愛する者すらも持ち得なかった奴は、渡から奪う事でその両方を手に入れた。だがそれは一時の空夢、虚しい幻に過ぎない。

 上っ面の力だけじゃ何も出来やしない。信じられる仲間、信じてくれる友がいるからこそ、俺達は進み続けることが出来る。

 

「それが王だ・・・・・・・・・王の資格だ!!」

 

『うるさいうるさいうるさいッ!! なんなんだよお前はッ!!??』

 

「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ!」

 

 刹那、ライドブッカーから飛び出した三枚のカードが手に収まり、熱を帯びては失われていた色と力を取り戻す。

 

『まだだ・・・・・・この力があればまだぼくはァ!!!』

 

 己の敗北を突き付けられてもなおアナザーキバは抗い、手にした力を離すまいと天井を突き破っては逃走を試みる。

 しかし、奴の不幸はまだまだ続くらしい。

 

 よりによって、˝このカード˝が力を取り戻したタイミングで俺達に背を向けてしまったのだから。

 

《FINAL FOAM RIDE》

 

 

《KI・KI・KI・KIBA!!》

 

 

 

「ちょっとくすぐったいぞ」

 

「は? おいなに―――おおぉ!?」

 

 解放されたカードの力がキバをタツロットと分離させ、キバフォームに戻した上で背中に裂け目を生じさせる。

 その中へと手を突っ込んだ俺が裂けめを広げればキバの鎧が変形してゆき、やがては胴の部分をキバットに差し替えたような巨大な弓が俺の手に握られる。

 

「打ち抜くぜ・・・・・・アイツの歪んだ野望事な!」

 

《FINAL ATTACK RIDE》

 

 

《KI・KI・KI・KIBA!!》

 

 

『キバって、いくぜ―――ッ!!』

 

 スロットルを引く事でキバの右足を模した矢先が展開され、溜め込んだ力の解放と共に紅い線がアナザーキバへと一直線に伸びる。

 

『がふあっッ・・・!?』

 

 その狙いは寸分違う事なくニセモノの身体を打ち抜いて撃墜させるが、これでは終わらない。

 奴の落下する先には既に―――地獄が待ち構えているから。

 

「女王の判決だよ・・・・・・・・・・・・とりあえず死ねッ!!」

 

「その命、天に還すといい!」

 

「・・・キバット」

 

「・・・コイツで終いだ」

 

 

『ウェイクアップ! ツー!』

 

《イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ》

 

『ウェイク! アーップッ!』

 

《FINAL ATTACK RIDE》

 

 

《DE・DE・DE・DECADE!!》

 

 

『グッ・・・・・・アアアァァァァァァァァァァァッッッ!!!』

 

 偽りの王に突き刺さる四人のライダーの必殺技。

四色の槍は奴のみならず、力の根源たるアナザーウォッチごとその身体を爆散させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王を名乗ったニセモノも消え、立ち止まり続けていた渡も前へと進んだ・・・・・・のだが、既に新たな問題はその片鱗を見せ始めていた。

 

「ちょっと音羽ちゃん? いくらなんでもベタベタし過ぎなんじゃないかなぁ?」

 

「いやいや~、これくらいのスキンシップは妻として当然でしょ~」

 

「いつから妻になったのよ! いいから離れて!」

 

「梨子も一緒に可愛がってもらえばいいじゃ~ん。・・・まあその貧相なお胸じゃあたしには勝てないだろうけど(*´艸`)」

 

「なんっ・・・!? ・・・やってやろうじゃないのよ!!」

 

「・・・お前等な・・・・・・!」

 

 ようやく渡と桜内が互いの手を取り合えたと思ったのも束の間、ファンガイアの王になるのなら一夫多妻制も適用されて然るべきだと主張する登のせいで余計にややこしい状況に。

 現在暴走特急登と意外と嫉妬気質だった桜内によるドロドロの修羅場が繰り広げられている最中である。ていうか道のど真ん中で何をやってるんだコイツ等は。

 

「あはは・・・、大丈夫かなこれ・・・・・・」

 

「泥沼、って観点だけなら前より酷くなってるかもな」

 

「・・・一時の気の迷いとはいえ、俺はこんなのを王に祭り上げていたのか・・・・・・」

 

「・・・そこに関しちゃ大丈夫だろ。もうアイツは前に進めるさ。お前みたいな仲間もいるしな」

 

 まあ最も、アイツの場合王云々よりもまず手前の三角関係をどうにかしないといけないのだろうが。

ともかくこの世界での俺の役割は終わった。次の世界へ旅立つ時だ。

 

「・・・さて、そろそろ行くぞ歩夢」

 

「えぇ? あれほっといて大丈夫なの?」

 

「もうアイツ等の問題を俺等が手助けする必要はねーよ。例え修羅場だろうとな・・・・・・渡!!」

 

 マシンディケイダーに跨り、次の目的地へと繋がるオーロラが出現した去り際、女子二人に揉まれる渡を見やる。

 

「見せてみろよ。お前って言う王が作る世界が、どんなもんなのか」

 

「っ・・・・・・。まあ、正直まだよく分かんねぇけど・・・・・・やってやるよ。俺として!」

 

 その言葉を背にエンジンを切る。

 もうコイツ等は、この世界は大丈夫だろう。その確信が機体を進ませ、オーロラは次の世界へと俺達を誘った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・今度はまた随分と田舎に来たもんだな」

 

 青い空、青い海。

 真夏を連想させるその光景に、これまで建造物の立ち並ぶ都会にいた俺達は少し拍子抜けた感覚を覚えた。

 

「秋葉原・・・・・・な訳ねーよな。こりゃライダーの前にまず地理を―――」

 

「士君、あれって・・・・・・」

 

 後部座席から服の裾を引っ張った歩夢が指さす先は何の変哲もない電柱。

 その中腹辺り、丁度俺達の目線と合うような位置に張り紙が一枚。

 

「・・・コイツ等・・・!」

 

 バイクから降り、歩み寄っては印刷された文字を読む。

 探し人、と表記された真下の写真には長い青髪をポニーテールに纏めた少女と、艶のある黒髪の少女が映し出されており――――――、

 

「・・・松浦果南に黒澤ダイヤ・・・・・・?」

 

「知ってるの!?」

 

 その二人の少女の名を口にした俺に掛かる、期待と不安が入り混じった高い声。

 振り返った先から派手過ぎず地味過ぎずの金髪に、同じ色の瞳と色白の肌という日本人離れした容姿の少女が慌てた様子で俺達の下へ駆け寄ってくる。

 

 状況が全く飲み込めていない俺と歩夢の手を取ったその少女―――小原鞠莉は今にも泣き出しそうな瞳を俺達に向けた。

 

 

 




エンペラーフォームを出して今後のハードルをあげる男
キバは最終形態の登場早かったし多少は……ね?
まあともかくこれでキバ編完結となります
桜内さんの出番が少なかったのが反省点ですかね……

そして次の世界のヒロインはAqoursの小原鞠莉さん。果たしてどのライダーの世界なのやら……

それでは次回で!

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