「おはよう。清水」
「………あぁ、おはよう」
何気無さを装って声を掛ける。
最近になって増えた行動だった。
ただの朝の挨拶だから、オカシイ事は何も無い。
そう自分に言い聞かせる。
だけど当の清水は?何も無かったかのように席に着く。
その表情に動揺の色は無い。
それは当然の事だろう。コレはただの挨拶だから。
清水は席に着くと、
他のクラスメイトと話す事も無く、カバーの付いたラノベを読み出す。
始業までまだ少し時間が有る。暇潰し。と言う事だろう。
「………ただのラノベだ。
絵が文字になったダケで、
教師は文句を言わないし、没収も無い。実にチョロイ」
前に何を読んでいるの?と訊いたら答えが↑だった。
流石に携帯ゲームは目立つからな?とも言っていた。
清水の席は私の隣だった。
そんな事にも、私は最近まで気付いていなかった。
隣の席の男子に、興味何て無かったから。
「南雲君、おはよう! 今日もギリギリだね」
始業が近づくと、
少し離れた場所からいつものやり取りが聞こえて来る。
いつもギリギリで登校して来る南雲が、今日もギリギリで登校。
南雲の登校に気付くと、香織が声を掛ける。
そして教室の空気の約半分が悪くなった。「男子自重しろ」と言いたくなる。
香織はモテる娘だから?
そんな香織が、
そんな恋する乙女の顔で南雲に声を掛けるから、男子の大半が嫉妬する。
だからクラスの中で、南雲の立場は悪い。
他にも遅刻や居眠りが多く、
趣味が所謂オタクと称される類の物である事も、評価の低さを招いているけど?
一番の原因は、香織に好かれている事だと思う。
「香織、また彼の世話を焼いているのか?」
そうして香織が南雲に絡むと、今度は天之河が絡んで来る。
天之河光輝。
盛大にキラキラネームのような名前がアレだけど?所謂完璧超人系男子だ。
(だけど雫曰く、思い込みが激しく聞く耳を持たないタイプとの事)
当然女子の人気も高い。
そしてその天之河が快く思っていない南雲は、大半の女子の評価も低い。
それが南雲の、クラスでの立ち位置と言えた。
「………|д゚)チラッ」
では清水はどうだろう?
清水も南雲同様、クラスメイトの評価が高いタイプでは無い。
趣味も南雲と同じくゲームやラノベのようだし、
趣味繋がりなのか、孤立気味の南雲とも一定の交友関係を築いている。
遅刻や居眠りなどの批判され易い行動こそ取っていないモノの、
低評価を受け易い要素を孕んでいた。
でも嫌われているとか、
イジメられているとか?そんな解り易い立ち位置じゃ無い。
避けられている。が、近い。
最近少し近づいて解った。興味が無い。が、多分正解だと思う。
清水はクラスメイトに、他人に興味が無い。
嫌われているのでも、避けられているのとも違う。
清水は独りで居るのが好きなタイプだと思う。
望んで独りで居る。独りでも生きて行けるタイプの人間だ。
だけど最近は?解り易く敬遠されてもいる。
いつもなら南雲に絡む、檜山達の声が無い。
檜山は?香織好きの南雲嫌いとして、周知の存在だった。(香織本人は除く)
でもその檜山は、全治一ヶ月のケガで入院中。
階段で落下。見つけたのは清水。これは清水の仕業だと噂されている。
曰く、南雲の友達は清水ダケだから。
集団でイジメられるのを見かねて、階段から突き落とした。
そう噂されていた。
†
「………あ、あのさぁ清水」
時間は昼休みに突入。
特に用も無いので、直ぐに学食に向かう事にする。
と言っても学食で昼食を摂る訳では無い。
学食で販売しているサンドイッチが目当て。
で、人気の無い静寂スポットで一人昼を過ごす。
それがいつものルーチンワークだ。
だが今日は?園部に声を掛けられる。
園部はやや様子がおかしく、
園部と仲の良い女子数人が、そんな園部を微笑ましく見守っている。
これが恋愛ゲーなら?まず間違い無く昼食のお誘いだろう。
が、これはゲームでは無くリアル!
鍛え上げられたゲーマーたる自分に、過度の期待は無い。
だが最近、園部とは話す機会が増えた。
例の一件以来だ。
別に勘違いでも、嬲って来る程の交友関係者は居ない。
キマグレだと思う。
「………昼。来るか?」
「ッッ!!!」
だから園部を昼食に誘った。
園部は驚きの感情に囚われた後、
やがてコクコクと了承し、後ろの女子連中は大いに盛り上がっていた。
どうやら正解らしい。リアルは選択肢が非表示仕様だから困る。
歴史にifは無い。有名な言葉だ。
一般的な人間は未来の予測や備えは出来ても、視る事はデキナイ。
ゲームのように、セーブポイントからロードもデキナイ。
では今回!もし園部に声を掛けられる事無く、
学食に行っていたら、歴史は変わったのか?
「!
園部ッ!!」
解答→大いに変わっただろう。
その瞬間、教室は光りに包まれた。
光っているのは床!では無く、
いつの間にか教室の床に展開されていた魔法陣のようなモノだ。
ゲームでは見慣れた代物。空想の産物。ありえない展開。
だが瞬時に現実を受け入れた。
最悪の事態が閃く。
これをラノベ展開の異世界転移だと想定。
分断は避けなくてはナラナイ。転移トラップの基本だろう。
護ろうとしたのだと思う。
理不尽なファンタジー展開に、コイツを好き勝手されるのが気にイラナイ。
「清水ッ!!」
園部の手を取った。
今度は思い込みでは無く、確かに伸ばされた園部の手を取った。
実は非常用ショルダーバッグも用意していた。
災害時にも使える非常用便利アイテムの詰め合わせだった。
イザと言う時の備えだ。
だが実際に取ったのは、園部の手だった。
某有名RPGのⅥ作目で、モーグリの手を取った時と同じく後悔は無い。
†
「此処は………
教会。か?」
光りが治まり、気が付くと教会らしき場所の広間に居た。
教会だと認識したのは、らしかったから。と言う他は無い。
きっとこの広間は?祈りの間とかの名前が付いている場所だろう。
探せば鐘撞き堂とか、パイプオルガンとかも有りそうだ。
「………園部。無事か?」
「清水」
そして直ぐに園部の手を握っている事に気付き、
次に他のクラスメイトや、
畑山先生も居る事に気付いたが、まず園部の安否を確認。
受け答えも出来るようだ。取り合えず無事と判断。
だが手は繋いだままで、園部は羞恥で手を離す。
と言うアクションを起こす気配が無い。
突然の召喚(仮)で、動揺?不安なのか?
ならば此処で手を離す!と言う選択は無い。
逆に強く、園部の手を握る。
「///」
どうやらこの選択も正解のようだ。
ロード無しのリアルでは、幸先の良い展開。
何気に恋人繋ぎに移行しても、拒絶の反応が無かった。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ」
そして死の宣告は告げられた。
これが死の宣告だと理解デキた者は、どれ程居ただろう?
それに全く気付いていない代表選手の天之河は?
道化丸出しの言動で、戦争参加の表明までしてくれた。
畑山先生の常識的な抗議の声も空しく、
他の大半のクラスメイトも同意してしまう。
「コレ詰みゲー☆
………そうだ。チートに行こう!」
某有名RPGⅥ作目とは、FFⅥの事。
仲間になるモーグリと、
MP消費が半分になる装備品のどちらかを選ばせる鬼畜選択。
当時は特に悩まずモーグリを選んだモノです。