未来人と艦娘と 作:メテオ・ザ=ディザスター・アラシ(以下略
「つきました。ここが工廠です」
「…なんかすごいことになってますね」
二人に連れられ、工廠にたどり着く。しかし、その内部はかなり荒れていた。海に面する方の壁に大穴が開いていて、あちこちに工具が散らばっている。大穴の近くには巨大な機械が4つ並んでいるが、あちこちが破損して使い物にならなそうだ。いったいここで何があったのか…。
「さて、こっちはっと…うん、どうにか動かせそうね」
叢雲さんは、工廠の端にある機械の様子を確認する。隣に並んでいる機械と比べると少し小さめだが、どうやらこの機械はまだ使えるらしい。
「あのー、この機械っていったい?」
「これは艦の魂を顕現させるものよ。この機械と妖精さんの力を借りれば、ドロップした艦の魂を艦娘にできるの」
叢雲さんによると、艦娘を顕現させるには、2つの方法があるという。1つは資材を投入して艦の魂を呼び寄せ、それを顕現させる方法。これが「建造」である。妖精さんたちが資材を使って魂を呼び寄せて顕現させるのだが、これは顕現までに時間がかかるという。…もっとも、現在はドックが全て壊れていて建造はできないそうだが。もう一つは、深海棲艦を倒して「ドロップ」した艦の魂を持ち帰り、直接顕現させる方法。深海棲艦と戦うという危険は伴うが、魂を呼び寄せる過程を踏まないのですぐに艦娘にできるという。
「それじゃあはじめましょうか。妖精さん、お願いね」
「おー」
「まかせろー」
「うでがなりますなー」
妖精さんは魂を受け取ると機械の中に入っていき、何やら作業を始める。しばらくすると、妖精さんがOKサインを出した。
「よし、いくわよ!」
叢雲さんがスイッチを押すと、機械の中に水が満ち始めた。ちょっと待て、機械って水に弱いんじゃ!?
「ちょっと、これ大丈夫なんですか!?なんか水入って来てるんですけど!?」
「大丈夫よ。ちゃんと防水設計はしてるみたいだから壊れないわ。それに、こうしないと艦娘を顕現させることができないみたいなのよ」
そ、そうなのか…。ほんと不思議だなこの世界は…。
「お、もうそろそろ終わるみたいね」
そう言われて機械に目を向けた次の瞬間、まばゆい光が辺りを包み込んだ。あまりの眩しさに思わず目を瞑る。
「もう大丈夫よ」
そう言われて目を開けると、機械の前にある大きなドアのランプが光っていた。というかまだ目が痛い。どんだけ眩しい光出してるんだよこの機械は…。
「そういえば、朝潮もこれ見るのは初めてだったわよね?」
「は、はい…目が痛いです…」
「まあ、そのうち慣れますよ」
後ろで何やら話している3人。不知火さんと霞さんはこの光景に慣れているのか、平気だったらしい。というか、そのうち慣れられるものなのか?これ。
「学、あんたドックを開けて見なさい」
「え、いいんですか?」
「いいわよ。もともとあんたが倒したワ級から出て来た魂だし」
叢雲さんに促されるがまま、機械の操作パネルのボタンを押す。すると大きな音をあげながらドアが開き始めた。叢雲さんに肩を貸してもらい、ドアの方へ向かう。
「睦月です!はりきってまいりましょー!」
ドアからセーラー服を着た赤髪の少女が飛び出してきた。この子も駆逐艦なのかな?
「初めまして。私は叢雲よ」
「僕は工藤学といいます」
「よろしくお願いします、叢雲さん!そして提督!」
…えっ?この子、今なんて?
「睦月、今この鎮守府には提督はいないわよ?」
「およ?学さんって男の人だし、提督じゃないんですかにゃ?」
「いや、こいつの格好をよく見て見なさいよ!どう見ても提督じゃないでしょ!」
談話室で写真を見たが、提督の服装は白い軍服。それに対して僕の服装は真っ黒なT
シャツの上に青色のジャケット、そして紺色のズボンと、提督の服装とはかけ離れたものだった。しかし…
「今の提督は執務が終わったから私服なんじゃないですかにゃ?」
だめだこの子、僕のことをオフの提督と思い込んでいるらしい。早いところ誤解を解かなければ…。
「あのー不知火さん、なんか言ってやってくださいよ」
「…司令、明日はどの海域に出撃されますか?」
「ななな何を言ってるんですかぁ!?」
いやちょっと不知火さん!?なに睦月に乗ってるんです!?
「司令官、何ぼさっとしてるのよ!」
「ちょ、霞さんまで!」
「えーっと…乗った方がいいんでしょうか?」
「お願いだから朝潮さんまで乗らないで!」
結局睦月は僕のことを提督と思い込んだままで、そのまま「提督」と呼ばれることになった。まあ、勝手に呼ばせとけばいいか…。
「へぇー、提督さんって未来から来たのね!不思議―!」
「にわかには信じがたいわね…」
工廠から帰る途中、朝潮さんたちが僕のことを二人に伝えた。睦月は信じているようだが、叢雲さんは信じられないと言った様子だった。そりゃそうだよな、ゲームの世界でもあるまいし、こんな話信じられるわけがないか…。
「で、あんたが未来から来たってのが本当だったとしましょう。どうやってここまで来たの?」
「それがですね…」
僕はここまで来た経緯を覚えている限り話す。友達と一緒に海を走っていたら嵐に見舞われ、気がついたらここにいた。そしてホ級たちに襲われ、叢雲さんに助けられ、今に至るということだ。…正直自分でもよく覚えてないし、これで信じてもらえると思わなかった。でも…
「…そう。だとしたら、帰る当てもなさそうね。ならあんた、しばらくここにいなさい」
…えっ?信じてくれた?というかここにいなさいって!?展開が急すぎてついていけないんだが…。
「だってあんた、ここから出たところで行く当てないでしょう?そもそも今の日本は深海棲艦の対処でてんてこ舞いだし、一人で外に出たって誰も助けてくれないわ。ならばここにいたほうがいいでしょう?どうせ大本営もこっちのことなんて気にかけてないだろうし、知らない人間一人入れようが何も言われないわ」
「でも、皆さんはいいんですか…?」
叢雲さんはいいと言ってくれたが、他の人は嫌というのでは…?そう思ったが
「睦月は大歓迎ですよ!提督さん面白そうな人だし!」
「別にいいわ。戦闘までは無理だけど、資材運びとか手伝ってもらいたいし」
「不知火も大丈夫ですよ」
「私もです!工藤さんが困っているなら、見殺しにはできませんから!」
「そっか…。ありがとうございます」
皆さんの口から出て来たのは、暖かい歓迎の言葉だった。見ず知らずの僕なんかのために…艦娘って優しいんだなぁ。
「別にお礼なんていらないわ。あとあんた、普通にしゃべってちょうだい。敬語でしゃべられるよりそっちのほうがやりやすいわ」
「…ああ!わかったよ」
こうして叢雲さ…いや、叢雲たちのところにお世話になることになったのであった。