メイヴの鞭で叩かれると身体能力が倍に罵られると魔力が倍になるマスター 作:騎士見習い
俺が奇跡的にマスターが全滅した事故を免れ、同じくマスター候補の藤丸立香と共に世界を救う戦いに身を投じることになった。藤丸くんにはデミ・サーヴァントのマシュ・キリエライトという頼もしい後輩がいることで戦闘面で大いに活躍できると期待が寄せられた。だが、俺には使役しているサーヴァントがいなければ特別な力もなかった。それを不便だと思ったダヴィンチちゃんは俺に今残っているカルデアの魔力リソースを用いての運任せの召喚を行えるようにしてくれた。
「ガス欠の車を動かそうとするものだからね。召喚できなくても落ち込むことはないよ」
「それでも可能性があるなら……」
体内の魔力を高め、全神経を集中させる。
「――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
部屋が眩しいほど発光し、右手の甲は焼けるように熱くなる。徐々に光は弱まると、少女のように無垢で清楚な見た目だが、どこか淫蕩な空気を纏う女性がカツ、カツとヒールを鳴らしながら俺の目の前に立つ。
「──私はメイヴ!女王メイヴ!
私のために戦ってくれる素敵な勇士が、貴方なのかしら?」
その声を聴いた瞬間、身体の中が熱くなる。原因が分からないが、喉から絞り出すように声を出し返事をする。今まで求めていた全てを彼女がくれる、と本能的に感じた。
「まさか、本当に召喚ができるなんて思わなかったよ。早速で悪いけど藤丸くんとマシュを援護を頼むよ」
現実感がなく、生半可に答えながら促されるままに俺は藤丸くんたちがいる特異点へ飛ばされた。
☆
「もう、なにここ最悪ね。熱いし、汚いし、歩きづらいしで早く帰りたいわ。ね?マスター」
「あ、ああ。だけど、藤丸くんたちが頑張ってるなら俺らも頑張るべきだと思う」
「ふ〜ん。私の言葉を否定するんだ。ただの貧弱な人間だと思ったけど思い違いだったのかしら」
『貧弱』という言葉になぜか大きく反応してしまった。訳がわからない。ほんの少し、身体が熱くなる。
「さっきより魔力が補充されてるんだけど?何かあったの?」
「わ、分からない。けど、さっきの会話の最中に身体が少し熱くなったんだ。それが原因かも」
「なるほどねぇ〜。なら、もしかして……」
何かを企むような顔をするメイヴ。その表情は妖艶で女王と呼ばれていたのも納得できる。そんなことを思っていると、突然彼女は、
「わたし、なんか疲れちゃったみたい。そこで椅子になりなさい、才能のない……ゴ、ミ、マ、ス、ター♡」
たった一言で全身が燃えるように熱くなる。だが、熱さに比例するように俺の魔力は大きく増える。魔力のパス越しに俺の魔力が増えたのを感じたメイヴは確信したように説明する。
「マスターは私から罵倒されると魔力が倍になるのよ!!じゃあ、もしかすると……」
パチンッ!パチンッ!と心地良い音を出しながら俺の背中に痛みが走る。
「痛った!!」
痛みの衝撃で軽く跳ねてしまったのだが、地面から数メートルは離れていた。あまりの出来事に頭が真っ白になりながら着地すると、メイヴの手には鞭が装備されていた。
「そして、私の鞭で叩かれると身体能力が倍になるのよ!!」
俺の目の前は真っ暗になった。
☆
メイヴが生きていた時代。そこに一人の兵士がいた。その兵士は戦場で手柄を上げ、好きなもの何でも与えると言われた際……。兵士はこう答えた。『女王メイヴ様の鞭を浴びたい』と。その希望通り、メイヴは兵士に鞭を浴びせた。その後、その兵士は数ある戦場で手柄を立て、その度に鞭を受けた。やがて、その兵士は無敗の戦士としてその生涯の幕を閉じた。
味方から彼は『鞭闘士』として呼ばれ、賞賛を受けた。
また、別の魔術師は画期的な魔術を開発し、メイヴの生活を充実させた。その魔術師は名誉でもなく、金品財宝でもなく、『女王メイヴ様の罵倒を浴びたい』と。その希望通り、メイヴは魔術師に一言、罵倒を浴びせた。その後、魔術師は次々と魔術を開発し、国の発展に努めた。
国の民から彼は『罵倒術師』として呼ばれ、賞賛を受けた。
✳︎
抜け穴らしき道を見つけ、聖杯があると見られる中枢へ辿り着くと、そこには見覚えのある三人がいた。
「先輩!気をつけてください!あのサーヴァントの力は底が知れません」
デミ・サーヴァントのマシュちゃん、マスターの藤丸くん、オルガマリーが黒騎士からの攻撃に防戦一方となっていた。ここに来るまでに何度も戦闘があったのか、ところどころケガをしていた。
「助けに来たよ!藤丸くん!」
黒騎士の注意をこちらに移させるように声を張り上げ、存在感を出す。
「シラズくん!来てくれたんだね!…でも、君もボロボロじゃないか」
「こ、これは……」
藤丸くんの指摘に言葉を濁してしまう。理由を話したら、きっと藤丸くんたちの負担になってしまい、戦闘に影響が出るかもしれない。
「あれ?答えないの?マスター。じゃあ私が代わりに言ってあげる」
「ま、待ってくれ!メイヴ!!」
「マスターは私に鞭で叩かれて!罵倒されたからボロボロなのよ!!」
メイヴの言葉に世界が凍りつく。
「う、嘘だ!シラズくんはそんな人じゃない!サーヴァントのお前が無理矢理そうさせたんだろ!」
「先輩の言う通りです!」
先程の激しい戦闘を忘れ、俺の弁明をしてくれる二人。
「嘘だなんて、ヒドイわ〜。マスターからも言っちゃいなさいよ。本当のことを、ね。そうしなきゃ世界は救えないわよ」
脅迫のようにパチン!と鞭を地面に叩きつけ、黙秘を拒否させる。
「お、俺は……鞭で叩かれる度に身体能力が倍になって!!罵倒されると魔力が倍になるんだ!!!」
あの時、メイヴに俺の体質を説明された後に何度も戦闘を繰り返しているうちに、たまたま鞭を食らったことで身体能力が倍になることも解明されてしまった。身体能力と魔力の上昇に限度はなく、力だけならサーヴァントさえも上回ることも証明された。
「宝具、展開します……!
「やめなさいマシュ・キリエライト!今のあなたには荷が重すぎる!これは所長命令よ!!」
「いいんです。所長……、あのとき、先輩が私の手を握ってくれなければ…この命は存在してなかったんですから」
「……あなた」
あまりの展開に俺と黒騎士は呆然としていた。本来戦うはずの敵よりも俺の方の撃破を優先する状況に声が出なかった。俺の隣で肩を小刻みに震わせながら腹を抱える元凶。
「ぷっ、アハハッ!!最ッ高よ!あなたのサーヴァントになれて良かったわ」
「笑ってないで、この状況をどうにかしてくれませんか?このままじゃ本当に世界が滅びるから」
「あなたたち友達なのでしょ?なら説得して共闘って感じでハッピーエンドって進むわよ」
本気で考えてるのか半信半疑だが、方法としては有りだと思う。同じマスター候補の藤丸くんなら、誤解だって理解してくれるはずだ。
「聞いてくれ!藤丸くん!」
「耳を貸さないでください先輩!精神汚染系の魔術かもしれません!」
「俺も好きでこんな体質になったわけじゃない!だから、ここは共闘して特異点を修正しよう!!」
登場からマシュちゃんの言葉辛辣すぎるが今は気にしてる余裕はない。
「分かったよ!シラズくん!協力して戦おう!!」
「せ、先輩!?」
「ふ、藤丸!?」
さすが藤丸くんだ。彼ならきっと世界を救えると皆んなが期待するに決まってる。マシュちゃんや所長からは射抜かれそうなほど睨まれながら近くまで移動する。
「ふんっ、たかが変態一人を仲間にしたぐらいで私に勝てると思っているのか?……その甘い考えをすぐ捨てさせてやる!!」
黒騎士は手に持っている剣を頭上に掲げる。どす黒い魔力が剣に集まる。あまりの魔力量に洞窟内は揺れ、その正体が宝具であることを物語っている。あれを食らったらひとたまりもない。
「先輩と所長は私の後ろに!!変、シラズさんは私の盾の前に!」
「おっけ!つまり死ねってことだな!俺は俺なりの方法で身を守るよ!」
さっきからサーヴァントらしいことを一つもしてないメイヴの方を向く。
「このままじゃ全滅するんだ!メイヴ!力を貸してくれ!」
「しょうがないマスターね。でも、こんなに楽しませてくれたご褒美に私の全力を見せてあげるわ」
魔力によって剣がビルぐらいの刀身になり、たった一振りで全てを塵に変えるほどの宝具だと直感的に悟る。
『
「ほんとは適当に戦おうと思ったけど、こんな遊び甲斐のあるマスターを手放すなんてもったいないわ。だから」
純粋無垢な笑顔。この先、彼女はとんでもない要求をしてくるだろう。その手にした鞭のように、苛烈に、容赦なく。だが、そんな彼女と色んな世界を見たい。何の力がなかった俺の召喚に答えてくれた彼女のために気前よく、嫉妬せず、恐れを知らない勇士になろう。
「さて、行くわよ。下僕マスター」
──あらゆる力が私の力。人を統べる王権。
人を虐げる鋼鉄。人を震わす恐怖!
──『
☆
この騒動の元凶であるレフ・ライノールによって所長は消滅した。真の敵が証明された今、俺たちは一丸となって全ての特異点を修復しなければならない。
「どれも時間経過で力が戻っちゃうのね、残念なマスター。あれ、また魔力が増えたわ。ウフフ」
こんな感じで特異点修復後も隙あらば鞭打ちに罵倒と休む暇もなく、カルデアの従業員からは変な目で見られたり、嫉妬の視線を感じたりと大変である。Dr.ロマンやダヴィンチちゃんが言うには無理矢理の召喚をした影響だと、言われた。
「事情は分かりましたが視線がセクハラです」
マシュちゃんにも誤解が解けたはずなので、これから忙しくなるぜ!
俺が社会的に消滅する前に世界を救ってみせる!
一度は鞭で叩かれてみたい