絶対に死んではいけないACfa   作:2ndQB

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Chapter1
第1話


主人公視点

 

 

いや~、困りましたねぇ。

 

「よし、こういう時こそ落ち着いて状況の確認をしよう」

 

ピンチの時こそ冷静になれって亡くなったおじいちゃんが言ってたからね。

うっし、じゃあ落ち着いたついでに今の状況を確認しておこうか。

 

※分かった事まとめ※

 

まず一つ目  『ベットの中で眠っていたと思ったら、いつの間にかラインアークに居た』

つぎに2つ目 『自分は今ネクスト機に搭乗、ゲーム中と同様に機体を動かせる事ができる』

そして3つ目 『通信機などの細かい扱い方がわかる』

 

じいちゃぁぁん!!冷静に状況確認したらさらに意味分からなくなっちゃたよ!!!

しかし、この状況が非常にまずい事だけは分かるんだ。だってさ

 

《!? 2機目のネクスト機だと!?》

《くそ!本当、何だってこんな時に限って……》

《ノーマル部隊!大至急援護に来てくれ!》

 

……などなど、俺の【背後】にいるMT部隊からの回線を受信してるからね。

この回線を聞いたら分かる人には分かるんじゃないかな?俺があの〝ラインアーク襲撃〟に居合わせている事に。

 

ちなみにですが、今、俺はPA(プライマルアーマー)は切っている。

だってPA使うとコジマ汚染でなんかメッチャやばいらしいし……個人的にラインアークの人に迷惑かけたくない。だって唯でさえビンボーな所なのに、汚染で人住めなくなったり病気になったりしたらオーバーキルすぎる。

 

あのラインアークのミッション仲介人の人の腰の低さね。あれをオーメル社の仲介人様に見習って頂きたいとゲーム中に何度思った事か……と、言うか撃ってこないでしょうね。

 

いくらネクスト機でもさすがにPA無いとMTの攻撃でも穴あきチーズになりかねない。

俺はチラリと後ろのMT部隊を見やると、小さく息を吐いた。

 

そしてゆっくりと視線を自機の【前方】に戻す。

 

先ほども言ったように恐らく、これは〝ラインアーク襲撃〟だ。となるとそこには当然……

 

《……》

 

あの〝ストレイド〟を駆る傭兵 通称『首輪つき』もそこに居合わせる事になる。

 

戻した視線の先に見えるのは黒いレイレナード製のネクスト機【03-AALIYAH】。

旧レイレナードの傑作機は、その『目』を妖しく輝かせていた。

 

 

*********************

 

 

MT部隊隊長視点 

 

第一MT部隊の指揮を任されていた男、エドガー・アルベルトはその日、嫌な予感がしていた。

 

《今日も何も起こらないなー》

《来るにしてもずっと『向こう』の方だろう。実際、ラインアーク領で何度がネクストが確認されてはいるが……ここまでの中枢区域に侵入されたことなど殆どない》

《でもよ。ここまで平和すぎると居眠りしちまいそうだぜ》

《ハッ! せいぜい下の水面に落っこちないように気をつけるこったな》

 

ここ最近、エドガー率いるMT部隊はいつもこんな調子である。

常に緊張状態を強いると言うのも酷ではあるが……彼らは曲がりなりにも兵士だ。

流石にこの緩みきった状況には喝を入れる必要があるだろう。そう判断したエドガーは、部隊メンバー達に向けて大声を張り上げた。

 

《ハァ……お前達、今は任務中だぞ? 少し気を抜きすぎだ!!》

 

しかし、部下達の反応はというと。

 

《いや隊長、そう言われましても》

《あの「英雄」がラインアークに来てから、こまで侵入されたなんて事ありました?》

《隊長こそ気合いの入れすぎですって》

《確かに。もう少し気楽にしてもバチは当たりませんよ》

 

……と、喝を入れるどころか此方を引き込もうとする始末である。

しかし、彼らの気が緩むのも仕方無い事だ。事実、彼らの言う「英雄」こと〝ホワイトグリント〟を駆るリンクス……「彼」がこのラインアークに来てからというもの、ここまでの深部が襲撃された事は一度も無かった。

 

MT部隊だけでなく、ラインアークに在住してる者達は誰もが、心の何処かで『「彼」さえ居ればラインアークは護られる』。『「彼」さえ居ればラインアークには簡単には手出しが出来ない』。

 

そう思っている事は否めなかった。

 

《……》

 

無論、エドガー自身も少なからずそう思ってる節もある。

だが、もしその「彼」が居なくなったら……ラインアークの守護神たるホワイト・グリントが居なくなってしまったら。一体、どうなるのだろうか。

 

考えるだけでも恐ろしい。

 

そして現に今、「一時的」にではあるが「彼」はラインアークには居ない。

此方から遠く離れた所で作戦行動中なのである。

 

《嫌な予感がする》

 

エドガーはラインアークを訪れる前、ノーマル・MT乗りの傭兵として様々な戦場を渡り歩いて来た。そして、その戦場で授かったとでも言うのだろうか。彼は、何か悪い事が起こる際には必ず首筋のピリピリする感覚に襲われた。

 

いわゆる「虫の知らせ」だ。

 

《……とにかく今日は気を抜くな。いいな?》

 

そう部下達に返す。すると何か感じ取ったのであろう。彼らの一人がエドガーに尋ねた。 

 

《隊長? 今日はいつもにも増して警戒してますね……?》

《ああ、今日はかなり嫌な予感がする。しかもこれは一際――――》

 

そう返答しかけた時、自機MTのレーダーが熱源反応を感知した。

その反応先は……自分達の遥か前方。しかしこれは確実にラインアーク領域内に侵入されている。

そして気が付いた。その熱源の示す反応が……エネルギー数値が、途轍もなく高いと言う事に。

 

《これは……ネクスト機かッ》

 

誰に言う訳でも無く呟いたその言葉は、しかし部下達の耳に入っていた。

 

《え!?隊長……!?》

《ネクストって……本当ですか!?》

《ちっくしょう!マジだ!この反応!間違いねぇ!!》

《こんな時に限って!》

 

 

嫌な予感が的中した。

 

さて、ここでエドガーは一つの選択に迫られる。撤退するか、否かと言う選択肢に。

しかし即座にこれは何の『選択』にもなって居ないことに気が付く。そう……ネクスト機から逃れられるはずがない。それこそ、自機のレーダーに探知できた時点で完全にアウトだ。

 

ネクスト機とそれ以外とでは、それ程までに機動力に対しての差が存在している。

 

《クッ……!》

 

となると、戦うしかない。彼らは元々このラインアークを護るために存在しているのだから。

 

エドガーは優秀な兵士だ。彼がここに来るまで生き残ることが出来たのは、彼自身の優秀な判断力、そしてその行動力によるものが大きい。それだけに……彼には常人以上に良く分かっていた。

今の自分達がどれほど絶望的な状況下に置かれてるかを。

 

そう。絶対に、勝てない。

 

《隊長!指示を!》

《交戦するんですか!?》

《隊長……!》

 

部下達が指示を仰ぐ。彼らはエドガーを信じていた。

彼らの中には、エドガーがラインアークに来るまでずっと付いてきた者もいる。

今までどんな苦境に立たされてもエドガーは諦めなかったし、自分達を必ず導いてくれたから。

 

《落ち着け!心配するな、策はある……!》

 

どう考えても勝てる筈などなかった。

 

だが……「隊長として」このまま自分部下を不安にさせたままには出来ない。

それに部下達がこのままでは、助かる『奇跡』すら逃してしまいそうだったから。

 

《ほ、本当ですか……!?》

《お……おお!!》

《ま、まさかこうなる事を想定していたなんて!》

 

エドガーの自信に溢れた言葉に部下達の声色が良くなる。

 

《して、隊長。その作戦というのは……?》

                                       

彼の先ほどの「策がある」という言葉は嘘では無い。事実、彼は策を練っていた。

まぁ、何度も言うように、それでネクスト機との圧倒的な戦力差を埋めることが出来るかどうかは別問題ではあるのだが……

 

しかしそれでも、彼らにはやるしか選択肢は残されて無かった。

 

《良い、説明するぞ。まずは接近してきたネクスト機のPAを一斉掃射で剥がす。その際我々の配置についてだが――――

 

 

 

――――何か質問は?》

 

部下達からの返答は無い。

手短に話した作戦内容だったが部下達には伝わったようだ。

 

《それでは、配置に急げッ》

 

部隊が配置につき終えた直後、ネクスト機は彼らの射程範囲外ギリギリに到着―――停止した。

機体を確認するに、どうやらフレームはレイレナード製のネクスト機【03-AALIYAH 】で構成されているらしいが……レイレナード社は、リンクス戦争時にホワイト・グリントのリンクスの手により壊滅に追い込まれている。

 

その事から踏まえるに……特定の企業のネクスト機では無いはず。

 

恐らくは独立傭兵だろうと、エドガーは推測した。

加えて、今ラインアークの戦力はMT、ノーマル部隊のみだ。どういった目的があるのかは分からないが、その事を承知済みならわざわざ高ランクのネクスト機を送り出さないはずである。

 

《アレは恐らく新米、もしくはかなり低ランクのネクスト機のはずだ》

 

エドガーは推測した情報を、簡潔に部下たちに伝える。

ノーマル部隊が駆けつけて来るまでの時間稼ぎが出来るなら、あるいは『奇跡』が起こるやもしれない。

 

縋るような気持ちでそう考えていた、その時。

 

《ッ!》

 

――――停止していたネクスト機のブースターに火が付いた。

 

すかさず部下に指示を出す。

 

《お前達!敵ネクスト機、》

 

しかし。

 

その言葉が最後まで続く事は無かった。なぜならあまりにも予想外な出来事が起こったから。

彼が指示を出したその瞬間――――突如、1機の銀色のネクスト機が彼らの目の前に【背を向け】降下してきたのだ。

 

あまりにも信じられない出来事に、誰もが目を見開いたことだろう。

この場面において、2機目のネクスト機など……誰が想像できよう。少なくとも、エドガーの駆るMTのレーダーにはまったくと言っても良いほどに反応が無かった。

 

当然、ECMも感知していない……これではまるで。

 

 

《何もない空間から――――》

 

 

一瞬そうエドガーはそう考えたが、その思考は部下達の声によって中断させられる。

 

《に、 2機目!?》

《くそ!本当、何だってこんな時に限って……!》

《ノーマル部隊!大至急援護に来てくれ!》

《た……隊長、これは……!?》

 

部下達も混乱しているようだ……が、その声によりエドガーは返って冷静になった。

このネクスト機は、現れるまで防衛部隊を攻撃してこなかったのだ。

此方側のレーダーにここまで接近するまで映って無かったのに、である。それこそ、防衛部隊を撃破しようと思えばいつでも出来たはず……

 

どう考えても、防衛部隊との交戦の意思は無い。しかしそうなってくると。

 

《助けた……のか?》

 

まさか、自分たちを助ける為に割って入ったとでもいうのか。

 

そう疑問に思う最中、エドガーは更にとある重要な事実に気がついた。

何とこのネクスト機は、PAを展開していないのである。いやもしくは「出来ない」のか……

いくらなんでも、無防備すぎると言わざるを得ない。

 

《……》

 

見た所、機体フレームはアルゼブラ社の軽量機【SOLUH】で統一されている。

如何にネクスト機といえども軽量機ともなれば、ここまでの至近距離からMTの攻撃を受けた場合……当たり所によっては致命傷になる可能性も大いに存在すると言うのに。

 

ここまでの情報から、このネクストは少なくとも敵では無いとエドガーは判断。部下達に伝えた。

 

《大丈夫だ。どういう訳か、恐らく敵では無い》

《ほ、本当ですか?》

《ああ。だが「恐らく」だ……下手に刺激するとまずい、少し様子を見る》

《は、はい了解しまし……》

 

部下の一人がそう返答しかけた瞬間。

 

その軽量ネクスト機がチラリとエドガーに振り向いた。

 

 

《――――……ッ》

 

 

その瞬間エドガーは「死」を覚悟した。

 

今まで味わった事の無い恐怖。

 

それは絶対的強者に対する感覚。

 

それほどまでに、このネクスト機から発する威圧感はとてつもないものだった。

 

《――――》

 

部下達もその感覚に言葉を無くす。

 

その永遠にも感じられた時間は、銀のネクスト機がもう1機の――――【03-AALIYAH 】に視線を戻す事で終わりを告げた。

今までかつて感じたことの無い威圧感に、彼らは皆、その謎のネクスト機が敵で無い事を祈る事しか出来なかった。

 


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