絶対に死んではいけないACfa   作:2ndQB

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第2話

主人公視点

 

 

はっはっは!本当どうしよこれ……

 

なんか後ろのMT部隊は静かになっちゃって話しかけられる雰囲気じゃないし。

前に居るストレイドは直立不動だし。ただ今絶賛〔ザ・ワールド〕状態です。凄く気まずい。

とは言え原因は間違いなく俺だろうし。ここはやはり俺から話かけるしかないか。

よーし、飛ばすぜ。すかした言葉を……

 

《――――聞こえるか、そこのネクスト機。こちら、ストレイドのオペレータだ》

 

やべえ、向こうから話しかけてきたよ。しかも声まんまゲーム中の奴だよ!

生スミカちゃんだよ!? よ、予想外すぎる。だだだだ大丈夫だ、いつも通り答えれば……

 

《……ああ、聞こえている》

 

ってなんでや!なんでや自分!ちょっとすかしすぎだろ!これじゃあ第一印象最悪じゃないか。

 

《貴様、何者だ。ラインアークがもう1機ネクストを抱え込んでいるとは聞いてないが》

 

……スミちゃん何か勘違いしてないですかね。俺ラインアークの所属じゃないですよ。

 

《くはは……》

《何がおかしい?》

 

やべぇ、ついつい笑っちゃったよ。いやもう非現実的な状況とか勘違いとかで、そりゃ出ますよ。

まあ良いや、間違いは訂正すればいいしな。

 

《俺はラインアークのネクスト機では無い》

《ほう……ならば何故ここに居る?》

《……それは言えないな》

 

だって言っても信じてくれないだろうし。

 

皆どう思うよ。「部屋で眠って起きたらリンクスでした」とか言われたらさぁ。

少なくとも、もしそんな事を俺が言われたらまず病院を紹介する。恥かくだけだし言えません。

 

《なら質問を変えよう 。貴様はどちらの「敵」だ?》

《どちらの敵でもない》

《ならそこを退いてもらおうか?》

 

……いやいや、退いたら防衛部隊の人達全滅だからね。さすがに平和な日本に住んでいた自分としては人が死ぬのを見るのは出来るだけご遠慮願たい。

今はまだ、この世界と言うものに全くと言ってよいほど適応できていませんので。

 

《ほう。退く気は無いようだな?》

《……》

《ならば貴様を排除するしか無いな。 PAも展開してない……いや、「出来ない」ようだが。それでいて戦り合うつもりか?此方も舐められたものだ》

 

 

ああ、まずいぞ……これはマズイ。スミちゃんメッチャ怒ってますやんか。 

 

まあ怒るよね。日本でいうと仕事しに行ったら知らない奴が「ここを通りたければ、俺を倒していく事だな!」とか言ってるようなもんだし。

そのクセ構えの一つもとってないというね。これは激おこぷんぷん丸ですわ。

 

《ふむ……》

 

ああ、ちなみに何度も言うけどPA展開は「してない」だけだ。スミちゃんに勘違いさせて申し訳ない……いや、ある意味、心理的には「出来ない」んだけど。

っていうか、今排除するって言ってたよね?や、やばいぞ。どうにかして切り抜けないと……

 

《なるほど、排除か。出来るのか? そのネクスト機に》

《……どういう意味だ?》

 

よし、食いついたな……さて、上手くいくか。

 

《そこのリンクス。これが初任務だろう?》

《……。貴様が何を言っているかわからんな》

 

いや、分かるはずだ。貴方が一番。

 

《隠さなくとも良い、こちらには既に分かっている事だ》

《仮にそうだとしたら何だ? PA無しでも勝てるとでも言いたいのか?》

《さて、どう思う? それはそちらが良く分かってるはずだ》

 

俺はそこで一呼吸置き、次の台詞をハッキリと口に出した。

 

 

――――セレン・ヘイズ……いや、『霞・スミカ』?

 

 

さてさて、どう出ますかね。

 

 

 

*********************

 

セレン・ヘイズ視点

 

 

その日は彼の――――ストレイドの初任務の日だった。

依頼内容は至って単純。MT,ノーマル部隊で構成されるラインアーク守備部隊の全滅だ。

ホワイトグリントは離れた所に居り、ネクスト戦の心配は無い……はずだった。

 

しかし彼女達が守備部隊を捉え、作戦を開始しようとしたその時。突如ネクストが現れたのだ。

 

全くもって理解不能としか言いようのない事態であった。

どこから現れたのか、いつから待機していたのか、何故レーダーに反応しなかったのか。

彼女の内には、一瞬の内に様々な疑問が浮かぶ。

……しかし分からないことだらけの状況の中、1つだけハッキリしている事があった。

 

このネクスト機は、只者では無い。

 

オペレーション室のモニターはネクスト機の見ている映像を映し出す事が出来る。

ストレイドが映し出した銀のネクスト機... そのネクスト機から発せられる強大な威圧感がそれを物語っていた。

 

その威圧感は、その力をもってして幾多もの戦場を潜り抜け、生き延びた者……

いわゆる、「猛者中の猛者」が醸し出すものだ。

セレンはリンクス戦争時、その空気を纏った者を直接的にでは無いにしろ目にした事がある。

 

一人は、かつてのアスピナの天才リンクス、〝ジョシュア・オブライエン〟。

 

そしてもう一人は、〝アナトリアの傭兵〟 現〝ホワイトグリント〟だ。

 

《……》

 

とにもかくにも、あのようなネクスト機はカラードに登録されていない。無駄に終わる事は目に見えているが、まずは素性を探るのが先か。

そう判断したセレンは、動揺を悟られぬよう不要な感情を排して不明機へと通信を試みた。

 

《貴様、何者だ。ラインアークがもう1機ネクストを抱え込んでいるとは聞いてないが》

 

彼女の問いに、相手は答えない。

まぁ、先の通り、不明機側が素性をホイホイ漏らす阿呆のはずもなかったのだが……

これは少し対応を変更する必要が出て来たか、と、セレンが判断しかけたその時。

 

《くはは……》

 

黙っていたリンクスが突然笑いだした。

セレンにとってその笑い声はまるで、圧倒的な力を持った者が弱者を嘲るような、そんな笑い声に聞こえてならなかった。

 

《何がおかしい?》

 

思わず聞き返す。

 

《俺はラインアークのネクスト機では無い》

《ほう……ならば何故ここに居る?》

《……それは言えないな》

 

そうであろう。これ以上この質問をして得られるものは何もないはずだ。

その言葉を受け取り、彼女は先の通り、不明機に対して臨機応変に対応する。

 

《なら質問を変えよう 。貴様はどちらの「敵」だ?》

《どちらの敵でもない》

 

どちらの敵でも無い。その割にはMT部隊の盾になったりと、彼女の目からはその行動が随分と「ラインアーク寄り」に見えるものだが。

 

《ならそこを退いてもらおうか?》

 

スミカの言葉に、リンクスは答えない。

 

《ほう。退く気は無いようだな?》

《……》

《ならば貴様を排除するしか無いな。 PAも展開してない……いや、「出来ない」ようだが。それでいて戦り合うつもりか?此方も舐められたものだ》

 

そう、あのネクスト機は姿を現した時からPAを展開していないのだ。

 

いくら歴戦のリンクスであろうとPAも展開しないで通常戦闘を行うなんて事はしない。

遭遇した時こそ、ラインアークにコジマ汚染を引き起こさないためにPAの展開をしていないのかと彼女は思ったものだが……よくよく考えてみれば、ラインアークに所属しているネクスト機で、PAを「展開して無かった」だけなら、それこそストレイドを確認したらPAを展開、問答無用で叩きにくるはずだ。

 

例えPAを「展開出来ない」状態だったとしてもやる事は変わらない。

何せ主権領域内に堂々と正体不明のネクスト機が居るのだから。自機が動く限り、例えどのような状態でも、それを迎撃しない道理は無いだろう。

 

《……》

 

相手の反応を待つ最中、更に彼女は考える。

 

あの不明機……姿を現すまでレーダーにまったく反応が無い、つまり不意打ちは可能だった。

もし不明機がラインアークに所属のネクスト機でPAを「展開出来ない」状態なら、不利を避ける為には確実に不意打ちする必要がある。しかしストレイドには攻撃して来なかった。

 

ということは不明機のリンクスが言うとおり、ラインアーク所属のネクスト機では無いのか。

 

ラインアークと「無関係」でPAを「展開して無かった」のなら、汚染なんぞ関係無しにPAを使うはずだ……と。そこまで考えたところでセレンはある事に気づく。

今までの考えを整理すると、不明機はラインアークと「無関係」でなおかつPAを「展開出来ない」状態で出てきたと言うことになる。

 

実際、彼女は限りなく正解に近い回答を出していた。

 

正確に言うと、相手はラインアークと「無関係」でPAを「展開出来るのに」して無い状態である。しかし悲しいかな、彼女は自身の誤った推論を続けてしまう。

所属するしないの「どちらにせよ」普通に考えて、【PAの展開が出来るなら】ネクスト機を確認した時点でPAを展開をするはずだと思ってしまったのだ。

 

つまり彼女の出した結論は、不明機は【何らかの理由でPAの展開が出来ない】。

 

セレンはそこに賭けた。この脅しが上手くいけば不明機を撤退させる事が出来る。

そうなればMT部隊を殲滅、めでたく初任務完了だ。

それに戦闘になった場合でも、倒せる可能性は十二分に存在する。そうなれば、「初任務でのネクスト遭遇、撃破した。」という箔もつくだろう。

 

《ふむ……》

 

不明機リンクスの少々考え込むような呟きに、セレンは手ごたえを感じていた。

 

先程までの推論に加え、相手がストレイドの情報を相手が持っているはずが無い……何せストレイドがカラードに正式に登録されたのは「今日」の任務直前なのだから。

PA不展開の状態でネクスト戦など以ての外。ましてや戦力が未知の敵との戦闘……そんな事は自殺行為以外の何者でも無い。

 

そう、そう考えるはずであろう。「普通」の者ならば。だが。

 

《なるほど、排除か。出来るのか? そのネクスト機に》

 

この男は引かなかった。まるで確実に勝てるかのような、何かを確信しているような口ぶりだ。

 

《……どういう意味だ?》

 

「そのネクスト機」。その言葉がセレンには妙に引っかかった。

いや、ありえない話だ。『そんなこと』は、ありえない。ほんとうについ最近の出来事で、その細かな情報がこの短時間で出回ることなど……

 

セレンは高をくくっていたが、男の次の言葉に彼女はは驚愕する事となる。

 

《そこのリンクス。これが初任務だろう?》

 

コイツは、何故、その事を知っている。

 

この状況、冷静に判断で来る者なら「新米リンクスの可能性がある」とまでは分かるだろう。

だが……「初任務」である事が分かるはずがない。それこそ、「初めからそれを知ってる」者なら話は別であるが。

 

《……。貴様が何を言っているかわからんな》

 

セレンはかろうじで平静を取り繕った。

が、相手はもうネタは挙がってると言わんばかりに言葉を続ける。

 

《隠さなくとも良い、こちらには既に分かっている事だ》

《仮にそうだとしたら何だ? PA無しでも勝てるとでも言いたいのか?》

 

もうシラをきる事は不可能だろう。しかし、相手がPAを使わない……「使えない」という事実は確かにある。例えストレイドのリンクスが今回初任務だったとしても、彼女側の有利は揺らがない。

セレンはそう考えていたが……しかし、依然としてこのリンクスは余裕の態度を崩さなかった。

 

《さて、どう思う? それはそちらが良く分かってるはずだ》

 

そして男の次の言葉は、先ほどよりもさらに大きな衝撃をセレンに与える事となる。

 

 

 

――――セレン・ヘイズ……いや、『霞・スミカ』?

 

 

 


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