絶対に死んではいけないACfa   作:2ndQB

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第23話

MT部隊隊長視点

 

 

 

勝負は一瞬の内に決した。

 

ステイシスがネームレスへと突撃した、その瞬間をゼンは狙っていた。

ネームレスは迫りくるそれに対して三発の弾丸を射出。そして吸い込まれるようにステイシスへと向かっていった弾丸の内の一つは―――――

 

相手の銃口を、貫いていた。

 

(…ハッ、冗談にしては良く出来ているな。今度昼飯を食う時にはアイツらにこの話でもするか?)

 

信じる者がいるかどうかは定かでは無いが。

 

《ククク……何、向こうのトラブルのお陰だ。俺は特にこれと言った事はして無い。それにそちらのAFをダシに使わせてもらった訳だしな》

 

ゼンはGAのAF部隊には頑なに「あれは向こうのトラブルだ」と言い張っている…初めはエドガー自身もそう思っていた。

 

主にデータ収集との名目でネクスト機の戦闘中の視界は洩れなく録画されている。

 

そしてエドガーは今、輸送機の中で録画された『先程のシーン』をスロー再生していた。どうしても気になったのだ。オッツダルヴァのあの「狙ったのか」と言う発言が。そして発射された三発の弾丸の行方を追っていたのだが…結果は先の通りだ。

 

《ゼン、お前さんは本当に――――》

 

 

『トラブル』だと思っているのか?

 

 

そう、訊こうとした。何故ならゼンは本気でそう思っているかの如く態度を見せているのだ。ゼン自身の「そんな事が現実に起こり得えない」との発言は最もだろう。銃口を撃ち抜くなど、誰がどう考えてもあり得ない。

 

しかし…その『あり得ない』が現実に起きたのだ。

 

だからこそ、その真意を確かめようとしたのだが

 

《いや、何はともあれご苦労だったな。相変わらず鮮やかなお手並みだった》

《クク……そう褒めるなよ》

 

――――やめた。

 

止まって居る相手ならまだしも、音速を超える速度で接近するネクスト機にあんな…しかも銃口に。あれは偶然云々で片付けられる話では無いだろう。むしろ「狙ってやった」と言われた方がまだ納得する。

 

ゼンはああ言ってるが、真実は恐らく……

 

(全く、とんでもない奴だ)

 

しかし、そう納得すると同時にある疑問が生まれた。

 

 

《……もしお前さんの言う『トラブル』が無かったとしたら、奴に勝てたか?》

 

 

ステイシスが現れた始めこそ、思わぬ強敵に笑いが止まらないと言った風ではあった。

 

しかしながら、実際のところゼンはあまり戦う事を良しとしていない。例の『トラブル』の後に追撃を掛けようと思えば可能だった……自分が圧倒的に有利であったにも関わらず、交渉を通じてステイシスとの戦闘を避けたのだ。

 

以上の事からそれに間違いは無いはず。

 

となると…何故戦いを避けたのか。それに繋がる一つの理由として考えられるのがゼンの『機体の機動』。ワンダフルボディ戦から疑問に思っていたのだが、ゼンはクイックブーストを多用しない。今回のステイシス戦においては使用すらしていないのだ。

 

(もしや、機動戦を不得手としているのか……今回の相手は相性が悪かった?だからこそ本格的な戦闘が始まる前に『トラブル』を引き起こしたのか)

 

(いや、なら自機を軽量機体にする意味など一体どこにあるのだろうか。それならば重量機とは言わなくとも、乗機にはせめて中量機体を採用するべきだ。以前所属していた『組織の方針上仕方が無く』と言えば分からなくも無いのだが――――)

 

そんなエドガーの疑問にゼンは答える。

 

《フッ…この前話しただろう。『勝てる』と断言は出来ないと》

《……》

 

やはり【ランク1】を相手には、さしものこの男も苦戦を強いられるのか…そんな考えが一瞬頭の中を過った。

 

……まあ、

 

 

《だが『負けん』誰にもな》

 

 

そんな可能性は一片たりとも存在しないと即座に再確認する事となったが。

これでは『勝てる』と言ってるも同然だ。一瞬でもこの男が負ける可能性を考えた自分がアホらしくなったエドガーは、苦笑しつつ返事を返す。

 

《クク…そこも『相変わらず』だな》

《まあな》

 

そうだ、例え機動戦が不得手だったとしても、この男にはそれを補うだけの圧倒的な技術がある。現に今回、ステイシスと戦う前に決着が着いていたでは無いか。

 

(全く、俺は何を見ていたのか。この男が敗北するなど…しかしステイシス側もやけにあっさりと撤退たものだ)

 

やはりレーザーバズーカを失ったまま戦闘を繰り広げるのは不利だと判断したのか。だが、それにしてもあのプライドの高そうな男があんなに物分かり良く引き下がるとは……

鍵を握るのは恐らく、ゼンの「お互いやるべき事もあるだろう」との言葉か。

 

つまりオッツダルヴァには、万が一にでも今倒れたらマズイ理由があるのだ。

 

当然『オーメル社の為』と言った健気な話では無いはずだ。何でも、オッツダルヴァとオーメル社との仲はそれほど深くないとの話だ。

それはオッツダルヴァの出身が今や無き『レイレナード社』だと言う事からも想像が付く。

 

レイレナード社が壊滅した際、人員の一部はオーメル社に吸収されたらしいが……実はその『一部』と言うのは対外的な発表で、実際には『かなりの人員』がオーメルに取り込まれたとの噂ではないか。これでは実質、自分の古巣がオーメルの傘下に入ったも同然――――いや、『企業』と言う母体を持てなくなった分さらにタチが悪いだろう。

 

更に言えば、元々オーメル社とレイレナード社はお互いに敵対していたのだ……オッツダルヴァとしては面白かろうはずも無い。

 

(あの話様…ゼン自身はオッツダルヴァの『やるべき事』を知っているはずだ)

 

しかしながら一リンクスに出来る事など限られている……まあ中には例外も居るが。

 

少なくともオッツダルヴァの様な高ランク、しかも企業に囲われているリンクスはその行動に対して常に『制限』がついて回るはずだ。オッツダルヴァの目的がどんな物にしろ、それがそこまで大それた事にはならないだろう。

 

 

(さて、どちらかと言うと気になるのはその『例外』の方なんだが)

 

 

――――『お互いに』か。

 

 

ゼンは何らかの事情……『目的』があってラインアークを訪れ、その力を我々に貸している。

そんな事は分かり切っている。ゼンも説明こそしないが、その『力』を借りている我々もその説明を強要は出来ない。

 

恐らくはゼンがラインアークに移住する際、この男が居る事による『不安要素』と同じくしての『経済面+戦力面』での利益。上の者はこの2つを天秤にかけた筈だ。

まあゼンの事だ、『現状の』ラインアーク上層部の者達がどちらに重きを置くのかなど手に取るように分かっていたのだろうが。

 

(名目上、ゼンはラインアークに『所属させてもらった』立場ではあるが……実際の力関係はどうなのやら。まあ、それは俺が考えても仕方がない事か)

 

それにだ、例の「組織」から荷物が届いたと言う事は、我々の与り知らぬ所でもゼンへのバックアップが取られていると考えるべきだろう……

 

 

(フーッ、『名前の無い怪物』……一体何を考えているのやら)

 

 

エドガーは録画の再生を止め、メインモニターを眺め続けた。『怪物』の視界を通せば何かが分かるかも知れない――――そう思ったから。

 

 

 

 

**************************

 

 

 

オッツダルヴァ視点

 

 

 

《どうだ?》

 

帰還を試みる最中、オッツダルヴァ……いや、『彼』は自身のオペレータへと指示を出していた。エドガーと同じく、記録されている映像の確認をさせていたのだ。

 

《――、―――。》

《……そうか》

 

やはり『暴発』などでは無かったか。

 

あの時…向こうから弾丸が発射されたのとほぼ同時にステイシスはレーザーバズーカの引き金を引いていた。だからこそ、相手の「暴発か何かだろう」との発言に納得しかけていたのだが……それは違っていた。

 

レーザーバズーカが爆発する直前に『ゴッ!!』と言う音と共に左腕部に多大な衝撃が走っていたのだ……成る程、あれは弾丸が銃口を貫いた時の現象だったのだろう。

 

よくよく考えてみれば機体の整備をする者は一人では無い。例えそれが何者かに仕組まれていたとしても、他の整備員が確実に気が付くはずだ……というより実弾とは仕組みが違う為、そもそもレーザー兵器は『暴発』などしない。

 

(全く、私としたことが……少しばかり狼狽え過ぎたか)

 

《――、―――?》

 

狙ってやったのか、だと?

 

……あんな事が偶然にでも起こるはずが無い。現に『彼』が知る限りでは、ネクスト機が開発されてから―――いやそれ以前、ノーマル型ACが主戦力だった頃からその様な報告は上がって無いはずだ。つまりは今までのデータ上、偶発的にすら起こる可能性は0だと言う事だ。

 

《あの男は3発しか撃たなかった上に、その場から『動かなかった』。それが答えだろう》

 

牽制目的にしてももう少し弾幕を張っても許される場面だったはずだ。

 

それにレーザーバズーカと言う驚異からは一刻も早く逃れたいはず……それなのに、あの男は動く気配を一切見せなかったのだ。恐らくは機体を動かす事による照準のブレを嫌ったのだろう。

 

つまりは此方の『正面突撃』と機体を動かさない事による『最小限の照準のブレ』。その2つを利用して、まさしく『針の穴を通す』作業をやってのけたのだ。3発しか撃たなかったのは余程銃口を撃ち抜く自信があったと言う訳だろう……途轍もない技術だ。

 

《―――――?》

 

オペレータからの、引き込むのか。という質問。これから分かる様にこの者か『彼』の計画に賛同したオーメル内の同士である。

 

《フッ…私が『褒めた』のが珍しかったか?》

 

出来るならばあの男を迎え入れたい、と言うのが正直な心境だ。『計画』を進めるに当たり戦力が足り過ぎると言う事も無いだろう。一瞬の邂逅ではあったがあの男の実力は十二分に知る事が出来た。

 

それに『計画』について知っている事も仄めかしていたのだ。一体どこまで知っているのかは定かでは無いが、少なくとも現状の把握は出来ている筈だ。

 

企業の隠匿した『罪』について。

 

 

《実力的には申し分ない。どこから情報を得たのかは定かでは無いにしろ、我々の『計画』について嫌悪感を示している風でも無かった訳だ――――それならそれで説明する手間が省ける》

 

第一に――――『彼』はそこが一番気に入ったのだが――――口調こそ横柄な物を感じさせるがその実、あの男は中々の人格者だ。『彼』がそう確認するに至ったのはあの男の「引き分けでどうだ」との言葉。

 

あの状況……言われるまでも無く此方側が不利だった。

 

にも関わらず、あの男はわざわざ自分の立場を下げてまで引き分けと言ってのけたのだ。並の者に出来る事では無い……それこそ『力』を持っている者には。

『彼』自身も自らにその様な気質が備わっている事は良く理解していた。もしもあの時立場が逆だったならば、自分を下げるなんて行動は絶対にしない。

 

《だが、厳しいだろうな。引き込むのは》

 

 

『お互にやるべき事もあるだろう』。

 

 

あの男は我々と同じくして何らかの『目的』がある。その為にあえてラインアークを根城に選んだのだろう……あの、何かとトラブルが絶えないであろう地を。

 

「来る者拒まず」などと言った大層な理念を掲げているお陰で、あちらは常に人事の流動が絶えない。つまりは企業によるリンクス管理体制下に置かれるよりかは遥かに連中の目を盗みやすいと判断したのだ……悪くない考えだ。

 

(知恵も回る、と来たか。資金面についてはその分、企業所属よりかは遥かに劣るが…恐らくはあの男にはそれを補えるだけの『バック』が付いていると見える)

 

同志とは言わないまでも、可能なら敵には回したくは無い相手だ……まあ今は

 

《ともかく、今の問題はあのカビの生えた老人共についてだ》

《――――、――――。》

 

今回の件でオーメル上層部の者達が多少なりとも騒ぎ出すだろう。

何せランク1でありオーメルの切り札として機能している自分が撤退を余儀なくされたのだ。

「下らない」と言った理由でミッションを放棄した事は何度かあるが、今回の様な出来事はまさしく『異例の事態』である。

 

 

「全く、面倒な」

 

 

彼――――――『革命家』は誰に言うでもなく呟く。

 

だが、それも後僅かの辛抱だ。もう『計画』を始める準備は九割方整っているのだから……

 

 

 

 




※誤字指摘有難うございます。数ヶ所修正致しました。

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