主人公視点
そんな、AMIDA、襲来―――――
からそう日にちの経っていない今日この頃。新たなミッション連絡の為にエドガーさんが俺の部屋を訪れていた。毎度毎度ご苦労様です。
「……あー、今回の任務についてだが」
「うんうん」
「依頼主はトーラス社。目標はギアトンネル内に設置された砲台、『プロキオン』の排除だ」
「アミアミ~」
おー、今回はプロキオンの排除か。
初心者リンクスのみなさんは結構苦しめられたんじゃないかな?
砲台相手に真正面から突撃しちゃって「ネクストは、粉微塵になって死んだ」的な惨劇に見舞われた方も多いはずだ。
え?なってない?少なくとも俺はそうなったよ!ごり押しの無能でしたよハイハイ!
「理解しているとは思うが、今回は閉所での戦闘となる為、お前さんには少々不利な条件となる。問題は……」
「無いね!」
「アミダ!」
これさっきから俺の意見なくね?
今現在、この狭い室内には4つの生命体が存在している。まず椅子に座る俺、次に立ったままのエドガーさん。そしてベッドに座るマーシュさんと、その彼の真横に鎮座するAMIDA……さん。
うん。まあ、正直AMIDAさんに関しては逃げられないと思っていましたよ。
あの時の昼食後の話し合いで当然のごとく引き取り先は俺になった。途中からお偉いさんもいっぱい来てたし……何人か腰抜かしてたけど。
あとマーシュさんが僕が僕がーっ!ってメッチャ駄々こねてました。最終的にはフィオナちゃんに引きずられて退場する始末だったし。
「大丈夫だよね!ゼン君!」
「アミア!」
「……ああ」
あれからマーシュさんがAMIDAさんに会いに中々の頻度で俺の部屋を訪れてくる。
賑やかなのは好きですよ?だけどね、すぐ隣で「えぇー?酸で溶かしちゃったのかい!?」とか「自爆はだめだよねー」とか話されると心が休まらないんですよ。
AMIDA語分からない俺からすればテロ犯罪の話にしか聞こえないから。
「……オホン。ゼン、出撃る準備は良いか?」
「問題ない」
依頼内容の確認を一通り終えた後、生暖かい眼差しで此方に確認をとってくるエドガーさん。
……ハァ。
そんな視線に小さくため息を吐きつつ、部屋を出て行こうとドアに足を進めようとした……
その時、不思議な事が起こった!
「んん?どうしたんだいAMIDAちゃん?」
「ミミ……アミアミ……」
「……何とッ!あいわかった任せてくれたまえ……ゼン君ッ!」
AMIDAさんがマーシュさんに何かを耳打ち。(?)
すると、何と、ベッドから勢いよく立ち上がった彼は大きな声でこう言ったのだ。
「彼女は行ってらっしゃいのキスがしたいんだって!」
!?
ドエレー〝COOL〟じゃん……?
行ってらっしゃいのキスってあれですよね。外国の映画だったりで良く見る「貴方、お仕事がんばってね(ハート)」何て台詞とセットでついてくる、若奥様とかがやるあの……
「ア……アミアミ~!」
そこで俺はチラッとベッドに鎮座したままのAMIDAさんに目をやる。
すると彼女は六本の前足(触手)を器用に折り曲げ、同じく六つのお目目をそれで覆い隠した。
分かりやすく説明しよう。AMIDAさんは今「恥ずかしいよ~><」なジェスチャーをしているのだッ!!
圧倒的女子力……53万位あるんじゃなかろうか。しかしそんな知識どこから……
「……良いだろう」
ああ、これ断る選択肢とか無いから。
何日か前、夜寝てる時にAMIDAさんが俺のお腹の上に乗ってきた事があってさ。
「ちょっと重いからやめてね」的な事を言ったんだ。そしたら……ヒ、ヒィ!恐ろしくて語れません!いや、アレは女子に対して失礼なことを言った俺が悪かったね。
「アミー」
羽を広げ飛び立つAMIDAさん。すると高度を俺の頭の高さにしつつ近づいてくる。
……何だろうか、以前に比べて恐怖感が薄らいでいる。確かに怖い事は怖いんだけど、慣れとはかくも素晴らしい物よ。
「やるなら頬に頼む」
まあ大丈夫だろ。(適当)
っつーか、エドガーさんが冷や汗掻いてヤバいんですけど。いやいや実際今の状況、冷や汗を掻きたいのは俺の方だから。これ多分周囲から見たら捕食シーンのそれだよね。
やべっ、ちょっと怖くなってきた。目を瞑ろう……
―――――ピトリ。
……ん?何?今の?
「アアアアミダ!!」
「ヒュー!やったね!まるで新婚さんみたいだったよ!」
何かめっちゃ盛り上がってるマーシュさん。
今ので終わり?俺目を瞑っていたから何も分かんなかったんだけど。エドガーさん今一体何……
「くっ、ゼン!大丈夫か!?」
「い、いや。特に問題は……」
「そうか、身体に異常をきたしたらすぐに知らせてくれ」
一体何されたの俺は!不安をあおる様なリアクションはやめて!
「全く失礼しちゃうね!アミダちゃんはゼン君に危害を与える様な事はしないよ!」
「アーミアミアミ! アーミアミアミ!」
先程同様に目を塞ぎ、泣きまねをするAMIDAさん。本当器用だね……
「では、行ってくる」
そんな俺の挨拶に「行ってらっしゃい!」と手(触手)を振る彼ら。
それに対して此方も手を振りかえす……うーん、見送りか。何だろうね、ちょっと嬉しい様な、気恥ずかしい様なこの感じは。ふふふ……
「どうした?」
「ああ。いや、何でもない」
おっと、ニヤケてたかな。
エドガーさんに気づかれちゃったよ……よーし、今日も頑張って来るからね!
――――――――――――――――――――
――――――――――
――――
超帰りてぇぜ。
今の状況。ギアトンネルに無事到着した俺は、薄暗いトンネル内を奥へ奥へと進んでいる最中だ。高さ的にはネクスト機の全高を軽く凌ぐ、中々の大きさのこのトンネル……出撃直前のブリーフィングでは何やら
『多数の防衛部隊が展開されているだろう』
『目標はあくまでもプロキオン単体の為、ポイントに向かうまでは無用な戦闘は避けた方が無難』
何て話だったんだよね。
まあそこは俺氏。これまでの経験から学びましたよ。「多数どころかとんでもない量の防衛部隊が配置されているかも」。「トンネル入った瞬間攻撃されるかも」みたいな?
AC乗りの基本、『かもしれない出撃』をしました。で、いざ到着してみたらどうなってたと思います?
それがね
《駄目だな、ゼン。反応が無い》
《……ふむ》
これ。反応0。そう、防衛部隊が居なかった。
ああ、いや。ちょっと違うかな。正確には『防衛部隊が撃破されていた』。どんどんポイントに近づいて居る自機の視界映るのは、変わり映えしないトンネル内の景色、そして撃破されて無残に残骸を散らしている防衛部隊……だったもの。
南無……。
さて、ほどなくして目標近くにまで到達したわけであるが。
《無い、何もな。プロキオン自体も既にやられている様子だ》
お仕事しにいったら既に他の誰かにお仕事奪われていたでござる、の巻。
……え、これ何なの?誰がやったの?ってかこの場合報酬とかどうなるんだ。
違う違う!それも気になるけど、この状況はアカン。俺……ってかACやってた人なら分かる。
絶対ロクでもない事が起こる。
《このまま居ても仕方がない、か?どうする、先方にコンタクトを取れない事も無いが》
《そうだな、まずは―――》
即行でトンネルを出ようと思います。そう、言いかけた。しかし
《……おっと、連絡は後回しだ。どうやら『来た』みたいだぞ?》
《……まずは、『来た』何かの確認とするか》
突如レーダーに映る高熱源体が。速度的にネクスト機ですよねー。
エドガーさんは多少驚いてはいるものの、その声は比較的落ち着いている。多分こっちと同じく何かが起こると思っていたんだろうな……ああ……今度はどちら様ですかねぇ。
反応は前方からだ。トンネルの奥を注視する……何やらかなり特徴的なシルエットを有した機体の様だ。遠くから見てもすぐ分かる程に『尖って』いる。
そして機体後方がやけに明るい。クイックブーストを使用しては無いはずだけど……んん?
揺らめいている?かなりの噴射炎だな。色も通常のブーストとは比べものにならない位の鮮やかなオレンジ色……
《…………》
此方にある程度まで接近した機体は停止。
《成る程。これは困った》
そして気が付く。二振りの刀に、月を裂いているかの如きエンブレムに。
機体後方が異様に明るかったのは、背部兵装を犠牲にして追加ブーストを採用していたからだ。肩にはフラッシュロケット、左腕にはマシンガン。
右腕には、全レーザーブレード中最高の威力を有する〝07-MOONLIGHT〟。通称『月光』を装備した、旧レイレナード社の傑作機〝“03-AALIYAH〟ベースの超攻撃型の機体。
機体名――――『スプリットムーン』。
閉所で一番会いたくない人来たよ。これまだ時期的にchapter1も終わってないんじゃ……勘弁してくれ〝真改〟さん。
**************************
MT部隊隊長視点
ギアトンネル内の突如現れた、銀色(いや灰か?)のネクスト機。
リンクス戦争後に失われたと噂されていた『月光』を装備し、フレームから武装まで、外見をほぼ全て旧レイレナード社製のモノで固められた近接特化の機体。
外装の確認を終えたエドガーは、即座にカラードには登録されていないネクスト機だと判断。
何せ極めて特徴的な機体だ。一度知る事があればまず忘れる事は無い。
だが脳内の『カラードネクスト機大百科』の中には、自身の知る限りでは現在当てはまる機体は一切見当たらなかった。
《成る程。これは困った》
《「成る程」?》
ゼンの発言が気になったエドガーは即座に聞き返す。
《知り合いか?》
《一方的な、な。まず間違いなく相手は此方の事を知らないだろう》
一方的。つまりゼンはこの相手、少なくとも機体については既に知っていたと。
となればこの者が例の組織の〝もう一人〟の線は薄いか。以前〝もう一人〟について話していた時ゼンは「詳しくは知らない」と言っていたのだ。
また、ゼンの立場上は〝もう一人〟の方がゼン本人の事を知っているor知らないかどうかは不明瞭なはず。にもかかわらずこの相手には「間違いなく此方を知らない」と言い切ったのだから。
しかし……となると一体
《何者なんだ?》
《ネクスト、『スプリットムーン』。リンクス名は――――》
答えようとしたその時。
―――――――ジャキィッッ!!
相手……スプリットムーンはマシンガンを構え、突撃体勢を取った。
まあ、何時までも静止状態でいるはずもないのだが……話の続きが気になるが、後は自分で調べてみるとしよう。
《来るぞ……!》
パラパラと小気味の良い音と共にマシンガンを発射・突撃するスプリットムーン。
ゼンはそれに合わせて機体を後退、ライフルを構えると『引き撃ち』体勢に移る。
横幅的にはネクスト三機が入るかと思われるが、ここはあくまでもトンネル内。
ブレード持ちの相手に不用意に接近されればどうなるかは明白……セオリー通りの対応か。
《後方距離約400。そのままみて左曲りだ》
《助かる》
《360……300……》
後方の確認中。ようは目を離した隙に接近されでもしたら事だ。ここはオペレーターとして少しでも負担を減らすべきだろう。
(……速い)
エドガーの見ているモニターには、ネームレスから放たれた弾丸に臆することなく、着実に距離を詰めている敵機の姿が。
《ふむ……》
するとネームレスはここで武装を変更。両背のレーザーキャノンを構え、すかさず発射。
それらはオーメル社製のレーザー兵器特有である、橙色の発射光と共に、二本の軌跡を描きつつ敵機へと向かっていく。
が、ここでスプリットムーンは両脚部をスライドさせた。
被弾する直前、ドリフトターンの要領で機体を回転・『半身』のすることで、二本のレーザーキャノンの間を縫うようにして回避。勢いに任せそのまま一回転し、
―――――――パラララッッ!!
再びマシンガンを連射。体勢を立て直す。
《まあ、良しとしよう》
《クック……『距離』は稼げたか?》
ゼンからすれば「当たれば良いが」程度の認識だったのだろう。しかしこれらの回避行動から見て取れる通り、この『スプリットムーン』を操るリンクス……かなりの手練れだ。
横方向へのクイックブーストでは、トンネル内の壁に衝突してしまう可能性もある。
恐らくはそれを見越してのドリフトターンか。レーザーキャノン同士の隙間を縫うなど、ゼンの『銃口抜き』を見て居なければ些か驚いていたところだ。
(しかし、それはそうと……先程から不自然だ)
フラッシュロケットや、前方向へのクイックブーストを全くと言って良い程使用ないのは……
「何故だ……」
エドガーは小さく呟く。そう、この相手。戦闘が始まって以来、一切クイックブーストを使用しないのだ。
引いているネームレスに、攻めるスプリットムーン。これまでの戦闘からゼンの方に比べて相手の出力値の方が高い事は見て取れる。追加ブーストと言う出力増幅装置もあり、明らかにメインは急速接近からのブレード、『月光』のはずだが。
《……》
ゼンは適度に後退のクイックブーストを使用してはいる……だが、それでも少なすぎる頻度だ。
距離を取る為にはもう少し使用しても許されそうな場面だ。何か理由でもあるのだろうか?
しかし、そんなエドガーの疑念を余所に更に戦闘は進行。そのまま双方ジリ貧の展開が続くかと思われた、その時。
(!)
スプリットムーンが、変化を見せた。
《浮い……!》
機体を浮かせたのだ。それと共にブースト出力も上昇。ネームレスとの距離が急速に縮まる。
ネクスト機を浮かすには狭いと言わざるをえないトンネル内。通常ブーストとは言え時速数百キロは出ているだろうに、大した機体制御だ。
これまでとは明らかに違う展開。確実に何かを仕掛けてくるだろう……さあ何を―――――
―――――ガクン。
そこで一瞬。モニターに映るネームレスの……ゼンの視界が、上下にカクついた。
《な……!》
《……!》
何が起こった?
通信越しの息遣いから判断するに、ゼンも多少なりとも驚いている筈だ。
トンネル内の壁にでもぶつかった?いや、違う。今現在二機の映っているマップは真っ直ぐ……次曲がるポイントまでは距離がある。それは間違いない。では、何故。
そんな疑問に埋め尽くされるエドガーの目に入った、僅かに、だが確かに『変化』していたもの。それは
高度計。
そう。ほんの僅か……いや、『地面にいるにしては』急にネームレスの位置する高度が上昇していたのだ。本来なら飛行する際に注視するものだが、これが今の状況で示すことは即ち、ネームレスは今現在『坂を上っている』と言う事だ。
後方を確認していなかった為に、機体のバランスを一瞬崩しかけたと言う訳だろう。
ネクスト機はリンクスとAMS接続されているだけあり、その操縦感覚は適性に優れた者であれば人間時とほぼ遜色が無いと聞く。
……つまりは今回、その繊細な制御感覚を逆手に取られたのだ。
「クッ……!」
やられた。これは自分の責任だろう……エドガーは感じた。
自身の『ナビ』を信用していたゼンは、本当に必要最低限しか後方を確認していなかったのだ、と。
《む……!》
宙に浮いたスプリットムーンはここぞとばかりにフラッシュロケットを発射。
それを回避するべく、ネームレスはすかさず横方向へのクイックブーストを発動する。
―――――キィッ!!
その際僅かに機体を壁にこすったのか、甲高い音が響く……狭いトンネル内でよくやるものだ。いや、ゼンが壁に激突するなど万に一にもあり得ないが。
それより問題はロケットの方だ。回避は成功し―――――
―――――そこで炸裂音と同時。モニターが白に染まった。
……確かに、フラッシュロケットは回避していた。フラッシュロケットの『弾丸』は。
しかしながら、スプリットムーン側からすれば、別にネームレスに直撃させずとも良かったのだ。
エドガーは知る由もない事だが、スプリットムーンが狙いを定めていたのはネームレス本体では無く、『本体を含めた地面(坂)』。
フラッシュロケットは何も機体本体に直撃させる必要などない。視界を潰せる事さえ出来れば良いのだから、ロケットの『炸裂(有効)範囲』に相手を納めれば事は済む。
不味い、殺られる。
モニターには何も映ってはいないが、エドガーには分かっていた。『月光』が、来る。
見えなくなる直前の相手の位置、ブースト出力の差を考えても、恐らく回避は困難を極めるだろう。しかし……このままでは、軽量機であるネームレスは下手をすれば一撃で……
《―――――下がれッ!!》
咄嗟に出た言葉。それは過去様々な戦場を渡り歩いてきた、一人の兵士としての『勘』だった。
《了解》
こんな時にすら焦りを感じさせないゼンの了承の意。そしてふと思う。もしやこの男ならば、この窮地を脱するだけの〝何か〟を持っているのでは無いかと。すると
(何だ……!!)
通常のクイックブースト音とは一線を画す、まさに「鼓膜が破けるのでは無いか」と思う程のブースト音が通信機越しにこだまし、それとほぼ同時
―――――ザンッッ!!
何かを〝斬り裂く〟音がトンネル内に鳴り響いた……