主人公視点
《貴様ッ……!一体どこでその情報を手に入れた!》
うぉっ、なにこれ凄く怖いんですけど!いきなり大声出すのは心臓に悪いので控えめに……
アニメとかで良くある『お前らの事何でも知ってるぜー』みたいななキャラで脅かして帰らせようとしたのに。これはもしかしてですけど。
《答えないつもりか……良いだろう。貴様が何者か、力づくで吐かしてやる……!》
めちゃめちゃ逆効果じゃないですか!
良くあるパターンならここで、「今はまだ戦うには早い……まずは奴の情報を集めてからだ」ってなってまだ見ぬ強敵に備える感じですよね?よね?
これもうスミちゃん『げきオコスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム』状態じゃん。
やめられない止まらない状態じゃん。えぇ?力づくってことはネクスト戦?
マジモンの殺し合いするの? って、もうストレイドこっちに向かって来ていますよね!?
え……ちょ、ちょっと……待っ。
《待て》
怖すぎて声に出ちゃった。
《ほう……怖気づいたか?》
なにその見え見えの挑発!いや本当めっちゃビビってますけど。
もう挑発っていうかただの事実みたいなもんですけど……あぁ~でも多分、スミちゃんこの挑発で俺を乗せようとしてるよね。スミちゃんの中で俺のキャラどんなんなの?
プライド高いベ○-タ的なキャラじゃないんだから、そんな挑発には……
《……クハハ、よく言う》
乗るしかない、このビックウェーブに。
いや、一度でいいからこんなやりとりしてみたかったんですよね。だって漫画でしか見た事ないし、男の子なら一度は妄想するでしょ?こんな見え見えの挑発にノリノリで返答する自分。
……。うん、バカだったね。これは戦う流れに更に加速してしまってるね。ど、どうする!?とりあえずは、何かこう。
《霞・スミカ。お前は勘違いをしている》
俺のキャラを勘違いしてる事を指摘して、実に平和的解決を行いたい所存である。
《勘違いだと?》
《そうだ。「勘違い」いや、お前は決定的な間違いを犯している。》
《貴様……まさかとは思うが》
《ようやく気づいたか》
そうそう、気が付いてくれましたかね。俺は本当はこういったキャラじゃなくて……
《PAの展開が可能なのか!》
……HAI? え、そっち? 気になるのそっちですか?
《……ああ、その通りだ。》
いや、否定はしませんけど。実際してないだけだし。
ん? ストレイドの動きが止まった? 何で? ついでにスミちゃんも静かに……
何だか知らないけど、これはチャンスだ。これを利用しない手は無い。まさかPAの展開無しがここに来て生きるとは……何が希望に繋がるか分からないもんだよ本当。
と言っても、出来たらそのまま帰って欲しいんだけど……無理だろうなぁ。
スミちゃんの性格的に手ぶらで帰る訳無いし。仕方ない、とりあえず、後ろのMT部隊の人達に知らせよう。
《後ろのMT部隊、聞こえるか?》
俺は彼らに回線を開く。いや、何で機器の使い方分かるんだろう、本当。
《は……え!?》
《え、こっちに喋り……》
《うわっ!な……》
《た、隊長っ》
いやちょっと……こんなに驚くものなんですか? この反応はさすがにショックなんですけど。
俺そんなにキモい喋り方してないよね?
《聞こえている》
おお、これはハッキリした声だ。隊長さんかな?よし、時間も無いし簡潔に話すか。
《今から短時間だがPAを展開する。急いでここから離脱しろ……戦闘になる可能性もあるからな》
《ッ!……分かった。今すぐ離脱する》
おお、さすが隊長(仮)突然の事なのに冷静だ。
それから彼らは移動を開始する訳だけど……おぉ。 MTって、レーダー見た感じ結構速い速度出るんだな、離脱して20秒位だけどもう結構遠いトコに居る。
言うてネクスト機ならすぐ追いつけるだろうけど。
しっかし、MTの移動中ずっとストレイド見てたけど、止まったまま動かないな……
てっきり彼らを追撃するのかと思ったんだけど。まぁ、此方としては大歓迎ですよ。
《……》
さて……この距離だと、多分もうMT部隊の人は大丈夫だろう。
という訳で本当ごめんなさい、ラインアークの人!ちょっとだけコジマ撒くけど許して!
……気合入れていくぜ。
《先ほどの言葉、証明して見せよう》
PA(プライマルアーマー)――――展開ッ!
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セレン→霞・スミカ視点
《待て》
ストレイドが突撃せんとするその時、相手リンクスから声がかかった。
《ほう……怖気づいたか?》
我ながら安い挑発だ、と感じつつ口を開くセレン。
始めこそ、奴を退避させても良いと、彼女はそう考えていた。だが今は、目の前の不明機を逃す訳には行かなくなったのだ。
なぜならこの男は、ストレイドが初任務だという事を知っていた上に、セレン・ヘイズのリンクス時代の名である「霞・スミカ」を知っていたから。
今のセレンが元リンクスだと知っている者は限られている。それこそ、現インテリオルの上層部位のものだろう……この男は、どこまで二人の事を知っているのか。
一体どこからその情報を……いや、そもそも。いつから、彼女達について知っていたのか。
この男の正体は、必ず暴かなければならない。そして、その時は今だ。
……この不明機は強い。実際に戦闘を見た訳では無いが、この男は確かにそう感じさせた。
対等な状況で戦ったら今のストレイドに勝ち目は無いはず。だが幸運な事に相手は今PAを使えない。しかも不明機は軽量機ときた……つまり、ストレイドの攻撃を1撃でも喰らえば致命傷になりかねない状況だ。
いかに相手が手練れであろうと、ストレイドの攻撃を全弾回避なんて芸当は無理なはずである。
《……クハハ、よく言う》
スミカの予想道理、男は挑発に乗って来た。
まぁ、強い者ほどそういう傾向にあることは元リンクスであった彼女が一番よく分かっている。
そして、そういう者ほど足元を掬われやすいと言う事も。
スミカは、 ここぞとばかりにストレイドに指示を出そうとした……が。
《霞・スミカ。お前は勘違いをしている》
出せなかった。
《勘違いだと?》
《そうだ。「勘違い」いや、お前は決定的な間違いを犯している。》
間違い、とは何だ。
男の言葉に、スミカは一瞬背筋が冷え行くのを感じた。
彼女の考えでは、『そんな事』はありえないはずだった。だが、しかし。
《貴様……まさかとは思うが》
《ようやく気づいたか》
焦りに焦ったセレンは、男が言い終わった瞬間に。
《PAの展開が可能なのか!》
そう、結論を出した。
《……ああ、その通りだ》
そして、それを肯定する男。
それから束の間の静寂が場を支配し……すると、突如後ろのMT部隊が撤退を始めた。
不明機か、それともラインアーク側の指示かは分からないが……これはマズイ。
追撃するべきか、否か。男の言葉は恐らくハッタリ。スミカはほぼほぼ確信していたが……
もし、そうで無かったら?
その僅かな疑いにより、彼女ははストレイドに指示を出せないでいた。
不明機はラインアークとは深い繋がりは無い。スミカはそう断言できる。だが、少なくとも「今この瞬間」は間違いなくラインアーク側だろう。
つまり、MT部隊を追撃したらほぼ確実に交戦する事になるはず。PAを展開出来無いなら、それでも構わない。だが、もし不明機が本当にPAを展開出来るとすれば……
彼女がそう考えている間にも、MT部隊は視界からどんどん遠く離れていく。
戦場において、迷いは「死」を意味する。
優秀なリンクスだったセレンはその言葉の意味を重々承知していた。それだけに、今回のように選択を迷うケースは彼女にしては非常に稀だと言っておこう。
そして、今回、追撃の指示を出さなかった事は。
《先ほどの言葉、証明して見せよう》
彼女にとっては「正解」だった。