絶対に死んではいけないACfa   作:2ndQB

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引き続きカーネルさん視点をどうぞ



第31話 後編

《敵影数、一機増加》

《は?》

《上空約300。不明ネクスト機が急速に降下中です。『可能ならば』目視で確認して下さい》

《なッ、にッ!?》

 

ネクスト機? 何故? 誰だ? このタイミング?

 

《不明ネクストはどうやら軽量機の模様》

 

突然の申告。ハッキリ言って、カーネルは自立兵器達の確認だけで手一杯だ。

いきなりこの様な事を言われても、大量の自立兵器郡の中からネクスト一機のみを瞬時に見つけ出す事など困難である。

 

《ミサイルにロックされています》

《ッ!?》

 

その言葉に条件反射でフレアを使用。レーダーを見れば確かにミサイルが自機に向かい接近しているのが分かる。その最中、カーネルは必死に今の状況を整理しようとするのだが、それをし終わる前に次々に通信を傍受してしまう。

 

《オーバードブーストを展開、スカートアーマー内へと退避して下さい》

《おっ……い!》

《今、すぐに》

 

そこで一つ、違和感を覚えた。相変わらず抑揚が少ないオペレーターだが、この口調は……少なくともここまで自身への『煽り』が無く、テキパキと指示を出された事など一度として無い。

 

まさか、それ程の相手なのか。

 

《クソッ……!》

 

そのまま、訳の分からない内にオーバードブーストを展開する。

 

まだまだ自立兵器は残ってはいるが、それらに構っている場合では無いらしい。当然不明ネクストの目視すら出来ては居ないが、今は退避が最優先だろう。

視点を宙に浮かぶ自立兵器郡から、地面と平行へ、スカートアーマーへと移す。

 

《フ……ッ!》

 

直後に展開されたオーバードブースターが点火、爆発的な速度で機体が加速する。

キャロルがこれまでの実戦中(※実質戦闘終了後だが)に何度かOBの使用を指示していた為、その最中の姿勢制御に覚えはある。

 

《くっ……!》

 

自身が破壊した事によりスカートアーマーの『入口』となった箇所が目前へと迫ると、OBを切断。

後は慣性により薄暗いアーマー内へと滑り込み……中にあるキャタピラにぶつかる直前、その慣性を殺す為に後方へとクイックブーストを発動。

 

姿勢の制御に全霊を掛ける。

 

《ッッハァァッー ……!!》

 

 

何とか、止まった。

 

《悪くありません。まあ、以前より『多少は』制御技術が向上しているかと》

《ふっ……ふざけるな、よ……!》

 

やった事は『OBで逃げ、QBを一回使用しただけ』。だが、カーネルはかなりの疲労感に襲われていた。

 

先にも述べたが、カーネルは機動戦闘の経験が浅い……と、言うか実質無いに等しい。カブラカン本体との戦闘時こそ、機体の平均速度が時速300km / hを超えていたものの……逆に言えば今のカーネルではその程度が『戦闘』をこなせる限界なのだ。

 

OBなど、移動手段として扱うので精一杯。どこぞの上位ランカー達の様に『OB中に火器を用いた戦闘』などをする余裕は全く無い。

《では『入口』に向き直り、両腕の武装を構えて下さい》

《ハァ……ハァ……》

 

次の指示だ。

 

息も絶え絶えだが、大人しくそれに従う。今のところカーネル自身が入って来た場所以外は他のアーマープレートが塞いでいる為、ある意味で『待ち伏せ』しているかのごとき状況である。

 

……そんな、武装を構えてから数秒が経っただろうか。スカートアーマーの外から、ミサイルの発射音の様なものが聴こえてきた。恐らくは例のネクスト機の仕業だろうが、これは……

 

 

《数が減少しています》

《自立兵器共のか》

《ええ。何者かは知りえませんが、現状、我々と同じくして『自立兵器の破壊』を目的として動いている様子……しかしこの異常とも言える撃破速度。やはり只者では無いでしょう》

 

『入口』から見る外の景色には何やら雨の様に降り注ぐ自立兵器の残骸が。

レーダーからは、それに対応する様に敵機を表す赤い点が瞬く間に減少している。

 

《やはり、だと? 》

《外のネクスト機ですが、恐らくはこの自立兵器群が出てくるタイミングを見計らい降下して来た、と考えられます》

《……確かに、偶然出会したにしてはタイミングが良すぎる、か》

《『自立兵器の出現に紛れて我々を奇襲する』算段だったのでしょう。あの数です。初見の者は動揺するでしょうし……加え、途中で一機ネクスト機が紛れたとして、それに即座に気がつく者は少ないかと。中々悪くない手です》

 

……それに対して即座に気が付くオペレーターがここに存在する訳だが。認めるのは癪だが、さすがに優秀だ。

 

《だがそれが本当だとすると、奴はこの自立兵器共に関して既に情報を得ていたと言う訳か?》

《ですから『只者では無い』のです。カブラカンの自立兵器郡についての情報は、一部を除きアルゼブラ社内の者しか知り得ないはずですので》

 

成る程。仮に外のネクスト機が自立兵器郡の存在を知っていたとして……現状の破壊活動から推測出来る事は、『アルゼブラ外部の者が、カブラカンの奥の手について知っていた』と言う事だ。

 

《まあ。とは言い『何かしらあるだろう』程度の予測ならば、GA社内でも何度か話題には上っていましたが。そもそもカブラカンはAFにしては搭載火力が少なすぎると―――――おや?》

《…………》

《その反応。もしや貴方はカブラカンに対し何の疑念も抱かなかった、と?》

《黙ってろ。……おい、此方の護衛対象はどうなっている?》

 

図星だった為に話題を無理矢理変える。 護衛の輸送部隊が気になっていたのも事実な訳であるし……

何せこうして隠れている間に、外のネクスト機が向こうに狙いを変更したりでもしたら一大事だろう。

 

《その点は問題有りません。じきに我々の雇ったネクスト機が一機、護衛対象へと合流する予定です》

《……》

《第一、狙いが我々の輸送部隊ならば最初からそちらを襲撃するはず……ふむ。それにしても、何やら外のネクスト機はカブラカンにご執心の様子。もしや、最近各地で起こっているAF襲撃犯の一人――――――》

 

世界各地でAFの襲撃が見られている事など一切知らない。本来ならばそれについて詳しく問いただしていたところだろう。だが、カーネルはその話が出る前にサラッと出た言葉が気になって仕方がなかった。

 

ネクスト機を、雇った……?

 

《友軍にネクスト機が合流予定だと!?》

 

半ばキレ気味のカーネル。

しかしキャロルはそんな事など意に介さない様で、淡々と現状の変化のみを報告していく。

 

《自立兵器、全滅しました。経過時間は一分と少々―――驚異的な戦闘能力です。そのままの体勢を維持して下さい。くれぐれも、外には出ないように》

《チッ……!後で詳しく話してもらうぞ!》

《後があれば良いのですが》

 

全く、何故コイツは雇われたネクスト機についてを最初に伝えないのか。

 

不満をよそにレーダーを確認すると……つい先程までそれを埋め尽くしていた赤い点が、一つを残してキレイさっぱり消え失せているのが分かる。どうやネクストは自立兵器を殲滅した後、上空の一点でピタリと静止している様子だ。

 

《集中して下さい。次は我々です》

 

『入口』に銃器を構えたまま、ゴクリと唾を飲み込む。この感覚、緊張感。何時かのネクスト戦以来である。あの時は見逃されたが、次もその幸運が続く事は無いだろう……

敗北=死。これが戦場での基本なのだから。

 

 

……

 

………………。

 

 

無音。

 

長い。一秒一秒が、とてつもなく長く感じる。レーダーをチラリと見るが……相手は一向に動き出さない。そのあまりの変化の無さに一瞬、カーネルは自身以外の時が止まっているかのごとき錯覚に陥った。

 

 

――――――何時だ、どのタイミングで来る?

 

 

緊張感が、極限まで高まったその時。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――ジリリリリッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

機体内に大音量で、目覚まし時計の鐘の音らしきものが響き渡った。

 

 

「ぉお!??!?」

 

 

突然の騒音に仰天したカーネルは、奇声を放ちながら構えたライフルと散弾バズーカのトリガーを引いてしまう……重い発砲音がアーマースカート内に反響した。

と、同時に強い衝撃が両腕部から走る。 しかし弾丸は何も居ない『外』へと放たれた為、当然止まる所を知らない。

 

そのままどこぞへと消え失せてしまう弾丸達……傍目に見たら何とも悲しい光景である。

 

 

 

《ハッハッハ》

 

 

 

何時のまにやら鐘の音は消え、通信機からは抑揚の無い女の笑い声。

 

 

《今の貴方は実に滑稽でした》

《お前は!一体!!何を!!!しているんだッ!!?》

 

 

やはりこのオペレーターの仕業か。これにはさすがのカーネルも怒り心頭である。

と言うより、この場面でこんな事をされてはカーネルでなくとも怒る可能性が高い。

 

《――――――極度の緊張状態》

《ッ!》

《私が『ほぐして』差し上げたのです。あれでは結果は見えているも同然でしたので》

 

確かに今ので緊張感は大分薄れたが、やり方と言うものがある。よりにもよってこんな方法で。一応キャロルの『目的』が正当なものであった為、先程よりかは怒りが収まってはいるにしろ……カーネルはその『手段』について文句を言おうと口を開きかけた。

 

《しかしながら……そろそろ援軍が到着する模様ですので、ご安心を》

 

まあ、キャロルの放つ重要な情報を前にまたしても言う機会を失うのだが。

 

《援軍……まさか、雇ったとか言うネクスト機か?》

《ええ。どうやら輸送部隊が『ワンダフルボディの援護へ向かってくれ』との指示を出した模様です。護衛対象にまで心配されるとは、何とも情けない》

《…………俺に一々文句を言わないと生きて行けんのかお前は》

 

援軍のネクスト機。カーネルには誰の事だか予測出来ない。『雇った』と言っているのだから、独立傭兵の類いか? いや、しかし一体どこのどいつが……

 

すると、自機のレーダーに突如友軍信号である『緑の点』が点滅。位置はカーネルの見ている『入口』からはやや左方向だ。高度は外で停滞しているネクスト機とほぼ同程度を、直線的に巡航している。

 

 

《!!!》

 

 

そこで、つい数瞬前まで静止状態にあった不明ネクスト機が動きを見せた。

何と、先程の静けさから一変。その友軍機に対して猛スピードで突撃していったのだ。

外からはブースターの爆音が響き、間をあけない『連続』でのQB音が流れ込んでくる。

 

 

 

《―――――なんッ……だッ!? これは……ッ!!》

 

 

 

カーネルの見るレーダー上には、常軌を逸した機動をする敵機が映っていた。

対して友軍信号を発するネクスト機。こちらもそれに対応するかの様に、直線的な機動から超・変則機動へと変化。

 

 

赤い点と、緑の点。二つが一瞬の内に、『数回』交差する。当然、外から響くQB音が絶える事は無い。

 

 

アーマー内で武器を構えたままのカーネルには、外の景色……外部二機の戦闘は直線見ることは叶わない。が、それでも理解出来てしまう。

何かが――――――異常な出来事が、起こっている。

 

《おい》

《……》

《……オペレーター!聞こえんのか!?》

《………》

 

返事が返って来ない。 まさか、あまりの驚きに口がきけなくなってしまったのか。

 

《クソッ!!『キャロル』!!!!》

 

名を呼ぶのは不本意ではあったが、カーネルにはこれ以外に彼女を呼び戻す方法が思い付かなかった。が、カーネルの最終手段なだけあり効果はてき面。

 

《お静かに。そんなに叫ばれては聞こえる物も聞こえません……機体を入口正面から左奥へとずらして下さい》

 

どうやら気を取り戻したらしい……いや、この言動。驚いていたのでは無く、何らかの通信を行っていたのか? ともかくカーネルは機体をその指示通りに動かすのだが……

 

その最中、戦闘中の友軍機から通信要請が入ってくる。

それを確認したカーネルは、即座にその友軍機の要請を受け入れた。かくして、通信機越しに聞こえて来た声は。

 

 

 

 

《――――――――――――ッハァァ、ハッッ!!! ドン・カーネルかッ!!?》

 

 

 

 

まともに呼吸出来ているのかも怪しい、男の声。だが、カーネルはこの声に聞き覚えがあった。そう、これは、この声は――――――

 

 

 

《おまっ……お前ッ!?》

 

 

 

『あの日』。初めてカーネルに敗北を味わわせた者の声。

 

 

 

《ハッ……ハアッ……! おい!! そちら、に……っ、逃げ込むぞッ!!!》

《んなッ……!!!》

 

 

 

そんな言葉に咄嗟にレーダーを観察する。

 

そこには緑の点が急激に自機に……正確には、カブラカンのスカートアーマーめがけて接近している様子が。赤の点はそれを逃がさんと言わんばかりに追従している。

瞬く間に接近するそれらに軽くパニックに陥りかけるが、とにもかくにも、今は『入口』を少しでも広げなければならない。

 

カーネルは機体を更に奥へ奥へと押しやる。すると、

 

 

 

 

――――――――――――ドッシャァアアアッッ!!

 

 

 

 

大量の砂煙を巻き上げ、一機のネクスト機がスカートアーマー内へと侵入。

と、同時に爆発音。恐らくはスカートアーマー外部に不明機から放たれたミサイルが着弾したのだろう。そのアーマー全体に。いや、ここら一体に多大な震動が襲った。

 

 

《ハアッ…………ハアァッ!!全、く……!付き合って……ハァ…………られんな……ッ!》

 

 

通信機から『しんどい』とでも言った雰囲気を醸し出すこの男。徐々にに砂煙は晴れ、退避して来たネクスト機のシルエットが明らかになる。

薄暗いスカートアーマー内ながら、鈍い輝きを放つ、アルゼブラ製の軽量機をベースとした――――――

 

 

 

《『銀色』……!》

《ゴホッ、ゴホッ……ふー、また……会ったな?》

 

 

 

銀色の機体。"ネームレス"。

 

 

 

 


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