絶対に死んではいけないACfa   作:2ndQB

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第34話

主人公視点

 

 

 

 

「―――これ!その『なよなよ』した喋りは控えろと言ったであろう!」

 

 

あ……れ、ここって

 

 

「で、でも……」

「『でも』も何もあるか!男児たるもの、他人に隙を見せてはいかん……お前は優しすぎる。その様な口調や態度では、直ぐに誰かにつけ込まれてしまうぞ!」

 

――――家。ああ……俺がまだ小さくて……お爺ちゃんが生きていた頃、良くこうやって怒られてたな。古風な考えな人だった。何時も険しい顔してさ、何かと『男児たるもの……』って現代の日本には余り必要性の無い知識ばかりを押し付けられてたよ。

 

「誰かって……誰?」

「儂が知るか!」

 

知らないのかよ。

 

「とにかく、分かったら返事をせんか!」

「……うん。分かった……」

「違ぁう!!『……ああ』じゃろう!?ほれ!言ってみぃ!?」

「……ああ」

「ほっほ~?お前さては不機嫌じゃな?その様な殺気立った顔をしよってからに!」

 

当たり前でしょうが。何言ってんだこの人は。子供ながらに「……ああ」とか返事する奴なんか居ない。お陰で学校では中々お友達が出来なかったよ……何か皆ビビって俺にあんまり話かけてくれなかったし。ってか今でもその『癖』が全然抜けなくて、結構苦労してます。

 

でも……

 

「ほーれ!キャッチボールじゃ!爺だと思って舐めていたら顔面が陥没するぞ!」

「……もう少し、ゆっくり投げて貰いたいものだが」

 

あんまり寂しくは無かった。家に帰れば、何時も遊んでくれたし。

それに「 お前が大きくなるまでは死なんから安心せい」何て言ってた通り、ちゃんと俺が『成長』するまで頑張って長生きしてくれたから。

 

ああ、超楽しかったなー……

 

 

 

***********

 

 

 

 

「………」

 

 

 

目が、覚めた。

 

 

ぼやけた視界に映るのは、真っ白で、だけど所々に大きなヒビが入った......そう。良く知っているラインアークでの『自室』の天井だった。なるほど、さっきまで見ていたのはやっぱり夢だったのか。久しぶりに懐かしい感じを思い出したよ....ついつい、ノスタルジーな気分に――――

 

……え?あれ?ラインアークって事は。

 

 

俺、生きてる?

 

 

確か俺は……あの時。謎の機体に対抗する為に物凄く頑張って、で、死にそうになって。

痩せ我慢なんかもしてたけど、最終的に身体中が痛くなって気分も最悪になり……我ながら完全に『あ、終わったな』と悟った挙げ句、ついに意識を手放したんだけど。

 

……俺生きてるんだけど!!なっなんで、いや本当に!?

 

「……!」

 

そこで気が付いた。病院で着る様な患者服を纏っている事と、腕には注射機が刺さっている事に……これ栄養剤か何か?チューブみたいな物まで伸びてるんだけど。まるで入院患者のごとき処遇である。

 

「しかし……何だ?」

 

ハッキリと意識は戻ったにも関わらず、視界の『ぼやけ』が戻らない。

 

試しに両目を擦ってみる。で、再び瞼を開けてみても……はい、全然ダメ。

全くもって、その異常が元に戻る気配は無い。次にベッドから身体を起こし、この部屋の入口があった辺りに目を向けてみるが……見えない。いや、正確には、ドア自体はぼんやりと見えるが『ドアノブの形』が全くと言って良い程に把握出来ない。

 

……ああ、これは。

 

 

 

「視力が、落ちている」

 

 

 

しかも大幅に。俺の視力は今まで両目共に2.0だったんだけど、今どの位なんだろう。

こんなの経験した事が無いから、現状の視力を把握する事が出来ない……少なくとも、このままでは日常生活に支障をきたすレベルではある。

 

「……」

 

つまるところ、これが脳へ多大な負荷をかけた事による影響なんだろう。

まあ、シミュレーションの時に予兆はあった。何事も無く終わるはずも無かったんだけど……足……手、その他は……

 

 

「……ッシ」

 

 

小さくガッツポーズを取る俺氏。ッッシャア!!!!動く!!超ラッキィ!!

 

え?いや……だって普通に考えてよ?俺、ネクスト機であんな機動した訳よ?視力がメッチャ落ちた程度で済むとか幸運すぎる。正直、脚とかが動かなくなってても「しょうがないよね」位には思ってましたし。

 

大体ですね。元は普通の人間だった俺がネクスト機に搭乗してる事自体があり得ない。

本当ならもうその時点で何らかのペナルティが課せられてても不思議じゃ無いよね。

まあ、次にあの機動したらお目目見えなくなるかも知れないけど……その時はその時で考えよう。

 

いや、今の内に点字とか練習しとくかな。今度マーシュさんか誰かに本持ってきてもらおう。

 

「ゼンさん、お見舞いに来ましたよー」

「アミアミ~」

 

俺が盲目対策を決定したその時、丁度ドアが開き、そこから丸い何かを抱えた一人の人間が入ってきた……全くもって顔が見えねぇ!でも声的に多分アイラちゃんとAMIDAさんだろう。それにしてもAMIDAさんはもう普通に外出して……

 

……ん?

 

「あ……ぜ、ゼンさん?」

「ミ……」

 

入口で固まるアイラちゃん達。いや一体どうし……

 

「お、おおお、起き!!? た、隊長に連絡しないと!!アミちゃん行きましょう!!!」

「アミアミ!!!」

 

そしてダッシュで室内から出ていく彼女達。でもドアはちゃんと閉める辺り、人間性が現れており非常に良いのではないでしょうか。(評論家)

 

 

 

……こっちも出迎えの準備でもしようかな。

 

 

 

 

 

――――――

 

――――――――――――

 

 

 

「――――ゼ……ンッ!大丈夫か!?」

 

 

部屋に飛び込んできたエドガーさんの第一声。息切れを起こしている事から、急いでここまで来た事が窺える……ま、相変わらず視界が超ぼやけてるんで、表情とか全然把握出来ないんだけどSA!HAHAHA!やっぱり結構困るなこれ!

 

「――――僕を心配させないでくれたまえよ!」

 

次に部屋に入って来たのは白衣を着てる……マーシュさんだね。いやいや、心配してくれてありがt……

 

「本当ですよー。ね?アミちゃん?」

「アミダ!」

 

「俺達も心配しましたよ……」

「まあ、易々と死ぬはずは無いとは思いましたが……」

「うむ……」

 

うん一杯来たね!!

 

シルエットや声から何となく判断するに、多分お昼時に良く話す人達だろう。

フィオナちゃんは来てないみたいだけど……うーん。やっぱり自分の事を心配してくれる人が居ると嬉しい気持ちになりますね。

 

結構狭い部屋なだけにぎゅうぎゅう詰めになっているのが申し訳無いけど。

 

「あー……何、一部を除き特に問題無い」

「『一部』……? ゼン。やはりお前さん、何らかの身体的障害が……」

「視力が大幅に落ちた。このベッドからすぐそこに居る……エドガー等、皆の顔もハッキリと見えない程度にはな。だが、正直それ程――――」

 

うん。今回の代償は視力だけだからそこまで……

 

「「「「な………っ!!!」」」」

 

だが、そんな俺の発言に、途端に重たい雰囲気が室内に満ちた……どうやらやっちまったみたいだぜ! で、でも本当の事だし。それに嘘なんかついてもその内バレちゃってただろうし!!

まさか皆がこんなにショックを受けるとは思ってもみなかったよ。

 

「……」

 

………

 

…………。

 

……お、重てぇ~……!!空気がクッソ重たい!! ヤバイどうしよ。顔は見えないけど、多分皆さん暗い表情してるんだろうな……ちっくしょう。この場合普通に「大丈夫だ」って言ったとしても、絶体カラ元気だと思われるよ。どうするどうする……

 

そうだ!

 

「当然の結果だ」

「……」

「俺はな……とてつもない『力』を行使した。おおよそ並みの人間からは考えられない程度のな。代償が無いと言うのも可笑しな話だろう?正直、『かなりの視力低下』程度で済んでいるのが不思議な位だ。次はどうなるかは分からんが....その時はその時だ」

 

作戦名。『正直に話す』……さすがにペナルティ無しは甘く考え過ぎですって。

 

……いや、まあ、そりゃあね?本当の本当は、ちょっぴりショック受けてますけど。

でも、起こってしまった事にクヨクヨと悩んでいてもしょうがないからね。問題はこれから先どうするかでしょうが!アンタって子は~……もう!(お母さん)

 

「俺の事はそこまで心配しなくとも良い。そんな事よりも、此方がどれ位眠っていたのか……そして、その間にあった事を教えてくれ」

 

自分としては、それが気になりますね。話題もすり替えられますし!

 

「……そうか。お前さんがそう言うのなら……オホン。まず、お前さんが眠っていた期間だが...今日で不明機との戦闘から9日となる」

「……長いな」

「ああ……で、だ。様々な事が起こっただけに、何から話したら良いか悩むが……まず、あの時の『戦闘記録』がネットワーク上に出回った」

「!」

 

おおっと~?これは……

 

「今、世間……特に軍事系統の者達の間では『ちょっと』どころの騒ぎでは収まらない事態に陥っているぞ。現に、ここに居る俺の部下達も……」

「はい。『記録』見ましたよ……ゼンさん。本当にあんな動き出来るんですね……」

「ああ。一週間位前か?いきなり『ネクスト機の戦闘記録』が知人から携帯端末に送られてきて……内容にはかなり驚いた」

 

ちょっ、待て待て待て。え? いや、別に俺自身としては戦闘記録が見られても良いんだけど……気になるのは、

 

 

「……『どこから』洩れた?」

 

 

そう、誰がそんな事したのかってところ。そんな俺の質問に、今度はマーシュさんが答える。

 

「『アルゼブラ側』からだねぇ。君達、カブラカンのすぐ周辺で戦闘を行っていただろう?それをカブラカンに予め設置されていた複数のカメラが撮影していたらしくてね。何やらそれが出回ったみたいだよ?」

「……ふむ」

「――――そう。問題はアルゼブラ社がそんな事をするメリットが無いって事。あのカメラ映像からだと、自社の自慢のAF、カブラカンが見事に『してやられた』事は誰の目に見ても明らかだしねぇ....今の各企業のメイン戦力がAFなだけに、イメージ低下は免れない。因みに、その件についてアルゼブラ社は現在『ノーコメント』らしいよ?」

 

成る程……と、なるとアルゼブラ社でも無い何者かがその映像を広めた?

じゃあソイツは『誰』だ……もしかしてあの「不明機」側がやったのか。

アルゼブラ社にハッキングでもして、カブラカンの映像を奪ったんですかねぇ……

 

「――――」

 

……それ以前に、その「不明機」はどこ所属だ?

 

現時点ではまだ明るみにはなってない『ORCA旅団』?確か、最終的にカブラカンの自律兵器を破壊したのは「不明機」だったっけ。そいつの元々の目当てが『AF破壊』なら、その『旅団』も似たような事をしてたし、合点もいくんだけど……

 

「いや……しかし」

 

何だこの感じ。ちょっと違う気が……そうだよ。

 

考えてみれば、もっと前、『プロキオン撃破』の時の事。

ORCA 旅団のネクスト機『スプリットムーン』が現れる前に、既に何者かが来た可能性があるってエドガーさん言ってたな。実際、最初に俺が来た時にも既にプロキオンは破壊されていたし。

 

その『何者か』が不明機だとすると、ORCA旅団と繋がっている可能性は低い?

 

じゃあ、一体……あれ。あの時の俺への依頼主って『トーラス社』だっけ。

依頼主がGA社なら分かるけど、何でトーラス社?みたいな事を思っていた気がするけど。

 

 

「……いや、まさかな」

 

 

いやいやー、さすがにこじつけが酷いかな?

 

 

つい最近「不明機」がORCA旅団と繋がった、みたいな可能性もありますし。

そもそも「不明機」側が戦闘記録を流出させたと決めつけるのもね……考えすぎは良くない。

疑心暗鬼になっちゃいそうだぜ!

 

「あー、ゼン?」

「む……すまんなエドガー。少々考え込んでしまった。更に『何か』あったのか?」

「それが……」

 

エドガーさんが口を開きかけた時。

 

 

 

――――メガリスが、襲撃されました。

 

 

 

今度は女性の声が室内に響いた。声の元は……部屋の入口、ドアからだ。

 

「イェルネフェルトか」

「はい。ゼン……貴方の帰還を歓迎します」

 

フィオナちゃん来た!しかも超優しい声!多分顔にっこりしてるよ今……でも、やっぱ表情が全然見えNEEEE!!

 

「しかし、メガリスが」

「ええ。オーメルの飛行部隊に。貴方の状態が状態なだけに、この機に企業がラインアークへの直接攻撃を開始する可能性も警戒して居ましたが……どうやらそれは杞憂に終わった様ですね」

「そうか……それで、どうなった?」

「メガリス襲撃の際、ホワイト・グリントは作戦行動中だった為、ネクスト『ストレイド』に依頼を出しておきました。被害状況は極軽微……見込み通り、と言ったところでしょうか?」

 

ふー。そっかそっか。メガリスって確か、巨大な発電施設だったよね。

詳しい解説は無かったけど、ラインアークにとっては、ライフライン維持の為のかなり重要な施設だったはず……良かったー。さすがはストレイド、やってくれるぜ!

 

「僕が考えるに、企業は今相当『ビビって』いるからねぇ……君達の『戦闘記録』のインパクトが強すぎて、ラインアーク中枢への直接攻撃に踏み切る事が出来なかったんだよ。フィオナちゃん達もかなり頑張って、ゼン君の『状態』については出来るだけ外部に洩らさない様にしていたみたいだし?」

「ええ……まあ。とは言え、さすがに多少の情報は流れ出てしまいましたが。しかしながらオーメル社としては、ゼンの……貴方が『寝たきり』の状態であると言う確証は持てなかったのでしょう」

 

何だこの駆け引き!

 

ってかマジで色んな事起こりすぎィ!……俺とかただグースカピースカ寝ていただけだってのに。クッソ申し訳無いぞ!

 

「えーと、私からも良いですか?」

「今度はアイラか……何だ?」

「何と言うか、アミちゃん何ですけど……」

 

え?何?AMIDAさんが何だって?

 

「何か大きくなってます」

 

……は?

 

「どう言う事だ?」

「それがですね……アミちゃん、ゼンさんのところまで行ってあげて下さい」

「アミアミ」

 

AMIDAさんらしき物体がアイラちゃんの腕からポトリと落ちると、ヨジヨジと此方のベッドの上まで這い上がって来る……そして、間近で見ると漸くその変化に気づいた。

 

おいおい、これって

 

「AMIDAよ……余り言いたくは無いがな。少々、『太った』のでは無いか?」

 

大きさが1.3倍位になってるんですけど。

 

「ア……ミ……!!」

「ぜ、ゼンさん!」

「ゼン……貴方は何と言う事を」

 

やばい、AMIDAさん多分ショック受けてるよ。言わなきゃ良かったかな……

いや、でもこれは彼女の為だし。ってか、アイラちゃんとフィオナちゃんの女性タッグから非難めいた事が上がってんだけど。マーシュさんとか「カワイーヨ、カワイーヨー」って連呼してるし。

 

「良いかAMIDA? 太ると様々な良くない事が起こる。ともすれば、俺達と『早すぎるお別れ』をするハメにもなりかねん……そうなってしまっては、後悔しても遅いんだ。仮にそんな事態に陥りでもしたら、俺は悲しいぞ?」

「アミ……」

 

何言ってんだ俺。さっきまでシリアスな雰囲気だったのに、何でこんな『太りつつある彼女に対する忠告』みたいな事してんだ……事実だけどさ。AMIDAさんが居なくなったら悲しいけどさ。

 

「ゼン君。彼女はこの9日間、君とお喋り出来ないのがストレスだったみたいだよ?」

「そうだったのか……すまなかったな。だが、これからは何時も通り一緒に過ごせるぞ。だから過度た食糧摂取は控えてはくれまいか?」

「……アミダ!」

 

 

「うわー、ゼンさん素敵ですね……」

「……『彼』に会いに――――」

 

「隊長」

「何ですかこの状況……」

「俺に聞くな」

 

いやマジで何だよこれ。女性二人はどっかトリップしてるし。その他男(マーシュさん除く)はこの状況に困惑してるし……AMIDAさんストレス太りとかマジですか。 これもし一ヶ月とか会わなかったら超でかくなっちゃうんじゃね?

 

そこからは何やら雑談コースへと切り替わり……一段落ついたところで、こっちから終わりを切り出す。

 

「あー……もう報告は無いみたいだな。皆、わざわざ俺の部屋までご苦労だった。嬉しかったぞ」

「クック……まあ、それは我々とて同じ事だ。皆、随分と心配したからな……では失礼するぞ?」

 

そしてお別れタイム……と、その前に。

 

「ゼン君。今度、君の視力を測定しよう」

 

マーシュさんからの提案。おお、これはまさか。

 

「『矯正機具』が無いと困るだろう?」

「マーシュさん?それは……」

「ああ、フィオナちゃんはその話の時は居なかったねぇ。ともかく、君には後で説明するとして……じゃあ、そのつもりで居てくれたまえよ!」

 

そんなマーシュさんの言葉を最後に、AMIDAさんを除いた一人一人が部屋を出ていく……

矯正機具。つまりは眼鏡か何かか。いやはや、有り難いお話しで……あっ、ネクスト機の武装のお礼言うの忘れた!

 

今度、視力検査をする時にしっかり言わなきゃなー。

 

「全く……まあ、もうしばらくは安静にしておくか」

「アミダ!」

 

 

ま、最低二週間……後5日位はね?

 

 

 





以後、ゼンさんは頑張るたびに身体機能が一部、著しく低下していきます。
ですが安心して下さい。彼はとても前向き(おバカ)なので。




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