主人公視点
俺の視界の対極……壁際に位置する『そいつ』は二本足で立ち、腕も二本備えている事から、まず人型で間違いないだろう。大きさは、ネクスト機の……軽〜中量機体くらいか?
少なくとも俺のネームレスよりかは大きそうだけど……距離があるから正確には分からんのだぜ。
まぁしかし、それだけなら普通にも思える情報だ。
では、次はそいつの特徴……あまり普通ではないところに関して描写していこうと思う。
《……》
まずその両腕部。ダラリと下げられたそれらだが……中々に長い。
これ、下手すりゃ脚部の脛に達する位まであるんじゃないか?それに、両手には何も握られてはいないし……武器腕と言う訳ではなさそうだけど。
で、その次に目に着くのが、コア部分。非常にゴテゴテとしてるし、何よりコア前部にある剥き出しの整波装置が気になる。そうだな……レイレナードの『03-AALIYAH』あるじゃん。
あれもコア前部にある整波装置がそこそこ丸見えだけど……この未確認兵器はそれの比じゃない。
マジでこれでもかと言う位に剥き出し。円柱状の整波装置がコアにただぶっ刺さってるみたいな……しかも六つも。分かる?コア前部と言う偏った場所に六つも整波装置あんのよ。
これでまずこいつがコジマ粒子の使用された兵器だと確定だよね。
そして脚は細い。今はなきアクアビット社製の軽量脚部にそっくりだ。
ただ、その脚の細さとコアの大きさが相まってアンバランスさを醸し出しており、何とも不気味だと言うか……ヘッドパーツも変だし。真正面から見た形を記号で表すなら、まさに凸な頭してるからね。
しかし、何より妙なのは……
《あれは……『パイプ』か》
《の、ようだ》
そう。パイプだ。幾つかのパイプが機体背後に接続されており、更にそれが背後の壁際へと伸ばされていたのだ。……何だあれは。パイプを介して何かが機体に供給されてますよ、みたいな?
いや絶対そうだわ。絶対よからぬ物質が供給されてるわアレは。
総評:エイリアン。
本当、パッと見こいつにあだ名をつけるならエイリアン以外に思い付かない。
それくらい異形とも言える形状をしているのだ。ぶっちゃけきめぇ……こいつ一体何なんだ?
ネクスト機?いやでも、少しプロトタイプ感がすぎないか?何と言うか、前時代的と言うか……
今のトーラス社が作るにしては、やけに形が整っていないと言うかさ。
《特に反応は無い様子だが。ゼン、どうするつもりだ?》
《まぁ、見てくれは妙な相手だが……武器らしい武器も見当たらん。今はまだ機体の起動実験の段階……とも取れる》
《だとしたら好都合だな》
《ああ。本当にそうならだが。とりあえず、何発か撃っ……》
――――バチ……ッ
あ?
《何だ?》
エイリアンの周囲が何か光ったと思った……次の瞬間。
大量の放電現象と共に、奴の機体には『PAらしき物』が生成された。
おいおい……この異常とも思える放電。俺は見た事があるぞ。これはあの時の……スプリットムーンと共に倒したアイツ。ウルスラグナが生成していた『二枚目の隠しPA』とそっくりじゃないか。しかしPA……ってことは、このエイリアンはやっぱりネクスト機なのか?
PAを生成した後は、相も変わらず微動だにしないが…………ちょっかい出してみるか。
そう決めた俺はとりあえずライフルの照準を奴に定めるとーーーーー5、6発の銃弾を放った。
薄暗い室内の為、発射された弾が熱で赤く発光する様が良く見える。
相手はそれら全てを真正面から直撃。着弾時の反応だろうか、その瞬間の奴のPAは一層激しい放電現象を行っていた。
……本当、放電が激しすぎて機体が一瞬見えねぇレベルだわ
たが、しかぁし。これにはさすがのエイリアンも何かしらのアクションは示すだろう。
だってねぇ、そのまま立ち止まっていたらこれ以降もダメージ食らいまくり……
……って、ちょっとちょっと。
《おい……》
コイツ、全く動く気配がねぇ。そのまま直立不動とかどういうつもりだ?
ならば今度は、と言う事で両背のレーザーキャノンを展開。すかさず奴に向かって放つが……
ダメだ。相変わらずの正面受け安定。全くの反応無し。
……ハッハッハ。何だか知らんがこりゃラッキーだぞ!!
そのまま撃ちまくってりゃ普通に倒せんじゃない?なぁにが未確認兵器じゃビビらせやがってYO!!
オラオラこのライフル弾を食らいなァ!!痛いか?痛いのか!?
大丈夫だよ!中に人が居る時の事も考えてるから!優しくしてるからオラオラァ!!
ふーははははぁ………
…………
……
…
……それから俺はエイリアンに数十発程のライフル弾を叩き込んだ。
叩き込んだんだ訳けど……ねぇ。あのさ。ここまでしといて何だけどさ。一つ聞いていい?
いや、実は最初にライフル撃った時にも感じてた事なんだけど。気のせいかと思ってたんだけど。
《あー、エドガー……あの未確認兵器だが》
《何だ》
《俺の攻撃。通っている様に見えるか?》
《いや、全く》
い や 、 ま っ た く 。
は?嘘だろ何だアレ。アイツやばない?だって……は!?いやいやイヤイヤ!!
おかしいオカシイ!だってアイツに全然攻撃効いてないもん!
真正面から銃弾受けまくってんのにPAも最初と変わらず全く減少しないし……あっ。そっか分かった。
おいおい〜アイツちょっとラグってんよ〜(対戦脳)
だからさー。無線はマズイって。有線LANにしないとラグが起こって攻撃が無効化されちゃうからさ〜。そこら辺は本当気を付けていきたいよね。
だってACfaなんか機体速度がクソ速いせいで、ただでさえラグが起こりやすいゲームなんだから。
いやアイツ動いてねぇな。そもそもこの世界でラグとか起こり様がなかったわ。
ふっざけんなお前それ一体どうやっ………
―――――ガシャッッ!!
あまりのインチキ臭さに俺が一瞬キレかけたその時……機械的な音と共に、未確認兵器にとある変化が起こった。
先程までダラリと下がっていた長い両腕が、コチラに向けられたのだ。
『前ならえ』の様な格好にも見えるが、正確には両の手のひらを俺に向けている為にそれとは異なっている。両の、手のひら……?何で、アイツは武器を持って……いやこれっ
やっば、い!?のッ……か!?
違和感を感じとった俺は反射的にサイドのQBを使用していた。
とにかく、その場に居たら何かヤバイ気がしたのだ。そして、その勘は……
《お……いッ!何だ、『ソレ』は……っ!!》
俺の命を救う事となる。
このエイリアン……!!手のひらからレーザーブレードみてーなん出しやがった!!!
しかも何だこれクッソ長い……実験場の端から端位まであんじゃねぇか!?
もしかしてAF『ジェット』のアレ、建物をチーズも同然の様にスライスすると言う、伝説の超巨大ブレードか………っぶ、ねェ!!
コイツ片方から一本ずつ出してるから……合計二本かよ!しかも全然消えな……!?
マ……ッジでふざけんなよお前オイオイオイ!!
消えないレーザーブレードとか新兵器にも程があんだろ!!壁とか地面の砂とか、レーザーブレードに触れた部分が溶けてやが……チィッ!
にしても、いきなりすぎ……
《ゼン!パイプだッ!!》
どうにか二本のレーザーブレードを回避している最中、エドガーさんから通信が入る。
あぁ!?パイプ……って、あの繋がってるやつか!やっぱアレから何か供給されてんだな!
この出力を保っていられる理由は絶対それ……
いや、でも!近付くのはかなりリスクが高いぞ!!
くっ……正直帰りたいけど、今のこいつに背を向けたくはない。やるしかないってか。
《………》
落ち着け、落ち着いて観察しろ………
アイツの腕……人間が動かしている時の様な、正確な精度では動いていない。
仮にそうなら今頃は細切れにされていてもおかしくは無いだろう。
それはチャンスだが、ある意味で『危険』だ。予測がし辛い。となるとまずは……
《端……にッ!》
レザーブレードをある程度誘導する。誘導場所は俺から見て正面左だ。
機体の脚を地面に着け、ブレードの高度も下げつつ……時計で言う9時方向、壁際まで機体を持って行ったら……ブースト出力を上げ、機体を上昇させる。
ここでオーバードブーストを起動。約1.5秒先の『展開』に備える。
《……》
さて。上昇した機体だが、左脚を壁に着け『蹴る』様にして、更に同時に左サイドのQBを使用。
これにより今までとは逆(右)方向への瞬間的な加速を行う。
《ぬぅ……!》
その際視界には、機体の足元に伸びている二本のレーザーブレード。そして自機のPAゲージの減少が見えた。……『カスった』な。多分、ブレードは数瞬前、浮いたネームレスの足の裏ギリギリを通過していたはずだ。じゃないとPA減少の理由がつかない。
何はともあれ誘導+回避は成功。ここで先程のOBが展開され……る!
爆発的な加速感が身を包むが……今、この室内の右側にはその加速を十分に生かせるスペースが存在している。先程の誘導の賜物だ。
〝待〟ってたぜェ!! この〝瞬間〟をよぉ!!
《よし、ゼン!そのまま右から……》
《回り込むッ!!》
当然のごとく同時に二段+連続QBも使用します。いや〜この前の一戦で少し思ったんだよね。
多分、一瞬だけならインチキ機動しても大丈夫なんじゃないかなって。
だってレイテルパラッシュとの戦闘時にも二連続のQB使ったけど、身体に何も変化が起こらなかったし。
……いやまぁ、実際にはそんな虫の良い話はないんだろうけどさ。
でも少なくとも、ミラージュ戦の時の様にすぐさま後遺症は現れなかった訳であって。
変な言い方になるけど、今後はちょっとずつインチキ(当然ピンチの時のみに)して、ちょっとずつ後遺症を誘発していくスタイルを取れればまだマシかなって考えています。
……っと、それはおいといて。
その加速により俺は一瞬にして敵との間合いを詰め、なおかつ回り込む事に成功した。
眼前には壁から敵機に接続されたパイプが……俺はすかさずそれに狙いを定め、ライフル弾を撃ち込む。銃弾の餌食になったパイプからは白煙や火花が散っており、確かな手応えを感じるが……
《……よしッ!どうだッ?》
パイプを完全に破壊すると敵機……エイリアンの両腕レーザーブレードは即座に消失。
それだけで無くPAに迸っていた異常な電流も収まっている様に感じる……いや、間違いなくPAも弱体化しているはずだ。
コイツの機体のすぐ側でライフルを突きつけている俺には良くわかる。
《ふー……何とか凌いだな》
《……エイリアンでは怪物には敵わなかった、と》
いやエドガーさんもエイリアンだと思ってたんかい。まぁ、やっぱそう見えるよね。
しっかし良かったぜ。こいつ、パイプに繋がれていたからその場から移動できなかったじゃん。
もしも移動とかしていたらマジでヤバかったわ。巨大ブレード避けれなかったと思う。
《全く……》
パイプを破壊されてすっかり大人しくなったこいつを見て思呟く。
何時もの事だけど、死んだと思ったわ……さてこれからどうするか。
相手のPAが消失していないのを見るに、機体自体が死んでいる訳じゃなさそうだけど。
ここから離れるのも怖いし、どう―――――
―――――キュイイイイイン!!!
おい。何だ、この起動音は。まさかこいつ、また何か……
《ゼン!!離れろ!!》
《!!》
エドガーさんが叫ぶ。そんな声に従う様にして俺が敵機から距離を取った……
瞬間。
《な―――――》
大 爆 発 。
すさまじい轟音と共に、一瞬目の前が真っ白になった。
爆発の衝撃を受けた俺は機体の姿勢を制御し、地面の感覚を確かめる。
その時ふと頭を過ぎったのが、アサルトアーマーの存在。こいつまさか、使いやがったのか!?くっそ、俺の目は回復したが機体のカメラはリカバリー出来てな……っしゃあ直った!!
どうした!?実際には何が……
《こいつは……》
状況を把握しようとした俺の目の前に映ったのは何と……
《自爆……か?》
爆散して、バラバラになったと思われるエイリアンの残骸……らしきもの。
こ、これ自爆だよね……?な、何だったんだ?何で自爆?
どうせやられる位なら自爆して俺にもダメージ与えてやるぜみたいな?これ中に人乗ってたら確実に死んでんな。
見上げた覚悟でした。どうか安らかに眠りについて下さい。まぁ無人機臭かったけど。
《ゼン!……大丈夫か?》
《俺はな。だが、機体がやられた。右肩のフレアが吹き飛んだらしい》
やってくれるわ……右腕部にもそこそこのダメージ入ってるみたいだし。
修理費がかさむんですけど。修復パーツはGA陣営が何とかしてくれるから良いにしろ、修理期間とかもあるし勘弁して下さい……
……ミラージュがミサイル機のまんまだと、フレア無しだと大分キツイしな。
《まぁ、何はともあれ一応依頼は完了か》
《全く……謎は多いがな》
本当ね。毎度そうだけど、今回は何時もにも増して疑問が多すぎる任務だったよ。
……はァ〜。普通に神経すり減ったわ。早くかえって休も……
―――――ちょいと待ちな。
…………。え?
《アンタ達に聞きたい事がある》
この声だれ?いきなり通信に割り込んできたんだけど。
声質は……女の人だな。でも、しゃがれたその声からは中々高齢の女性を想像させる。
原作でも聞いた事ないんだけど……ちょっとちょっと。面倒はごめんだよ。
もう既に一戦闘終えてるんだからこっちは。
《……エドガー》
《見つけたぞ。こちらに真っ直ぐ向かってくる……ネクスト機だな》
だーっは!最悪だ〜!いい加減慣れているとは言え、今回ネクスト戦は止めてくれ!
逃げるか……と思ったけど、やめにしよう。ここに至るまでには少し長い一本道が続くんだ。
そんなとこではち合わせ、戦闘開始とか不利すぎる。
だったらまだ広いこの場所で迎え撃った方がずっと良い。
《……ふー。どうやら遅かった……みたいだね》
そうしてしばらくしない内に、彼女は俺達の前に現れた。
白い旧GAE製の4脚。コアにはトーラス社の最新型ネクスト『ARGYROS』の物が使用され……
背部兵装のコジマミサイルが特徴的な機体。ネクスト機『カリオン』だ。
カラードランク『29』でリンクスは―――――『ミセス・テレジア』。
原作のストーリー中には全く出てこなかった謎多き女性リンクス…… ちょっと誰か、今だけ俺と交換しない?
少し水飲みたいからさ(逃避)
*********************
ミセス・テレジア視点
ミセス・テレジア。唯一のトーラス社専属リンクス。カラードランクは29と低いが……
その実、知る人ぞ知る影の実力者である。
何せ彼女は数十年前の国家解体戦争に参戦した、所謂オリジナルと呼ばれる人物だ。
リンクスとしては最古参に位置する人物であり、トーラス社設立の際にも、その力をもってして邪魔なモノの全てを排除した。搭乗機体に関しては細部に渡るまで内部チューンが施されており、また、高火力武器の使用も相まってその戦闘力は非常に高い。
さて、そんな彼女なのであるが……目標地点に到達した今の状況。
素早く内部を観察し終わった後、一人頭を抱えていた。
《……ふー。どうやら遅かった……みたいだね》
この実験場の奥にいる例の『怪物』、ネームレスを視界に収めながら、ふと呟く。
彼女がここに来た理由なのだが……それは以前から、トーラス本社のとある上層部員に「B7に近頃怪しい動きがある」との説明を受けていたからだ。
詳しい事は分からないが、何かをひた隠しにしている様子なのだと。
その者曰く、本当ならもう少し詳しい状況を知ってから彼女を投入する算段だったらしいのだが……
問題が発生した。そう、ネームレスだ。
依頼をした上層部の者がネームレスによる襲撃の情報を得たのは、彼等がラインアークを発ってからだった。
この予想外の事態に緊急でテレジアを呼び出し、急ピッチで彼女をこのB7に送り込む羽目になってしまったのだと言う。
(……困ったね)
ネームレスの周囲に転がっている『何か』の残骸……これが恐らく、B7で隠したかった物。
本来ならば彼女自身がその何かを確認、戦闘するなり何なりで実戦時の映像データを持ち帰るはずだった。それが……
(……ふむ)
テレジアは考える。
恐らくだが、そもそもこのB7自体には『何か』の詳しいデータは無いのではないかと。
この突貫工事とも取れる実験場から、この『何か』がここで開発された物とは思えなかった。
どちらかと言うと、どこかで作られた『何か』をこのB7に持ち運んだ可能性が高いと見たのだ。
(だが、『B7内に持ち運んでからの実験データ』ならまだ……いや。それすら、もう)
ここに戦闘痕もあると言う事は……その間に、この実験場の関係者がここで得られた僅かなデータすらも抹消している可能性も高い。
《……やってくれたね、アンタ》
ネームレスのリンクスに向かって恨めしそうに発する。
上層部の者からの直々の依頼だと言う事は、つまりトーラス社存続に関わる可能性の高い案件だと言う事だ。今回の『秘匿実験』の件に関しては、間違いなくB7(トーラス社)内部に務める何者らかの独断で行われている。
つまり、ある意味でこれは反逆行為に等しいと言えるだろう。
兵器開発やその実験を行う場合、正しい手続き……手順を踏まなければ許されない。
でなければそれはただの兵器密造者であり、企業を危機に陥れる存在として認識されるから。
だからこそ、今回の出来事はトーラス社内部だけで処理し……最悪『何か』の情報だけでも得て、それが外部に漏れるのを防ぎたかったのだが。
《俺は何もしていないぞ》
テレジアの言葉にそう答えるリンクス……良く言う。
何と戦ったかは分からないが、実験場をこんなにしておいて……まるで化物か何かが暴れ回ったかの様子ではないか。壁や地面も大きく抉られ、何だ、これは溶けているのか?
全くもって最悪だ。まさかネームレスがここに居た『何か』を跡形もなく消し飛ばしてしうとは。
『何か』を停止させる、あるいは多少原型を留めてなくとも、どんなモノだったのか全体像を把握できる程度の破壊なら良かったのだが……
見たところネームレスに高火力武器は搭載されていない様子だが、どのようにしたらここまで木っ端微塵にする事が出来るのか。とてもじゃないが理解しきれない。
《ハァ……》
《あー、何だ。帰って良いのか?》
《ダメだ》
《なら戦闘でもするか?》
戦闘?何を言っているんだこの者は。
《する訳ないだろう。アタシゃ馬鹿じゃないんでねぇ。アンタみたいなのと戦う趣味はない》
まぁ、本当ならネームレスをここで消す事が出来たら最高なのだが。
しかしながらそれは無理だ。
先に流出したとされるネームレスの戦闘記録、そして今回実際に見た怪物の戦闘痕を見て察した。ランカー上位勢を相手にするならまだしも、コレはとてもじゃないが手に負えない。
戦ったら『何か』と同じ運命を辿るのがオチだろう。
《だから質問だけさせな》
《それは構わないが……》
《じゃあまず、アンタが見たのは『兵器』だったんだね?》
《ああ》
成程、確定か。 では次……これは、テレジア自身の個人的な質問だ。
そして、今最も気になっている事……ともすれば今回の案件にも関わっている可能性すらある。
それは……
《では次だ。アンタのお友達、『ミラージュ』。どこに居るんだい?》
この事だ。そう、ミラージュの居場所について。
この質問に男がどう答えるかによって、テレジア自身の今後の方針が変わる。
さて一体何と答える……?
テレジアは半ば祈る様な気持ちで男の回答を待っていた。『アレ』だけは辞めてくれと。
そんな彼女をよそに、しばしの沈黙が続いた後……男は、歯切れ悪くこう答えた。
《それは……トーラス社、では、無いのか?》
男の言葉に、テレジアは深々と、そして苛立つ様に溜め息を吐いた。
最悪だ。この……この回答以外なら何を言っても良かったのに。これだけは、非常に不味い。
現実を受け止めたく無かった彼女は、ネームレスのリンクスに向かい確認を取る。
《……本気かい?》
《ああいや。すまない、実は俺もその事を探っていてな。丁度その質問をそちらにしようと思っていたところなのだが……『違う』のか?》
《……そう思いたいがね。何やら思い当たる節が多々あって困っているのさ》
そう。考えてみれば……
《テレジア。先程から『何か』についての質問や、ミラージュについて聞きたがっているが。これはつまり、「トーラス社内部に何か良くない事が起こっている」と言う認識で良いな?》
《……アンタ。アタシに協力しないか》
《何?》
《ハッキリ言うがね。アタシゃ、アンタのお友達が……ウチらの『どこか』にいる気がしてならないのさ》
そう言葉を告げる。テレジア自身も、ネームレスのリンクスと同じく考えていたと。
そしてそれは、先程男が言っていた「トーラス内部に良くない事」を肯定と捉えて良いとの意味も込めてだ。
……丁度ネームレスが現れた頃だろうか。
軍事業界がざわめき出したあの頃……テレジアの耳にとある一報が入った。
何が起こったのかは分からないが、辺境に存在するとあるトーラス社支部に、GA社製のAF……
ランドクラブが二機程『入った』と。
明らかに妙だった。その支部の存在する場所は先程も言った様に辺境であり……何というのか。
そこは、トーラス本社(上層部)での決定を良くないように思う者が集められた、所謂『左遷』された者達が多く居る場所とでも言うのか。
故に、そんな場所にランドクラブなんて大物が二機も搬入されるのはどう考えてもおかしいのだ。
当然、それに対して追求する様な声も上がったらしいが……最終的にうやむやになったのだと。
何故ならその辺境支部の総意と言う体で、ランドクラブ二機がトーラス本社の技術部門に進呈されたから。
(……確か、その時期は)
……丁度、トーラス本社がとある新技術を生かす為の『母体』を多く必要としていた時期であった。しかもランドクラブとは……まさしくドンピシャ。
彼ら左遷組の「貢献している」様な態度からも、深い追求をする事をやめたのだろう。
実際、彼らの働きにより予定よりも非常に早く、新技術を駆使したAFが完成している訳であるし。
《……『どこか』とはまた、曖昧な》
《まぁ、怪しい場所は既に目を付けてるさね》
左遷組の辺境支部……あそこに何かある気がしてならない。
せめてあるのは『何か』のデータだけで、ミラージュが関わっている痕跡が無ければ良いのだが。
まぁ、これはまた次だ。今は話を進めるべきか……
《アンタはミラージュを探している。アタシもそうだ。つまり目的は一致している……情報を交換し合いたいのさ》
《成程……して、具体的にそちらの欲しい情報と言えば》
《今回の、『何か』との戦闘データ。そしてアンタの『依頼主』が誰なのか……》
《おいおい。中々に欲張りだな?》
普通なら段階を踏んで……腹の読み合いなり何なりをするのだが、今回に限ってはそれをしない。
「帰っても良いか」との言葉から、怪物は何やら早くこの場を去りたがっている様子だ。
妙に長引かせて機嫌を損ねては、手に入る情報も入らなくなってしまう。
何度も言うが、下手をすれば『何か』の二の舞だ。
《何なら、アタシが先に情報を提供しても良い。どちらにせよ、アンタには十分な見返りを約束するよ》
まぁ、『何か』の情報も必要だが……それはトーラス本社への提出用。
本命はネームレスへの『依頼主』。トーラス内部でも限られた者しか知らないはずの『何か』の存在を知っており、その排除を依頼した者。
その情報網を持つ者が誰なのか分かれば、利用……とは行かないまでも、今回の一件やミラージュについての糸口を見付けられるやも知れない。
しかし、だ。相手がこの要求を飲むかどうかは―――――
《―――――!!!》
その時、突如驚きを顕にするテレジア。
理由はこうだ。レーダーに映る敵影反応が一つ、増えたから。これは……高熱源体。
間違いなく『ネクスト機』だ。
《おい。またか》
ネームレスのリンクスのそんな一言で我に帰るテレジア。
何……『また』か、だと?一瞬ネームレスの友軍かとも思ったが、この反応は。
ネームレス自身にとっても予想外だと言う事か。
その謎の一機の位置は……入口、テレジア自身の背後から。つまり彼女が来た通路をまっすぐ、向かって来ている。
《一体何だい……》
テレジアは自機、カリオンを入口付近からネームレスの隣へと移動させる。
敵の敵は味方だ。いやまぁ、今のネームレスは明確に敵と言う訳では無いのだが……ともかく。
このネクストの隣に居れば何が起きても安心だろう……怪物自身に、いきなり喰われでもしない限りは。
《《……》》
実験場の中、ネクスト二機は仲良しこよしに横並びし『謎の一機』を待つ……
かくして、入り口に現れたのは。
《ほっ!何と、これはまた。予想外だ》
《……?》
ネームレスと良く似た色の、銀のネクスト機。
しかし似ているのはそこだけで、後は全くと言って良い程の別物だ。
非常に丸々しいフォルムをしたそいつは、紛うことなき重量機だったのだから。
そしてテレジアはそのネクスト機……正確にはネクストのフレームについて良く知っていた。
何故ならその重量機を構成していフレームは、彼女の所属している企業、トーラス社によって製造されている―――――『ARGYROS』だったから。
(……何だい、コイツは?)
しかし解せない。
トーラス社製品一式で構成されたそいつを、トーラス専属傭兵である彼女は知らなかった。
一体何者なんだ?カラードにはまず登録されていないだろう。しかもあの『円』を描いている様な背部兵装は見た事が無いが……?
……ネームレスのリンクス。そう言えば妙に納得、理解している様子に見える。
この者に聞けば答えてくれるのではないか。そう思った彼女は口を開きかけるのだが。
《……私だよ。久しいな、テレジア》
それより早く、彼女達の回線に丸々しいソイツが割って入って来た。
老齢の男の声。そして、その声を聞いたテレジアの反応がどうだったのかと言うと―――――
《―――――アァンタッ!!やっぱり生きていたねッッ!!!》
大声で怒鳴り散らかすやいなや、速攻でそのネクストに対し攻撃を開始。
《おいっ……テレジア少し待て……!私は》
《なぁにが、「久しいな」だい!?》
《だから話を……》
《ふざけんじゃないよ!アンタ、アタシがどれだけ……ここでくたばんな!!》
何やら老齢の男はテレジアを宥めようと必死だ。そんな最中、通信機には……
《……あ〜、知り合いだった。みたいだな》
このような若い声が響いた気もしたのだが。
しかしコジマミサイルを放つのに忙しい彼女の耳には、もう何も届いてはいなかった。
どうにかしてこいつを出したかった。シルエット重視ですみません。
未確認兵器の綺麗で細かい全体像が見たい方は、資料集を買いましょう。(販売促進)