絶対に死んではいけないACfa   作:2ndQB

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AC新作まだですかね。



第45話

エドガー視点

 

 

トーラス社保有の施設、B7。

ただの採掘施設であるはずのその場所で突如勃発した戦闘。『名無しの怪物』VS『エイリアン』。

 

どこぞの古いB級映画にでもありそうなあらすじ・タイトルだ。一見して「くだらない」と判断し、まず手に取ることはないであろうこのタイトルが――実は身の毛もよだつパニックホラー。

気の弱い方は視聴をおすすめしない。現役バリバリの戦闘員、屈強な体躯を持つ男性ですら緊張感で心臓が止まるところだったのだから。

 

「……フッ」

 

など、しょうもない事を考えていた『屈強な体躯を持つ男性』。エドガーは少し吹き出しつつ先日の戦闘について思い出していた。

あの中に割って入ることの出来る存在があるとすれば、それこそ『山猫』……その中でも最上位に君臨している『化け猫』の類くらいだろう。

少なくとも、だだの人間では決して混ざることの許されない領域だったことは確かだ。

 

さて、そんな恐ろしい場所で見事勝利を収めたのはどちらだったのかと言うと―――

 

「―――ネームレスだった、と。相変わらず彼は厄介な相手ばかりを引き当ててしまうみたいだねぇ。エドガー君?」

「の、ようです。自分の知る限りまともな戦闘相手はワンダフルボディだけに止まっているかと」

 

とある一室で両名が言葉を交わす。

エドガーの目の前で椅子に腰かけるこの男は、アスピナ出身でありながら何故かラインアークに居座る謎多き変人。天『災』アーキテクト。アブ・マーシュである。

 

相も変わらず白衣を怪しげに着こなす男は、くつくつと、面白そうに口を動かした。

 

「それは大変だ。君も毎回心臓がドキドキだろうねぇ」

「まったくです。何度心臓が止まりかけたことか」

「くっくっく……でもさ、多分これからはもっとそうなるかも」

「!」

 

男の雰囲気が変わった。いつものニヤニヤとした笑みは消え、声も少し低くなる。

なるほど、談笑はここまでらしい。「これからはもっとそうなる」と言うことはつまり……

何か分かったと言うことか。例の異形の兵器『エイリアン』について。

 

「君に依頼されていた『エイリアン』の素性について、いくつか分かったことがあるよ」

「この短期間で……さすがの情報収集力です」

「3日もあれば、そこそこの事は調べられるものさ」

 

……例の戦闘後、エドガーは『エイリアン』についての情報収集をマーシュに依頼していた。

トーラス社の『内部分裂の可能性』との情報を踏まえ、今回の案件はこれまでの任務に比べても秘匿性を高く保つ必要がある。故に、情報を他者に漏らすことは非常に危険性が伴うのだが……

 

どうしても知りたかった。

 

『エイリアン』。あの異形の兵器は一体何なのか。

これまでの相手も曲者揃いだったが、今回の敵については事前情報が無さ過ぎた。

ORCA旅団がアレとミラージュが関連する可能性を示唆していたと言うこともあり、エドガーは危機感を覚えていたのだ。

 

あの兵器。はっきり言って、強力すぎる。もしアレをミラージュが使用したとしたら……

 

「思うところは尽きないだろうけど、とりあえず僕が調べたことを話すよ」

「……お願いします」

 

エドガーは一旦、不安を心の奥底にしまう事にする。

 

この男の情報収集力は確かなものだ。

それが希望的なものでありまたはその逆であり、どちらにせよ有用なものには変わりがないだろうから。今は耳を傾けることだけに集中するべきだろう。

 

「そうだねぇ。まずはこれを」

 

そういって、マーシュはデスクの上に置かれたPCへとエドガーの視線を誘導する。

その画面に表示されていたのは……

 

「これは……確かアクアビット社製の」

「そう、さすがによく知っているねぇ。これはネクスト〝LINSTANT〟。現在のトーラス社の前身たる企業、旧アクアビット社で開発されたネクストフレームだよ」

 

〝LINSTANT〟。軽量ながら極めて高いKP出力・PA整波性能を叩き出す機体だ。

確か頭・腕・脚部はアクアビット製で、唯一コア部分のみがレイレナード社製の〝03-AALIYAH〟で代用されていたと思うのだが……

 

しかしそこまで考えたところで、マーシュは次の画像へと画面を切り替える。

 

「で、次にこれ。例の『エイリアン』なんだけど」

 

画像はネームレスが『エイリアン』を真正面から見据えた時のものだ。

どうやらかなり拡大してあり、中々に粗が目立つが……それを見たエドガーは即座に気が付いた。

 

「やっぱり気になるよねぇ」

 

そう。非常に気になる点が存在する。

 

「〝LINSTANT〟と『エイリアン』。コア部分以外の形状がよく似ていると思わないかい?」

「……これはまさか。そう言うこと、という訳ですか」

「まぁ、恐らくはね。つまるところこれは―――」

 

これは。

 

「―――〝LINSTANT〟のプロトタイプ、です、か?」

「おっと、僕のセリフが取られちゃったか。まぁ、の可能性が高いねぇ。〝LINSTANT〟はアクアビット社製のネクストではあるけど、知っての通りコア部分だけは〝03-AALIYAH〟と来てる。何かしらの理由でコアの完成にはこぎ着けなかったんだろけど……この『エイリアン』。どうやらその世に出回っていない『〝LINSTANT〟のコア部分』を使用している可能性が高い」

 

一瞬エドガーは考える。『〝LINSTANT〟のコア部分』……新造でもしたのか、と。

しかしながらネクスト機の部位を一から開発すると言うのは大量の資金と時間が必要なはずだ。

コアという最も重要とも言える存在なら尚更である。

 

ミラージュが関わっているとしても、昨日今日でハイ作ろうで完成するとは思えない。

 

となると

 

「これは『過去の産物』の改良型、と考えてもよろしいので?」

「ほぼ間違いないだろうねぇ。この『エイリアン』、そもそも作られていた・作りかけだったものを引っ張り出して現代のコジマ技術で蘇らせた代物なんじゃあないかな。最悪、図面・人手さえあればパーツを作って組み立てるくらいなら出来る。まぁ『過去の産物』たる一番の決め手は……この子の外見。少し整っていない印象を受けるよ」

 

エイリアンを『この子』扱いするとは、いやはや何とも恐れ入る

 

「ネクスト機が開発されてから数十年……今と比べてみては洗練具合が違う、と」

「まぁそう言うこと。で、次に例の防御力・その他もろもろビックリ兵器について」

 

来たか。エドガー自身最も気がかりな部分の話だ。

 

「いやぁ、『アレ』はすごかったねぇ。記録を見てて思わず飛び跳ねてしまったところさ!」

「アレ……思い当たることは多々ありますが」

「じゃあまず例の両の掌からのレーザーブレードについてだけど……あれは厳しいねぇ。出力を高く見積もり過ぎて、自分が動けていないよ。つまるところEN不足。そして使用と同時に伸ばされた両腕が段々と自壊していっている」

 

見てごらん、とPC画面に先日の戦闘記録を映し出される。

映像は編集されており、『エイリアン』の腕部分を拡大したものを繋ぎ合わせている。

……なるほど、見やすい。スロー再生で尚且つ画面の粗を可能な限り取り除いているらしい。

 

先日は気が付かなかったが、映像の『エイリアン』は時間経過ごとに段々と両腕から多くの火花や電流をほとばしらせている。更に言えば……何だこれは。

装甲が弾け、剥がれ落ちてきているのか。溶けているようにも見えるが……

 

暫く食い入るように見た後に、映像が止まる。

 

「見た通り、いろんな意味で出力過多。少なくとも実戦じゃあ使い物にならないだろうねぇ。と、言うか恐らくはB7以外ではこの出力を維持出来ない。この子のコアにはパイプが繋がれていたと思うけど……まぁ簡単に言うなら施設の電源ありきで出来た芸当だよ」

「と、言うことはあのPAも」

「うん。きっとこの子単体ではあのKP出力は維持出来ないだろう。つまるところ、完璧な兵器なんてものは存在しないと言うことさ」

 

 

エドガーは大きく息を吐いた。

そうか、と。アレがそのままの性能で現れることは無いのだな、と。

何せゼン自身が言っていた。先の性能のアレをミラージュが操ったら、厳しいものがあると。

 

さすがにアレは反則も良いところだ。攻撃が通らないのでは対処のしようが……

 

「ただね」

 

エドガーの気が少しばかり緩んだ次の瞬間、マーシュがそんな言葉をつぶやいた。

……やはり、ただでは終わらないか。まぁそんな気はしていたが。

世の中そう上手くことは運ばない。ゼンのミッションに同行していれば嫌でも分かることだ。

 

「ただ?」

 

不安げに言葉を返す。願わくば、そこまで悪い情報ではない事を願いながら。

 

「僕が言ったのはあくまでも『そのままの性能では出てこない』と言うことだ」

「……多少は性能が落ちたとしても気は抜けない、と」

「そういう事。あそこまでの出力を維持できないにしても機構はそのまま残っている可能性が高い。例えるなら両腕のレーザーブレードなら、威力は大幅に下がってはいるor出力維持は出来ないものの……一瞬刀身を出すだけなら問題ない、とかね」

「まるで格納ブレードの類……ですね」

 

やはり油断は出来ないか。

 

そうだ、ともすれば自壊覚悟で一瞬だけなら超出力ブレードを使用することも考えられるのだ。

例の刀身の長さを考慮するに、間合い管理は常に徹底、頭に入れておくべきだろう。

気を抜いたところにアレを放たれたら……と言っても、実際に戦うのはゼンだ。あの男が気を抜くなどありえない話ではあるのだが。

 

「ねぇエドガー君。君の考えるこの子の最大の不安要素は……」

「超硬度PAです。いくらなんでもアレは……もう一度お聞きしますが、『性能そのまま』で現れる可能性は極低い。これに間違いは、」

「ああ。それはほぼ確定なんだけど」

 

確定だけど何だ?

 

「あのさぁ、話を戻すけど。僕がさっき話していた〝LINSTANT〟のコアの開発について……」

「『〝LINSTANT〟のコアが世に出ていない理由は不明』、でしたか」

「そうそう。その理由ね、僕は何となく見当がついているのさ」

「……まさかその理由と『エイリアン』のPA機構とで何らかの関係が見受けられるので?」

 

マーシュはにやりと口元を歪めた。

それを見たエドガーは思う。やはりこの男に情報探索の依頼を行っていて正解だったと。

ことネクスト機に関する知識(情報)では、他の追随を許さないのではないだろうか?

 

「これは一般にはほとんど知られていない事なんだけど……ネクスト機のPA機構ってさ。開発初期の構想と、最終段階のそれとは大きく異なっていたんだ」

「具体的にはどのような違いが?」

「防衛機構は『前面』のみだった」

「!!」

 

PAが『前面』のみだと?しかしそれだと……

 

「まぁ正確には『前面に重きを置いていた』とでも言った方が良いねぇ。ともかく今の様に『全ての方角からの攻撃を万遍なく防ぐ』ことは視野に入れられてなかった。技術不足と言うこともあってね」

「最も攻撃を受けるのは機体正面。確かに理にかなっては居ますが、出来ることなら全方向からの攻撃を守りたい」

「だろう?まぁ技術の進歩と共にその願いは叶うこととなる。ほぼ全ての企業は『前面防御』から『全面防御』に開発方向をシフトチェンジだ。読み方が同じで分かりづらいけど……汎用性は全く違うからねぇ」

 

こんがらないようにジェスチャーを交えながら話すマーシュ。

……確かに。前面防御特化だと後ろを取られた時のリスクが非常に大きい。

背後を取られやすい重量機体などは特に。常識的に考えるなら現在主流のPA機構の開発に躍起になるだろう。

 

「で、ここまで話したところでこのエイリアンちゃんの画像。コア部分に注目して見よう」

「……『多い』ですね」

「ねぇ。この子のコア『前』部分。PAの整波装置が異常に多い。パッと見分かるだけで、剥き出しのソレが『6つ』も前半分に集中している。手足に比べてコア部分も大きいし……映像で詳しいことは分からないけど、更にコア内部にも整波装置を組み込んでいる可能性もある」

 

 

【挿絵表示】

 

 

なるほど。ここまで言われれば分かる。この機体はつまり……

 

「アクアビットは、前時代的なPA機構の開発を進めていた」

「らしい。恐らくアクアビットは前面の防衛機構にこだわっていた。まぁ彼らは変わり者だからねぇ……でもそんなものを開発したところで周りは皆『全面防御』だ。完成したとしてもそもそも汎用性の低さから売れない。だって背後を取られないネクスト機なんて居ないし。どんな戦場でもそんな超機動を行えたら人間じゃない」

 

エドガーは冷や汗を流す。

背後を絶対に取られないネクスト機など存在するはずがなかった。

常にQBを使用する位のありえない機動を行わなければそんなことは出来ない。

 

そう。そんなネクストは居なかった。『今まで』は。

 

「……コアが世に出なかった理由・機構については把握しました。確かに先日の戦闘で『エイリアン』は正面からの攻撃をほとんど無力化していた……しかしそうは言っても奴は」

「これを見てごらん」

 

エドガーの言葉を遮ると、マーシュは次の映像に切り替えた。

これは……ネームレスが敵機の背後に繋がるパイプを破壊した直後の映像。

その立ち位置的に『エイリアン』を真横から見た格好になっているが……

 

「これ、パイプを破壊してブレードは消失。PAはその出力(膜)が弱まっているように見える」

「……実際弱まっているでしょう」

「確かに。でもここで注目して欲しいのはPA全体では無く『PA前面』」

 

前面だと……?

 

「これねぇ。アングル的に分かりづらいけど、PA前面……あまり弱まっていないね」

「前面のみ、が?そんな」

「見てごらんよ。サイドから後方にかけての濃度・厚さと前面のそれ。明らかに迸る電流の量に差がある……戦闘終了直後で、注目が行くのは視界前方(アングル的にエイリアンのサイド)・そして破壊したであろうパイプだ。まぁリンクスの視点だとその時は『全体的にPAが弱まった』と錯覚してもおかしくはない」

 

実際、リンクスの視点で見ていたエドガーはそう思っていた。

パイプを破壊し、PA膜は弱まっている、と。常識的に考え前方のみの防衛が強化されているとは考えないということもあり、その思い込みは強まった。

 

「加え、その数秒後の『自爆』。インパクトは絶大だ。まずコア前部への注目はいかない」

「……即座に自爆したことに関しては、コアの『前面防御』についての情報を与えないために行った可能性も考えられます、ね」

「ま、敵はゼン君だけじゃないし。証拠隠滅としての様々な意味合いがあるだろうねぇ」

 

全くもって素早い判断だ。ネクスト機を動かしていた『誰か』は中々に優秀らしい。

しかしながら、ここまでの情報を踏まえるに……

 

「なるほど……全方向では無くなったものの、『エイリアン』は前面防御のみはそのまま。もしくはそれに近しい可能性がある。そして威力はどうあれブレード機構も残っている可能性が高い」

「だねぇ。他にも何かしらの機構がある可能性はあるけど……情報はそこそこ得られたんじゃないかな?僕としてはもっと調べたかったんだけどねぇ。いかんせんちょと厳しめだよ今回のは」

「いえ、本当に助かりました。貴方が居なければ対策を立てることすら難しかったでしょう」

 

本当に助かった。これだけの情報が得られれば多少は……ゼンの負担がマシになると思うのだが。

しかしながらどうしたものか。前面のみの硬さだとしても、ミラージュから背後を取るのは至難の業だろう。過去の戦闘記録を振り返ってみるに、少なくともミラージュはネームレス以上の速度を有しているように思われた。

 

まぁ、それはあの時点での話ではあるのだが。

 

『エイリアン』はミラージュの……なんだったか、『テンプレ機体』だったか?よりも機動力特化なのか?とても素早そうには見えなかったが、いやしかし実際動いていないからなんとも……

 

「エイリアンちゃん。恐らく乗るのはミラージュなんだろう?側面・背後を取れるのかい?」

「……分かりません。現状ネームレスの装備は対PA効果が薄いこともあります。此方側の機動性が下回っていた場合は……」

「ふむ。武装問題はあるだろうねぇ。マシンガンやショットガンだったりの超瞬間火力を用いて一瞬でPAを減衰させる位の準備は必要かな?可能かどうかはおいておいて、正面突破が必要な場面に迫られることも考えておいた方が良いだろうね」

 

確かに。備えは必要だろう。

ライフルによる正面攻撃はほぼほぼ無力化されてしまっていた。武装を変えた場合の可能性は……

……だめだ。エドガー自身としては、どうしてもアレが減衰するイメージが湧かない。

 

可能な限りの機体速度は必要。更に並みの火力ではだめだ。どうする?どうすれb

 

 

「アブ・マァァァシュ!!!」

 

 

エドガーが対策に没頭していた最中、突如その様な叫び声が部屋の外から聞こえて来た。

あまりに突然の出来事に目を点にするエドガー。マーシュの方向を見て見ると……なるほど今回はこの変人も事態を把握しきれていないらしい。「え?僕?」と自分を指さし困惑している様子だ。

 

直後。バァン!と言う大音量と共に勢いよく扉が開く。

 

かくしてそこから現れた人物は

 

「俺は良いことを考えたぞ!」

 

黒髪黒目のやけに興奮している様子の男性。そして、

 

「ゼン!もうすこしゆっくり歩き……」

 

金髪碧眼のやけに疲労している様子の女性。つまり。

 

「ゼン……!?」

「と、フィオナちゃん?」

 

今やラインアークの有名人である二人だ。何だこれは。

何をこんなに楽しそうにしているんだこの男。何時もと違う形相のゼンに少しばかり不安になる。

本当にどうしたと言うのか。何か良い事でもあったのか?と、言うか「良い事を考えた」だと。

 

まるでどこぞの天災アーキテクトの様な口ぶりだが……

 

「どうしたゼン。ちょっとおちt」

「皆の者!良く聞いてくれ!」

 

だめだ聞こえていない。よほど『良い事』を考えたらしい。

まぁこの男がここまで喜ぶのはあまり見られた光景ではないし、少し話を聞くのも悪くは……

 

 

「俺は『プロトタイプネクスト』に乗るッッ!!」

 

 

エドガーは吹き出した。しかしそれは彼だけでは無かったが。

 

 


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