絶対に死んではいけないACfa   作:2ndQB

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第47話

ORCA視点

 

面倒な事になった。

 

「どうだ。何か情報は得られたか?」

「いえ。今のところそれらしき情報は得られては……」

「そうか。警戒態勢は引き続き維持しておけ。何かあったらすぐ私に伝えろ」

「了解しました」

 

ORCA旅団副団長「メルツェル」は執務室から部下を追いやると、一人、小さく息を吐いた。

 

「……」

 

そして改めて考える。本当に、面倒だと。

……先に言っておくが彼は生来の『面倒くさがり』ではない。むしろ面倒が必要だと判断すれば、自ら進んでそれをこなす程度の器量は持ち合わせている。

 

冷静沈着・頭脳明晰、敵に回すとそれこそ面倒な男。

 

だからこそ副団長と言うポジションを任されている訳でもあるのだが……

先のため息から分かるように、今現在、そんな彼が『非常に面倒』だと判断している案件がある。

それが一体何なのかと言うと。

 

「先を越された、か」

 

そう。先を越された……可能性が高い。

 

『ミラージュ』に。

 

「EU第6支部……」

 

メルツェルの呟いた言葉。正確には『トーラス社、EU第6支部』である。

この第6支部……何を隠そう、ORCA旅団がミラージュの潜伏先として睨んでいた施設なのだ。

先日の『エイリアン』製造事件の後、帰還したネオ二ダス……銀扇はこう話していた。

 

『テレジアの奴もそう睨んどった』

 

と。言うまでもなくミセス・テレジアは現役のトーラス専属リンクスである。

彼女がそう予測していと言うこともあり、メルツェル自身、その信憑性は高まったと判断した。

故に、ネームレスによる『エイリアン』破壊の後のリアクションを見れば更なる核心に迫れると踏んでいたのだが……問題が発生した。

 

何と、その第6支部がオーメルの飛行部隊に急襲されたのだ。

 

それまでにオーメル内部のORCA構成員からは飛行部隊に関する情報は一切入ってきて居ない。

更に言うのなら、この出来事はエイリアンを破壊してから『24時間以内』に発生しているときた。

つまるところ、完全に予想の範疇外の事態である。

 

「……」

 

トーラス第6支部は辺境にある……言っては何だが、さほど重要では無い施設だ。

もっと言うのなら、誰の目にも止まらないような『左遷組』の集まる場所。

こんな辺鄙な場所に何を求めて『襲撃』なんぞを仕掛けるのか。普通なら理解に苦しむところだ。

 

派手な戦場ならもっとある。今回の出来事は世間的にも全くもって認知されていないだろう。

故に出回る情報も少なく、縁のある戦場ジャーナリストとの連絡も徒労に終わっている。

 

……しかしながら、だからこそ一つの確信を得られた。

 

「やはり、か」

 

『ミラージュ』はあそこに居た。オーメル社の反ORCA……現状『維持派』とでも呼ぼうか。

その者達は自分達よりも早い段階でその確信を得ており、今回の行動へと至ったのだろう。

……しかしながら先ずそこまで考えた時、メルツェルはある違和感を覚えることとなる。

 

そう、余りにも準備が良すぎたのだ。

 

今回のオーメルの行動。飛行部隊の準備は秘密裏に進められており、そしてあまりに速すぎた。

単にタイミングが良かった、で片づけられる問題だとは到底思えない。

そこでメルツェルはとある仮説を立てる。それは……

 

「オーメル『維持派』と『トーラス第6支部』。この両者、繋がっていたのではないか」

 

これである。

 

……突拍子も無いだろうか?メルツェル自身、初めはそう思った。

これまでミラージュの存在については全ての企業が注意深くマークしていた。それはオーメル社とて同じであり、『維持派』の者達もそうだっただろう。

あの狼狽えぶり、とても老人たちが演技をしていた風には見えなかった。

 

しかしながら……言い方を変えよう。維持派の中でも更に細分化された、『特定の連中』。

 

これならどうだろうか。

 

「……『ウルスラグナ』」

 

メルツェルは思い出す。しばらく前、『スプリットムーン』が出た戦場での出来事を。

ギアトンネル内、今現在オーメル陣営管轄の地で突如現れたアームズフォート……

ウルスラグナ。アレは確か製造元は『旧アクアビット+旧GAE』だったか。

 

要するに現在のトーラス社の母体となった企業の代物である。

 

果たして、何故そんな代物がギアトンネルに現れた?旅団にも少々予想外の事態だ。

戦闘から帰還した真改からその話を聞き、また戦闘記録を見た時には少しばかり驚いたものだ。

まぁその時は「ただ驚いただけ」に留まっていたのだが……

 

今現在は違う。

 

「似ていた、か」

 

そう。似ていた。

 

ウルスラグナの前面『二枚目の隠しPA』と。エイリアン正面の『超硬度PA』。

PA生成範囲の規模こそ違うものの、見比べてみるとその迸る電流の量、推測される『厚さ』。

それらが非常に酷似していることに気が付いた。

 

そして更に思考を巡らせる。今回の一件と、その過去の一件。どうにも臭う。

ともすれば例のウルスラグナはエイリアンの超硬度PA生成に関わっていたのではないか?と。

つまるところ……今回の『飛行部隊による急襲』。ミラージュ側によって仕組まれた……

 

「……面倒だ、な」

 

そう。そうなって来ると、非常に面倒だ。

 

しかしながらこの考えで行くと、これまで起きた様々な事に『納得』出来てしまう。

例えば、何時だったか……ネームレスとミラージュの初戦闘が起こった時の話だ。

その戦闘はまさに『化け物』達の食い合いだった。流出した映像はそれを見た全ての人間を恐怖に陥れた事だろう。特にミラージュ。居場所が分からない・AF襲撃犯だと認知されていたこともあり尚更に。

 

これにより、ネームレスは結果的に企業側から『安全装置』としての地位を確保した。

 

「……」

 

さて、問題となるのは何者かがこの映像を大々的に『流出』させた目的。

それについてメルツェルは今現在こう考えている。「大衆に恐怖心を植え付けるため」と。

まぁ、この仮説通りなら流出目的は大成功だ。恐らく予想以上の結果が出て万々歳と言ったところではないだろうか。

 

それで、だ。その結果一番恐ろしい目に遭う企業が存在している。

犯人探しの被害に遭った、可哀想な大企業。

 

オーメル・サイエンス・テクノロジーが。

 

「……」

 

皆にネームレス&ミラージュの『組織』との繋がりを疑われた彼らはどうする?

何かしらの態度を示さなければ周囲の追及は止まらない。

そう。例えば居場所の分かる怪物、ネームレスへの攻撃など……

 

嫌だろう。考えるまでもない。ランク1を使って、勝ち目のない作戦に赴くなど。

下手をすれば多大な損失を被る可能性すらあるのだから。いやまぁ、実際にORCA旅団との提携関係によりランク1は『生死不明』となることが決定づけられているのだが。

 

とにかく、無駄の一切を嫌う性質でもある彼らにとって、今回のラインアーク直接攻撃は屈辱だ。

誰でも良いから、助けを乞いたい気分だろう。それこそ諸悪の根源。

 

 

「ミラージュ」

 

 

蜃気楼だったとしても。

 

トーラス第6支部……ミラージュが、彼の回収を『オーメル特定』連中に依頼していたとしよう。

さて、どうなる。今現在の世界最高峰戦力がオーメル『維持派』へと手に入るチャンスだ。

怪物達の『組織』と繋がりを疑われている彼らではあるが、今回の一件、断る筈がない。

 

この世界は力こそが正義。

 

ミラージュさえ手に入れば、今回の『ラインアーク直接攻撃』は大いに勝ちが狙える。

いや、そもそもの話ミラージュはトーラス社から引き取った形になる故に『かかわりの深い企業はトーラス社だった』との言い訳すら可能になってくる。

 

周囲の企業も大きな口を叩けなくなるだろう……

 

「……」

 

トーラス本社の者達はORCAの思想に理解を示しているだけあって、これは大きな痛手だ。

今思ったが、トーラス第6支部の連中は『左遷組』故に本社の命に背いた、つまりは『現状維持』を支持する者の集まりだった可能性もある、か。

 

「厄介な」

 

それに加え……ミラージュが企業側に渡ったという事実があれば。

 

ネームレスの『安全装置』としての役割は消える。

 

恐怖の対象は一変して、ミラージュからネームレスへと変わる可能性大だ。

戦闘記録を流出させさこともあり、多くの企業関係者……それこそ名も知らぬ一般人、『大衆』の手によりネームレス糾弾へと流れが変わってもおかしくは無い。

 

……ラインアーク(反体制)所属という事実により、それに更に拍車がかかる事も予測される。

 

「切れる」

 

これはまだ、あくまでもメルツェルの予測でしかない。

しかしここまでの流れ、もしこの通りになるとすれば……ミラージュ。中々の切れ者だ。

一体いつからこの計画を考えていたのやら。願わくば、この予測が外れてほしいものだが。

 

「あ、あの……!」

「メルツェル様!」

 

そこで、執務室のドアがノックされる。

声の主から察するに、女性・人数は二人か。先ほど部下を退出させたばかりだと言うのに。

しかしながらこの慌てようは……

 

ついに来たか?有益な情報が。

 

「入れ」

 

声をかけると同時、ドアを開けた二名が緊張した面持ちで室内に踏み入れる。

……よほどの一大事の様子だ。

 

「有益な情報は得られたか?」

「は、はい。では私の方から……」

 

向かって左の女性が、顔を青くしてこう告げた。

 

 

「み、ミラージュが。今しがたオーメル名義で『カラード』に登録されました……っ」

 

 

最悪だ。最悪の状況が実現したと言っても良い。

つまり先ほどの予測、おそらくほぼ全てがメルツェルの予測した通りに事が運んでいる。

ミラージュ……ついに表に出て来たか。しかも企業側に与するなど。

 

反企業。ORCA旅団にとっては死活問題だ。

アルテリア施設への襲撃は、アレが出て来た時点で終了したも同然。

 

「そうか」

 

メルツェルは冷静に努める。

 

一応のところ、この時に備え『昨日』に手は打ってある。

ラインアークからの直通電話。もっぱらフィオナ・イェルネフェルトから掛かってくるそれに、例の『名無しの怪物』が出てきたのだ。

 

どこから情報を手に入れて来たのか、『プロトタイプネクスト』を貸せとの話だったが。

 

あの時即座にそれを了承したのはこうなった時の為でもある。

ミラージュが表に出なかった時ならまだしも、正式に企業所属となった今、奴はほぼ確実にアルテリア襲撃時に現れるだろう。

つまり今度のラインアークでの作戦時、ミラージュを葬れなければORCA旅団に未来は無いのだ。

 

だからこそ切り札をネームレスのリンクスに明け渡した。それこそネームレス用の武装も。

少々注文過多ではあったが……それに、あの男の言う『良いことがある』が気になったから。

良ければ今度の作戦時までにその『良い事』が起こると良いのだが……

 

「それで、そちらの方は」

 

ミラージュの方は気になるが、もう一人の部下の方へと問いかける。

まさか、二人とも同じ案件で来たわけでもあるまい。

 

「はい。私の方ですが……この端末を」

「これは」

「ラインアークへの工作員、ラスターの端末から……ネームレスのリンクスと名乗る者が」

「何だと?」

 

ネームレスのリンクス……ゼンか。昨日、奴の要件は話し終えたはずだろうに。

しかもラスターの端末からなど。イェルネフェルトに渡した物からではいけなかったのか。

そもそもラスターの端末を手に入れるとは、つまり正体を見破られたという訳……か?

 

しかもこのタイミング……疑問は尽きないが、とにもかくにも出てみなければ話にならない。

 

「私だ」

《昨日ぶりだな……手短に話そうか?》

「ふっ。少々『長め』でも構わん」

《そうか》

 

現状について、少し話をしておきたいことが……

 

《ORCA旅団に入れて欲しいと思ってな》

 

……何だと。この男、まさか今。

 

「何を考えている?」

《ラスターの爺さんにも似たようなことを言われたがな。まぁ何だ。アルテリア施設の件だ》

「約束は守る主義だ」

《疑っている訳じゃない。ただな、俺はそれがどうしても欲しい。だから待つのは辞める》

 

……アルテリア施設がどうしても欲しい、だと?

まさかとは思うが、ラインアークへの貢献と言う話では無いだろう。

ラスターの端末を使用していることから、この男が個人的に動いている事は確かだ。

 

単なる隠れ蓑に過ぎないラインアークの為に彼がここまでするとは思えない。

まさか彼らの『組織』が欲しているのか。

何の為に欲しがっているのかは分からないが……しかし。

 

これは大きなチャンスだ。そうメルツェルは考えた。

 

ここで『組織』に恩を売っておけば後々役に立つときが来るかもしれない。

そもそも、このタイミングでこの怪物が旅団に参入してくれることのメリット。

 

計り知れないものがある。

 

「これが昨日の通話で君が言っていた『良い事』という訳か」

《そうなるな。戦力として不安か?》

「申し分ない。ただ、条件がある」

《何だ》

 

そう。一つ条件がある。

 

「例の作戦時、必ず生き残って見せろ」

 

これが出来なければ話にならない。

 

《ハナからそのつもりだ》

「それは良った」

《それとだ。それにあたり俺はラインアークを抜ける》

「ほう。迎えは此方で用意しておこう。時期の指定は?」

 

メルツェルの言葉に少しの沈黙が訪れるが……

 

《今すぐには出来ん。しかしそう長い事待たせるつもりも無い》

「なるほど。連絡は追って頼む。可能な限り速やかに、な」

 

良い傾向だ。まさに光明が見えた、とでも言うのか。

 

これなら例の作戦時にミラージュを必ず潰す必要は無くなる。

最悪あの場ではアレを撤退させることが出来れば良い。

当然、面倒事は早めに処理するに限った話ではあるのだが……ネームレスさえ無事ならば、やりようは幾らでもある。

 

「ところでネームレスのリンクス。ミラージュに関する新情報が入った」

《情報?》

「奴はカラードに正規登録されたらしい」

《おいおい……冗談はよせ》

 

それが何とも、面白くない事に。

 

「冗談ではない」

《何時頃に登録された?》

「今しがた、だ」

《それはつまり―――》

 

ネームレスのリンクスは口を開きかけるが、

 

 

―――《(おい!ゼン!大変だ!)、(ゼン!居るのでしょう!扉を開け……)》

 

 

そこで通話口から聞こえる聞き覚えのある声達。なるほど。

 

「ここまでのようだな」

《らしい。もう少し話を聞きたかったが》

「今から其方に来る『正規の端末』に連絡を取るとしよう」

《クック……なるほど。では、また後ほど》

 

怪物との通話終了。

 

さてさて……

 

「これを返す……喜べ、光明が見えた」

「!!」

「本当ですか!」

 

メルツェルに下らない嘘をつく趣味はない。

それを部下たちも分かっているのだろう。先の表情から一転、明るいものへと変化する。

 

「詳しい事は後ほど、まとめて皆に伝える。私はこれから少し連絡を取り合うのでな」

「はっ!」

「それでは、失礼します!」

 

そう言って室内から出ていく部下二名……その姿を見送りつつ思う。

 

どうして中々、世の中悪い事ばかりは起きないものだな、と。

 

 


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