絶対に死んではいけないACfa   作:2ndQB

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第49話

主人公視点

 

ネクストごと輸送機に乗り込んで、どれ位の時間が経過しただろう。

 

《間もなく作戦エリア上空。ゼン。最終確認をするぞ》 

 

コクピット内に、エドガーさんの声が響いた。

 

《依頼主はGA社。今回のミッションは、インテリオル輸送部隊によるレッドバレー突破を阻止することだ》

 

ええと……『レッドバレー』は、複数の輸送ルートが各所で交錯する、古い交通の要衝。

 

これまで戦ってきた土地と似て、そのマップには砂漠が広がっているが……イメージとしては、『元々砂漠化していた土地に道路を作りましたよ』みたいな、そんな感じ。

あと、名前にもバレー(valley)ってあるように、最短ルートでは道路のすぐ傍には高い壁が、所謂『谷壁』が存在している。で、その谷の上だったり各要所にはGAのノーマル部隊だったりが待ち構えているという訳だ。

 

ちなみに今までの説明から何となく分かっているとは思うけど、レッドバレーは今現在GAの勢力下にあると言う……まさに、なぜこんな危険な場所を通ろうと思ったんだお前達、状態である。

 

《……壊すなよ?》

《『中身が見たい』か。まぁ、今の時期にインテリオルのこの行動だ。GAが気にかけるのも頷ける……と、言うか俺も気になる。危険を犯してまで、一体何をせっせと運んでいるのか》

《ミラージュ関連の何か、だったりしたら事だが》

《ハッ。インテリオルからオーメルへの差し入れか?菓子か何かだと良いがな》

 

まぁ無いやろ。と思いつつ冗談をと飛ばす。

全く勘弁してくれ。オーメルとインテリオルって一緒にAF作っちゃうこともあったし、ミラージュにこれ以上変なの送られたら堪ったもんじゃないぞ。

 

《なぁ、ゼン》

《何だ》

《存在を臭わせて説明はされてはいたが。現れるのは誰だと思う?》

《インテリオル系列……『レザネフォル』だったら面倒だ》

 

ネクスト、レザネフォル。リンクスは『スティレット』さん。

本編中じゃあまり関わることのなかったネクストだ。あるとすれば、とある重要な任務で僚機として雇う選択肢があるくらい。ただあの人の何が面倒かって、搭載武器がENオンリーな事。

 

僕の機体はね。EN防御カスだからね。グレートウォール戦の二機も激ヤバだったけど……

もう来ないよね?あの人達ともう一回とかマジやめてね。ってかインテリオルに曲者多すぎる。

 

《レザネフォル……現存する『オリジナル』の頂点か》

《まぁ、そうなってくると、ある意味で輸送物資の方は当たりではあるがな》

《インテリオルの出方次第で、重要な任務かどうかの判断はつくと》

《そういうことだ。最近は妙な連中ばかり相手にしていたからな。少しは休みたいものだが》

 

言っておいて何だが、じゃあ受けんなよ!って話だよね。

いやっは~でもGA社には弾薬だったりその他もろもろですっごくお世話になっているからさ。

それにこの間だってグレートウォールの防衛に失敗しちゃったし断りづらいと言うか。

 

ところで。

 

《エドガー。僚機の方は》

《既に到着済みだ》

《『セレブリティ・アッシュ』か》

《GA曰く、今日はタイミングが悪かった、と。お前さんが確定で来るなら、奴に依頼は出さなかったろうさ。ま、お前さんは渦中の人物だ。ラインアークから出るとは思わなかったんだろう》

 

俺達はORCA旅団と連絡を取り合っているから、オーメルの目立つ動きはだいたい分かってるし。

留守の間に突然ラインアークが攻撃されるなんてことはまずないだろう。そもそも、相手の目的はホワイトグリントと同時に俺をぶっ殺すことだろうし、まぁ大丈夫でしょ。

 

いや大丈夫じゃないんだけど。怖すぎるんだけど。とにかく今は安心ってことよ。

 

《タイミングが悪い、か。インテリオルの動きは突然のものだったらしいしな。流石に動ける者は限られるか》

《自社ネクストも他の任務に就いているんだと。そこで仕方なく……らしいぞ》

 

GA社のセレブリティ・アッシュへの評価が辛辣すぎる。仕方なくって何だ仕方なくって!

リンクスの『ダン・モロ』君は頑張り屋さんでしょうがぁぁぁ!!

僕は彼を応援していますよ。てか、彼の事を嫌いなプレイヤーって実は少ないんじゃない?

 

《――――ゼン。作戦エリアに到達した》

 

エドガーさんからの通達。OK。気を抜けるのはここまでだな。

 

《今日も存分に遊んで来い》

《楽しめると良いが》

《なぁ。ところで、今度皆と久々に飯でもどうだ》

《……フッ》

 

いや、ホント。エドガーさん。

 

《良いな、それは》

 

是非ご一緒させて頂きます。

 

 

――――ガゴンッ!!

 

 

そんな俺の言葉を合図と取ったのか、勢いよく、輸送機下部のハッチが開かれた。

瞬間、今まで暗かった視界の中に眩いばかりの光が侵入してくる。

そして、それとほぼ同時に……地に足のつかない、言いようのない浮遊感。

 

ああ、この感じ、始まったんだな。

 

《ククク……》

 

毎回ながら、この非現実的な感覚を妙に受け入れている自分が何やら可笑しくてたまらない。

そして、それから更に数秒後。視界は、完全に開かれた。

搭乗していた輸送機からネクスト機が完全に投下されたのだ。

 

まず見えたのは空。青々としており、どこまでも吸い込まれそうなほどに天気は良い。

 

そして、視線を下へと向けると……これは凄いな。

『池』だ。巨大な池が、眼下には存在していた。茶色に染まる台地の中にぽつりと存在するそれはさながらオアシスのような美しさであり、また、その池を半分囲むような形で存在する巨大な谷壁は、何とも荘厳な自然の情景を作り出していた。

 

枯れ果てた台地には当然の様に『緑』は存在していなかったが……それでも、この光景は―――

 

《おっと》

 

いかんいかん。観光しにきたんじゃないんだ俺は。

ブースター使ってバッチリ姿勢制御を取って……どうやら機体に問題は無さそうだな。

さて、眼下にどんどん迫ってくる巨大な池を眺めつつ、チラリとその周囲を更に観察する。

 

景色にばっかり気が行ってたけど、やっぱり要所要所では部隊が展開されているな。

どうやらマップ自体は原作の構造と大して違いは無いみたい。良かった良かった。どこに何があるのか事前に把握できているのはデカいからね。

 

で、だ。

 

《……よし》

 

到着。湖の真上に。

ふふ……ちょっとかっこ良くない?こう、水面に浮かんでいると何か強そうに見えるんじゃね?

ちゃっかりポーズなんかも取っちゃったりして……いや、さり気なくよ。さり気なくがポインt

 

《あ、あの》

 

俺がそんなアホみたいな行動にテンションを上げていたその時、機体に通信が入ってきた。

お、おお。この声は……

 

《セレブリティ・アッシュか》

《! あ、ああ。そうだ。俺だ》

 

うおおお。ダン・モロ君!初めまして!

 

《ネームレスのリンクス。ゼンだ。よろしく頼む》

《あっ、俺はリンクス、ダン・モロ……です》

《合流するか》

《あ、ああ。場所はトンネルの方……って、分かるよな。レーダーで、はは……》

 

やべぇ何だこれ。ダン君めっちゃ緊張してますやんか。いや、そんな畏まらなくても。

こんなん本当なら俺が緊張する側だからね。君みたいな本物のリンクスと喋れるような人間じゃないからね俺は。

 

かくして移動を開始する俺。やがて、セレブリティ・アッシュの元に到着する訳でなんだけど……

 

《うわっ》

 

うわってなんだ、うわって。人の機体見るなりこの反応はちょっと悲C。

 

《ふむ。しかし》

 

なるほど。トンネル前の防衛部隊の数は原作と完全に一致しているな。ノーマル×3、砲台×4。

そしてそこからいくらか離れた崖上のところにミサイル搭載車×2、MT×3……配置されている部隊の数については、今のところ原作との違いは見られない。あいや、ネクストが一機いるんだけど。

 

つっても、まだここだけしか確認していないから何とも言えないか。

 

《あ、あの。さ》

 

俺に見られるのが居心地悪かったのか、ダン君が話しかけてくる。いやごめん!ちょっと確認を。

 

《アンタが来るってことは、その。何か、ヤバい……の?》

《どうだろうな。すまんが少し全周波のオープンチャネルに切り替えるぞ。エドガー》

 

エドガーさんに合図を送る。すると……どうやら切り替わったらしい。

 

《あー。あー。ここら一帯のGA部隊、聞こえるか》

 

《お……っ!》

《ネームレスの!?》

《おいちょっと貸せ!》

《はい。こちら地点Dに展開されている―――》

 

大丈夫みたいだね。じゃあ話すわ。

 

《各配置の防衛部隊の数を教えてくれ》

 

はい。まぁエドガーさんに頼めば一瞬なんだけど。

俺が本当にやりたいのはこの人たちとのコミュニケーションだから。何かあった時に現場の人の報告はすんごく大事だし。さてさて…

 

《―――こちらは以上です》

《そうか》

 

各部隊との配置確認終了。

 

結果。変化なし。俺の記憶している部隊数と完全に一致していますねぇ……

弱体化すらしていないってのが気がかりだな。今までの傾向上、自陣営が弱体化しないってのは良くない事の前兆だ。これは伝えておいた方が良いかも。

 

《全員良く聞いてくれ。今回、ネクスト戦が展開される可能性が大きい》

《!》

《やはり……》

《噂は本当、か》

 

ん。なんじゃ、皆さん方も何となく予測できてたのか。

 

《え!?聞いてないぜそんなの!》

 

ダン君は知らなかったんかい!噂程度の情報すら流されてなかったとかどんだけ~!

 

《恐らく、だ。もっとロクでもない事になる可能性もあるがな。まぁ、何だ。お前たちも仕事でやっているのだろうから、こういう事を言うのもアレになるが。命は大事にな。以上だ》

 

そうして俺は部隊との通信を切る。最後の、生意気だったかな。

 

くっそがぁ!でも本当は、ヤバくなったら超逃げて!とか言いたいんだよ俺はぁ!

でもこの人たちも自分の仕事に信念を持っているかも知れないし、そうじゃなかったとしても、逃げ出すなんてことが簡単にできるとは思えない。

 

だってよぉ!簡単に逃げ出すような奴らに、企業がお金払うとは思えないし!

戦場に出てる人達は何だかんだで自分達の生活の為に戦っている人ばっかなんだよなぁ!

当たり前のことなんだけど、その当たり前が心に来ますよ。つまり皆さんいつもお疲れ様です!!

 

《あ、ああ。分かった。危なくなったら、俺もすぐに撤退するぜ》

 

そして安定のダン君である。いや~そのすぐ逃げちゃいそうな感じ、俺は本当に良いと思うよ。

自分の命を一番に行動するってのは、それはそれは素晴らしい事だと思います。ACの世界ってなんか死にたがりが多いし。こういう子は珍しいよね。

 

《……ゼン》

 

そうして暫くトンネル前で待機していると、エドガーさんから通信が入った。

おぉ~っと……この何やら緊張しているような声色は、もしやアレですか。来た感じですか。

 

《どうした》

《来たみたいだ》

《そうか。数は?》

《これは……『増加中』だっ。少なくとも十ではきかん!恐らく……多数のノーマル部隊!》

 

確認を取った俺は、エドガーさんの言葉に一瞬固まってしまう。

……はぁ?どういうこっちゃ。増加ちゅ……え、増加中!?

 

《部隊に通信は!》

《もうやってある!》

《位置は!》

《これは……谷壁側以外!ほぼ全方位、囲まれているぞ!》

 

おいおいおい、何じゃそりゃ!ダン君じゃないけど、聞いてないぜこんなの!

しかもノーマル部隊ってなんだよノーマル部隊って。もしかしてネクスト戦じゃないのか?

 

いや、そんな筈はない。どこかに……どこかに絶対居るはずだ。ネクスト機が。

 

《な、なぁ。ど、どうする。俺、どうすれば……》

《相手の大多数は恐らくノーマル。セレブリティ・アッシュ。お前はそいつらを相手に、配置されている各GA部隊を手当たり次第に援護してくれ》

《あ、アンタは?》

《輸送部隊が来るのは俺たちの居るトンネルから見て向こう正面のはずだ。俺はそこへ行く》

 

ここで原作の知識を生かすぜ。

俺はそうして、インテリオル輸送部隊が最初に現れる筈の位置に機体を動かそうとした――最中。

 

事件は起こった。

 

 

《―――おいおい。俺は聞いてないんだがなぁ。バケモンが居るなんてよ》

 

 

こちらの回線に突如、謎の声が割り込んできたのだ。

俺はその通信に対して眉をひそめる。おいおい……出たよこれ。この声、聞いたこと無い奴だよ。

そう。俺の原作知識を照らし合わせても、この声の主に対して一致する人物像が一切浮かばない。

 

ハリさんやテレジアさんよろしく、完全に知らない人だ。しかもこの人……

 

《リンクスか?》

《ンクク……まぁ、そうだな。見れば分かるさ。池の方に来てみろよ》

 

一理ある。と、言うか。こっちのレーダーに一機だけ高速移動して映っている赤い点。

これは恐らく他の侵入者達よりも早くこの領域に到達したという事実の表れだ。つまり。

 

《ゼン。ネクストだ》

《了解。おい、セレブリティ・アッシュ。多少予定は変更になったが、大まかな手筈は先の通り。ネクストは俺がやる。ノーマル部隊は任せたぞ》

《……!あ、ああ。任せろっ》

 

OK。じゃあ……行きますかねぇ。

と言うことで移動開始。レーダーに従って敵ネクストの方へと移動する……と、言うかこちらに向かってきているのか。このままいけば……敵機は俺が先ほど降り立った池へと到達するだろう。

 

《敵ネクスト、GA部隊、E地点を突破》

《『無視』か。あくまでも狙いは俺という訳だな》

 

やがて視界には小さな『黒い点』が現れ、それが徐々に大きく、形を鮮明に映していく。

そして、ついに。

 

《なるほど》

 

その正体があらわになった。

 

湖上に浮遊する、一機の敵ネクスト……

それはこの空に広がっていた青色と同じく、とても明るい色をした機体だった。

その『黄色』は太陽に照らされ、眩いまでの輝きを放っており、一瞬目を細めてしまうほどだ。

 

しかし何より注目してしまうのが、そのとても珍しい機体構成。

 

その機体色に負けないほどに、良く目を引く機体だ。軽量タンク型脚部に、両の腕はハイレーザーライフルと一体型の、いわゆる武器腕。

インテリオル・ユニオン系の試作パーツを数多く使ったその独特の構成……一度見れば、例え『声』を聞いたことがなくとも、分かる人にはすぐに分かってしまう機体。その正体は。

 

《ネクスト『バッカニア』。独立傭兵組織、コルセールの長か》

 

そのリンクス名。

 

《―――フランソワ=ネリスだ。へぇ、でも……俺のことを知ってるなんて、光栄だね》

 

コルセールは所謂ゴロツキ集まりで、この人がまとめ上げているって噂だ。そして何と。

 

この方、女性である。

 

一人称は『俺』だし、喋り方だって男性のソレと遜色は無いんだけど、その声質が完全に女性だ。

設定でも確か女性って書かれてたはずだし、間違いは無いんだろうけど……深い理由があるのか。

あまり突っ込まない方がよさそうだ。

 

《『北アフリカ』から長旅ご苦労》

《ンクク……良く知ってるな。全く、オマエが居ると知ってたらわざわざ来なかったんだが》

《帰っても良いぞ》

《そりゃ無理だ。申し訳ないけど》

 

ですよねぇ。全く、また面倒なことになりそうで。

 

 


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