絶対に死んではいけないACfa   作:2ndQB

53 / 60
第50話

フランソワ=ネリス視点

 

《そりゃ無理だ。申し訳ないけど》 

 

とは言ったものの……さて、どうしたものか。

 

巨大な湖上に浮遊するネクストの二機の内一機、『バッカニア』。

そのリンクスであるフランソワは目の前の怪物をしっかりと見据えつつ、現状を整理する。

今回、『コルセール』に依頼された任務は、インテリオル輸送部隊のレッドバレー突破支援。

 

彼らは普段、拠点の存在する北アフリカを中心に依頼を選別、受諾しているのだが……今回は別。

何かと世話になっているインテリオル・ユニオンからの依頼と言うこともあり、わざわざここ、レッドバレーの存在する北米大陸まで足を運んだ訳である。

 

まぁ、わざわざGA管轄下の地を通過しようと言うのだ。そこそこ重要な任務であることは想像に難くなかったのだが……いかんせん。この『名無しの怪物』が出てくるとは。

 

《ただ、そうだな。ぶっちゃけた話をするとさ。オマエが居る時点でミッションは失敗してるも同然なんだよね》

 

フランソワは事も無げに話した。

そう、まさしくコレなのだ。ネームレスが出て来た時点で、コルセールに勝ちは無い。

 

《俺はさ。オマエに勝てると付け上がる程の馬鹿じゃないし、強い奴と殺り合いたい、なんて思う程のイカレ野郎でもない。出来ることはきっちりやって、できないことは諦める》

 

フランソワは……『彼』は、戦闘を得意だとは思っているが、決して好きと言う訳ではない。

 

彼がリンクス(傭兵部隊)をやりくりする最大の理由は、この仕事が最も手軽に、多くの利益を上げることが出来るからに他ならない。故に、彼とって重要なのは、最終的に如何に利益を得るか。

言い換えるならば、被害が出る場合はどう軽微に収めるべきかを、常に最優先で考えている訳だ。

 

《諦めている様子には見えないが》

《お得意先からの依頼だからなぁ。諦めるにしても、簡単にそうしちゃダメだろう?》

《一理ある》

 

なんだ。意外と通じるやつだな。鬼神のごとき強さを有しているとは思えない程に、話せる。

 

フランソワは少し意外に思いつつも、あの『噂』は本当だったのか、と少しばかり安心する。

「ネームレスのリンクスは意外にまとも」とは、良く言ったものだ。情報の精度が悪かったら今頃問答無用で叩き潰されていたところである……まぁ、これは信頼できる筋からの情報だ。

 

恐らく大丈夫だろうと踏んでの行動だったが。

 

しかしこれならば、とフランソワは会話を続行する。では、ここからは……

 

《ってことでさ。少し話があるんだけど、良いか》

 

交渉の時間だ。

 

《話?》

《ああ。さっきも言った通りさ、俺達がオマエに勝てる可能性は無い訳よ。でも、負け戦だからって端から諦めていたら依頼主様に面目が立たない。ちょっぴりとは言え前金も貰ってるしなぁ》

《何が言いたい》

《いやさ。俺達とちょっと遊ぼうぜ。死なない程度にさ》

 

フランソワは提案する。

 

《つまり『自分たちは頑張っていましたよ』と、インテリオルにアピールする、と》

《そゆこと。頑張ったけどダメでしたってのは、要は失敗したことの言い訳であって、普通なら信用を落とすことになりかねないんだけど……オマエは別でしょ。最初からオマエ専用に念入りに立てた作戦でもない限り、出し抜くなんてムリ》

《……》

《どうよ?この案に乗ってくれると助かるんだけどなぁ。アンタも今の時期、機体は大事にしたいんじゃないか?》

 

フランソワはわざと『今の時期』を強調したが、果たしてどう出るのか。

ネームレスのリンクスは恐らく……と言うか、ほぼ確実に発生するラインアーク戦に向けて、自機を極力傷つけたくはないはずである。まぁ、ラインアークは経済難だという話であるし、今回はミッションに出撃せざるを得なかったのだろうが。

 

と言ってもそもそも、ネームレスが本気を出せばフランソワの視界になど映らないはずである。

 

だが、彼にはこの案に『怪物』が乗ると言う半ば確信的な予測があった。

恐らく、ネームレスのリンクスは……

 

《だってオマエ。常に本気、出せないでしょ》

 

このはずだ。如何にこの男であれ、あの化け物じみた動きを常用出来るはずがない。

 

《周りに待機させてる『お友達』はどうするんだ?》

《あっちも適当にやらせとくよ。アンタらの面子もあるだろうし、やりすぎない程度にさ》

《ふむ。まぁ、戦りながら、だな》

《ンクク。どうやら、輸送部隊も作戦領域に入ったみたいだし。とりあえず一戦交えておこうか》

 

レーダーに、防衛対象である『インテリオル輸送部隊』の表示か3つ、小さく表れる。

 

《さて》

 

交渉の結果こそ出てないものの、今のところ過程は上々。

少なくとも問答無用で抹殺されることはなくなった様子であるし……戦闘開始か。

 

そうと決まれば、と、フランソワは仲間に合図を出す。

 

《おい、始めるぞお前ら!適度に加減はしろよなぁ!》

 

と同時に、クイックブーストを用いて大きく後退。

前方の怪物へと向かって、手始めにと、両腕からハイレーザーを発射した。通常の相手ならこれでも十分に直撃する可能性はあったのだが……この怪物はと言うと。

 

《最初から飛ばし過ぎだ》

 

サイドのQBで当然の様に回避。

 

《オマエなら避けるだろ!じゃあどんどん行くから、適当に流せよな!》

 

強く当たって、あとは流れで。

どこぞの八百長ではないが、今はこうするのがコルセールにとって一番良い結果となる。

インテリオル輸送部隊には悪いが、彼らには化け物とまともに殺りあう趣味はないのだから。

 

そしてどうやら、フランソワの引き連れてきたノーマル部隊も、戦闘を開始したらしい。

重火器特有の重苦しい衝撃音がこの地にこだまし、二機の居る湖面を大きく波立たせた。

やがて各方面からは黒煙が立ち上り、戦闘中のフランソワの視界端にチラつくようになる。

 

加減しろとは言ったが、彼らがしっかりと言うことを聞いているのかどうか怪しいものだ。

まぁ、所詮はゴロツキの集まり。気性の荒さには多少目をつむってほしいところである。

 

《そういやさぁ!オマエに色々聞きたいんだけど!》

《何だ!》

《オマエ達って、何者なんだ!》

《またそれか!言うなれば部外者……といったところっ、かっ》

 

戦闘中に敵に話しかけるなど、本来ならば決して行わないのだが、今回に限っては別だ。

少なくともフランソワ自身は真剣な殺し合いをするつもりなどないし、相手もどことなくそういう雰囲気だ。なら、多少の情報集位はさせてもらっても良いだろう。

 

インテリオルへの手土産にもなるであろうし。

 

《部外者ぁ?それって、どういう、意味!》

《あ~、説明が難しい!が、本当なら、俺はお前たちの目に触れなかったとでも言うのか!》

《なんじゃ、そりゃ!あとさ!ミラージュ戦の時のあの動きっ、今やってみてくれよ!》

《ダメだ!》

 

それは残念。少し生で見てみたかったのが、拒否されては仕方ない。

しかしそれはつまり、今現在、超機動を行う必要はないと言う事であり……やはり。

あの動きを常日頃から行うことは出来ないという事だろう。身体的・精神的に高いリスクでも伴っているのか。

 

核心に近づく良い回答だ。つまり、怪物が最初から本気でさえ無ければ、付け入る隙は存在する。

 

もしくは、どうにかしてその力を使い続けさせ、最終的に摩耗しきったところを狙えば……

やはり、目の前の怪物は『無敵』ではない。まぁ、自分で怪物討伐を成し遂げる予定はないが。

そうしようと考える愚かな連中にとっては、良い情報だろう。

 

《兄貴!》

 

するとそこで彼の部下、ノーマル部隊の一人から通信が入った。何やら切羽詰っている様子だが。

 

《どうした。ネクスト相手とは言え、最下層の雑魚だ。俺の手ほどきを忘れたか?》

 

コルセールの者達にはフランソワ自身がネクスト機を用いて定期的に演習を行っている。

その辺のノーマル部隊とは対ネクストに関した備えが段違いのはずであり、最底辺のセレブリティ・アッシュ程度なら数の力で攪乱することぐらいなら十分に可能なはずなのだが。

 

レーダーを見ても、仲間の数にさほど変容は見られない。一体何をそんなに―――

 

 

《―――『ミラージュ』です!!》

 

 

……。

 

《間もなく合流すると……!》

 

フランソワは一瞬、自分の耳を疑った。こいつは、一体何を言っているのか、と。

ミラージュ……ミラージュだと?ありえない。

アレはつい先日オーメルが存在を公にしたばかりのはずだ。それがこんなところに何の……

 

思わずして、彼は部下に聞き返してしまう。

 

《馬鹿を言うな。俺は下らん冗談は好かないぞ》

《断じて冗談などではありません!》

 

……どうやら、これは、一大事らしい。それこそ過去最高に。

 

フランソワはネームレスとの戦闘を一旦中断させ、互いに冷静な話し合いを取り行うことにした。

しかしどうやらネームレスは自身のオペレーターと連絡を取り合っているのか、しきりに何かを確認するような言動を繰り返している。

 

しばらくし……向こうの話し合いが終わったタイミングで。

 

《……なぁ。ネームレスの》

 

フランソワは恐る恐る目の前の怪物に話しかけた。

 

《あ~……気が付いてる、よな?あのさぁ。ちょっと》

《邪魔は、しない方が、良いぞ》

 

ネームレスのリンクスの、低い声。

 

有無を言わせない迫力を醸し出しているそれに、思わずして冷や汗を流してしまう。

どうして、こうなった。化け物2匹の戦場に駆り出されるなど、一切予測出来なかった。

何故ここにミラージュが。『合流』ということは恐らく味方のはずだが……呼んであるなら、最初からをコルセールを出さずとも良かっただろうに。

 

いや、しかしミラージュは今オーメルに所属していることになっている。

インテリオルからの依頼では体面上出しづらいはず……あるいは、インテリオル自体もこのことを把握できていなかった?これはオーメルの独断なのかどうか。とにもかくにも。

 

《お前達、一旦―――》

 

フランソワが、部下に指示を出そうとした、その時。

 

―――ピッ。

 

レーダーに、敵影数が一機、増加した。その位置は、彼らの居る湖の……真上の位置。

 

思わずして、上空を見上げる。

 

そこには青空と、太陽と……それを背にするような、小さな黒い影。

光のあまりの眩しさに、目を細めてしか確認出来ないが……しかしその影は徐々へ徐々へと大きくなっている。やがて、朧げながらそのシルエットを捉えることが出来たと思った、瞬間。

 

《おいおい》

 

影が、増えた。正確には、小さな粒のようなものが、ソレから放たれたのだ。

そこでレーダーへの更なる熱源反応数増加。それはつまり。

 

《これ……》

 

ミサイルだ。

 

瞬時の判断で機体をその場から移動させる。いや、狙いはフランソワ自身でない事は分かってる。

標的は名無しの怪物だろうが、爆発の範囲に巻き込まれたらことだ。

フランソワはQBを使用する直前に、視線を再び水平へと戻すが……目の前にいたはずの怪物は、既にそこから消え失せていた。

 

《うぉっ!》

 

そして背後からの数度の爆音。驚きながら振り向くと、そこには―――

 

《―――神出鬼没だな》

 

巨大な水しぶきに、滝に打たれるようにして佇む銀のネクスト機。

湖面にミサイルを着弾させたのか。しかもわざわざ自機からあんな遠くにまで離れて。

その余波である雨のような飛沫に視界を遮られつつ、フランソワは驚愕した。

 

この一瞬で、少なくとも自機のQB4、5回分の距離は移動している。

 

しかし驚きも長くは続かない。フランソワのすぐ目の前に、この『雨の原因』が降り立ったのだ。

今、彼の目にはその機体の背中側しか見ることは叶わないが。

 

《……マジか》

 

漆黒の、機体。

 

見る限りそいつは、流出した記録に映っていた機体構成と何一つ変わりはなかった。

他企業間のパーツがふんだんに使用された、ある意味で特殊とも言える機体。

 

間違いようがない。完全に、本物だ。

 

《……》

《……》

 

怪物達は、互いに睨み合うようにして、その場から微動だにしない。

異常な緊張感が支配する空間で……フランソワは意を決して、その漆黒の機体に通信を試みる。

 

《アンタが、ミラージュ?》

《……》

《今、見ての通り戦闘中だったんだけどな。まさかアンタが来るとは》

《おい》

 

最後のは、ネームレスのリンクスの言葉。

 

《大手企業への就職おめでとう。で、何だ。就職祝いに、ここでまた、殺し合いでもするか?》

 

おいおいおいおい。冗談だろう、本気で勘弁してくれ。

 

フランソワの顔が引きつる。こんなグラウンド・ゼロに自分を巻き込まないでくれ、と。

独立傭兵として様々な地を渡り歩いた彼ではあったが、さすがにここまで生きた心地のしない戦場は初めてだ。最初は話の通じそうだったネームレスのリンクスも、ミラージュが現れてからはブースターに火が灯ったかのように臨戦態勢まっしぐらである。

 

これは最初に『人外A』が言っていた通り、大人しく帰っておいた方が良かったか……

 

《そんなに大事な荷物なのか?いや、そうなんだろう。お前が出るなんて、余程のことだ》

《……手を引きなさい》

《!! ミラージュが女だとは》

《残念ね。私は『彼』の代理、ただのオペレータよ……話を続けさせてもらうわ。悪いけれど、あの輸送物を破壊される訳にはいかないの》

 

ミラージュは喋らないのか、或いは喋れないのか。通信にはオペレーターが対応している。

空気的に、フランソワがその通信に入る余地はないが……あの輸送部隊。何やら、中々に重要な荷を積んでいるらしい。しかもこの反応は恐らく、ミラージュ関連のブツだ。

 

《安心しろ、壊しはせん。GA社が中身が見たいと言うのでな。持って帰るだけだろう》

《同じことよ。とにかく、これ以上邪魔をすると言うのなら……分かるわね?》

 

なるほど。GA社としても輸送物ごと破壊するつもりは無かったという訳か……

などと、納得している場合ではない。なんだコイツら。予定では、この先のラインアーク戦でやり合うはずだろう。それがまさかのここでのご対面で、突発的に頂上決戦が行われるのか?

 

……これはもう腹を括るしかない。

 

フランソワは大きく深呼吸をすると、部下達に自分の元に集まるようにと、小さく指示を出した。

敵はネームレス。此方側はミラージュ付きで1対2(+ノーマル多数)。有利なのは間違いない。

非常に不本意な状況ではあるが、ここはどうにかして生き残らなければ……

 

 

《―――ああっ!み、皆!どうしよう!》

 

 

……。

 

これから起こる戦闘に集中力を高めていたフランソワの耳に突如、間の抜けた男の声が侵入した。

しかもこの回線、どうやらオープンチャネルで行われているらしく、この戦場に居る全員が傍受していることだろう。

 

当然フランソワは困惑した。何だ、このやたら情けない男の声はと。

これからガチガチの殺し合いが行われるであろうというのに、やたらタイミングが悪い。

と、言うか誰だ。何をこんなに慌てふためいているんだ?

 

今この場において、ミラージュ出現以上に驚愕すべきことが存在するとはとても思えな……

 

 

《ゆ、輸送部隊に!ミサイルが当たって……破壊しちゃった!》

 

 

……。時が、止まった。

 

こ、こいつは。もしかしてだが、このクソバカは……

 

《……プッ。クク……》

《……ハァ。全く。どうしてこう、上手くいかないのかしらね》

 

もしかして。

 

 

《 《《セレブリティ・アッシュ!!》》 》

 

 

戦場に、呆れるような怒声が複数響いた。

 

 

*********************

 

ダン・モロ視点

 

 

よぉ皆。俺はダン・モロ。凄腕の独立傭兵さ。

 

今回、俺に充てられた任務は、インテリオル輸送部隊のレッドバレー突破阻止。

ただの輸送部隊の足止めって話だし、とても楽そうなミッションさ。こんな簡単なミッションに俺を駆り出すなんて、些かの憤りを感じたものだが……他ならぬGAの頼みだ。

まぁ、何があるかも分からないし、俺は仕方なく相棒のネクスト『セレブリティ・アッシュ』と共にこの地にやってきた訳だ。いや、ホント仕方なく、な。

 

レッドバレーに到着した俺は観光気分で景色を楽しんだよ。

 

後、配置されてるGA部隊の奴とかにも挨拶はしておいた。大事だろ?挨拶。

俺が来たからには大丈夫!ってな感じに。だって俺、セレブリティ・アッシュだぜ。ネクスト機って超強いし、コイツらを守るくらいどってことないからさ。安心させてやろうと思ったわけだ。

 

まぁ、皆反応が「うん……」みたいな?微妙な感じだったが。き、緊張してたのかなぁ。

 

そんなこんなで、インテリオル部隊を暫く待っていたんだけど。

そしたら何か、銀色のネクスト機がやって来たんだよ。どっかで見たことあるような奴がさ。

へ、へぇ~みたいな?まぁ、ちょっとだけ強そうな奴だったよ。俺くらいかな。あはは……

 

で、だ。それからまた暫くすると。ついに現れたわけだ、敵が。しかもいっぱい。

 

そして俺は銀ぴかに指示された通り、ノーマル部隊を相手に孤軍奮闘していた。

いやさ。ネクスト機も一機居たみたいだけど。このノーマル達が凄い強いんだよ。本当に。

数で攪乱してくるし、一機を狙おうとしたらすぐ他の奴が邪魔してくるし、ブレードも当らない。

 

こいつら絶対銀ぴかの相手している奴よりも強かったね。

 

そもそも俺ってGAの部隊守りながら戦ってたし、しょうがないんだよな。

何か途中にまたネクストが一機増えたみたいだけど、俺忙しいから。銀ぴかの援護とか無理だよ。

ま、まぁ、でも?そろそろちょっとウザったいな、みたいな?

 

敵ノーマル共に目にモノを見せてやろうと思ったわけ。

 

特に、インテリオル輸送部隊の近くの奴らの方に援護に行こうと考えてさ。

で、遠くからミサイル撃ってやろうとしたんだ。ミサイルつよいから。

だけどそしたらまたさ、近くのノーマルどもが邪魔してくる訳。つまりミサイル撃てないじゃん。

 

流石に俺もムカついたね。そんなにやられたいのかと。だから撃ったんだ、そいつらに。

 

撃ったんだけど……アレ、ロックしてなかったね。ロック。ノーロックで放っちゃったんだ。

そしたらノーロックで放ったミサイルの内の数発が……地上を爆走する輸送部隊の方へとさ。

 

飛んでったんだ。いや、こんなことってある?

 

当たらないでくれって神様にお願いしたんだけど……ダメだったね。

ミサイルに見事に直撃した輸送部隊は、跡形もなく爆発四散。もうすごい位に木端微塵だった。

……いや~。まぁ、しょうがない。人間誰にでもミスはあるから。流石の俺も例外じゃ、

 

《 《《セレブリティ・アッシュ!!》》 》

 

あダメだ今日死んだな。

 

《う、うわぁ~違うんだ!ワザとじゃないんだ許してくれ!》

 

あぁ~やっぱダメだ俺は。なんたってこんなことになっちまったんだ。

第一詐欺だろぉ。だって楽な任務だって言ったじゃないか。嘘ついたのかよGAはぁ。

泣きたい気分だよもう。

 

《……クフ、フ。いや、何だ、まぁ。やってしまったものは仕方が無い》

《全く、とんだ無駄足ね》

《俺としたことが……か、勘違いしていた。無害どころか、余計な事をする方の阿呆か……》

 

何だよぉ。俺だってそのまま空気みたいに目立ちたくは無かったよ。でもしょうがないだろ。

皆ネームレスのリンクスみたいに、優しく対応してほしいよ本当。ってか、お前ら敵同士だろ。

何ちょっと一体感出してるんだよ。

 

《で、どうする。思わぬハプニングだが、続けるか?》

《……『興が削がれた』と。そもそも、予定とは異なっているのも事実ね》

《ハァ……無駄な覚悟だったか》

 

な、なんだ。これどうなるんだ?俺も一応、逃げ出す準備はしておこう。

 

《帰還するわ。これは忠告だけれど……貴方、妙な事は考えないことね》

《妙なことなど、考えたことがない》

《まぁ、良いさ……おいお前達、撤退するぞ。これ以上は意味がない》

 

おぉ!?へへ、な、何か知らないが、ラッキーか!?頼むからこのまま居なくなってくれ……

すると今度は俺の願いが天に届いたらしい。

レーダーから一つ、また一つと敵影反応が遠のいていく……そして残ったのは、自機と銀ぴか。

 

そしていまだ健在の複数のGA部隊。いやはや、これは何とも……絶対怒られるな。

 

《おい》

 

ほら来た。ネームレスのリンクスからお叱りが。

 

《うわぁ!は、はい!》

《やってくれたな。あの空気が一瞬で、この有様だ》

《す、すまない!本当に、わざとじゃないんだっ》

《いやなに。流石だな、と……まぁこの分だと、次回どうなることやら》

 

何を言っているのか理解できないが、怒ってはいない様子だ。と、言うか。

 

《次回……?》

《此方の話だ。『一回休み』。このツケをどう払わされるのか……全く、先が思いやられる》

《?? あ、アンタも何だ、大変そうだな……?》

《それなりにな。まぁ、とにもかくにも。今回の任務は失敗だが、こういう幕切れも偶にはアリだろう。お前のお陰で、此方も予定通りにことが……運ぶ、はずだ》

 

何やら腑に落ちない様子のネームレスのリンクス……ハァ。

 

やっぱな、真剣に考えるなら、俺のせいだよな。

俺の下らないミスでネームレスの任務としても黒星がついてしまった。

味方に迷惑かけるのだけはやめようって、いつも思って頑張っているのに、何でこうなるんだ。

 

今回なんかも、ノーマル部隊を相手にこの手古摺りよう。情けなさ過ぎるよ。

 

《な、なぁ。アンタさ……》

《?》

《俺って、リンクス向いていないのかな。やっぱ……》

《……》

 

いや、分かってるよ。俺にはきっと向いていない。

 

一応、自慢じゃないけど、AMS適性だけはそれなりなんだ。低い奴らからすれば、それはきっと羨ましい事なんだろうけど……それだけじゃダメななんだ。

俺には、銀ぴかみたいに……どんな敵とも渡り合えるような、強い『心』を持っていない。

 

ネクスト機に乗れるだけじゃ、強い奴にはなれないんだよ。戦う為の何かが、俺には……

 

《『アーマード・コア』は好きか?》

《……ああ。好きだよ。コイツは、本当のヒーローなんだ。でも》

《嫌いになったらやめれば良い。戦いじゃなくて、機体が、な》

《は、はぁ……?》

 

意味が分からない。と、言うか答えになっていない。俺は、アンタに……

 

《アーマード・コアが好きな奴は、どうせその内強くなる。上達具合に差はあるだろうが……何も心配する必要はないぞ。自分のペースで、焦らずやるといい》

 

……。

 

……何だよ、それ。意味が分からねぇよ。でも。

 

《言っちゃ何だけど……アンタってさ。変な奴なんだな》

《そうか?》

《ああ。絶対、変だよ》

《むぅ……まぁ何だ。後は頑張れとしか言えん》

 

……はは。俺なんかの事応援するなんて、やっぱこの人変だよ。

だけど。何だか心が軽くなった。あの言葉を真に受けるわけじゃないけど、俺にももしかしたら可能性が残されているのかもしれないな……諦めるのはまだ早い、か。

 

《俺はもう帰還するぞ》

《あ、ああ。すまなかった。妙なこと、聞いてさ》

 

いきなりこんな変な事聞く奴にまともに返事くれるとは。思ってもみなかった。

滅茶苦茶強いんだから、もっと取っつき難いイメージだったんだけど……案外、皆こうなのかな?

いやでも、やっぱこの人が特別おかしいのか。上位陣は性格に難ありみたいなの色々聞くし。

 

《ではまたな……それはそうと、GA社の者から連絡だ。「あのバカに、連絡を取らせろ」と》

《え゛っ》

《じゃあな》

 

そして去ってゆく銀ぴか……ああ。一件落着だな~

 

………

……

 

ちなみにこの後、俺がこってり絞られたのは誰にも言えない秘密だ。

 




本来ならここでもバリバリ戦ってもらう予定でしたが、拍子抜けさせてしまいましたかね。
申し訳ない、この先ゼンさんがやべー事になりそうなので±0にします。
あと気が付いた方も居るかもしれませんがタグだったり紹介文だったりが若干変わっております。話の流れが書き始めたころとは全然違ってきているので……不思議なものですね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。