雪ノ下さんと入れ替わるように、城廻先輩と一色が入ってくる。
「だ、大丈夫?」
「先輩達、目が真っ赤ですよ」
「すまん、ちょっと顔洗ってくるわ」
「わ、私もメイク直していいかな」
「私も少し…」
顔を洗い頭を切り替える。軽く両頬を叩いてから、部室に入ると椅子の位置が変わっている。
城廻先輩と一色の向かいに長机を挟んで椅子が三つならんでいる。
「比企谷君は、ここに座って」
真ん中の椅子を雪ノ下が指した。
「え?俺はいつものところが…」
「いいから、座りなさい」
拒否権ないんですね…。
真ん中の椅子に座ると、左に雪ノ下、右に由比ヶ浜が座る。
「あ、あの…。お二人とも近くないですかね」
「黙りなさい」
「えへへ」
なんか、いい匂いするし!助けて小町!
「先輩、なに鼻の下伸ばしてるんですか…」
「伸ばしてないから」
一色にツッコミ出来てる。俺大丈夫。
「え、えっと、本題に入ってもいいかな?」
城廻先輩が、話を切り出す。
「現状を確認しましょう。まず一色と雪ノ下が生徒会長に立候補している」
「はい」
「ええ」
俺の事実確認に二人が返事をする。
「城廻先輩、立候補の取り下げは?」
「やっぱり、出来なかったよ」
「どうしよう…」
由比ヶ浜が不安そうな声を出す。
「一色。お前は生徒会長になって、お前を陥れた連中を見返す。それでいいんだな」
「はい」
一色がはっきりと返事をした。
雪ノ下と由比ヶ浜は驚き声をあげる。
「比企谷君、どういうことかしら」
「ヒッキー、説明してくれるよね?」
「城廻先輩と一色には、話したんだがな。真っ更の状態だったら、一色が生徒会長になって、陥れた連中を見返し手出しの出来ない状態にする。それに、一年生の生徒会長なら、周りも多少ミスしても許してくれるだろ。内申や評価もあがる。だから、一色はマイナス要素は皆無で解決出来る」
「貴方、そこまで…」
「ヒッキー、凄い…」
二人は驚いているが…。
「だが、雪ノ下が立候補している時点で、俺の案は破綻している」
「あ…」
「そっか…」
雪ノ下に聞いてみたいことがあった…。
「雪ノ下、お前が生徒会長になったら、役員はどうするつもりだった?」
「副会長と書記と会計は立候補がいるから、そのまま。由比ヶ浜さんに庶務として入ってもらうつもりだったわ」
心の中で謝りながら、次の言葉を出す。
「雪ノ下、それじゃあ、嫌がらせをした連中の思うつぼだ。また一色をイジメるネタを提供してしまう」
「そ、そうね…。ごめんなさい」
さて、このままでは雪ノ下が生徒会長になり、奉仕部はバラバラになる…。やはり、この方法しかないのか…。
「俺が雪ノ下の応援演説で…」
「ダメよ、比企谷君」
「ダメだよ、ヒッキー」
二人が俺の手を握り、こちらを向く。とても、悲しそうな顔で。
「最後まで、言わせろよ」
「貴方のことだから、応援演説でめちゃくちゃをして、私を落選させるつもりでしょ?」
「そんなのダメだよ。そんなことしたら、またヒッキーが…」
二人が涙目で訴えてくる。
「比企谷君、ダメだよ、そんなことしちゃ~」
「ダメです、先輩」
城廻先輩と一色にも止められた。
「はぁ…。それだと、俺としては、今のところ打つ手なしです」
そこで時間切れで解散となる。
帰り支度をしていると、先に部室を出ようとしていた城廻先輩に手招きされた。
「比企谷君、ちょっとちょっと」
「なんスか?」
「う~ん、少し屈んで」
「こうですか?」
「もう少し」
「こ、これくらいですか?」
し、城廻先輩の胸が目の前なんですけど…。
「えいっ!」
えっ!なに!城廻先輩に抱き締められてる!どういうこと!
「あ、あの、これは…」
「比企谷君は、がんばってる。涙が出るくらい。もう無理しなくていいんだよ」
「あ、ありがとうございます」
冷たい声が後ろからする。
「比企谷君、城廻先輩から離れなさい。痴漢で通報するわよ」
反論しようとすると、城廻先輩が先に答えた。
「雪ノ下さん、そんなこと言っちゃダメだよ。がんばって、辛い思いをしてた、比企谷君に私がしてあげたくて、してるんだから」
「で、ですが…」
「比企谷君は、この前も泣いてたんだよ。それを見たら、なんか可愛く思えちゃって」
こ、これ以上はヤバい。
「し、城廻先輩、そろそろ離してもらえませんか」
「嫌だった?」
「い、嫌ではないんですが…」
「だったら、もう少し…。えいっ!」
だぁぁぁぁ!り、理性がぁぁぁ!
「し、城廻先輩!お、俺の理性が崩壊しそうですので!」
「仕方ないなぁ」
ふぅ。危なかった…。やっと離してくれた。
「比企谷君なら、理性が崩壊しても、私はいいよ」
「はい?」
赤い顔して何を言ってるのこの人は。誤解しちゃうよ。告白してフラれちゃうよ。
「じゃあね、比企谷君」
城廻先輩と一色が部室を出ていく。一色に白い目で見られてた気がするが。
「さて、俺も…」
「待ちなさい」
「待って」
ですよね。
「今の件で話があるから、玄関で待ってなさい」
「私も話したい」
「ちなみに、拒否権は…」
「あると思う?」
「…ですよね。わかってました」
少しだけど、いつもの居場所に戻れたのだろうか…