居場所   作:おたふみ

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十話

雪ノ下さんと入れ替わるように、城廻先輩と一色が入ってくる。

「だ、大丈夫?」

「先輩達、目が真っ赤ですよ」

「すまん、ちょっと顔洗ってくるわ」

「わ、私もメイク直していいかな」

「私も少し…」

顔を洗い頭を切り替える。軽く両頬を叩いてから、部室に入ると椅子の位置が変わっている。

城廻先輩と一色の向かいに長机を挟んで椅子が三つならんでいる。

「比企谷君は、ここに座って」

真ん中の椅子を雪ノ下が指した。

「え?俺はいつものところが…」

「いいから、座りなさい」

拒否権ないんですね…。

真ん中の椅子に座ると、左に雪ノ下、右に由比ヶ浜が座る。

「あ、あの…。お二人とも近くないですかね」

「黙りなさい」

「えへへ」

なんか、いい匂いするし!助けて小町!

「先輩、なに鼻の下伸ばしてるんですか…」

「伸ばしてないから」

一色にツッコミ出来てる。俺大丈夫。

「え、えっと、本題に入ってもいいかな?」

城廻先輩が、話を切り出す。

「現状を確認しましょう。まず一色と雪ノ下が生徒会長に立候補している」

「はい」

「ええ」

俺の事実確認に二人が返事をする。

「城廻先輩、立候補の取り下げは?」

「やっぱり、出来なかったよ」

「どうしよう…」

由比ヶ浜が不安そうな声を出す。

「一色。お前は生徒会長になって、お前を陥れた連中を見返す。それでいいんだな」

「はい」

一色がはっきりと返事をした。

雪ノ下と由比ヶ浜は驚き声をあげる。

「比企谷君、どういうことかしら」

「ヒッキー、説明してくれるよね?」

「城廻先輩と一色には、話したんだがな。真っ更の状態だったら、一色が生徒会長になって、陥れた連中を見返し手出しの出来ない状態にする。それに、一年生の生徒会長なら、周りも多少ミスしても許してくれるだろ。内申や評価もあがる。だから、一色はマイナス要素は皆無で解決出来る」

「貴方、そこまで…」

「ヒッキー、凄い…」

二人は驚いているが…。

「だが、雪ノ下が立候補している時点で、俺の案は破綻している」

「あ…」

「そっか…」

雪ノ下に聞いてみたいことがあった…。

「雪ノ下、お前が生徒会長になったら、役員はどうするつもりだった?」

「副会長と書記と会計は立候補がいるから、そのまま。由比ヶ浜さんに庶務として入ってもらうつもりだったわ」

心の中で謝りながら、次の言葉を出す。

「雪ノ下、それじゃあ、嫌がらせをした連中の思うつぼだ。また一色をイジメるネタを提供してしまう」

「そ、そうね…。ごめんなさい」

さて、このままでは雪ノ下が生徒会長になり、奉仕部はバラバラになる…。やはり、この方法しかないのか…。

「俺が雪ノ下の応援演説で…」

「ダメよ、比企谷君」

「ダメだよ、ヒッキー」

二人が俺の手を握り、こちらを向く。とても、悲しそうな顔で。

「最後まで、言わせろよ」

「貴方のことだから、応援演説でめちゃくちゃをして、私を落選させるつもりでしょ?」

「そんなのダメだよ。そんなことしたら、またヒッキーが…」

二人が涙目で訴えてくる。

「比企谷君、ダメだよ、そんなことしちゃ~」

「ダメです、先輩」

城廻先輩と一色にも止められた。

「はぁ…。それだと、俺としては、今のところ打つ手なしです」

そこで時間切れで解散となる。

帰り支度をしていると、先に部室を出ようとしていた城廻先輩に手招きされた。

「比企谷君、ちょっとちょっと」

「なんスか?」

「う~ん、少し屈んで」

「こうですか?」

「もう少し」

「こ、これくらいですか?」

し、城廻先輩の胸が目の前なんですけど…。

「えいっ!」

えっ!なに!城廻先輩に抱き締められてる!どういうこと!

「あ、あの、これは…」

「比企谷君は、がんばってる。涙が出るくらい。もう無理しなくていいんだよ」

「あ、ありがとうございます」

冷たい声が後ろからする。

「比企谷君、城廻先輩から離れなさい。痴漢で通報するわよ」

反論しようとすると、城廻先輩が先に答えた。

「雪ノ下さん、そんなこと言っちゃダメだよ。がんばって、辛い思いをしてた、比企谷君に私がしてあげたくて、してるんだから」

「で、ですが…」

「比企谷君は、この前も泣いてたんだよ。それを見たら、なんか可愛く思えちゃって」

こ、これ以上はヤバい。

「し、城廻先輩、そろそろ離してもらえませんか」

「嫌だった?」

「い、嫌ではないんですが…」

「だったら、もう少し…。えいっ!」

だぁぁぁぁ!り、理性がぁぁぁ!

「し、城廻先輩!お、俺の理性が崩壊しそうですので!」

「仕方ないなぁ」

ふぅ。危なかった…。やっと離してくれた。

「比企谷君なら、理性が崩壊しても、私はいいよ」

「はい?」

赤い顔して何を言ってるのこの人は。誤解しちゃうよ。告白してフラれちゃうよ。

「じゃあね、比企谷君」

城廻先輩と一色が部室を出ていく。一色に白い目で見られてた気がするが。

「さて、俺も…」

「待ちなさい」

「待って」

ですよね。

「今の件で話があるから、玄関で待ってなさい」

「私も話したい」

「ちなみに、拒否権は…」

「あると思う?」

「…ですよね。わかってました」

少しだけど、いつもの居場所に戻れたのだろうか…

 

 

 


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