次の日、大岡と大和の姿は教室になかった。処分は二人の停学と野球部・ラグビー部の3ヶ月の活動停止及び半年間の対外試合禁止となった。
変わったのは、葉山と戸部もだった。二人とも黒髪になっていた。戸部に至っては短髪だった。二人はイジメを助長したということで、厳重注意と反省文の提出。サッカー部は3ヶ月の対外試合自粛になった。
三浦は不機嫌そうに携帯をイジり、苦笑いしながら話す由比ヶ浜に相づちをうっていた。
海老名さんは席で一人本を読んでいた。って、おい薄い本じゃねぇか。しかも堂々と…。
葉山グループの崩壊は目に見えて明らかだった。それに乗じて相模一派が葉山にすり寄っている。
相模の声に嫌気を感じていると、戸塚と川崎に声が声をかけてきた。
「おはよう、八幡」
「おはよ。あのあと大丈夫だった?」
「おはよう。二人とも、ありがとうな。今まで通りとはいかなくても、なんとかなりそうだ」
「良かったね、八幡」
「あぁ。なぁ、ひとつ聞きたいんだが…」
「なに?」
「ん?」
「平塚先生から、なんか言われてたか?」
「バレちゃった?」
「なんとなくな」
「平塚先生に言われなくても、アンタの様子はおかしかったからね」
「そうか。改めて、ありがとな、二人とも」
「次はあんなことしちゃダメだよ」
「わかった」
「まぁ、やらせないけどね」
「怖ぇよ、川崎…」
「アッチはあんな感じなんだね」
川崎が少し寂しそうに海老名さんを見る。
「川崎、気になるのか?」
「ちょっと悪いことしたかなってね」
川崎も基本的には、優しいヤツだ。それに、川崎が学校で話す数少ない一人だ。
「川崎」
「なに?」
「川崎だけでも、話しかけたらどうだ?」
「いいのかな?」
「仲間の暖かさを知ったら、簡単には孤独になれないさ」
俺がそうだったようにな。
「やってみるよ」
「海老名さんが、三浦たちとやり直したくなったら、言ってくれ。力を貸す」
「アンタ…。お人好し過ぎ…」
「でも、それが八幡の良いところだから」
そして昼休み。
さて、購買にと教室のドアを出ようとしたら、雪ノ下に出くわした。
「よう、雪ノ下。由比ヶ浜なら中に居るぞ」
「え、あの、比企谷君に用事があって…」
「ん?俺に?」
「お昼ご飯は…」
「今から購買に行くところだが」
「その…、お弁当を作ってきたの」
「ほ~ん。それを俺に見せに来たのか?」
「違うの。あ、貴方の分を作ってきたから、部室で一緒に…」
比企谷八幡は混乱している!
「えっと…、うん。なにかの罰ゲームか?」
「違うの。…貴方に食べて欲しくて…。ダメ…かしら…」
雪ノ下さん、頬を赤くして上目遣いとか、ズルいです。断れないです。告白してフラれますよ。
「わ、わかった。いただくよ」
「そう…よかった…」
「ゆきのん、ズルいし!」
そうだよな、由比ヶ浜。雪ノ下の手作り弁当を俺が食べるなんて。お前が食べたいよな。
「私もヒッキーにお弁当作るし!」
「そっちかよ!」
「由比ヶ浜さん、友人が殺人を犯すの見過ごせないわ。例えこの男でも…」
「すまん、由比ヶ浜。まだ死にたくない」
「二人とも辛辣!」
「よく『辛辣』なんて知ってたな」
「エライわ、由比ヶ浜さん」
「えへへ…。じゃなくて!」
「とりあえず、部室行こうぜ。腹へった」
葉山が何か言いたそうにこっちを見ていたが、気にしない…。
「私も一緒していいかい?」
「あ、僕も」
川崎と戸塚が話に入ってきた。
戸塚と昼飯…、最高です。
「ちょっと言っておきたいことがあるから」
「僕もかな」
「雪ノ下、由比ヶ浜、いいか?」
雪ノ下と由比ヶ浜に確認する。
「私はかまわないわ」
「私も」
「じゃあ、行くか」
昼飯を食べ終わり、川崎が話を始める。
「アンタたちさ、比企谷に対してヒドクないかい?」
「僕もそう思う」
戸塚が続く。
「由比ヶ浜さんは八幡のこと、キモイって言ってるよね」
「雪ノ下も、『この男』なんて言い方してるけど、もっとヒドイこと言ってるんじゃない?」
「いや、いいんだよ…」
「良くないね」
川崎がピシャリと言う。
「信頼関係の上で言ってるのつもりだろうけど、比企谷だって言われ続けたらキツイと思う」
「八幡は、『ボッチだから』とか『キモイから仕方ない』とか言ってるけど、絶対にそんなことないと思う」
「いや、俺は大丈夫…」
「黙ってて」
「はい」
「今回の件でわかっただろ。比企谷は悪口言われても殴られても、自分の中に圧し殺してしまうんだよ」
雪ノ下と由比ヶ浜は黙っている。
「このままじゃ、いつか比企谷はパンクするよ。例えば自殺とか」
「いや、川崎。それはないだろ」
「本当に、そう言い切れるのかい?」
「それは…」
「だろ?」
「僕は八幡の友達として、二人に態度を改めて欲しい」
「出来ないなら、比企谷は私が貰う」
ん?川崎さん?表現おかしくないですか?
「そうね、比企谷君のそういう態度に甘えていたわね。比企谷君、ごめんなさい」
「ヒッキー、ごめんなさい」
「い、いや 、いいんだよ」
「今度あったら、力ずくでもアンタ達から比企谷を引き離すからね」
「川崎さん、戸塚君、そうならないよう、約束するわ」
「私も…。だって、ヒッキーと離れたくないモン…」
「それなら、いいけどさ」
「改めて言うわ、川崎さん。比企谷君は渡さないわ」
「それは比企谷が決めることだろ」
「わ、私だって負けないし!」
小声で戸塚に問いかける。
「なぁ、戸塚。これはどういうことなんだ?」
「八幡は女心を理解しようね」
うむ、よくわからん。