放課後、由比ヶ浜が声をかけてくる。
「ヒッキー!部活行こう」
「おう。…久しぶりだな、これ」
「…そうだね」
「じゃあ…」
「比企谷、少しいいかな」
んだよ、邪魔すんなよ葉山。
「なんか用か?」
「少し話したいんだが…」
由比ヶ浜が心配そうに、俺の顔を見てきた。
「心配すんな。俺になんかあったら、雪ノ下さんにコイツは潰されるから」
「ヒッキー、髪がグシャグシャになっちゃうよ」
しまった!無意識に由比ヶ浜の頭を撫でてしまった。
「す、すまん、由比ヶ浜」
「べ、別に大丈夫だよ。…えへへ」
「ゆ、雪ノ下に遅れるって言っておいてくれ」
「わかった」
「葉山、屋上でいいか?」
「あぁ」
屋上に着いても、何も言い出さない葉山…。何しにここまで来たんだ?
「おい、何もないなら…」
「俺は…どうすればよかったんだ…」
何言ってんだ、こいつは。
「知らねぇよ」
「比企谷、教えてくれ。俺はどうすれば…」
仕方ねぇな…。
「何もしなければよかったんじゃねぇのか」
「でも、それじゃあ…」
「じゃあ、お前に何が出来た?チェーンメールは?千葉村は?文化祭は?修学旅行は?」
「それは…」
「もっと遡るか?雪ノ下のイジメは?」
「っ!」
「ほらな。『みんなの葉山隼人』には、何も出来ねぇって言ってるんだ。みんなって誰だよ。小学生のオネダリかよ」
「みんな仲良く出来れば…」
「お前の『みんな』には個人がないんだよ。森を見て木を見てないんだよ。それともなにか?お前のいう『みんな』に含まれない人間…、つまり俺みたいなヤツが犠牲になれば丸くおさまるってことか?」
「…」
「沈黙は肯定だ。もう一度言う。お前は何もしない方がよかった。戸部にしたら、勇気が出なくて告白しなかったかもしれない。海老名さんは三浦に相談したかもしれないだろ。お前が動いたら、小学生の頃は雪ノ下へのイジメはヒドくなり、今回は奉仕部が壊れかけ、グループは崩壊…。出来ないなら、動くな、引き受けるな、拒否しろ」
「それじゃあ俺は…」
「『みんなの葉山隼人』じゃなくなるのが、そんなに怖いか」
「ああ、そうだ…」
「だったら、知恵をつけろ、能力を磨け」
「そんこと、すぐに出来るわけないだろ」
「ああ、そうだ。だから、何もするな」
「…」
「話が終わったなら、俺は行く」
「…くそっ!なんで…」
「わかった、トドメを刺してやる。お前みたいに根本的な資質がないヤツは、余計なことをするな。邪魔になるだけだ」
「な…!くっ…。チクショウ…」
まったく、面倒なヤツだな。
遅くなると雪ノ下に怒られちまうだろ。