演説会直後、俺達四人は生徒指導室に呼ばれていた。
「さて、比企谷。あれはどういうことだ?」
「平塚先生、『あれ』とは現国担当らしくない言い方ですね」
「比企谷、私の口から言わせたいのかね」
先生、指の間接ポキポキしないでください…。
「し、知りません。打ち合わせにはなかったです…」
「平塚先生、私のアドリブです」
由比ヶ浜、助かったよ。
「他の二人はどうかね?」
「由比ヶ浜さんには負けられませんから」
「私だって、お二人に負けるつもりはありません」
「比企谷、君はハーレムを作りたいのかね?」
「そんなことあるわけないじゃないですか…。養ってくれるならまだしも…」
「まぁ、そのことは後で聞くとして…。なにはともあれ、ご苦労だったな。私は今から一色の担任と厚木先生と校長室に行ってくる」
「何故、平塚先生と厚木先生が…」
「私と厚木先生は、文化祭の担当だったからな」
「すいません」
「なに。子供の責任を取るのは大人の仕事だ」
カッコいい。なんで結婚出来ないんだろう…。誰かもらってあげて!
「大人のことは大人に任せて、君たちは戻りたまえ」
「はい、失礼します」
はぁ、教室戻りたくないなぁ…。
「ヒッキー、教室行こう」
「行かなきゃダメか?」
「HRがあるからダメだよ」
教室に入ると好奇の目が…。川崎さん、何笑ってるんですか。
「八幡!」
「戸塚、どうした?」
「凄いね、三人に公開告白されるなんて」
「い、いや、違うんだ戸塚。何かの間違い…。そう、演説の内容が重いから、軽くしようとしたんだよ…。きっと…たぶん…おそらく…」
「そんなことないんじゃないかな」
戸塚、なんでそんなにニコニコしてるの?
…そういえば…
「葉山と戸部は?」
「演説会の後、サッカー部の顧問に呼ばれてたよ」
なるほどね。
「あ、先生来た。またね」
「おう」
HRが終わり、奉仕部に向かう。
その途中、見知らぬ男子生徒に声をかけられた。
「おい、比企谷」
「ん?誰だお前は?」
「ちょっとツラかせ」
「知らない人についていくなと、親に言われてるからな。断る」
「てめえ…!」
「ヒッキー、行ってあげたら」
「…由比ヶ浜」
「だとよ」
「勿論、私も一緒に行くよ。いいよね?」
「は?」
「いや、由比ヶ浜さんは…」
「せんぱ~い…。何をやってるんですか?」
「いや、あのな、一色…」
「いろはちゃん、やっはろー。この人がヒッキーに話があるみたいだから、私も聞こうかと思って」
「へぇ~、そうなんですね。私も話を伺いますよ」
「い、いや、比企谷に話とか…」
「何をやっているのかしら?」
「ゆ、雪ノ下…」
「なかなか部室に来ないと思ったら…」
「す、すぐに行くから、お前ら先に…」
「ダメだよ、ヒッキー」
「ダメです、先輩」
えぇ~、ダメなの。絶対、面倒臭いことになる~。
「どういうことかしら?比企谷君」
「いやぁ…、コイツとちょっと話が…」
「だから、私も一緒に話すよ」
「私もです」
「話は、いいや。じゃあ…」
「待ちなさい」
なんか雪ノ下が怖いんですけど…。
「貴方、比企谷君とどんな話をしようとしたのかしら?」
「そ、それは、もういいんで…」
女子三人に囲まれて、普通なら羨ましいはずなんだけど、なんだか怖い…。
結局、その男子生徒は俺を殴ろうとしていたことを自供して、そのまま、一色に連行されて職員室行き…。
余談だが、後日それが噂になり、『比企谷に手を出すと、ヒドイ目にあう』と言われるようになった。
時間はかかったが部室に到着した。
椅子は三つ横並びで置かれている。これが最近の定位置になっている。
「近いんですけど…」
「そんなことないわよ」
「えへへ」
「それに、あの演説はなんなんだよ…」
ため息混じりに聞いてみた。
「だって、普通に告白してもヒッキーは信じてくれないでしょ?」
「貴方にはこれくらいしないと伝わらないでしょ?」
「だからって…こんな…」
ふと、頭にあの言葉がよぎる。
「雪ノ下、お前のやり方、嫌いだわ」
雪ノ下が驚いた顔をする。続けて
「由比ヶ浜、もっと人の気持ち考えろよな」
由比ヶ浜も鳩が豆鉄砲くらったような顔をする。
「比企谷君…」
「ヒッキー…」
「くくくっ、あはははっ!悪い悪い。でも、言い返してやったぞ」
「比企谷君」
「ヒッキー」
「これで、オアイコだぞ。お前ら」
雪ノ下も由比ヶ浜も涙をこぼしながら笑っている。
「お前ら気持ちは俺に伝わったよ。だがな、こんな正面きって好意を向けられたことがなくてな、正直戸惑ってる。だから、返事は待ってくれないか」
「えぇ、わかったわ」
「うん、待つよ」
「由比ヶ浜さん、恨みっこ無しよ」
「わかってる」
しばらくすると、生徒会室に寄っていた一色と城廻先輩が来た。
「一色、当選おめでとう」
「おめでとう、一色さん」
「やったね、いろはちゃん」
「はい、ありがとうございます。みなさんのおかげです」
「まぁ、これから大変だろうけど、がんばれよ」
「先輩、何を他人事みたいに言ってるんですか?」
「だって、選挙終わっただろ」
「先輩のせいで生徒会長になったんだから、責任取ってくださいね」
「責任って、それのことね」
「それだけじゃないですよ。私をこんな気持ちにさせた責任も取ってくださいね」
あざとくウインクをしてくる一色。雪ノ下に由比ヶ浜、なんでそんなに睨むの。やめてください。
「そっか~。私も負けられないね♪」
ん?城廻先輩、どういうことですかね?
「私も比企谷君の彼女に立候補しま~す」
可愛く手を挙げる城廻先輩…。癒される…。って、なんですと!
「比企谷君、これはどういうことかしら?」
「ヒッキー?」
「先輩?」
「いやいや待て待て。俺が聞きたい」
「だって、泣いてる比企谷君見たらキュンて来ちゃって…」
モジモジする城廻先輩…。いい…。
「そ、そんなこと言われましても…」
ワタワタとしていると、扉をノックする音が。これは天の助けか…。
「どうぞ」
雪ノ下が返事をすると、川崎が入ってきた。
「なんだか賑やかだね」
「川崎か、どうした?」
「比企谷。アンタ予備校行くよね?」
「ん?ああ、行くぞ」
「ちょっと教えて欲しいところがあるから頼むね」
「文系なら任せろ」
「期待してる。じゃあ、それだけだから」
川崎が扉のところで止まった。
「そうだ、比企谷。スカラシップのお礼、ちゃんと言ってなかったよね」
「そうか?まぁ、気に…」
言いかけた時に、川崎が先に言葉を放った。
「サンキュー、比企谷。愛してるよ」
そう言った瞬間に川崎は真っ赤な顔をして逃げて行った。
「比企谷君…」
「ヒッキー…」
「先輩…」
「比企谷くん…」
なんで、みなさんハイライトの消えた目でボクを見るんですか?
怖い怖い、あと恐い。
どうやら、神様は悲劇ではなくラブコメ展開をお望みのようだ。
俺は静かに暮らしたいだけなのに…。
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アンチ・ヘイト要素を含んだモノが初めてでした。、ご批判・意見をいただいて、ありがとうございました。
一応、完結になります。
この展開の川崎ルートがベースにあったので、機会があれば公表したいと思っています。
お付き合いいただいて、ありがとうございました、