翌日、朝から平塚先生に呼び止められた。
「比企谷、ちょっといいか?」
「なんですか?」
「昨日は何故依頼も聞かずに帰ったんだ?」
「雪ノ下に聞かなかったんですか?」
「『あんな男に任せられない』としか言わなかったが…」
「じゃあ、そうなんでしょう」
「だが、しかし…」
平塚先生が問い直そうとした時、チャイムが鳴る。
「ほら、予鈴ですよ。行かなくていいんですか?」
「仕方ない。放課後、生徒指導室に来るように」
「わかりました」
昼休み。やはり殴られた。
痛みがある程度引くまで、人気のない所で大人しくして教室に戻ると、川崎に声をかけられた。
「アンタ、顔色悪いけど大丈夫かい?」
「あ、いつものことだ。気にするな」
「そう」
バレてなければいいが…。
放課後、由比ヶ浜が依頼の話をするから、部室に来なくていいと言ってきたので、すぐに生徒指導室に行く。
ノックをして、返事があったことを確認して中に入る。
「かけたまえ」
「はい」
「それで、何があったのかね?」
平塚先生はタバコに火をつけながら聞いてきた。
「依頼を解決する上で、やり方の相違があった。それだけですよ」
「だが、雪ノ下があそこまで言うのは何故だ」
「俺のやり方が正しくなかった。…と、いうことですよ」
「では、今回の依頼はどうするのかね?」
「雪ノ下と由比ヶ浜が上手くやるんじゃないですかね」
「君はそれでいいのか?」
「いいもなにも、依頼に携わる以前の話ですからね」
「いずれ、君の力が必要になると思う。その時はどうする?」
「その時に考えますよ」
「前向きに考えてくれ。私もまだ忙しくてな。今から会議なのだよ。時間をとらせて、すまなかったな。気をつけて帰りたまえ」
「うす」
生徒指導室から下駄箱へ向かう途中に声をかけられた。
「お~い、比企谷く~ん」
城廻先輩と昨日の一年生だ。
「うっす。奉仕部で話をしてたんじゃないんですか?」
「う~ん。行き詰まっちゃつてね~。そうだ!比企谷君、時間ある?」
「まぁ、ありますけど…」
「じゃあ、話を聞いてもらえるかな?」
「話だけなら…」
「じゃあ、生徒会室でいい?」
「いいですよ」
「ありがと~」
生徒会室で話を聞くと、この『一色いろは』という女子生徒が、嫌がらせにより生徒会長に立候補させれたのだ。クラスの担任はバカなのか、『みんなに支持されてるんだから、がんばれ』的なことを言ってるらしい。立候補の取り下げも出来ずに困っているらしい。
「もう『詰み』じゃないですか。生徒がどうにか出来る問題じゃないですよ」
「なんとか出来ませんかぁ~」
なんだこの甘ったるいしゃべり方は…。
「まず、その出来損ないの猫被りをやめろ。話はそこからだ」
「え~、素ですよ~」
「見る人が見ればわかる。特に女子はな。だから、こんな目にあうんだよ。自業自得だ」
自業自得…、心が痛む。
「そこをなんとか出来ないかなぁ」
「せんぱ~い、お願いします~」
「雪ノ下達はなんて言ってますか?」
「まだ結論は出てないかな」
「今、思い浮かぶ案は二つ」
「やっぱり、あるんじゃないですかぁ~」
「ひとつ目。一色が停学になるようなことをする。そうすれば、取り下げになるぞ」
「そんなこと出来ません」
「ふたつ目。信任投票になっても応援演説はあるから、そこでヘイトを集める。そうすれば、一色のせいではなく、応援演説した人間のせいになる」
「最低ですね。誰がそんなことやってくれるんですか?」
「まぁいないだろうな。一人を除いては…」
「誰ですか、その一人って」
「…俺だよ」
「比企谷君、それはダメだよ」
「あくまでも、最終手段ですよ」
「雪ノ下さん達は誰か対立候補擁立って言ってたけど」
「それではダメです。根本的な解決になってません。選挙は乗り切れるだろうけど、相手の思うつぼです。選挙の後に、またイジメがあるでしょう」
「そっかぁ」
「先輩って…」
「あん?」
「そこまで考えてくれるんですね」
「ま、イジメられるのは辛いだろうからな」
「比企谷君、お願いね」
「お願いしま~す」
「あ、雪ノ下達には内密にして下さい」
「わかった」
さて、どうするかな…。余計なことをして雪ノ下達の不興を買いたくない…。やっぱり、あの二人にこれ以上嫌われたくないんだな…。あの場所に帰りたいんだろうな。でも、もう帰れない…。あの二人の言葉が頭の中で響く…。