居場所   作:おたふみ

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三話

翌日、朝から平塚先生に呼び止められた。

「比企谷、ちょっといいか?」

「なんですか?」

「昨日は何故依頼も聞かずに帰ったんだ?」

「雪ノ下に聞かなかったんですか?」

「『あんな男に任せられない』としか言わなかったが…」

「じゃあ、そうなんでしょう」

「だが、しかし…」

平塚先生が問い直そうとした時、チャイムが鳴る。

「ほら、予鈴ですよ。行かなくていいんですか?」

「仕方ない。放課後、生徒指導室に来るように」

「わかりました」

 

昼休み。やはり殴られた。

痛みがある程度引くまで、人気のない所で大人しくして教室に戻ると、川崎に声をかけられた。

「アンタ、顔色悪いけど大丈夫かい?」

「あ、いつものことだ。気にするな」

「そう」

バレてなければいいが…。

 

放課後、由比ヶ浜が依頼の話をするから、部室に来なくていいと言ってきたので、すぐに生徒指導室に行く。

ノックをして、返事があったことを確認して中に入る。

「かけたまえ」

「はい」

「それで、何があったのかね?」

平塚先生はタバコに火をつけながら聞いてきた。

「依頼を解決する上で、やり方の相違があった。それだけですよ」

「だが、雪ノ下があそこまで言うのは何故だ」

「俺のやり方が正しくなかった。…と、いうことですよ」

「では、今回の依頼はどうするのかね?」

「雪ノ下と由比ヶ浜が上手くやるんじゃないですかね」

「君はそれでいいのか?」

「いいもなにも、依頼に携わる以前の話ですからね」

「いずれ、君の力が必要になると思う。その時はどうする?」

「その時に考えますよ」

「前向きに考えてくれ。私もまだ忙しくてな。今から会議なのだよ。時間をとらせて、すまなかったな。気をつけて帰りたまえ」

「うす」

 

生徒指導室から下駄箱へ向かう途中に声をかけられた。

「お~い、比企谷く~ん」

城廻先輩と昨日の一年生だ。

「うっす。奉仕部で話をしてたんじゃないんですか?」

「う~ん。行き詰まっちゃつてね~。そうだ!比企谷君、時間ある?」

「まぁ、ありますけど…」

「じゃあ、話を聞いてもらえるかな?」

「話だけなら…」

「じゃあ、生徒会室でいい?」

「いいですよ」

「ありがと~」

 

生徒会室で話を聞くと、この『一色いろは』という女子生徒が、嫌がらせにより生徒会長に立候補させれたのだ。クラスの担任はバカなのか、『みんなに支持されてるんだから、がんばれ』的なことを言ってるらしい。立候補の取り下げも出来ずに困っているらしい。

 

「もう『詰み』じゃないですか。生徒がどうにか出来る問題じゃないですよ」

「なんとか出来ませんかぁ~」

なんだこの甘ったるいしゃべり方は…。

「まず、その出来損ないの猫被りをやめろ。話はそこからだ」

「え~、素ですよ~」

「見る人が見ればわかる。特に女子はな。だから、こんな目にあうんだよ。自業自得だ」

 

自業自得…、心が痛む。

 

「そこをなんとか出来ないかなぁ」

「せんぱ~い、お願いします~」

「雪ノ下達はなんて言ってますか?」

「まだ結論は出てないかな」

「今、思い浮かぶ案は二つ」

「やっぱり、あるんじゃないですかぁ~」

「ひとつ目。一色が停学になるようなことをする。そうすれば、取り下げになるぞ」

「そんなこと出来ません」

「ふたつ目。信任投票になっても応援演説はあるから、そこでヘイトを集める。そうすれば、一色のせいではなく、応援演説した人間のせいになる」

「最低ですね。誰がそんなことやってくれるんですか?」

「まぁいないだろうな。一人を除いては…」

「誰ですか、その一人って」

「…俺だよ」

「比企谷君、それはダメだよ」

「あくまでも、最終手段ですよ」

「雪ノ下さん達は誰か対立候補擁立って言ってたけど」

「それではダメです。根本的な解決になってません。選挙は乗り切れるだろうけど、相手の思うつぼです。選挙の後に、またイジメがあるでしょう」

「そっかぁ」

「先輩って…」

「あん?」

「そこまで考えてくれるんですね」

「ま、イジメられるのは辛いだろうからな」

「比企谷君、お願いね」

「お願いしま~す」

「あ、雪ノ下達には内密にして下さい」

「わかった」

 

さて、どうするかな…。余計なことをして雪ノ下達の不興を買いたくない…。やっぱり、あの二人にこれ以上嫌われたくないんだな…。あの場所に帰りたいんだろうな。でも、もう帰れない…。あの二人の言葉が頭の中で響く…。

 

 


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