部室を出ようとしたら、雪ノ下さんに呼び止められた。
「比企谷君は二人に話があるでしょ?」
「い、いえ…別に…」
もう、俺には…。
「ひ、比企谷君!」
「ひ、ヒッキー!」
「比企谷君になくても、二人にはあるみたいね」
「お、俺は…、この場所に相応しくない…だから…」
「そんなことない!」
由比ヶ浜が叫んだ。
「お願い…比企谷君。そんなこと言わないで…お願いだから…」
雪ノ下が涙声で言う。
「だが俺は…、最低なことをした…。そして、お前らに嫌われた…」
「姫菜があんな依頼をしてるなんて知らなかった…」
「相反する2つの依頼の解決なんて無理よ…。あの場では、ああするしかなかったのよ…」
「でも、部室で…」
「比企谷君、改めて、ごめんなさい。あんなこと言って。修学旅行のあと、比企谷君が傷つかないようにするにはどうしたらいいか悩んだのよ…」
「ヒッキー、私もごめんなさい。ヒッキーがどうしてあんなことしたのかわからなくて…」
「貴方にもう傷ついてほしくなかったの…。奉仕部に居たら、また貴方が傷ついてしまいそうで…」
「だから、少しヒッキーと距離をとろうって、二人で話をしたの…」
「貴方のことだから、中途半端だとバレてしまうから、思いきってやったら…」
「ヒッキーのこと、そこまで追い込んでるなんて、思ってなくて…」
「それに、暴力を受けているなんて思いもよらなくて…」
二人が謝ってくれている。それに、拒絶されていた理由がわかった。誰かさんみたいなやり方で。誰かさんて誰だよ。
だったら…、もしかして…もしかしたら…。
「比企谷君、君はどうしたかったのかな?君は何を望むのかな?」
「雪ノ下、由比ヶ浜、俺は…、ここに居ていいのか?」
「居ていいんじゃない!比企谷君、貴方に居てほしいのよ!」
「ヒッキーと離れたくない!」
雪ノ下も由比ヶ浜も泣いている。自分でも、涙が頬をつたうのがわかる。
「俺は…、ここに居ていいんだ…。必要としてくれるだな…」
「えぇ、もちろんよ。貴方と離れるなんて嫌よ。もう貴方を離さないわ」
「私もヒッキーと離れないからね」
三人で抱きあい、ワンワン泣いた…。最近泣きすぎだろ、俺…。
「俺は、今の関係を崩したくなかった海老名さんに思うところがあった…。俺だって奉仕部の関係が壊れたらイヤだ。だから、アイツらの関係が保てるようにあんな行動に出た…」
「そう…だったのね…」
「だが、海老名さんの居場所を守って、自分の居場所を無くして、本末転倒だった…」
「そうね…」
「そうだね」
「俺を突き放すの下手くそ過ぎだよ、お前ら」
「ごめんなさい」
「ヒッキー、ごめん」
黒歴史の更新を終えて、雪ノ下さんにお礼を言う。
「雪ノ下さん、ありがとうございました」
「三人がそれを望むなら、それでいいよ」
「ありがとう、姉さん」
「ありがとうございました」
「姉さんは、いつから気がついていたのかしら…」
「ドーナツ屋に呼び出した時かな。雪乃ちゃんもガハマちゃんもわかりやすいんだモン」
「俺は全然わかりませんでした…」
「う~ん、比企谷君は視野狭窄になってたからかな。普段なら見逃さないはずだよ。そんなに、視界が狭くなるほど、雪乃ちゃんとガハマちゃんのこと好きなのかな。お姉さん、ヤキモチ妬いちゃうよ」
「うぐっ…」
「それにしても、三人とも不器用過ぎ。雪乃ちゃん、ガハマちゃん、次にこんなことあったら、比企谷君は貰っちゃうからね」
「比企谷君は渡さないわ」
「ヒッキーは渡しません」
雪ノ下さんは扉の方に向き直り、部室を出でる。その直前に
「そうだ!もうひとつの依頼。頑張ってね」
「あっ!」
「あっ!」
「あっ!」
すっかり、忘れてました。
「じゃあ、めぐり達呼んでくるから、よろしくね。あと静ちゃんにも、ちゃんとお礼を言ってね」