GANTZ『焔』   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第1話 ここが私の戦場よ

 東京都の一角はその日、美しいまでの夕日に照らされていた。

 

 逢魔が時には魔物が現れる、と誰かが言った。

 太陽が沈み始め、昼から夕暮れへと移り変わる境目の時間。

 それは昼に行動する人間と、夜に行動する魔物の活動時間が重なる故に魔物に出会うと言われてきた。

 科学が発達し、夜もまた人の活動時間となった現代社会においては古錆びた迷信でしかないが、それでも逢魔が時というものが確かにあるのだという事を少女は知っていた。

 そして、少なくとも今日を最後に逢魔が時に魔物と出会う人がいなくなる事も。

 

「これで全てが終わる」

 

 艶のある黒髪を風になびかせ、紫と白の衣装に身を包み、少女は儚げに微笑む。

 美しい少女であった。

 年齢は14歳か15歳といったところだろうか。幼さを残しつつも、将来の美貌を確信させる整った容姿は異性の目を惹いてやまないだろう。

 胸元は控えめだが、それを補って余りあるだけの魅力は備えている。

 しかしそんな容姿以上に他者の目を引くのは、その奇抜なファッションだ。

 頭のカチューシャはいいとして、その服装は制服のようでもあり、しかし鋭角的でコスプレ染みている。

 相応しい表現を探すならば……『魔法少女』といったところだろうか。

 そして事実、彼女は魔法少女である。

 外宇宙から飛来した、未確認生命体『インキュベーター』と契約を交わし、たった一つの願いと引き換えに全てを失い人知を超えた力を得た少女達。

 彼女――暁美ほむらはそんな魔法少女のうちの一人であり、そしてこれより最後の一人となる。

 

「これが最後の魔女……これで、私の永い旅も終わりを告げる」

 

 暁美ほむらは時間遡行者である。

 誰よりも守りたかった友を破滅の運命から救うために何度も同じ時間をやり直し、何度も戦ってきた。

 失敗した回数は両手の指では数え切れず、幾度となく心が折れかけた。

 しかしそれでも戦ってこられたのは友との約束があったから。

 必ず救ってみせると、己に誓ったから。

 だから戦ってきた。どれだけ傷付こうと、どれだけ嫌われて憎まれようと。

 いつか辿り着くゴールだけが贖罪になると信じて。

 この全身の痛みだけが罪を薄れさせてくれると願って。

 

「もう私が時間を戻す事はない……その必要もない。

この戦いを最後に、地球から魔女と魔法少女はいなくなる」

 

 数え切れないほどの挫折と失敗を繰り返し、彼女は諦めずに正解への道を探し続けた。

 その工程でいくつかの時間軸を『捨て』、トライ&エラーを言い訳に仲間を見殺しにしたのも一度や二度ではない。

 それだけの罪を背負い、やがて彼女はこの時間軸で成し遂げたのだ。

 宿敵である『ワルプルギスの夜』を討伐し、街を救った。

 巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか、そして鹿目まどか……その全員の生存を達成した。

 そして反則技にも等しい方法で……前の時間軸のまどかの願いを利用する形で、後の禍根を断つ術も手に入れた。

 

 ワルプルギスの夜を撃破した後、ほむらが行ったのは世界中を巡り各地の魔法少女と協力して魔女と使い魔を完全に世界から消す事であった。

 勿論そのままでは協力などしてくれない魔法少女もいただろう。

 魔女は敵ではあるが、魔法少女にとっての生命線でもあるのだ。

 ただしそれは、“これからも魔法少女を続けるならば”の話。

 一つ前の時間軸でまどかは願った。願ってくれた、願わせてしまった。

 『暁美ほむらの死をトリガーに、その時間軸の全ての魔法少女を人に戻す』

 それが一つ前の時間軸のまどかの願い。

 『暁美ほむらの死をトリガーに、その時間軸の全ての人間はインキュベーターと契約する事が出来なくなる』

 それがもう一つ前の時間軸のまどかの願い。

 無論、人の死をトリガーに発動する願いなど、あの優しすぎる少女が願ってくれるはずもないので騙した形になったのは言うまでもない。

 この願いを正確に言うならば『暁美ほむらのソウルジェムが砕けた時』というのが正しい表現で、願いを叶えたまどかはソウルジェムが砕けても魔法が使えなくなるだけだと誤認していた。誤認させた(・・・)

 この願いによって齎されるものは即ち、暁美ほむらが死んだとき、その時間軸からは魔法少女が消え、二度と生まれなくなるという至上の結末だ。

 少なくともほむらにはこれ以上のハッピーエンドを思い付く事は出来ない。

 ならば後は魔女を全て消し去るのみ。

 その為にほむらは世界中の魔法少女を説得して回り、連携し、そして遂に最後の一体になるまで追い詰めたのだ。

 もう他に魔女も使い魔もいない。それはインキュベーターにしつこいくらいに確認し、曖昧な返答を認めずに、言い方を変えて選択肢をYESとNOの二択に強制し、あらゆる角度から質問して証言させた。

 ならばハッピーエンドは目の前だ。

 この魔女を消し、そしてほむらが死ねば全てが終わる。

 

「やられたよ、暁美ほむら。こんな方法で僕らの邪魔をするとはね」

「邪魔をしたわけではないわ。私は私の方法で最善の道を探し、貴方は貴方の方法で最善を探した。

私と貴方の目指す最善が異なったというだけの話よ。貴方の言葉を借りるならば認識の違いね」

「君が死ねばまどかは悲しむだろうね」

「でしょうね。あの子は優しいから……。

けれどその心の傷もやがては癒える。あの子には優しい家族がいて、美樹さやかがいて、巴マミがいて、佐倉杏子もいるのだから」

「そうかい……僕らはこの星から引き上げる事にしたよ。

君のおかげで、もうこの星でのノルマ達成は不可能になってしまったからね」

「なら、何故ここにいるのかしら」

 

 ほむらは魔女結界の中に踏み込みながら己の手の甲を見る。

 そこには彼女の本体であるソウルジェムがあった。

 紫色に輝くそれは、幾度もの戦いを超えた今となっては限界を越え、細かい亀裂が無数に走ってしまっている。

 仮にこの戦いを生き延びたとしても、これではほむらが明日の日の出を見る事はもうないだろう。

 

「見届けようと思ってね。この星最後の魔法少女の戦いを」

「そう」

 

 ほむらはあえて追い払う事もせず、盾の中から銃を出した。

 インキュベーターはそんな彼女の肩に乗り、共に結界の奥へと進んでいく。

 

「この結界は特に瘴気が濃いね」

「そうね……行くわよ」

 

 歩きながらほむらは考える。

 それはこれまでに過ごしてきた時間であり、死んでいった多くのまどかであり、そしてこれから先にあるだろう、まどか達の幸せな明日であった。

 

(悲しみと憎しみばかりを繰り返す、救いようのない世界だけれど……だとしてもここが、私の守りたかった場所。

それを誰も覚えていなくてもいい。あの子が笑っていてさえくれれば……それだけで私は戦える)

 

 何度も逃げてきた。

 ここは私の戦場ではないと、世界を見捨ててきた。

 滅んでいく世界に背を向け、その度に新たな罪を背負い、後悔と懺悔の中で戦い続けた。

 だがもうその言葉を吐く必要はない。

 何故ならここが、探し続けた己の死に場所なのだから。

 

「ここが――私の戦場よ!」

 

 その後しばらくして、魔女の結界が紫色の輝きに満たされた。

 それは蝋燭が燃え尽きる最後の一瞬のような儚くも眩い輝きであり、暁光の訪れを予感させる焔の如き鮮烈さを伴って最後の魔女を結界諸共抹消してみせた。

 

 

 

 この日、有史以来続いてきた魔法少女と魔女の戦いは終わりを告げた。

 一人の魔法少女が終わらせた。

 かつて彼女だった魂の宝石は無数の破片となって地面に散らばり――しかし不思議と、それは満足しているように夕日を反射して煌めいていた。




(ほむら視点)ベストエンド。
尚、ここに来るまでに味方からの好感度をカンストさせてしまっているので実はほむら視点以外だと……。
そしてほむら的にはこれ以上ない超ウルトラハッピーエンド達成したんだから、もう寝かせてくれという感じですがこのSS的にはここからが本番です。

✪ というわけで皆様こんばんわ。
覚えている人はごく少数でしょうが、以前にもドラゴンボールでSSを書いておりました。
ヒーローズとモロ編が終わったら続きを書こうと思ってるのですが、待っている間暇だったのでまどマギのほむら主人公でガンツという色物に挑戦してみます。
マミさんがガンツに呼ばれるSSは以前どこかで見た覚えあるんですけどほむらはないなあと思い、手を出しました。
もしよろしかったら見て行ってください。
とりあえず完結まで大まかには書き終わってるので事故ってパソコンが吹っ飛ばない限りは多分完結まで毎日更新します。
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