GANTZ『焔』   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第15話 お前達は何なのだ?

 恐竜博へ向けて走るほむらの視界に、今回の敵と思われる複数の生物が映った。

 それはある意味ではこの場に相応しく、しかしこの時代には相応しくない存在だ。

 全長は約2m。猛禽類の鉤爪のような手足にワニのような口と鋭い牙。

 ヴェロキラプトル……だっただろうか。

 ほむらはあまり詳しくない恐竜の知識からそれらしき名を何とか引っ張り出し、とりあえずこの敵をラプトルと呼ぶ事にした。

 

「ヴオオオ!」

 

 ラプトルが四体、ほむらを獲物と見て走ってきた。

 ほむらも速度を落とさず走り、やがて手が届く距離まで近付いたところでラプトルが口を開いてほむらに襲い掛かる。

 ガチン、とラプトルの牙が噛み合い、しかしそこに獲物の姿はない。

 ほむらは――上だ。ラプトルが噛み付くよりも一瞬早く宙を舞い、彼等を跳び越えながらラプトルを全てXガンのロックオン機能に捉えていた。

 Xガンは二つの引き金を引く事で発射出来るが、先にロックオンを終わらせておけば銃口の向きや敵の位置に関係なく当てる事が出来る。

 これはYガンも同様の事で、必中とまではいかないが一度ロックオンを終わらせたXガンの攻撃を避けるのは不可視の弾丸と合わさって非常に難しい。

 少なくともほむらの姿すら見失っているラプトル達は自分が今ロックオンされ、撃たれている事にすら気付けないだろう。

 ほむらはそのままラプトル達の背後に着地し、振り返る事なく駆け出す。

 それにようやくラプトルが気付くも、追いかける前に身体が爆散して血の海に沈んだ。

 

 ラプトルはほむらが倒したものが全てではない。

 玄野達の所にも大挙して押し寄せ、しかし玄野達に近付く前に東郷の狙撃によって次々と頭が破裂していた。

 ようやく近付いても、そこに待つのもまた精鋭だ。

 JJの鉄拳がラプトルの顎にめり込み、そのまま跳躍。

 天へ昇る龍の如き勢いでラプトルを殴り飛ばし、絶命させる。

 ライスは縦横無尽に駆け回り、自らがラプトルよりも小さいのを活かして死角――胴体の下に潜り込んでは素早く、その鋭利な牙で喉を噛み切っていく。

 桜丘がバイクを爆走させてラプトルを片っ端からひき逃げし、玄野がロックオンで複数を捉えて同時に仕留める。

 そして加藤は他のメンバーが撃ち漏らしたラプトルをYガンで丁寧に処理していた。

 そんな中、東郷がその優れた視力で遠くにいる人型の何かを発見した。

 それは麦わら帽子を被った、子供向けの漫画からそのまま出て来たようなのっぺりとした顔の異星人であった。

 ガンツに表示されていたかっぺ星人……今回のターゲットに間違いないだろう。

 

「…………ターゲット発見。これより排除する」

 

 東郷が引き金を引き、遠方にいたかっぺ星人の頭と胴体が弾け飛んだ。

 これで今回の標的は始末したが、こんな事で終わるなどとは思っていない。

 東郷が経験した過去二回のミッションでも、怒りんぼう星人と暴れんぼう星人はそれよりも強力な大仏と千手観音がいたし、チビ星人は一体ではなかった。

 ならば他にボスがいるか、あるいは同じ星人が複数いるかのどちらかだ、という事は簡単に予想出来る。

 しかし東郷にとってはどちらでもいい事だった。

 自分に与えられた仕事はただ、撃つ事のみ。

 ならば射程内に入った敵を淡々と処理し続ければいい。それがプロというものだ。

 

 レーダーの反応を頼りに、恐竜博へ突入したほむらが見たものはトリケラトプスと戦っている和泉の姿であった。

 今日ガンツに連れてこられたばかりの人間が星人と一騎打ちをしている……普通ならば援護に入らなければならない場面だろう。

 しかしほむらはその必要はないと判断した。

 和泉の動きが明らかに今日初めて戦う人間のそれではないし、何より彼は戦いを楽しんでいる。

 下手に邪魔をして恨みを買う方が面倒臭い。

 ほむらと和泉の視線が一瞬交差し、しかしどちらも相手と関わる気がないので声をかけるような事はしない。

 ほむらはそのまま和泉を無視して別の反応がある場所へ向かい、和泉も何事もなかったかのように戦闘を再開した。

 

 次の場所にいたのは、恐らく恐竜としては最も有名な存在であるT・レックスであった。

 勿論ほむらはT・レックスの実物など見た事はないので、図鑑そのままの姿のそれが本当にT・レックスであるかどうかは分からない。

 それが二頭。ジュラ紀の景観を再現した展示室で佇んでいた。

 人工物である屋根や壁さえ目に入れなければ、まるで本当に太古の世界に迷い込んだような錯覚さえ覚えるが、ほむらのやる事は変わらない。

 

「試してみましょうか」

 

 いつも通りXガンを出そうとしていた手を止め、ほむらはキュゥべえに持たせていたZガンへ手をかけた。

 これだけの図体ならば、Zガンの破壊力を試すための的として丁度いい。

 目にも見えぬ早業でZガンを抜き、発射する。

 相手に反応さえさせない速度で撃てるならばロックオンの追尾機能すら必要なく、確実に当てる事が出来る。

 発射音が響き、ここでようやくT・レックス二頭は自分達が撃たれた事に気付いたようだ。

 だがもう遅く、少しのタイムラグを経て二頭のT・レックスは“消えた”。

 ……いや、消えたのではない。押し潰されたのだ。

 Zガンによって生じた不可視の重圧が床ごと二頭を潰し、原型も留めぬ血の池へと変えてしまったのだ。

 陥没した床の中は赤いプールのようであり、臓物や肉片が浮かんでいる。

 

「…………」

 

 あまりの破壊力に使用した本人であるほむらすら言葉を忘れた。

 性能はあらかじめ知っていたし、試し撃ちも済ませている。

 だがそれでも実際に星人相手に使ってみると、衝撃が違う。

 なるほど、解放を捨ててまで手に入れる武器なだけはある。Xガンとは殺傷力が段違いだ。

 あの千手観音ですらこれで撃てば、持っている全ての宝具ごと押し潰して一撃で仕留める事が出来るだろう。

 勿論撃たせてもらえれば……の話ではある。

 大抵の使い手では撃つ前に灯篭レーザーで即死させられて終わるだろう。

 すぐに衝撃から立ち直ったほむらはZガンをキュゥべえの頭に乗せ、次の場所へと向かう。

 Zガンという重い武器を押し付けられたキュゥべえがプルプルしているが知った事ではない。

 

「わ、わけがわからないよ……」

 

 部屋を移動すれば、そこにいたのは最大クラスの恐竜と言われるブラキオサウルスだ。

 いや、正確に言うならブラキオサウルスの姿をした星人か。

 ここまでのミッションで分かった事は、星人は星人なりに地球の文化を学んで社会に溶け込もうとしているという事だ。

 ねぎ星人はアパート暮らしで基本的には何もせずに暮らしていた。

 パソコンで得た情報によると彼等はねぎだけで生きていけるらしく、『ねぎ下さい』や『二本でいいです』などの言葉は彼等の主食であるねぎを購入する為に覚えた地球の言葉だろう。

 そして、それ以外の言葉は必要なかったからそれしか覚えず、会話が成り立たなかったのだ。

 今にして思えば『ねぎあげます』というのは彼等にとっての大事な食料であるねぎを相手に差し出す行為であり、恐らくあれは降伏の意味をもっていたのだ。

 あの時は分からなかったが、ねぎ親父には少し可哀想な事をしてしまった。

 田中星人は地球人に擬態して暮らす事を選び、その擬態先としてテレビに映っていた有名人を真似た。

 彼等が模倣先に選んだ『歌のお兄さん』は画面の中ではいつも子供達に囲まれ、慕われていたのでその姿と言動を真似れば地球人から警戒されないと思ったのかもしれない。

 千手観音達は仏像に擬態する事を選び、そこでじっとしている事で地球に馴染む事が出来た。

 チビ星人は……これだけはよく分からないが、恐らく彼等も人に化けるなりの手段があったのだと思われる。

 そして今回の異星人は恐竜に扮し、恐竜博に隠れ住む事にした……というところか。

 この事から分かるのは、これまで戦ってきた星人達は決して理解不能で支離滅裂な思考回路を持つ存在などではなく、常識がこちらと違うだけの確かな知恵のある生物だという事だ。

 そして――今の所例外なく、先に仕掛けているのは常にこちらだという事。

 ねぎ星人は放置しておけばきっと、あの後もアパートで暮らしてねぎを食べているだけだっただろう。

 田中星人も、手を出さなければただお菓子を大量に買い込むだけの不気味なコスプレ野郎のまま終わっていた。

 仏像達はあの戦いがなかったなら、今日もあの寺院で多くの参拝客に拝まれていたはずだ。

 

(読めてきた気がするわね、星人の正体が。

彼らはいわば不法滞在者。何らかの理由で地球に移住し、隠れ住んでいるだけで、今の所地球人に敵対的なわけではない。

そしてガンツはさしずめ、その不法滞在者を発見して追い出す警察のようなもの。

……ただし星人に人権はなく、追い出す方法は“Dead or Alive(生死は問わない)”。

そして、それを追い詰める私達もまた人権のない奴隷のようなもの)

 

 あくまで予想である。

 しかしこれまでに会ってきた星人の事を考えると、そこまで的外れだとも思えなかった。

 だからほむらは銃を一度納め、対話を選んでみる事にした。

 勿論、相手がそれを拒絶するならばその時は戦うだけだ。

 

「そこの貴方、地球の言葉は学んでいるかしら。

理解出来るなら答えなさい……貴方達は何故、地球に来たの」

「キュ?」

「貴方達のような者がいるから、死者を流用した私たちのような複製(兵士)が生み出され、そして戦いへと駆り出されている。

答えなさい、貴方達は何を目的としてこの地球に入り込んできたの?」

「暁美ほむら……君は、知っていたのかい? 彼等の事を」

 

 キュゥべえにとって、今までガンツの標的となったのが全て母星を失った漂流者だというのは周知の事実だ。

 少なくともインキュベーターならば知っていて当たり前の事でしかない。

 しかしそれを教えていない暁美ほむらが言い当てたのは、流石に少しばかりの驚きがあった。

 

「ただの推察よ。けど、貴方の反応でそう間違えているわけでもない事が分かったわ」

「訂正するほどの間違いはないね」

「そう、訂正しなくていい程度の間違いはあるのね。後で聞かせてもらうわよ」

 

 ほむらは両手をダラリと下げ、相手の返事を待った。

 勿論、決して油断しているわけではない。

 この体勢からでもほむらならばすぐに射撃に移行する事が出来る。だからあえて隙を見せているのだ。

 しばし睨み合い、やがてブラキオサウルスはしらばっくれる事が出来ないと悟ったのか口を開いた。

 

「……小さき者よ、お前達は何なのだ?

何故現地の生物なのだ? 誰に頼まれた?

お前達には何も迷惑をかけていなかッたのに……」

 

 やはり話そうと思えば話せたようだ。

 先程のラプトルやT・レックスのような知能の低い『兵士』である可能性もないわけではなかったが、とりあえず運がよかったと思っておこう。

 ほむらはブラキオサウルスを見上げながら、自分が言える範囲で答えた。

 

「私達は……駒よ。貴方達を排除しようとしている何者かが死者を複製して生み出した都合のいい兵士。

頼まれてやっているわけではないわ……私達に選択権は与えられていない……ただ貴方達と戦うしか道がないから戦っている。

現地の生物……というのは、この科学力を指してのものかしら」

「……そうだ」

「それは分からないわ。地球外のテクノロジーではあるのでしょうけど、どこの誰がこんな技術を地球に提供したのかは知る術がない」

 

 ほむらの返答にブラキオサウルスは思案するように首をかしげた。

 見た目は草食恐竜なので可愛らしいが、きっと彼なりに何か考えているのだろう。

 やがて彼はほむらを見据え、威圧するように言う。

 

「我等は……我らの住む惑星系は消滅し、そして我等は宇宙を漂流し続けた……。

その末に、ようやく生物が住めるこの惑星を見付け、少しずつ……移住を始めた。

我等はそれぞれ、この星の原住民に……あるいは文化に……成り代わり、ゆッくりと社会に浸透してきた」

「移住はもう終わっているの?」

「……いずれは、より巨大な者達がこの地球へ訪れる。今も宇宙船に乗ッて……ゆッくりと近付いている……」

 

 ブラキオサウルスの言葉を聞き、ほむらは目を閉じた。

 これが全てだとは思わないが、彼等の正体への取っ掛かりが掴めたのは大きな進歩と言っていいだろう。

 現状ではまだ推測しか出来ないが……恐らく彼らの正体は、数種類の異星人が共生する巨大国家……いや、巨大コロニーだ。

 ねぎ星人、田中星人、チビ星人、千手観音らが同じ生物だとはほむらには思えない。

 あれらは間違いなくそれぞれが別の星で別の進化を遂げたものだ。

 しかしそれらが同じ理由で地球に来ていて、それでいて衝突をしていないならば彼等は横で繋がっているという事になる。

 数多の異星人が一つの共同体を形成し、それらが地球という星に住みたがっているならば……穏便に終わるはずがない。

 必ず土地が足りなくなり、必ず原住民を排除するという選択肢に辿り着く。

 今来ている異星人は、いわば先遣隊。まずは事を荒立てずに地球に入り込み、地球を知り、そして有事には内部から地球人陣営を崩す兵にもなる。

 そしてガンツは……ガンツの裏にいる何者かは、それを予見して異星人の排除に乗り出したのだ。

 事を表沙汰にしないのは、混乱を避ける為だろうか。

 これも推測でしかないが、どれだけ潜り込んでいるかも分からない異星人を下手に刺激しては一斉に暴れだしかねない。

 軍が動いては、地球人が気付いているという事を相手に気付かれてしまう。

 警察も同様だ。組織は動かせない。

 だから、世界から消えた存在……いないはずの人間……即ち死者を使って裏から潰して回る事にしたのではないだろうか。

 つまり、自分達がやらされているのは暗殺なのだ。

 そうほむらは考えた。

 

「そう……有難う。胸のつっかえが取れたわ。

おかげで――遠慮なく引き金を引ける」

 

 ほむらはZガンを抜き、ブラキオサウルスへ向けた。

 よく分かった。やはりこいつらは敵だ。

 実は少し不安があったのだ。自分達は無意味にわざわざ藪をつついているのではないかと思っていた。

 案外彼等の数は少なくて、放っておけば何も起こらないのに無駄に寝た子を起こしていただけではないのかと……そう思っていた。

 とんでもない……ガンツは正しかった。

 やり方は腐れ外道そのもので、到底許す気になれないが、異星人を秘密裏に処分するという一点においてのみ、ほむらはガンツと、その裏にいる者の正しさを肯定する。

 こいつらは侵略者だ。今は無害な隣人の顔をしているが、本隊が来れば仮面を捨てて敵に早変わりする。

 争う気がない――のではない。今は(・・)争う気がない。それだけだ。

 本当に共生する意思があるならば人類側に話を通すくらいの事をするだろう。だがそれをやっていない。

 インキュベーターと同じだ。表向きはどれだけ無害な顔をしていても、本質的な部分で人類を家畜か、あるいは現地のどうでもいい生物くらいにしか考えていないのだ。

 事前に話す価値もないと思っている……だから彼等は無断で移住しているのだろう。

 冗談ではなかった。

 何度もループをして、何度も負けて、その果てにようやくまどかが平和に暮らせる今を勝ち取ったのに、その平和の裏にこんな侵略者達が潜んでいては安心など出来ない。

 だから撃つ、排除する。

 まどかを脅かす全てを、先に逝ったオリジナルに代わってこの手で消し去る。

 その鉄血の覚悟を、暁美ほむらは改めて魂に刻んだ。

 

「お前達にも事情がある事は理解したわ。

けど、だからと言って黙って侵略されてやるつもりはない」

 

 

 

 もう迷いはない。

 ほむらは躊躇なくZガンを撃ち、ブラキオサウルスを圧死させた。




ほむら(正直こいつに比べれば圧倒的にマシな連中のようね……)
キュゥべえ「暁美ほむら。どうして僕をそんな目で見るんだい?」

【100点めにゅ~でほむらを増やせないのか?】
割とこの質問が多かったので追加。
結論から言うとほむらが死ねば可能。
勿論ほむらは死ぬつもりはないので、実質不可能。
まず100点での再生はメモリーに登録されている人間を再生させるというものだが、このメモリーに登録されるのはガンツに呼び出された上でミッション中に死亡した(あるいは解放された)人物。
(ただしタエちゃんという例外あり。
星人ではなかったのでタエちゃんも『ミッションで死んだ人間』判定を受けたのだろうか?)
2巻や8巻でも西君と玄野がメモリーを表示する際には『死んだ人間を見せてくれ』と言っているので、やはり死んだ人間でないと再生は不可能だと思われる。

ただし『死んだ人間を見せてくれ』と頼んでいるから、あえて玉男が気を利かせてそういう表示にしてくれているだけで実は死んでいなくてもメモリに登録されている可能性はゼロではない。
こう解釈してしまえば生きている人間だろうが増やせるようになるので、結局は書き手の解釈次第。
このSSでは面倒なので『死ぬ→メモリに登録される→再生可能になる』で固定とする。

また、GANTZ:Oでは別の部屋の人間を加藤が再生させているので、別の部屋のメモリーに登録されていようが再生出来るのかもしれない。
カタストロフィ編でブラックボール同士で通信も可能だった事から考えるに、ブラックボール同士で情報やメモリーを共有している可能性は十分ある。


ちなみに、一度もミッションで死んでいない玄野が再生可能だった事から考えるに『解放された者』も再生可能の中に加えられると思われる。
つまり確実に和泉もメモリーに登録されているはずだが、もし和泉を再生させたらやはり玄野同様に解放前の和泉が再生されるのだろうか……。

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