GANTZ『焔』   作:マジカル☆さくやちゃんスター

20 / 48
第19話 一般人の死者が出る

 今回のターゲットであるゆびわ星人は、全長10mほどの騎士の姿をした星人で、馬に跨り、巨大な武器を持っている。

 外見は今まででもトップクラスに強そうであり、実際力は強かった。

 不用意に前に出たチーマーのうちの一人がゆびわ星人の一撃を受けただけでスーツが駄目になってしまったので、攻撃力だけは田中星人の超音波数発分に比肩すると見ていい。

 それを八体倒すのが今回のミッションの内容だ。

 

 ――結論を言えば楽勝であった。

 

 出だしからこのような事を言ってしまうと、ゆびわ星人が可哀想になるのだがこれ以外に表現の仕様がないほどに呆気なく今回のミッションは終わってしまった。

 それはもう、戦闘描写を省く程度にはこれといった苦戦もなく、特筆すべき部分もないほどに。

 確かに攻撃力は強かった。だが無駄に巨大なせいで攻撃は全て大振りで避けやすく、新人以外は一撃として攻撃を受けていない。

 そして巨大なせいで小回りが利かず、簡単に馬の下などの死角に潜り込んで攻撃出来てしまう。

 そして致命的なのが防御の薄さだ。頑丈そうな見た目をしているのに、普通にXガンが効き、剣で斬れ、JJや桜丘の格闘でも簡単に破壊出来た。

 要するに、でかいだけの的だ。

 多少戦闘慣れした人物ならば、スーツさえあればどんな方法でも倒してしまえるだろう。

 この程度の相手に今更苦戦する要素もなく、八体のゆびわ星人をそれぞれが各個撃破して終わってしまった。

 戦闘所要時間は僅か三分。ほむらの知る限りでは最短記録である。

 しかもこの弱さで何故か一体10点という高得点だ。

 結局今回のミッションは、主力メンバー……ほむら、玄野、加藤、東郷、JJ、和泉、ライス、桜丘がそれぞれ10点を獲得しただけのボーナスステージでしかなかった。

 

 唯一肝が冷えた場面といえば……カメラを持った少女が何故か戦闘区域をウロウロしていた事くらいだろうか。

 身長はほむらよりも小さいので、中学生かあるいは小学生だと思われる。

 放置するわけにもいかないので気絶させて離れた位置に運び、ついでにカメラは念のために壊しておいた。

 

 

 手応えのなかったゆびわ星人討伐ミッションの翌日。

 ほむらは食材の買い出しの為に、ライスの散歩がてら町を歩いていた。

 キュゥべえは留守番として今日もドアに挟まれている。

 今日はうどんを食べたい気分なので、ネギと椎茸、餅と麺、かまぼこなどを袋に入れ、今はマンションに戻る最中だ。

 ライスの食事用にそこそこ高めのドッグフード、キュゥべえの餌用に一番安い国外産キャットフードも買い溜めしておいた。

 

(……見られている?)

 

 何かの視線を感じ、ほむらは立ち止まった。

 魔法少女になって以降、出口のない迷路(一月のループ)で気を張り詰め続けてきたほむらの感覚は鋭敏だ。

 第六感とでも言うべき探知能力は、経験を重ねた魔法少女であれば誰しも持っているものであり、それがない魔法少女など契約したての頃の美樹さやかくらいのものだろう。

 魂と密接な関係にある魔法少女だからこそ、意思が発する波のようなものを感じ取れるのかもしれない。

 魔法少女だった頃よりも大分劣化してしまったが、それでもほむらの感知能力は常人とは比較にならない。

 その研ぎ澄まされた感覚が、誰かが自分を見ているという事をほむらに教えてくれる。

 しかし敵意のような粘ついたものは感じない。

 視線の元を辿れば……そこにいたのは、小さな子供であった。

 古いアパートの前で体育座りをし、ほむらを……いや、ほむらの持っている買い物袋を羨望の眼差しで見ている。

 別に無視して通り過ぎてもいいのだが、何となく後ろ髪を引かれるような気がする。

 何故あんな所に子供がいるのか。親はどうしたのか。

 考える程に厄介ごとの気配しかしない。

 

(遊びから帰ってきたタイミングでたまたま親がどこかに出かけていて、入れなくなった?

それとも親が昼寝でもしていて家に戻れない? あるいは……)

 

 考えても答えは出ない。

 ほむらは溜息を一つ吐き、進行方向を変えて子供の前へと向かった。

 それから目線を合わせ、威圧を与えないように小さく微笑んで見せる。

 基本的に鉄仮面であるほむらにしては珍しい、柔らかい表情だ。

 まどかを救うという目的を達し、肩の荷が下りた今だからこそ出来る顔だろう。

 

「こんな所でどうしたの? お母さんは?」

 

 子供はほむらを見つめ、ぼーっとしている。

 やはりいきなり話しかけたのはまずかっただろうか、とほむらは思った。

 子供の頃は親に『知らない人と話してはいけません』と強く教えられる時期だし、不審に思われているのかもしれない。

 しかしその考えは杞憂だったようで、子供はたどたどしく話し始めた。

 

「ママは……家の中にいる……」

「いるって……じゃあ、どうして貴方は外にいるの?」

「家の中には、ママが好きなわるいやつがいる……。僕が家に入ると、邪魔だッて……どんッ! ッてしてくる」

「…………」

 

 ほむらは子供の言葉に眉をひそめた。

 ママが好きな悪い奴……このフレーズからして嫌な予感しかしない。

 少なくとも、父親でない事は確かだろう。

 察するに、母親の浮気相手か何かなのだろうが……それが、この子を疎んでいるようだ。

 そして母親はこの子を助けようとしていない。

 

「ちょっとごめんね」

 

 ほむらは子供の腕をとり、袖をまくった。

 するとそこには、服で見えないようにされていた痣が浮かんでいる。

 この分だと身体の方にも痣があるだろう。

 虐待……そして育児放棄。

 このまま、この子を放置すればロクでもない結末を辿るのが目に見えている。

 なのでほむらは、110番通報をして警察をここに呼ぶ事にした。

 子供を連れて行ったらただの誘拐になってしまうし、子供の状態を警察に見てもらうのが一番いい。

 事件が起こってからでないと動かず、手遅れになってから行動する事に定評のある警察だが、流石にこれを見れば動いてくれるだろう……多分。

 

 その後、育児放棄をしていた母親と虐待をしていた交際相手は逮捕され、少年は養護施設に入る事となった。

 その少年は名をタケシといったが、ほむらが知る事はなかった。

 

 

 今日も夜がやって来る。

 部屋に転送されてきたのはいつもの主力メンバーに、前回から参加のチーマー五人と浦中アヤカ。

 更に新規参加者としてサラリーマン四人が新たに増えている。

 ほむらの見た感じでは四人共ただの一般人だ。つまり戦力外が四人増えただけである。

 いつものように加藤がスーツの着用を呼び掛けており、サラリーマンたちは渋々とそれに従っている。

 

「ここどこだよ」

「帰りてえ……」

 

 意思の弱そうな、本当にどこにでもいそうな四人だ。

 これは今回の敵次第ではチーマーと合わせて死者が大量に出るかもしれない、とほむらは考えた。

 とはいえ、やる事は変わらない。自分はただ星人を素早く駆逐するのみだ。

 冷たいようだが、ほむらが迅速に敵を減らせばその分味方の被害も減る。

 しばらく待つとガンツに今回の標的が示されるが、そこに出たのは一見すると強面の人間にしか見えない男だ。

 

 

 ――てめえ達は今からこの方をヤッつけに行って下ちい。

 オニ星人。

 特徴 つよい。

 好きなもの 女 うまいもの ラーメン。

 嫌いなもの 強いヤツ。

 口ぐせ ハンパねー。

 

 

(あの吸血鬼達のように人間に擬態している? だとすれば厄介ね……)

 

 今回表示された星人は異色であった。

 今までは程度の差はあれど、人の姿などしていなかった。

 だが今回の敵は明らかに人の形をしており、おまけに好きな物がラーメンときた。

 つまり……人に擬態し、ラーメン屋に出向いてラーメンを食べるだけの知能があるという事。

 人の社会にそれだけ溶け込み、馴染んでいるという事だ。

 こいつ一体だけならばいい。だがもしも一体でないなら……あの吸血鬼達のように大規模な組織で動いている可能性が浮上してくる。

 やがて全員の転送が始まり、ほむら達は池袋の街中に立たされていた。

 今回の舞台は池袋らしいが……ほむらは嫌な予感を感じずにはいられなかった。

 

(まずい……今までと違って人が多い)

 

 今までのミッションは街中だったり屋上だったり寺だったりと一貫性がなかったが、それでも人が少ないという共通点があった。

 一般人がいないわけではないが、それでも大半は家の中で就寝しており、数人がぽつぽつと歩いているだけだったのだ。

 だが今回は駅前で、人通りも明らかに今までより多い。

 営業している店も多く、どこを向いても視界の中に人が入る。

 

「ここッて……池袋だよな」

「池袋じゃん!」

「なんだよ……このまま帰れんじゃねーの?」

「駅すぐそこじゃん」

「カミさんに笑われんなーこの恰好」

 

 新規参加の四人はお決まりのリアクションをしており、早くも帰ろうとしている。

 毎回ほむらは思うが、何故この手の馬鹿ばかりが部屋に来るのだろう。

 死ぬような体験をして見知らぬ部屋に転送され、その部屋からは出られない上にSFのようにレーザーで人間が描かれるシーンまで目の前で見て、そして一人一人消えながら外へ送られる。

 そんな現実離れした光景を目の当たりにして、『あ、帰れるじゃん』となる思考が不思議でならない。

 危機感というものが欠落している。

 

「そこのオッサン達、帰るとか言ッてんなよ」

「ハァ?」

「オッサン?」

「タイムリミットがあるんだ。すぐレーダー見てくれ」

 

 帰ろうとする四人に玄野が指示を出し、レーダーを皆が見る。

 そこに表示された数は今までのミッションよりも明らかに多く、ほむらは僅かに顔をしかめた。

 人の多い所に潜む異星人という事で嫌な予感はしていた。

 それでも大仏の時のように、『物』に擬態している可能性もまだ捨ててはいなかった。

 だがレーダーに表示された反応は多く、おまけに位置もランダムで、動いている。

 この時点で可能性は二つ。田中星人のように人に見えていないか、あるいは人に成りすましているか。

 ガンツに表示されたオニ星人の容姿から考えるに、後者で間違いないだろう。

 

(今回はきっと……一般人の死者が出る。それも大勢の)

 

 ほむらは少しばかり憂鬱な気分になった。

 決して善人ではない事くらい自分で分かっているが、それでも無為に他者に犠牲を出して良しと思うわけでもない。

 しかしこれでは何処かで確実に巻き込まれる一般人が出る上に、クリアしない限り終わらない。

 そして下手に一般人を庇いながら戦えば自分が不覚を取る可能性が高くなる。

 出来る事といえば、なるべく抵抗の間も与えずに星人を即殺していく事くらいか。

 

「数が多いからなるべく分かれて探した方がいいと思う。

二人一組くらいになってすぐ行くぞ」

 

 玄野は自覚があるのかないのかは知らないが、加藤に勝るリーダーシップを発揮している。

 日常生活ではともかくとして、やはりこういう非日常では玄野の方が順応と思考の切り替えが早い。

 二人一組での行動が決まり、ほむらはいつも通りにライスとペアを組んだ。

 玄野は桜丘、加藤はJJ、和泉はパンダとそれぞれの振り分けが決まる。

 チーマー五人と浦中アヤカもそれぞれペアを作り、サラリーマン四人は東郷につけた。

 どうせ活躍は出来ないだろうし、それなら狙撃に専念する東郷の守りに置いた方がマシと判断したのだ。

 キュゥべえはいつも通りにほむらの肩の上だが、戦力外なので最初から数にカウントされてない。

 

 レーダーを頼りに駅ビルへと入る。

 反応はすぐ近くだが、星人らしき物はどこにも見えない。

 だが反応は確かにあり、そしてそれはエスカレーターで登っている人々の中のうちの一人を示していた。

 仏像ならば躊躇なく撃つという方法で確認するほむらも、流石に人の姿をしていては躊躇が生まれる。

 撃ってみて、それで人間だったら目も当てられない。

 だがそれを補佐する為にいるのがライスだ。

 彼は高く跳躍すると、目にも止まらぬ機敏さで星人と思われる男性の首を食い千切った。

 いかに擬態しようと、彼の鼻は誤魔化せない。

 

「あッ!? いッて! 何だ……一体何なんだ」

 

 ほむらは無言でXガンの引き金を引いた。

 首を噛み千切られて平気で話せる人間などいるわけがない。

 星人は一瞬遅れて破裂し、下半身のみとなった。

 しかし下半身のみとなったにもかかわらず、星人はそのまま走って逃亡しようとしたのですぐにXガンでロックし、もう一度撃って今度こそ始末する。

 

 やはり人間社会に完全に溶け込んだ星人が今回のターゲットだ。

 これは面倒な事になりそうだ、とほむらは憂鬱な気分になった。




【タエちゃん命拾い】
原作ではここで、周波数変換をして遊んでいたチーマーのうちの一人を偶然写真で撮ってしまったことでガンツに狙われて死んでしまうタエちゃんだが、このSSでは写真撮影前にほむらが気付いて気絶させた。カメラは勿論破壊。
身長に関しては原作で小学生に間違われるシーンがあるので、ほむらより小さい事にした。

というか、身長推測をしているサイトによるとタエちゃんの身長は何と148cm程度。
これは鹿目まどかの152cmよりも小さい。
絵柄の差でそうは見えないが、実際はまどか>タエちゃんの可能性が高いという事になる。
まどかは主要メンバー5人が揃っている絵で分かる通り、同年代(二年生)の中でも小さい方。
高校生でありながらそのまどかよりも小さいならば、小学生に間違われてしまうのも仕方ないと言える。
ちなみにほむらは155cm~158cmという説をよく目にする。
ほむらは最後までタエちゃんが年上である事には気付かなかった。

【タケシ退場】
死亡前にほむらとエンカウントして生存ルート突入。ガンツ部屋に来なくなった。
何だかんだでどこかで筋肉ライダーとは会うと思うが、それは本編とは関係ないので描写されない。
原作メンバーが全くいない東京チームになってきたが、この際なので『原作とは違うメンバーで進むGANTZ』という方向でこのまま行こうと思う。

【ボーナスステージ】
指輪星人撃破により主力メンバーに10点加算

ほむら
83点→93点
玄野
38点→48点
加藤
7点→17点
桜丘
13点→23点
東郷
42点→52点
JJ
18点→28点
ライス
14点→28点
和泉
11点→28点

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。