GANTZ『焔』   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第24話 お疲れ様

『和泉くん。126点。

TOtAL147てん。100点めにゅ~から選んで下さい』

「2番だ! 次までに用意しといてくれ」

 

 東郷の次に表示されたのは和泉だったが、彼は当然のように自由ではなく武器を選択した。

 元々、この部屋に来たくて自分から来たような人間だ。わざわざ自由など選ぶはずがない。

 ここにいる事が既に彼にとっての自由なのだ。

 続けてガンツの画面には玄野の顔が表示された。

 

『くろのくん。105てん。

TOtAL153てん。100点めにゅ~から選んで下さい』

「……」

 

 すぐにでも1番の自由を選択すると思われた玄野だったが、しかし彼は意外にも即答しなかった。

 ミッション中は、100点を取ったら絶対に1番を選ぼうと思っていた。

 桜丘と一緒に自由になって、平和な日常へ帰るのだと……そう思っていたからこそ辛い戦いだって乗り切れた。

 だが状況が変わってしまった。このまま1番を選ぶのが正しいとは思えなくなってしまった。

 だから玄野は少し考えるようにし、それから決意したように顔をあげる。

 

「3番……死んだ人間を生き返らせてくれ!

生き返らすのは……西丈一郎だ」

 

 この答えには加藤もそうだが、ほむらも流石に驚きを隠せなかった。

 自分の自由を捨ててまで何故そこで、西丈一郎なのだ。

 西と玄野は別に親しかったわけではない。会話だってほんの少ししか交わしていないし、むしろ険悪だったと言えるだろう。

 恐らくは自由か、あるいは岸本辺りでも蘇生するかと思っていただけにこの選択には驚くしかない。

 

「計ちゃん、どうして? 自由になれるんだぞ……?」

「……いいんだ。自由になる前に、知らなきゃいけない事がある」

 

 自由と引き換えにしてまで、何を欲するのか。

 ほむらはすぐにその答えに行き着き、納得した。

 玄野が欲しいのは情報だ。

 ミッションが変わってしまい、これからどうなるのか分からない。

 だから、もしかしたら知っていそうな西をここで呼び戻す事にしたのだ。

 

「知っているかしらね。彼は私達が来る一年前から部屋にいたと言っていたけど……私達だってもう半年以上はここにいる。

年季を言えば私達の倍程度しか部屋にいなかった事になるわ」

「……そうだな。けど、今はアイツ以外に知ッてそうな奴がいない」

 

 ほむらの当然な疑問に、玄野は自信がなさそうに答えた。

 これで西が何か掴んでいればいいが、何も知らなければ100点を無駄にするだけだ。

 皆が見守る中、ガンツからレーザーが照射されて西が復元されていく。

 やがて完全に復活した西は、茫然とした顔で部屋を見回していた。

 どうでもいいが、西はこんな顔だっただろうか?

 気のせいか、以前よりもずっと顔立ちがよくなっているような気がしてならない。

 これは本当に西だろうか? 間違えて別の誰かを再生しているのでは……とほむらは訝しんでしまった。

 

「…………ハァ?」

 

 復元された西は、状況が掴めないようでポカンとしている。

 無理もないだろう。何せ彼の視点で見れば田中星人にスーツを破壊されて必死に逃げていたと思ったら部屋にいて、更に部屋には見知らぬメンバーだらけときた。

 その中でもかろうじて面識のある玄野とほむらへ視線を向け、説明を求めるように口を開く。

 

「玄野……暁美……これ……」

「貴方が死んでから、もう半年経っているわ。

そして今、玄野さんが100点のメニューから貴方を再生した。これで大体把握出来るかしら」

「マジか……俺、死んじまッたのか……」

「ええ。私は貴方が死んだ瞬間を見ていないけど、玄野さんと加藤さんが言うには田中星人に殺られたって。途中までは記憶あるんでしょ?」

「ああ……チクショウ! ダッセェ、くッそ……」

 

 西は自分が死んだ事を恥じ、額を押さえる。

 あえて誰も言わなかったが、彼の死に様はかなり情けないものであった。

 大口を叩いた挙句田中星人一体にも勝てず、散々見下していた他メンバーに助けを求めるも助けてもらえずに、田中星人の超音波によって顔中の穴から血を噴き出して死んだ。

 しかも死の間際にはママ、ママと連呼するオマケ付きだ。

 西自身も、もしかしたら自分がそんな事を言っていたかもしれないと思っているのだろう。

 何となく、居心地が悪そうだ。

 だが和泉を視界に入れた事で、その表情は驚きに彩られた。

 

「和泉……何で、戻ッてんだよ……」

 

 どうやら西と和泉の間には面識があるらしい。

 しかしその割には和泉は何のリアクションもなく、西を無視している。

 それを見てほむらは和泉の正体に合点がいった。

 妙に戦いに慣れているとは思っていたが、なるほど……和泉は100点獲得者だったわけだ。

 そして彼は過去に一度、記憶を消されてこの部屋から解放されている。

 

「なんだおい……記憶なくしてんのか?」

「知らねーッつの」

「チッ……。で……何で俺を再生した、玄野。何か魂胆があんだろ」

「……今、お前がいた時から……状況が変わッてきてるんだ。

星人も俺達も……街の人間に見えるようになッてきてるし時間制限もなくなッた……。

これからどーなッてくか、分からなくなッてきてる……どんどん法則が変わッていッてる。

この中の誰も……その事について説明出来ないんだ……」

 

 玄野の言葉に、キュゥべえは内心で『僕は出来るけどね』と思っていた。

 とはいえ、それをわざわざ教えてやる義務も義理も彼にはない。

 下手に教えて、それで玄野達が財閥チームやマイエルバッハと敵対しても面倒なだけだ。

 

「……なるほどね。納得」

 

 とりあえず復活させられた理由に合点がいったのだろう。

 西は薄ら笑いを浮かべ、玄野を見た。

 

「しッかし情けねーな。半年以上も前に死んだ俺にアドバイス求めんのかよ」

「そう言うものではないわ。その情けなさのおかげで貴方はこうして戻って来れたのだから。

再生の対価として、情報を提供するくらいの誠実さは見せて欲しいのだけれど」

 

 西が玄野を嘲るように言うが、そこにほむらが口を挟んだ。

 正直なところ、わざわざ100点を使ってまで復活させるほどの情報を西が持っているとは思えない。

 だが折角100点を使ったのだから、せめて知っている事くらいは吐いてもらわねば玄野が報われないだろう。

 だから少しだけ助け舟を出してやる事にした。

 今回は……そう、今回だけは特別だ。

 不本意だが今回の戦いは玄野に助けられてしまったから、その分を返さないと気分的によろしくない。

 

「貴方も一方的に借りを作ったままじゃ気味が悪いんじゃない?

それに情けなさという点では、貴方の死に方も人の事を言えないわよ。

死の間際にこそ人の本質は出るというけど、聞いたところによると貴方はママーとか言いながら……」

「わーッた! わーッたよ! 話せばいいんだろ!」

 

 西の死に様を引き合いに出し、舌戦を仕掛ける。

 すると流石に死に様を知られている西の分が悪く。あっさりと白旗を上げてしまった。

 

「対価……ね……。

フン……まァ確かに……お前等に借りを作ッたままッてのは気分的によくないな……。

分かッたよ、教えてやる……」

 

 渋々、といった様子で西が言う。

 その目はほむらに向いており、これ以上余計な事を言うなと念押ししているようだ。

 

「多分……カタストロフィが近いんだと思う……」

「カタス……何だ、それ?」

「具体的には分かッてない。世界中で核戦争が起こるのかもしんねーし、隕石が落ちて来るのかもしれねー……。

ただ……今の世の中がひッくり返ッちまうような何かが起こるッて言われてる。

それが近付いて来てるから法則が変わッた……と思う。多分だけどな」

 

 一応、西を復活させた事でそれなりに有益な情報は手に入った。

 玄野の100点もまんざら無駄にはならなかったようだ。

 それに何だかんだで西はこの部屋で一年生き延び、90点近く取った男だ。

 これから先も、そこらの新人よりは戦力になれるだろう。

 

『さくらおか。100てん。

TOtAL123てん。100点めにゅ~から選んで下さい』

 

 続いて表示されたのは桜丘だ。

 彼女も流石の奮闘ぶりで見事100点を獲得している。

 玄野は彼女に「1番だ」と促しているが、少し考えるような素振りを見せた後に顔をあげた。

 

「ねえ……誰か他に生き返らせたい人、いる?」

「は? 何言ッてんだよ! 1番だッて!」

「あたしだけならもそれもいいんだけどね……玄野クンがまだ残るんでしょ?

じゃああたしだけ自由になるわけにはいかない。自由になるなら二人一緒で、よ」

「馬ッ鹿ッ、お前まで俺に付き合う必要ねーんだッてッ!」

 

 桜丘はどうやら、玄野に付き合う形で残留するようだ。

 命がけで残る辺り情熱的というか何というか……。

 しかし、これも一つの選択なのだろう。もし自由になればガンツ絡みの記憶は失われる。

 つまり玄野との関係も白紙に戻ってしまうわけで、二人の関係はご破算だ。

 酷い話になるが、桜丘がこれからも玄野と一緒にいたいならば自由を得ることなく二人で部屋に留まらなければならない。

 

「いーから……ほら、誰かいないの?」

「誰か……岸……。……いや、それならせめて2番を選んで強力な武器を手に入れてくれッ!

そうすれば生存率も上がる!」

 

 一瞬岸本と言いかけた玄野だったが、考え直して2番を促した。

 昔惚れていた片思いの相手よりも、今の彼女……というわけではないだろうが、岸本を蘇生する事よりも桜丘に生きて貰う方が玄野にとっての優先順位が高いのだろう。

 それに岸本恵は実際、再生しても行き場に困るだけだ。

 ミッション中はこのマンションに住むとしても、それからどうする?

 ミッションの中でまた死ぬしか道がない。

 100点取って解放されても、オリジナルが彼女の実家にいるのだから行き場など最初からないのだ。

 桜丘も玄野の助言を受け入れ、2番を選択した。

 

『じぇいじぇい。80てん。

TOtAL108てん。100点めにゅ~から選んで下さい』

 

 続いてはJJが100点だ。

 次から次へと出て来る100点ラッシュに西は目を剥いている。

 JJはしばらく悩み、名残惜しそうに部屋のメンバーを見渡す。

 だが決断したように、口を開いた。

 

「1番……」

 

 まあ当然の判断だ。誰もそれを責めたりはしない。

 彼はここまで十分に戦ってくれた。もう自由を得てもいい頃だ。

 玄野が拍手を送り、それに合わせて加藤や桜丘などの戦友もJJの自由を祝福した。

 

「お疲れ様、JJ。あんたの強さに何度も救われたよ」

「どうか幸せになッてくれ」

「お疲れ様……元気でね!」

 

 玄野と加藤、桜丘の言葉にJJが涙ぐみ、それから東郷を見る。

 すると東郷は無言で笑い、握手を交わした。

 JJはそれからライスの頭を軽く撫で、ほむらと視線を交わし合う。

 

「サンキュー……サンキューベリマッチ……」

 

 留まる者がいれば去る者もいる。

 JJは足元から消えて行き、少しずつ転送されていく。

 もう彼が今後、この部屋に呼ばれる事はない。

 この部屋で戦った記憶も失い、そして一般人として生きていくのだろう。

 少しばかり寂しさを感じるが、これが一番いい選択なのだ。

 やがてJJの転送が胸元まで迫り、彼は涙ぐみながらも優しく微笑んだ。

 

「……皆……本当にありがとう……。

この部屋で一緒に戦えたのが君達で……本当によかッた……。

どうか皆も生きてくれ!」

 

 最後にそう言い、そしてJJは消えて行った。

 彼がいなくなってから少しの間部屋に沈黙が流れ、静寂が支配する。

 やがて玄野が、絞り出すように声を発した。

 

「あいつ……話せるじゃん…………フツーに」

 

 玄野の言葉は西を除くこの場の全員の代弁であった。

 今までJJは日本語が不得意だとばかり思っていたのだが、どうやらそんな事はなかったらしい。

 最後の最後でまさかの新事実発覚であった。

 加藤は、そういえばと思い出す。

 最初にスーツを着せようとした時も、思い返してみればJJは普通に『地獄に落ちろ』と日本語で話していた。

 微妙な空気が流れる中、ガンツの画面が切り替わった。

 

『らいす。77てん。

TOtAL101てん。100点めにゅ~から選んで下さい』

 

 続いてはライスだ。

 彼もまた100点に見事到達し、自由になれる権利を得た。

 最初の頃の0点常習だったあの間抜け犬からは想像出来ない成長ぶりだ。

 これには西も驚き、ライスと画面を何度も交互に見る。

 

「えッ……これッて……あの犬? だよな……。

いやでも顔つき違うし、別の犬か……?」

「私が躾け直したのよ」

「マジかよ……」

 

 愕然とする西を他所にライスは意見を求めるようにほむらを見上げる。

 しかしほむらはあえてここは冷たく突き放す事にした。

 100点を得たのはライスだ。ならばその使い道も彼が選ばなければならない。

 願いというのは他人に決められるものではなく、自分の為に使うものだ。

 それは魔法少女も、ガンツも変わらない。

 

「キューン……」

 

 ライスは少しばかり悩み、やがてガンツの前に行くと肉球で2番を選択した。

 強力な武器……といってもライスではZガンを使えないので、ただ残留する為にとりあえず2番を選んだようなものだ。

 ここで岸本の蘇生を選ばないのは、蘇生させても無駄に苦しませるだけだと彼なりに理解しているからなのかもしれない。

 

「そう、それがお前の選択なのね」

「ワォウ!」

「ならいいわ。けどZガンはお前には使えないから、他の誰かに渡す事になりそうね」

 

 ライスはほむらと共に戦い続ける事を選んだ。

 そんな彼の頭を優しく撫で、それから画面を見る。

 

『かとう。76てん。TOtAL93てん。ダイジョブ! 次でいける!(笑)』

「……」

「ドンマイ、加藤」

「あ、ああ……」

 

 続いては加藤だが、残念ながら彼は100点に届かなかったようだ。

 皮肉なものだ。一番解放を望んでいるのに、その彼が100点を取れないとは。

 なかなか敵を撃てない性格が災いしてしまったというべきか……。

 他のメンバーに比べて今まで点数を稼いでいなかったのも痛手だったのだろう。

 とはいえ、残り7点だ。次のゲームを生き残りさえすれば解放への道も開けるだろう。

 

『ほむらちゃん。127てん。

TOtAL220てん。100点めにゅ~から選んで下さい』

「……何でちゃん付けになってるのよ」

 

 ほむらは前からの点数と合わせて、圧巻の200点超えだ。

 西は「すッげ……」と呟いており、感心したようにほむらを見た。

 勿論ここでのほむらの選択など決まっている。

 

「両方2番よ」

 

 迷う事なく武器を選び、これでほむらは4回目の100点達成となった。

 これで更にほむらの戦力が増すだろうが、問題は手に入る武器の内容だ。

 前のようにどうしようもない物が出てきたら目も当てられない。

 いい物が入手出来るといいのだが。

 

 その後はキュゥべえとホイホイが表示されるも、両者共に貫禄の0点で採点は終了となった。

 今回でJJという戦力が離脱してしまったが、代わりに西が参入したので全体的にそこまで戦力が落ちてはいないだろう。

 もっとも西はチームプレイをしないタイプなのでチームメンバーが一人欠けてソロプレイヤーが一人入って来た……と考えるとやはりマイナスかもしれない。

 もっともソロプレイヤーという点ではほむらや和泉にも言える事なので今更だ。

 

 そうして今日もまた夜が明け、偽りの日常が戻って来た。




ガンツ「あなたが再生したいのは、この原作初期の汚い西君ですか?
それとも実写版の俳優をモデルにした綺麗な西君ですか?」
玄野「汚いの」
ガンツ「貴方は正直者なので、この綺麗な西君をあげましょう」
玄野「ふッざッけんなッ!!」

【西君の顔違くね?】
田中星人編で死んだ西と、オニ星人編で復活した西の顔が違いすぎる問題。
玄野も田中星人編と比べると男前になっているが、こちらは実際に半年以上の時間が経っているので変わるのはむしろ自然な事。
半年もガンツのミッションの中で戦い、リーダーとして皆を引っ張って戦ったりもしていたので肉体的にも精神的にも成長している。
加藤は驚くほど変化なし。まあ死んでいたので当然。
あえて言うなら原作者の絵の成長で多少変わった気がしないでもない。
しかし西は『誰だお前!?』レベルで顔が変わってしまっている。
彼は玄野と違ってずっと死んでいたので肉体的な成長などあるはずもなく、その顔の変化ぶりは『絵柄の変化』というレベルではない。
加藤が復活した時は一目で「おっ、加藤だ」と思った読者も西に関しては「誰だお前は!?」となった事だろう。

ガンツ、それ実写版西君や! 
漫画版の西君はそんな顔じゃなかったやろ!

【JJ離脱→西復帰】
貴重な格闘要員であるJJさんが離脱してしまいました。
代わりにステルス戦士西君がリターンしたので人数は変わっていません。
戦力的にはややマイナスかもしれませんが、ずっとステルスに徹して戦う西君スタイルは割と強力なので必ずしもマイナスとは言えません。
特にこの後の敵は不死身のぬらりひょんと触れるだけで千切られるダヴィデですし、むしろ西君の方が相性いいまであります。

というかメタ的に言うと、ここで離脱させてあげないとJJは死ぬ。
ぬらりやダヴィデ相手に素手で挑むのはただの自殺。
ダヴィデはどうしようもないとして、ぬらりもやばい。
7回クリアの男である岡がハードスーツを着て挑んだのに殴り負ける怪物とか素手でどうしろと……。
筋肉ライダーは吹っ飛ばした? いや、アレはもう人類じゃないし……。
アイツは何故か素手で(タケシを守りながら)ダヴィデ星人戦を無傷で乗り切るような奴だし……。
登場させてないのに、書けば書くほど筋肉ライダーのやばさが際立っていくのは本当、何なんだろう。

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