GANTZ『焔』   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第25話 マズイ事になッてきた

 予想はしていたが、オニ星人との戦いが終わった次の日から世間は大騒ぎであった。

 テレビではどのチャンネルを回しても池袋の宇宙人特集が組まれ、様々な分野の専門家があれやこれやと話している。

 その内容は的外れなものばかりで、CGや大掛かりな悪戯だとする声もあるが、実際に現場に立ち会った人間が大勢いる上に死者まで出ているのだ。

 人間に近い宇宙人のような何かがいる……世間はそう認識してしまった。

 幸いなのは報道規制が入り、警察が全てを解決した事になっている事くらいだろうか。

 恐らくは国が裏から手を回したのだろう。

 やはり国は知っている……ガンツの事も、星人の事も。

 そうでなければ情報を隠そうとなどしない。

 それを幸いとは言いたくないが、とりあえず今の所、ほむら達の姿を収めた映像が世間に出回るような事にはなっていない。

 しかし日本に住む人々は知ってしまった。人ではない何かが潜んでいる事を。

 そして情報規制されているが、何人かは知っている……怪物と戦う黒いスーツの一団がいる事を。

 それを裏付けるようにほむらの携帯電話に玄野から、連絡が入って来た。

 

「玄野さん。どうしたの?」

『暁美か……ちッとな、マズイ事になッてきた。

昨日俺ン家にフリーライターの菊池……誠一ッて人が来たんだけど……。

そいつ……西が運営してたサイトから俺の名前に辿り着いちまッたみたいでさ。

そいつが言うには多くの人間が今、俺を探してるらしい……今は別の、黒野啓ッてヤツに注目が集まッてるみたいだけど……そいつ、俺達が映ッてる映像まで持ッてた……。

そいつが言うには、事件の直後にテレビ局に没収されて世間には出回ッてない映像のコピーらしい』

「それは……不味いわね」

 

 最悪だ、とほむらは思った。

 何が最悪って、映像が残っているのが最悪なのだ。

 コピーである以上、その菊池とやらを捕まえて映像を没収しても意味はないだろう。

 もうネット上の何処かにバックアップされていると思った方がいい。

 今更ながら西はとんでもない手がかりを残してくれたものだ。

 あれのせいで玄野とほむらは名前が割れてしまっている。

 特に暁美ほむらなど、そうある名前ではない。

 一応自分は故人という事になっている上に普段はマンションの中にいるので玄野のように簡単には発見されないと思うが……それでも不安ではある。

 

『それと、ドイツにも似たような黒い球があッて……何か、宗教団体があるらしいッて……』

「私達だけじゃないんでしょうね。恐らくは日本各地どころか、世界各地に似たような黒い球の部屋があって、そこで色々な人が星人と戦わされているんだと思うわ」

 

 椅子の上で足を組みながら、ほむらは無造作にテレビを点けた。

 適当にチャンネルを回せばやはり池袋の事件について特集が組まれており、皆が好き勝手な推論を述べている。

 

『どーすればいいかな……。とりあえず誤魔化して帰ッてもらッたけど、アレはもう、ガンツメンバーの一人が俺ッて確信してる……と思う』

「下手に情報を与えなかったのはいい判断よ。その手の人間は己の知識欲に忠実で、責任感なんてものはない。真実を暴いた結果、私達がどうなるとか、そんなのは考えてないのよ。

下手すればあちこちに私達の情報をばら撒かれるだけだわ」

『あ、ああ……けど、どうする? 追及を逃れるにも限度があるし……』

「……名刺みたいなものは渡された? もし手元にあるなら、その男の連絡先を教えてちょうだい」

『! どうする気だ?』

「私が直接会って人物像を確かめるわ。厄介だけど、上手くすれば情報源になってくれるかもしれない。

少なくとも、貴方に辿り着いている時点で情報収集の力は本物でしょうし、出来れば味方にしたいわ」

 

 ――そして無理そうならば始末する。

 その言葉はあえて玄野には伝えず、彼の返答を待った。

 

『わかッた……悪いな、こんな事で頼ッちまって』

「いいえ。むしろ私に言ってくれてよかったわよ。

この事、まだ他の人には言わないでね」

 

 他のメンバー……特に加藤などがこれを知れば、何を口走るか分からない。

 その点で言えば、ほむらに先に聞くと言うのはいい判断だった。

 電話を切り、ほむらは考える。

 情報を話せば頭の爆弾が起動して死んでしまうが、しかしその規制はかなり緩くなっているはずだ。

 少なくとも姿を見られているし、戦っている場面もばっちり目撃されてしまった。

 だからそこまでは話しても大丈夫だ……多分。

 とはいえ多分なんてあやふやなものに命を賭ける気はない。

 だからこちらからは何も言わない。あくまで向こうの推理力に任せるだけだ。

 

「面倒ね……」

 

 小さく溜息を吐き、ほむらは背もたれに体重をかけた。

 

 

 菊池誠一はフリーライターである。

 彼は二年ほど前から一つの事件……いや正確には一本の線で繋がっている複数の事件を追っていた。

 最初は、何でもいいから記事を書きたかった。

 何かスクープになりそうなものはないかと日本各地を探し、そして彼は原因不明の破壊跡が日本各地にあるという不思議に辿り着いた。

 最初は――正直なところ、そこまで大きな事件だとは思っていなかった。

 事故か故意かは知らないが、単純に何らかのどうでもいい……取るに足らない理由で壊れたものが各地にあるというだけで、紐解いてしまえばきっとつまらない答えになるだろうと思っていた。

 例えば壊れた家の塀などは車がぶつかって犯人がそのまま逃げただけだろうし、他のも似たようなものだろう。

 だから菊池は当初、それらを強引に結び付けて面白おかしい、それっぽいミステリー記事にでもでっちあげようと思っていたのだ。

 

 だが追いかけるうちに、不可解なものが見え隠れし始めた。

 壊れた場所を色々と探すうちに、そのうちの何件かで壊れた瞬間を見たという目撃者と出会ったのだ。

 当然菊池はそれらの人々にインタビューをしたのだが、彼等彼女らは共通してこう供述した。

 

『突然壊れた』

 

 こう答えたのが一人や二人ならばいい。

 何か見間違えただけだろうと思える。

 しかし目撃者全員がそう答えるのでは、流石に何か不気味な物を感じるしかない。

 菊池は気付けば、すっかりこの事件に夢中になっていた。

 現代に現れた本当の怪奇現象なのではないかと彼の勘が告げていたのだ。

 

 それから半年……菊池の考えを裏付けるような、あるサイトが登場した。

 それが『黒い玉の部屋』という日記風の小説サイトだ。

 管理人は中学生らしく、自分が巻き込まれたという体で物語を書いていた。

 その小説の内容とは、表の世界で死んだ者達がマンションの一室に呼び出され、黒いスーツや現代科学では考えられない武器を持って様々な怪物と戦うというSFアクションだった。

 これのおかしな所は、物語として成立していない所にある。

 主人公がいない。あえて言うならば管理人自身がそうなのだろうが、ひたすら他の参加者を馬鹿にして死に様を眺めているだけで、お世辞にも好感の持てる主役ではなかった。

 ヒロインもいない。時折顔立ちがそこそこ整った女キャラは出ない事もないが、大抵すぐに死ぬ。

 ドラマもない。登場人物のほとんどが馬鹿みたいにゲームに振り回されて馬鹿みたいに死ぬ……本当にただそれだけだ。ストーリーも伏線もあったものじゃない。盛り上がりすらない。

 ハッキリ言って、とても小説と呼べるものではなかった。

 しかし妙なリアリティがあった。フィクションからは感じられないリアルな何かがあった。

 何より菊池を驚かせたのは、作中で壊れた場所が本当に現実でも壊れているという事だ。

 それだけではない。何より注目すべきは――作中の登場人物が全員、実在している……あるいはしていた事だ。

 作中に出る人物の名前や外見、職業……それらを調べると驚くほどに現実と合致する。

 生きて帰ったとされる人物は本当にその時期は生きているし、死んだとされる人物は試しに訪問してみれば行方不明になっていた。

 

 そして極めつけはあの池袋の宇宙人事件だ。

 何とか手に入れた映像の中では黒スーツの一団が怪物と戦っている姿がばっちり収められており、その装備が小説の内容と一致しているのだ。

 こうなればもう疑いの余地はない。

 あれは小説などではなく実話を記した日記で、本当に起こっていた出来事なのだと。

 小説はねぎ星人編で止まってしまっていたが、菊池はそこから手がかりを探した。

 ねぎ星人編で管理人以外に生き残ったのは四人……玄野計、加藤勝、岸本恵、そして暁美ほむら……。

 菊池は調べるうちに、このうちの三人が実在して生きている事を突き止めた。

 

 そこでまず最初に岸本恵を当たったが、これは不発だった。

 容姿は小説通りなのだが、本人は全く知らないという様子であり、演技しているようにも見えなかったのだ。

 そもそもねぎ星人と戦っていた頃は彼女は病院で手術を受けていたらしく、どう考えても辻褄が合わない。

 これに関して菊池は、恐らく今生きているのは『オリジナル』の方で、部屋に呼び出された岸本恵ではないのだろうと結論付けた。

 となると、彼女は本当に無関係だ。これ以上いくら探っても何も出てこない。

 次に加藤勝……作中では『図体だけ』だの『泣いてばかり』だの『偽善者』だの『だッせえヤツ』だの散々言われていて、少し可哀想に思えてしまった男である。

 どうやら管理人との相性は最悪だったらしい。

 彼は親戚の家で暮らしているらしいが……残念ながら取材する事は出来なかった。

 親戚の家に訪ねても、門前払いされてしまうだけだからだ。

 何とか、家から出たタイミングを計って取材したいところだが……。

 そして玄野計だが、こちらは当たりだ。

 本人は知らないように装っていたが、明らかに目が泳いでいたし動揺していた。

 間違いない……彼はガンツの部屋の住人である。

 

 最後に残るのは暁美ほむら……。

 登場人物の中で最も現実離れしており、『黒い玉の部屋』の事を現実と信じている閲覧者達ですら『管理人の創作キャラ』と大半の者が考える少女だ。

 実際、彼女だけは他の登場人物と明らかに違う。

 スーツなしでスーツ着用者を上回る戦闘力を有し、何の躊躇もなく異星人を殺害してみせた存在。

 さしもの菊池も、これだけは実在しないだろうと半信半疑にならざるを得ない、そんな非現実的な……まるで別の作品から迷い込んで来たかのような特大の異物が暁美ほむらであった。

 しかし――しかしだ。

 あの映像の中に、彼女はいた(・・)

 人形のように整った顔に、背中で分かれている黒髪。

 更に目撃者の談では、軽々とジャンプで人を飛び越えてビルからビルへ飛び移り、あっという間に月明かりの中に消えて行ったという。

 念のために調べてみれば、それらしき少女の存在も確認する事が出来たのだ。

 中学一年生の頃は東京のミッション系の学校に通い、それから病気の治療の為に医療設備が充実している見滝原市へ。そして見滝原中学校へ転校し……僅か一月後に起こったスーパーセルに巻き込まれ、帰らぬ人となった。

 ならば彼女は、スーパーセルで死んだ暁美ほむらなのだろうか?

 しかしそれでは時期が合わない。

 黒い玉の部屋に暁美ほむらが登場したのは、見滝原のスーパーセルからかなりの日数が経過してからの事である。

 だが彼女に関してはおかしな部分がいくつか見受けられた。

 生まれつき心臓の血管が細く、治療の為に見滝原に引っ越した……ここまではいいとしよう。

 だが見滝原中学に入ってからがおかしい。成績優秀で運動神経抜群。

 非公式ではあるが県内記録すら塗り替えるほどの能力を見せていたと教師は語っていた。

 何だそれは。おかしいだろう。

 心臓が弱くて入院していた少女が、何故そんな事が出来る。

 それが出来るならばそもそも入院などしないだろう。

 まるである時を境に別人にすり替わったかのようだ。

 この少女だけは調べれば調べるほどに、意味がわからなくなる。

 思わず、『わけがわからないよ』と言いたくなるほどだ。

 

(とりあえず、やはり玄野計だな……彼を取材していけば絶対に何か分かるはずだ)

 

 菊池はひとまず、不可思議な少女を思考から追いやって玄野の事を考え始めた。

 だが菊池が望まずとも手掛かりというのは意外にも、向こうからやって来る事がある。

 街中を歩く菊池は不意に、向こう側から歩いて来る俗世離れした少女を視界に入れた。

 

 人形のように整った顔立ち。

 気の強そうな紫色の瞳。

 風になびく黒髪。

 白いワイシャツの上からネクタイを締め、上には黒いビジネススーツ。

 更にその上に灰色のPコートを羽織り、男性的なファッションながらも素体がいいのか、妙に絵になっていた。

 下は灰色の半ズボンで、足はタイツで覆っている。

 彼女は菊池の前まで歩くとそこで止まり、射貫くような視線で彼を見上げた。

 

「菊池誠一さんですね?」

「……あ、暁美、ほむら……」

「自己紹介の必要は無さそうですね……よかったら、そこで少し話していきませんか?」

 

 そう言いながら彼女は、近くの喫茶店を示しつつコートの内側から拳銃をチラつかせた。

 どうやら拒否権はないらしい。

 脅しとは思わなかった。

 暁美ほむらの瞳は、女子中学生とはとても思えない鋭さと剣呑さを秘めていた。

 菊池も色々な人間と会って来たし、その中には軍人だっている。

 だから分かったのだ。この眼は、やると言ったら本当にやる人種の眼だ……と。

 

(どうやら僕は……藪を突いて、龍を出してしまッたらしい……)

 

 菊池は、緊張感から乾いた喉を潤すように唾を飲み込んだ。




【ほむらの新ファッション】
モバゲーの『お花見☆ほむら』でだらしなく着崩している服をしっかりと着たような状態。
ちなみに似たような服は『見滝原アンチマテリアルズ』でも着ていた。

【まどマギキャラは気付かないのか?】
情報規制が入ったのでギリギリで一般には映像が出回っていない。
映像を撮っていた人間はいるが、原作で色々な人間が『くろのけい』を探していると菊池が言っていた割に玄野の顔を知っているのが菊池以外誰もいなかったので生放送などはされていなかったと推測出来る。
実際にリアルタイムでテレビを見ていたはずの玄野の同級生も玄野に対して何の反応もしていなかった。
というか、もしあの戦いが生放送されていたなら絶対に玄野より先に『黒スーツの中にレイカがいた』という事で話題になる。
(というか実際にあの場にいた野次馬はレイカに気付かなかったのだろうか……)
黒いスーツの戦士を探している人間達が『くろのけい』という名前を手掛かりにしている時点で生放送はされていなかったと考えるのが自然。
途中までは明らかにオニ星人の映像をリアルタイムで生放送していたようにも見えるが、恐らくそのカメラマンは鬼ボスと和泉の戦闘の巻き添え辺りで死んだのだろう。
なのでギリギリでまどマギ側にオニ星人戦の映像は届いていない。

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