GANTZ『焔』   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第26話 ゴキブリは皆殺しにする

 ほむらと菊池の入った喫茶店はいい具合に混んでおり、あちこちから話声が聞こえている。

 店内にはジャズが流れ、雰囲気も悪くない。

 ほむらは他に客のいない隅の席を選ぶとそこに座り、対面に菊池が腰を掛けた。

 それから彼は居心地悪そうにしていたが、やがて意を決したように声を出す。

 

「その……僕に声をかけたッて事は……君達の事を教えてもらえる……のかな?」

「いいえ。貴方は勘違いをしているようだから、その訂正に来たのよ」

「訂正?」

「貴方は私達が情報を隠して話さないと思っている。けれどそうではない……私達は話さない(・・・・)のではなく、話せない(・・・・)の。だから迷惑なのよ、貴方みたいに嗅ぎ回る輩は」

 

 ほむらは、あえて厳しい言葉を最初に投げかけた。年上相手だがあえて敬語も外し、威圧的に話している。

 これでまずは菊池の出方を窺うつもりだ。

 この言葉からある程度こちらの情報を察してくれる程度に頭が回るならばよし。

 そうでないなら、話はここで終わりだ。

 何とかこの件から手を引くように説得するか……それでも尚こちらの世界に悪戯半分に踏み込む気ならばその時は、無理矢理にでも退場させるしかない。

 

「話せない……そうか。疑問には思ッてたんだ……。

殺し合いの場に呼ばれているのに、何故誰も外に助けを求めないのか……。

そうか……多分、話さないようにする為の何らかの措置が施されている……ッて事か」

「私は貴方の問いに肯定も否定もしない。私から何かを話す事もない。

それが嫌ならば、話はここで終わりよ。どうする?」

「…………ここの代金、僕が払おうか。何か食べたいものはあるかい?」

「そうね。なら、この抹茶ラテを」

 

 どうやら菊池は思ったよりは察しのいい人間らしい。

 ほむらの与えた僅かな情報だけで、ほむらの口からは何も伝えられない事を理解した。

 だがほむらは何も言わないが、菊池が質問をする事は出来る。

 無論ほむらはこれにハッキリとした答えを示す事はないが、反応を見て菊池が勝手に推理をする事は出来るだろう。

 ここが譲歩出来る限界ライン……それを突き付けた上で話を続けるかどうかの問いに、彼はここの代金を払う事で続行を示した。

 しかしほむらも、すぐに飲み終えてしまえるような抹茶ラテを選択しているので、現状は長く話す気はないという意思表示をしている。

 

「君達は……戦ッているのか? あの池袋に出たような怪物といつも」

「さあね。貴方は『黒い玉の部屋』というサイトを見ているのでしょう? なら私が言う事は何もないわ」

「そうか、ありがとう」

 

 菊池の問いに対するほむらの返答は肯定だ。

 これはつまり、『黒い玉の部屋』を見ているならばそれ以上の情報は必要ないという事であり、つまりはあのサイトに書かれている事に間違いはないという事でもある。

 菊池は近くの店員に声をかけ、抹茶ラテとアップルパイを注文した。

 それから今度はほむらが口を開く。

 

「分かっているとは思うけど、貴方と無駄話をする為だけに呼んだのではないわ。

こちらからの要求もある事くらいは理解しているでしょうね」

「まあね。僕は何を差し出せばいい?」

「私との無駄話で貴方が得たものに釣り合うだけの情報を」

「……なるほど。そうだな……じゃあ、君達がガンツと呼んでいるものによッて行われている戦いだけど……僕の考えでは、そんな昔からやッてるわけじゃない。

恐らくはここ数年……十年以内の間に始まッた事だと思う」

 

 これはなかなかに貴重な情報かもしれない。

 ほむらは店員を呼び止め、チーズケーキを一つ追加注文した。

 もう少しだけ腰を据えて話を聞こうという姿勢を示したのだ。

 とりあえず興味を引けたことに菊池はほっとした顔を見せる。

 

「じゃあ次は……そうだな。君達と敵対している組織があると聞いた。

渋谷で黒尽くめのモデルのような風貌の男達に女が数人連れて行かれたら、後をつけてみろッて……」

「それなら、私達とは関係ないから話せるわ。

結論から言うと、止めて置く事をお勧めしたいわね。下手に尾行なんてすれば、貴方はその日のうちに死ぬ事になる」

「そんなにヤバイのか……?」

「人と思わない方がいいわ。貴方だって自殺願望はないでしょ?」

「そうだな……君がそう言うなら、本当にヤバイんだろう。

分かッた、後を尾けるのは止めておくよ」

「賢明ね」

 

 二人の前に抹茶ラテとアップルパイ、チーズケーキが運ばれて来た。

 それを見てほむらは少し注文をミスったかな、と呑気に思う。

 チーズケーキに合わせるならば苦いコーヒーにするべきだった。

 

「で、さっきの話だけど。何故十年以内と思ったの?」

「実は日本だけじゃなく、世界各地に似たような謎の破壊跡があるんだ。

それらを辿っていくと、最初に発見されたのが大体そのくらいになるんだよ。

……ただ、それはあくまでこのゲームが行われたのがそのくらいッていうだけで、黒い玉がいつからあッたのかとか、宇宙人がいつからいたのかまでは分からない」

「……そう」

 

 これはほむらもとっくに予想していた事だ。

 自分達が今まで転送されていた場所はいずれも、関東圏内だった。

 だが宇宙人が都合よくそこだけに集中しているなどあり得るはずもなく、様々な場所に散っているだろう事は簡単に予想出来る。

 頑なに日本ばかりを襲うゴジラではないのだから、むしろこんな狭い島国に拘る理由こそない。

 続いて菊池は、新たな問いをほむらへ投げかける。

 

「ガンツに呼ばれた黒服は……君のような少女が多いのかい?」

「……何故そう思ったの?」

「ガンツを調査するうちに、僕は一つの奇妙な事に気が付いたんだ。

それは、君と同じくらいの年頃……主に第二次成長期の少女の不審な行方不明事件が多いッて言う事だ。

僕の考えでは、ガンツに呼ばれた少女がミッションの中で帰らぬ人になッているのだと思うが……どうも、この比率がやや偏っている気がするんだ」

 

 ほむらは目を閉じ、チーズケーキをフォークで切り分けて口へ運んだ。

 菊池の言いたい事は分かる。

 ガンツに呼ばれた死者は、ミッションの中で死ねば表の世界に帰る事はなく永遠の行方不明者となってしまう。

 だが、その行方不明の比率を調べると、第二次成長期の少女が妙に多い……という事だろう。

 しかしその原因はガンツではない。星人とは別に、ずっと昔から地球に寄生していたインキュベーターとかいうナマモノのせいだ。

 菊池が調べた『行方不明の第二次成長期の少女』には、全てとは言わないが……恐らくかなりの数の魔法少女が紛れているはずだ。

 勿論中には本当にガンツのせいで行方不明になった少女もいるだろうし、そういうのとは全く無関係の理由で行方が分からなくなった子もいるだろう。

 

「……さあね。ただ、貴方もあの池袋の映像を持っているなら分かるでしょう?」

「少なくとも、少女と呼べるのは君くらいしかいなかッたね……。

一応『黒い玉の部屋』の小説の中には、過去のミッションで神功明里という名の少女もいたにはいたが、どちらかというと男の方が多く呼ばれているように見える。

……うーん……これはただの偶然かな」

 

 どうやら、これに関してはただの偶然と考えてくれたようだ。

 実際、ガンツに呼ばれるメンバーはどちらかといえば男の方が多いので『少女がガンツに多く呼ばれている』というのは間違いだ。

 これで下手に魔法少女について嗅ぎ回るならば厄介だが、とりあえず今の所はその気配もない。

 まあ、ほむらも東京チーム以外についてはあまりよく知らないので、もしかしたら本当に女ばかりが呼び出されているチームもどこかにあるのかもしれない。

 

 その後ほむらは、菊池といくらかの情報交換をした後にチーズケーキを平らげて店を後にした。

 勿論代金は菊池持ちである。

 

 

「よォ、和泉」

「……お前か」

 

 とある電車の中。

 そこでは偶然通学電車が同じだった和泉と西が話していた。

 というより、和泉が座っているのを見付けた西が一方的に話しかけたというべきか。

 和泉紫音という男は、一年以上に渡り様々な参加者を見てきた西の中では珍しく印象に残っている人物だ。

 同じ時期にあの部屋に招かれたというのも一因かもしれない。

 和泉は最初の頃から冷静で冷徹、あらゆる能力が高く、常に高い戦績を維持してきた男だ。

 基本的に斜に構え、他人を酷評する西でも評価するしかない傑物である。

 

「どうよ……今のチーム」

 

 最近再生したばかりの西は、今のチームがどれだけのものか分からない。

 連続で100点を叩き出していたのを見るに、自分がいた時よりはかなりマシになっているのが分かるが、だからこそ聞きたかったのだ。

 この完璧超人と呼べる男から見て、今のチームはどれだけの基準に達しているのかを。

 

「…………駄目だなありゃ。

あれじゃカタストロフィの時点で役に立たない……一人を除いてな」

「暁美ほむら、か」

「あの女だけは別格だ。俺ですら時折ゾッとさせられる」

「……なァ、あいつ何回100点取ッてんの?」

「玄野が言うには、俺が参加した時点で既に2回……。

前のミッションで一気に200点を取ッたから4回か……」

 

 和泉の口から出た回数に、西が口元を歪めた。

 

「半年で4回クリアとか、とんでもねえな。どういう生き方すりゃあんな女が出来んだよ」

「俺が知るか……だが、他は駄目だ。

もッと強いアイテムを集めないと。もう、時間がない」

「日本はもう今から頑張ッたッて遅いだろ。

アメリカとかドイツとか……イスラエルとかに任せときゃいいじゃん」

「俺は日本人だ……日本人の優秀さを、トップである事を見せたい」

 

 同じ古参組であっても和泉と西では考え方が違う。

 西は最終的に自分が面白くて、自分以外が状況に振り回されているのを見られればそれでいい。

 要するに彼は傍観者なのだ。

 その上で自分が美味しい所を掻っ攫えれば最高だと思っている。

 対し、和泉は自己主張が強い性格だ。

 自分が先頭にいなければ気に入らない。自分がトップでなければ許せない。

 故に、和泉は自分一人であってもカタストロフィで活躍する気でいた。

 いや……活躍しなければならない、という強迫観念にも似た何かが彼の中にはあった。

 

「あ、おい。電話鳴ッてんぞ。誰から?」

「……暁美だな。あいつからという事は……件の連中に関してか」

「何? 何かあんの?」

「最近、ミッション以外でも襲撃してくる面倒な奴等がいてな……暁美はそれを狩ッている。

俺も……放ッておくと面倒臭そうだからこの件に関しては手を貸してやッてる。多分、その誘いだ」

 

 和泉はそう言いながら電話を取り、メールを確認した。

 するとそこには意味不明な記号の羅列が並んでいた。

 二人は顔をしかめるが、その意味合いは違う。

 

「何コレ……暗号?」

「ああ……記号の配置と間隔で五十一音を表してる。

万一、誰かに見られてもいいようにッて……」

「ふうん。何て書いてあんの?」

「……明日……玄野の家が吸血鬼の襲撃を受けるらしい。

そこで奴等を待ち受け、皆殺しにするから来たきゃ来い……だとよ」

「おッかねー。で、行くの?」

「ああ……俺もあの連中にはうんざりしてるんでな。ゴキブリは皆殺しにする。

……それに……どうもあの金髪の男だけは殺しておかなきゃいけない……そんな気がする」

 

 和泉はミッションでの命がけの戦いに焦がれて、わざわざ戻って来た破綻者だ。

 しかしそんな彼でも、日常の中で襲撃されるのは流石に面倒臭く感じている。

 虫取りが好きだからといって、家の中にまで虫が湧いてきたら鬱陶しいだろう。それと同じ事だ。

 

「ふーん……じゃあ俺も行こうかな。

オフの日にやるのは面倒だけど、その吸血鬼ッて連中見てみたいし……それに死体も沢山見れそうだ。

……ところで、俺の事少しは思い出したか?」

「……お前の事はどーしても思い出せないな」

「ふんッ」

 

 一見親しく話しているようだが、和泉にとっては先日会ったばかりの初対面の人間が気安く話かけてきているに過ぎない。

 それを感じ取ったのか、西は拗ねたように鼻を鳴らした。

 

 

 次のミッションに入る前に、ほむらは一つ片づけておきたい事があった。

 それは件の吸血鬼達の殲滅だ。

 あれからも狩り続けて大分数を減らしたが、それでもまだかなりの数が残ってしまっている。

 そればかりか最近、新たに二人ほど増えてしまっていた。

 一人は黒髪のエキゾチックな顔立ちの女だ。

 他の『獲物』と一緒に連れて来られたが、どうやら吸血鬼だったらしく彼等の仲間入りをしてしまった。

 まあ、これは他の吸血鬼と一緒に始末していいだろう。

 どうにも、本人もノリノリで吸血鬼をやっているようだし、元からそういう奴だったと思っていい。

 問題はもう一人だ。こちらは女よりも先に吸血鬼の仲間入りをしており、長身のハンサムな男である。

 その顔立ちは玄野に似ており……それもそのはずで、彼の名は玄野アキラといった。

 つまりは、玄野の弟だ。

 どうにも吸血鬼に馴染めていないようで、先述の女の事を助けようとする素振りを見せていたが、問題はそこではない。

 問題は、彼を経由して玄野の住所と名前が吸血鬼にバレてしまった事である。

 彼が兄の事をバラしたわけではない。

 吸血鬼達が入手していたガンツチームの映像……そこに映っていた玄野の顔立ちがアキラと似ていたことで肉親の線を疑われ、アキラの事を調べる事で簡単に玄野の現在の住所や名前が割れてしまったのだ。

 アキラもこれに罪悪感を感じたのか、隠れて兄に電話で警告を送ったりと、かなり危うい位置にいる。

 それらの情報をほむらは、クラブに取り付けておいた盗聴器や監視カメラから得ていた。

 

「……というわけで、今夜で奴等との決着を付けるわ。

玄野さんの護衛に東郷さんや他のメンバーを向かわせるけど、玄野さんも戦いに備えておいて。

いつ戦いになってもいいようにスーツの着用も忘れないように」

『わかッた……暁美はどうすんだ?』

「私は、奴等が玄野さんの家に向かった隙を突いてクラブに残った連中を根絶やしにする。

こっちが終わったらすぐに合流するわ。つまり、挟み撃ちになるわね。

他の拠点は全部潰したから、今夜そっちに襲撃に向かう連中とクラブの連中を全員始末すれば、吸血鬼は全滅するはず……奴等との戦いを終わらせるわ」

 

 襲撃は今夜である事が分かっている。

 逆に言えば朝や昼の間は準備に回せるわけだ。

 ならばまず、その時間を活用してこちらは準備を揃え、罠を張る。

 襲撃する者というのは、存外にして襲撃する時こそ無防備になるものだ。

 狩る者というのは、自分が狩られる側に回ると脆い。

 ほむら自身も魔法少女時代、自分が狩る側だという慢心に足元を掬われた経験が何度かあった。

 故にこちらからは仕掛けない。

 奴らに、自分が狩る側だと錯覚させた上で待ち受け、そして狩り尽くす。

 

「ここ数日観察し続けて分かったけど、奴らの弱点は太陽光よ。

昼間は皮膚を強くする薬で何とかしてるけど、夜は慢心してるのか誰も使っていない。

だから今、桜丘さんに太陽光に近い照明を買って来て貰ってる。

すぐにそっちに届くと思うから、家の照明を全部それと取り換えて……そうすれば罠として使えるはずよ」

『ああ……ところで、アキラは……』

「…………」

『アキラの奴を、助ける方法とかねーのかな? あいつ……俺の事を心配して電話までかけてきて……仲はよくなかッたけど、悪い奴じゃないんだ!

なのに吸血鬼なんかになッちまッて……。

きっとあいつ、俺に警告を送ッた事でやばくなッてるはずだ。

暁美、お前なら……お前なら、助けられるはずだ! そうだろう!?』

「残念だけど……私も全能ではないの。むしろ……」

 

 言いかけて、ほむらは目を閉じた。

 思い出すのは幾度も繰り返したあの一月で、取り零してきた仲間達の顔だ。

 何度失敗しただろう……全員を救おうと欲張って、何度状況を悪化させただろう。

 二兎を追う者は一兎も得ず。ほむらは己の無力さをあのループで嫌というほどに思い知らされていた。

 それでも何とかやり遂げたのは、やり直しが利いたから……。

 だがもう、やり直しなんて出来ない。時間は巻き戻らない。

 トライ&エラーによる統計もなく、何もかも上手く行くなんて思うべきではない。

 ベストなど目指してはならない……ベターで妥協しなければならないのだ。

 だって、もう砂時計はひっくり返らないのだから。

 

『むしろ……何だよ?』

「何でもないわ。悪いけど、弟さんの事は諦めて」

『なッ、おい! それッて』

「とにかく、今夜決着を付けるわ。しっかりと備えておいて」

 

 そう一方的に言い、電話を切った。

 玄野から着信が入るが無視し、ほむらは天井を見上げる。

 自分の手は小さくて、いつだって拾えるものには限りがあって……。

 魔法少女でなくなった今、奇跡も魔法もありはしない。

 

 だから非情であろうと取捨選択をする。しなければならない。

 もう二度と、失敗なんてしたくないから。




ゴキブリ「笑止。太古の昔より生き続けてきた我等と、簡単に全滅するような吸血鬼を同列に並べてもらっては困る」カサカサカサ……
ほむら「!?」ビクッ

【神功明里】
『GANTZ/MINUS』の登場人物にしてヒロイン。
タレント並の美貌と評されるほどの美少女で、当時の和泉を凌ぐ実力者。
過去にガンツの部屋にいたが、今はもういない。

【女ばかりが呼び出されているチーム】
外伝作品である『GANTZ:G』のチーム。
主人公の黒名蛍を始めとして女性ばかりだった。
ちなみにこのチームは2回目のミッションで100点星人を粉砕しつつ主人公を含めた数人が生還するというミラクルを達成している。
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