GANTZ『焔』   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第29話 今回は100点の奴がいる

 大阪のチームは、まともとは到底呼べぬ人間の集まりであった。

 これから戦いだというのに、メンバーの何人かは麻薬を吸い、注射器で薬を自らの腕に注入している。

 音楽を聴いている男もおり、これから殺し合いにいくような雰囲気ではない。

 まるで本当にゲームでもやっているような空気だ。

 人種的には、西に近いだろうか。

 しかし案外、こういう少しネジの外れた連中の方が真人間よりもこの非日常には馴染みやすいのかもしれない。

 実際、何人かはZガンを持っていて、100点クリアを何度も達成しているというのが見て分かる。

 そして、既に星人が街に出て一般人を殺し始めているにも関わらず、大阪のチームはまだ動いていなかった。

 

「一般人が殺されてるぞォッ! お前等何やってんだッ!

早く行けッ、人がッ、人が死んでるッ! ホラッ!」

「なんやねんお前。おかしーんか、どッか」

 

 一般人がどんどん死んでいる現状に耐えられずに加藤が叫ぶが、大阪チームは取り合おうとしない。

 続けて加藤はほむらを見るが、こちらも顔色一つ変えてはいなかった。

 

「皆、私達は南東の方に行くわよ。私はこのままバイクで現場に向かうから、皆は後から走って来て」

「待ッてくれ、暁美! 一般人がッ襲われてるんだッ! 何とか助けてやれないのかッ!」

「一般の人達が襲われているのは、これから行く場所も多分同じよ。

だったらこんな所で言い争うより、向こうでそうすれば……ちっ!」

 

 加藤をなだめようとしていたほむらだが、何かに気付いたのか近くにいたアキラを掴むとすぐにバイクを発進させた。

 直後にアキラのいた場所に妖怪のような星人が刀を突き立てた。

 それをすかさず大阪チームの坊主頭がXガンで射殺する。

 

「ボサっとしないで。死にたいの?」

「あッ、ああ……ごめん、助かッた……」

 

 アキラを抱えたまま走り、ほむらは後ろを一度見る。

 他のメンバーは……大丈夫だ。

 玄野が指示を出して、素早く後からついてきている。

 流石にこういう時の切り替えは早い。

 ほむらはしばらく走って指定されたエリアへと入ると、アキラへ声をかけた。

 

「貴方、バイクの運転は出来る?」

「え、まあ……出来るけど」

「そう。じゃあ折角だし運転よろしく」

「えッ、ちょッ!」

 

 流れでアキラを持って来てしまったが、今のままだと初心者の彼は邪魔になるだけだ。

 なので彼に運転を押し付け、ほむらはバイクの後部座席の上に立った。

 右手にマシンガン、左手にバズーカを構え、風で黒髪がなびく。

 

「早く走らせなさい!」

「あッ、ああ!」

 

 ボサっとしていたアキラにバイクを発進させる。

 そうしてからまずは素早く視線を走らせて周囲を見渡し、星人の数と距離を確認した。

 そして近くの星人にマシンガンを撃ちつつ、バズーカの引き金を引く。

 すると光が集束し、二秒ほどのタイムラグを経て解き放たれた。

 まるで散弾銃のように光が弾け、それに触れた星人を抹消していく。

 こちらはかなり、威力だけは使える武器のようだ。

 

「ギィーッ!」

 

 鬼のような星人が飛び掛かって来たのでバズーカから手を放し、ガンツソードで斬る。

 バズーカはベルトを通して肩に提げているので手を離しても落ちたりはしない。

 そのままマシンガンを乱射して星人を次々と仕留めながら、またバズーカを発射して星人を一気に蹴散らす。

 それにしても今回は今まで以上に星人の姿に統一性というものがない。

 恐らく日本妖怪の姿なのだろうが、その姿は多種多様だ。

 

(右に七体……接触までにチャージが終わる。

左の四体は……マシンガンで撃てばこちらに届く前に仕留められるわね)

 

 だがどんな姿だろうがやる事は変わらない。

 ほむらはバズーカとマシンガンを駆使して次々と星人を駆逐し、肉片へと変えていく。

 更にバズーカから手を放して、今度はXガン。

 マシンガンで牽制しながら素早く、視界内にいる全ての敵をXガンでマルチロックオンした。

 ――発射。

 星人を一斉に吹き飛ばし、これに耐えた頑丈な星人を間髪を容れずにバズーカで撃ち抜いた。

 だが今度はバイクの前に巨大な壁……何かのアニメで見た事がある。確かぬりかべという名前の妖怪だったか……それが出現し、アキラは咄嗟に進路を変えてこれを避けた。

 だが急激な車体の傾きによってほむらが振り落とされてしまう。

 

「……っ」

 

 宙に放り出されたほむらへ、空を飛ぶ星人が一斉に襲い掛かった。

 その姿はキジムナーや一反木綿、轆轤首といった日本妖怪のもので、微妙に星人らしくない。

 ほむらは咄嗟にXガンをYガンへ持ち替え、そして遠くの何もない場所目掛けて発射した。

 それと同時にYガンから射出された三つのアンカーのうちの一つを掴み、引っ張られるように空へ飛ぶ。

 通常はこんな事は出来ない。何故ならYガンから出たアンカーは炎を吹かしながら飛んでいる為、掴んだりすれば手を火傷してしまう。

 しかし今のほむらはスーツを着ている。少しくらいのダメージならばスーツが肩代わりしてくれるので、こういう無理も出来るのだ。

 

 妖怪達の包囲を抜けてからほむらは、今度は高層ビルに付いている看板へYガンを発射し、アンカーを掴んで飛んだ。

 飛びながらマシンガンを連射して星人を蹴散らし、距離を空ける。

 アンカーが看板に巻き付こうと回転し、それと同時に手を離した。

 すると遠心力でほむらが飛び、バイクのある方向へと戻る。

 そこに星人が殺到するも、ほむらの動きに恐怖はない。

 マシンガンで蹴散らし、近付いてきた星人の爪を避けて逆に零距離でマシンガンを撃ち込む。

 横から飛び掛かってきた一反木綿を踏み台にし、跳躍して軽々と包囲網から脱出した。

 そしてバイクへ向けて、肩に乗っていたキュゥべえを掴んで放り投げる。

 

「わけがわからないよぉおお!?」

 

 飛んでいくキュゥべえに向けて情け容赦なくYガンを発射。

 またもアンカーを掴み、変則的な空中移動をした。

 そしてYガンがキュゥべえに追いつくと同時に手を放して更に前へ飛び、キュゥべえもヒラリと身をかわしてYガンを避けてほむらの肩にしがみついた。

 心底気に入らないが、キュゥべえの回避能力は侮れない。

 過去の時間軸ではまどかへの接触を避けようとキュゥべえを攻撃したのに仕留めきれなかった事もあった。

 なのでYガンが当たるとは思わなかったし、仮に当たってもキュゥべえならば別にいい。むしろ当たれ。

 そうして空を移動したほむらは丁度いい位置に来ていたガンツバイクの後部座席に着地し、何事もなかったかのようにXガンを連射した。

 

 

 

「すッげえな、アンタ……本当に俺と同い年かよ……」

「貴方には言われたくないわね……そろそろバイクを停めて」

 

 付近の敵をあらかた掃討し、ほむらはバイクを停めるように指示を出した。

 雑魚は大体片付けたので、ここからは徒歩だ。

 バイクに置きっぱなしにしていたZガンを取り、それからアキラを見る。

 

「とりあえず、これでも持ってどこかに隠れてなさい。ないよりはマシよ」

 

 アキラにZガンを押し付け、それからほむらはバイクを降りた。

 Zガンならば初心者が使っても、よほどの大物以外は撃退出来るだろう。

 しかしアキラはほむらに「待ッてくれ」と呼びかけた。

 

「俺も行くよ……女の子に守ッてもらッちゃ恰好つかない」

「……戦えるの?」

「ああ。実は俺、普通の人間とちょッと違くてさ」

 

 普通の人間と違う、というのは恐らく吸血鬼の事だろう。

 クラブをカメラで監視していたほむらにとっては既知の情報だが、アキラがそんな事を知るはずがない。

 彼は掌から日本刀のようなものを生やすと、それを手に取った。

 吸血鬼はどういう原理かは知らないが、身体の組織を変化させて銃や刀を出す事が出来る。

 アキラもまた、同様の能力を得ているという事だろう。

 

「凄いわね。それ、どうなってるの?」

「実はよく分からない。ナノマシンがどうこう言ッてた気はするけど……」

「ふぅ、ん」

 

 とりあえず、一応最低限の自衛能力は持っているという事か。

 そこらの初心者に比べれば遥かに有望と思っていいだろう。

 自前で刀を出せるならばガンツソードは必要ないだろうか。

 

「いいわ、付いて来なさい。ただし邪魔したら承知しないわよ」

「ああ、分かッた」

 

 とりあえず、玄野アキラは邪魔にはならないだろう。

 ほむらはそう判断し、彼を連れて大阪の街を歩き始めた。

 

 

 大阪チームは歴戦の猛者揃いである。

 ほとんどの者が100点を達成できずに死んでいく中で、何度も100点クリアをしたような者達でメンバーが構成されていた。

 リーダーの室谷信雄は4回クリアを達成した実力者であり、島木譲二は3回クリアだ。

 セックス依存症の桑原和男も同じく3回クリアを果たしており、ヤク中の花紀京は2回クリアしている。

 そこから一歩劣るが、仲間内からは『ドSの三人』と呼ばれ常に三人組で行動している平参平と原哲男、木村進も一度100点クリアを達成していた。

 性格はともかく、100点クリアを果たしたその実力は本物だ。

 その上、大阪チームには彼等すら上回る『7回クリアの男』岡八郎が控えていた。

 大阪チームも決して無傷ではない。ここまでで既に何人かは死んでしまっている。

 だが100点達成者達は誰もそれを気にしていなかった。

 雑魚が何人減ろうと、自分達さえいれば勝てるという確信が彼等にはある。

 それだけの実力を持ち、多くの戦いを潜り抜けてきたのだ。

 

 しかし東京チームも決して彼等に負けてはいない。

 いつも通りに適当な狙撃地点に陣取った東郷はXショットガンの狙撃で淡々と星人を処理し、人間離れした強さを持つ和泉はガンツソードと前回100点クリアした事で入手したZガンを巧みに操って次々と星人を蹴散らしていた。

 玄野は桜丘と共に一般人を救いながら星人を駆逐し、人々の声援を受けている。

 ライスはほむらの匂いを辿りながら、道中にいる星人を手あたり次第に噛み殺す。

 前回蘇生させられた西は相変わらずステルスして星人を倒して回っており、ほむらは言わずもがなだ。

 こちらもまた精鋭揃い……何度もミッションを潜り抜け、弱いメンバーが死んでいく中で自然と強い者が残ってきた。

 

「おいッ、加藤がいないぞ!」

「そういえば一般人の事を気にしてたけど……まさかあッちの方に残ッてるの?」

 

 そんな中で加藤不在に気付いた玄野が皆に呼びかけながら加藤を探す。

 桜丘もZガンを撃ちながら加藤の姿を探すも、どこにもいない。

 

「放ッておけよ。別にいいだろ……あんな奴いなくても」

 

 和泉は相変わらずシビアなもので、加藤がいようがいなかろうが気にしないようだ。

 付き合ってられるか、という感じで星人の反応が多い方へと歩いて行き、その後をパンダのホイホイが続く。

 ホイホイもこれで隠れた実力者だ。

 たまに星人に絡まれているが、虫でも払う様に叩き潰してしまっている。

 ジャイアントパンダとは、笹を食べる熊である。

 分類学的にもクマ科に分類される、立派な熊の仲間だ。

 その力は人間など軽く超え、一撃で殺す事だって不可能ではない。

 そんなパンダがガンツスーツを着ているというのは、熊にガンツスーツを着せて徘徊させているに等しい行為だ。

 これで弱いはずがなく、和泉とホイホイが歩いた後は星人の死骸が無造作に転がっていた。

 和泉とホイホイがしばらく歩くと、その行く手を遮るように二体の星人が姿を現した。

 一体は般若のような顔をした着物姿の侍。

 もう一体はおかめのような顔の、これまた着物姿の侍。

 どちらもお面ではなく、これが素顔のようだ。

 

「うふふふふふ……クサイクサイ……バカバカバカ」

「ふふふ……貴殿らクサイぞ。切りとーてしょーがないわ」

 

 星人にとってガンツの戦士……向こうは確かハンターと呼んでいたか。

 それはどうも不快に感じる存在らしい。

 恐らくは脳から出ている信号がそう感じさせるのだろう。

 とはいえ向こうの好みなど和泉にとってはどうでもいい事だ。

 彼は無言でガンツソードを構え、ホイホイを下がらせた。

 

「ふふふ……ほう、我等と斬り合う気か。面白い」

「うふふふ、バカバカ……」

 

 般若が面白そうに刀を抜き、おかめは和泉を囲むように反対側へ回り込む。

 二対一……だが和泉に動揺はない。

 

「まずは指一本!」

 

 般若がそう宣言し、二体が同時に刀を振るった。

 和泉は冷静にそれを避け、刀の軌道を観察する。

 速く、鋭い。紛れもない強敵だ。

 ……だが、あの吸血鬼(氷川)ほどではない。

 

「指!」

「それ指ッ!」

「それッ! それそれッ!」

 

 般若とおかめの刀が更に速くなるが、和泉はそれを全てギリギリで避けていた。

 その最中、退避させておいたはずのホイホイがおかめに後ろから近づき、無造作にパンチを叩き込んだ。

 するとボキボキという音が響き、真っ二つになったおかめが吹き飛んでいく。

 近くの店のシャッターを突き破り、そのままおかめは動かなくなった。

 スーツを着たパンダのパワーを舐めてはいけない。

 

「きえ゙ィあ!」

 

 味方が死んだことで焦ったのか、般若が叫び声をあげながら斬りかかって来た。

 しかし和泉には当たらず、続く横薙ぎの刀も易々と避けられてしまう。

 そして和泉が振るったガンツソードが股に当たり、そのまま股から頭にかけて真っ二つに切り裂かれてしまった。

 

 

 

「田を返せーッ!」

「わッけッ、わかんねッつの!」

 

 和泉とは別の場所で玄野は、巨大な星人を相手に戦っていた。

 星人は中型のビル一つ分ほどの巨体を持ち、左目が潰れて右目が飛び出している。

 田を返せという台詞といい、日本の妖怪である泥田坊を思わせる星人だ。

 

「田を返せえーッ!」

 

 泥田坊が拳を振り下ろし、玄野が咄嗟に後ろに跳んだ。

 それからすぐにZガンを連射して泥田坊を叩き潰す。

 流石に100点武器といったところか。泥田坊は抵抗も出来ずに血と臓物と肉片の池と化し、辺りに嫌な臭いが充満した。

 

「流石ね、玄野クン」

「…………」

 

 桜丘が彼氏の活躍を褒めるが、玄野はどこか浮かない顔だ。

 その横顔は何かを憂いているようであり、そして隠し切れない不安が滲んでいる。

 

「なあ聖……今回、何か違う気がしねーか?」

「え? ええ……そうね。東京以外に飛ばされるのも、他のチームと遭遇するのも初めてだし」

「アイツ等……結構な数が100点武器持ッてた……。

ふざけた連中だッたけど、多分相当強い……そんな奴らのテリトリーを侵してまで俺等が呼ばれた意味ッてなんだ?」

 

 玄野は空を見上げ、そして確信を抱いたような声で言う。

 

 

「……今回は100点の奴がいる……そんな気がする……」




【加藤の行動について】
・加藤はほぼ原作通りの行動をとっております。
流れとしては以下の通り。
1、襲われている一般人を助けに行く(ほむらと大阪チームで決めた担当エリア分けは無視)
2、山咲杏と出会う。
3、ギゼンシャ星人と馬鹿にされながらも一般人を救う。
4、杏さんが加藤に惚れる。
5、岡八郎が出現して牛鬼とロボットで戦い始める。
6、自衛隊に囲まれている大阪チームの眼鏡君を発見して助ける。←今ここ。

【Yガン式立体起動】
本来の用途を激しく無視した使い方。
最近彼岸島見たからチクショウ!
離れた場所に向けて発射して射出される三つのアンカーのうちの一つを掴んで一緒に飛ぶ。
スーツを着ていなければ出来ない荒業。

【島木譲二】
大阪チームの黒人スキンヘッド。
リーダーのノブやんより存在感がある。
犬神を相手に一対一で戦って勝利する実力者だが、ぬらりひょんには勝てなかった。
大阪チームの中ではあまりアホをやらない方らしい。
普段はノブやんと一緒に牛丼屋の店員をやっている。

【桑原和男】
大阪チームのやべー奴。
スーツ半分脱いで余裕かましとるアホ。半分どころか全裸で戦う事もある。
セックス依存症で女だったら星人でも襲う剛の者。
女の姿をしていれば割と何でもいいらしく、ぬらりひょんにすら襲い掛かった(!?)
謎の白い液体を飲まされたぬらりひょんは割と本気で嫌がっているように見える。
しかし東京チームのアホ(ヤクザ、チーマー、珍走団)と違って味方の女性は襲わないし(やらせてくれと頼む事はある)レイカには敬語で握手を求めるなど、案外普通に話が通じるタイプ。
普段は子供に慕われる英語塾講師(!?)

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