GANTZ『焔』   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第32話 この一瞬が必要だった

 ぬらりひょんの目からレーザーが放たれ、ほむらは顔色一つ変えずに舞うように避ける。

 しかし決して余裕があるわけではない。

 ぬらりひょんのレーザーは道路を斬り、遠くのビルすらも貫いて切り裂き、近くを通る度に背筋が冷える。

 命中してしまえばスーツの防御力など無視して一撃で終わる……そう確信させられるほどの破壊力を持つレーザーが二発、絶え間なく連射されている。

 それに加えて敵は不死身。意識外からの不意打ちでない限り、どれほど砕いても再生するときた。

 真っすぐに飛んできたレーザーをサイドステップで避け、続く二発目をバックステップで回避する。

 道路を割りながら追って来た二本のレーザーの隙間に身体を割り込ませてXマシンガンで頭部を破壊――するも、すぐに再生してレーザー照射が再開される。

 身を屈めてレーザーのすぐ下を通ってぬらりひょんへ肉薄し、胸にXガンを一発。

 ほむらの方を向こうとした顔をXガンで顎をかち上げる事で無理矢理上を向かせて更に一発。

 ぬらりひょんの肩を足場に跳躍し、彼の頭の上に手を置いて逆立ちしつつ今度は頭に一発。

 すぐに降りて背後を取りつつ背中にも一発。

 次々とぬらりひょんの身体が弾け、血飛沫が舞う。それでも致命傷にならない。

 すぐに再生してしまう。

 

(ワルプルギスの夜……ほどとまではいかなくても、過去に戦った魔女と比べてもかなり厄介ね……)

 

 難敵だ……と思った。

 過去に幾度も繰り返した時間遡行。その中で繰り返してきた数多の戦い。

 それと比較しても、今回の敵は間違いなく上位に食い込むほどに強い。

 流石にワルプルギスの夜ほどではないが、紛れもなく最強クラスの敵であった。

 美樹さやかではまず勝てないだろうし、油断をすれば巴マミや佐倉杏子でも返り討ちになりかねないほどの相手だ。

 そして無論、自分も例外ではない。気を抜けば一瞬で死体に変えられてしまうだろう。

 ぬらりひょんが振り返る前に細かい瓦礫を拾い、ぬらりひょんの顔へ投げつけた。

 だがそんなものは目くらましにすらならない。

 ぬらりひょんの目が光り、レーザーを発射してほむらは横へ跳んで回避した。

 そうして避けながらまだ手の中に残っていた小石をXガンの二つのトリガーのうちの一つに挟み、ぬらりひょんをロックオンした状態で固定した。

 

「……」

 

 避ける最中、手が滑ったのかXガンがほむらの手を離れて地面に落ちた。

 しかしそれを拾う暇もなく、ほむらはぬらりひょんに背を向けて走る。

 その後ろに次々とレーザーが着弾し、道路が爆ぜた。

 

「うん、そうか……そうか……なるほど、興味深いぞ」

 

 ぬらりひょんがほむらの動きに感心しながらレーザーを放つ。

 二つの目から放たれたレーザーはまるで地面を斬るようにして地面を走りながらほむらへ迫った。

 斬られた地面は後から遅れて断続的に爆発し、爆炎をあげる。

 それを背を向けたまま後方宙返りして避け、爆風に乗ってまるで空で二段ジャンプをするように再度後方宙返りし、ぬらりひょんの頭に手を置いて後頭部を蹴り、バックフリップ。

 彼の反対側へと回り込む。

 そしてすぐにXマシンガンを撃つも、やはり意味がない。

 何度破壊しても即再生されてしまう。

 その血飛沫に紛れてほむらは小石を拾い、今度はXマシンガンのトリガーに挟み込んでロックオン状態で待機させる。

 

「うん……なるほど、なるほど……」

 

 ぬらりひょんが振り向こうとするが、それを止めるようにほむらが背後から飛び付いた。

 太ももでぬらりひょんの頭を挟み込んで前を向き続ける事を強要し、最大の武器を封じる。

 その体勢から大きく身を逸らし、ぬらりひょんを太ももで挟んだまま跳躍。

 空中で弧を描いてからリバースフランケンシュタイナーを決め、ぬらりひょんの顔面を地面に叩き付けた。

 そこから間髪を容れずに立ち上がり、ぬらりひょんの後頭部を踏みつけてレーザー攻撃を封じつつXマシンガンを連射。

 だがこれでも駄目だ。どれだけダメージを与えてもまるで効果がない。

 ぬらりひょんが関節の駆動を無視するような軌道で腕を薙ぎ、咄嗟に後ろへと跳んで回避した。

 戦況は何も変わらない。どれだけほむらが技巧を駆使して優位に立ち回ろうと、ぬらりひょんの再生能力の前に追い詰められてしまう。

 

「…………」

 

 しかしほむらの目に諦めの色はない。

 まるで何かを待っているかのように、紫の瞳は静かに敵を見据えていた。

 

 

 

「す、すごい、あの子……何であんな動き出来んの?」

 

 ほむらの戦いを離れた場所で見ていた山咲は信じられないかのように言った。

 先程からずっと、ほむらはあの死の間合いの中でぬらりひょんとやり合っている。

 立て続けに放たれるレーザーを全て避け、隙を見付けてはぬらりひょんに攻撃を加えている。

 ここにいる誰があの位置にいても、ああは戦えないだろう。きっとすぐに死んでしまう。

 ハードスーツの堅牢な防御力にも見劣りしない、見事な動きだ。

 むしろあれだけの動きが出来るならば、動きを阻害するハードスーツは邪魔にしかならない。

 

「だがあのままじゃジリ貧だ……不味いぞ、暁美は意識外の攻撃の事を知らないんだッ!

何とかして伝えないとッ」

 

 ほむらとぬらりひょんの戦いは千日手となっている。

 攻撃の効かないぬらりひょんと、攻撃の当たらないほむらではいくら戦っても決着が着かない。

 終わるとすればどちらかの体力切れを待つのみだが……それではどう考えてもほむらが不利だろう。

 ほむらは珍しく汗を流し、軽く息切れも起こしている。

 これまでの戦いで、彼女が疲れる姿など玄野達は見た事がない。

 つまり、それだけ追いつめられているのだ。

 そして避ける最中、レーザーで破壊された道路の瓦礫に当たってXマシンガンが手から落ちてしまった。

 このままでは駄目だ……そう思った加藤が飛び出そうとするのを、玄野が腕を掴んで止めた。

 

「計ちゃん!?」

「待て加藤……もう少し様子を見よう。

俺には……あの暁美が、何も考えずに戦ッているとは思えない……」

 

 玄野は鋭い目つきでほむらとぬらりひょんの戦いを……いや、ほむらの目を見る。

 

「アイツ……何か……狙ッてる……。

闇雲に攻撃してるわけじゃない……何か策があるんだ……」

 

 

 

 Xガンを一丁とXマシンガンを落としてしまい、ほむらはホルスターから予備のXガンとYガンを出す。

 そしてレーザーを避けながらXガンでぬらりひょんの足を吹き飛ばして体勢を崩し、間髪を容れずにYガンで動きを拘束した。

 Yガンはぬらりひょん相手でもかなり効果的と思われる武器だ。

 いくら攻撃しても再生するならば、上に転送してしまえばいい。

 しかしYガンで拘束された箇所がまるで切れるように離れ、Yガンのアンカーが素通りしてしまう。

 いくらでも身体を変化させられるぬらりひょんならではの回避と言えるだろう。

 だがその一瞬の隙を突いてほむらは近くで死んでいる自衛官の側まで跳び、Yガンを捨てて死体の横に転がっていたマシンガンを拾った。

 今回のミッションは一般人にも見えており、自衛隊も出撃していた。

 結局自衛隊でも星人には勝てずに死体の山が出来ただけだったが……しかし、この武器こそほむらが欲したものだ。

 放たれるレーザーを横に跳んで避けながら、ほむらは自衛官のマシンガンを乱射し、更にXガンをホルスターに戻して以前ヤクザから拝借した拳銃も撃つ。

 弾丸が次々とぬらりひょんに当たるが、勿論ダメージは浅い。

 

「ふーッ……ふーッ……そんな武器が……効くわけ……」

 

 ぬらりひょんは呆れたように話す。

 いや、話そうとした。

 だが、その次の瞬間に彼の背中が突然爆ぜる事で言葉は中断される。

 ――それは、意識外の攻撃であった。

 後ろから攻撃されるなどと思っていなかった。

 何故ならほむらは前にいて、他の連中も後ろではなく橋の下なのだから。

 ならば何が撃ったのか?

 その正体は、離れた場所で見ていた玄野達だけが理解していた。

 

 意識の外から攻撃したものの正体。それは、先程ほむらが落としたXガンとXマシンガンだ。

 

「この一瞬が必要だった」

 

 ほむらはミスをして落としたのではない。

 わざとあの位置に落とし、避けながらぬらりひょんの位置を誘導していたのだ。

 落としたXガンとXマシンガンの銃口が彼の位置に来るように。

 ぬらりひょんが、落とした二つの銃に背を向けるように。

 戦いながら全てを計算して、位置を調整していたのだ。

 

「この一瞬が、お前から不死の再生能力を奪い去る」

 

 そしてほむらはあの時、自衛官のマシンガンを撃ち、その中に紛れて拳銃を撃っていた。

 放たれた弾丸は瓦礫に跳ね返り、跳弾となってXガンとXマシンガンの引き金に当たり――誰も持っていない二つの銃が背後から奇襲するという、意識外の攻撃を成し遂げたのだ。

 Xガンは二つの引き金を引かねば発射される事はない。

 だがほむらは戦いの中で引き金の間に小石を挟む事で、一つ目の引き金が常に押された状態にしていた。

 そして矢は、この一発だけではない。

 

 

「――最後までチャンスを待つのが……本当のプロだ」

 

 

「おッ!?」

 

 ぬらりひょんの胴体がまたしても意識外の攻撃で弾け飛んだ。

 その攻撃は遠くの高層ビルの窓……少しだけ開かれたそこから銃身だけを出した東郷によるものだ。

 東郷はずっと、この機会を狙っていた。

 ほむらが戦うのを見てから、彼はすぐに狙撃しなかった。

 何故なら彼はほむらから『仕事』を受けたからだ。

 その仕事とは、ぬらりひょんを仕留める確実なチャンスが来た時に、最高のタイミングで攻撃をくれてやる事だ。

 勿論ほむらは、そんな仕事を口に出して伝えていないし、東郷もそんな依頼を耳にしていない。

 だが狼は同じ犬科であっても、犬の群れの中にいる仲間を感じる事が出来る。

 それと同じで、この異常な殺し合いの世界の中でほむらと東郷は互いの存在を感じ合っていた。

 だから東郷への仕事に余計な装飾や言葉は必要ない。ただ……伝わればいい。

 故に東郷はほむらの狙いを理解し、そして待った。

 必ず機会が訪れるはずと信じて待ち、そして今ぬらりひょんを撃ったのだ。

 

「うォッ!?」

 

 更に続けて、今度は先程ほむらが捨てたレーザー砲が突然発射され、ぬらりひょんを穴だらけにした。

 この大阪で無念に散っていった自衛官(同胞)の狙撃銃を拾っていた東郷が、遥か一㎞先からの狙撃でほむらが捨てたレーザー砲のトリガーを撃ち、ぬらりひょんに当てたのだ。

 

「がッ!?」

 

 更に今度は腹から刀が生えた。

 バチバチと音が鳴り、ステルスを解除した大阪最強の男――岡八郎が姿を現す。

 

「どうや……?」

 

 岡八郎は逃げてなどいなかった。

 ぬらりひょんの弱点を看破した彼は敵前逃亡したように見せかけ、好機を狙っていたのだ。

 タイムオーバーがない以上は倒すしかない。

 しかし正面突破は不可能。

 そう考えた彼は逃げた振りをして、ぬらりひょんの意識外へ出ていたのだ。

 そしてほむらと東郷の攻撃を見て、今こそが好機と判断して背後から接近し、渾身の一撃を叩き込む事に成功していた。

 ……もっとも、もしほむらがいなければ『面白い奴』とぬらりひょんに評価されていた彼は意識の外に出られず、追跡されて死んでいただろうが……。

 

「おおおおおおおォォォオオッ!!」

 

 気合の声と共に刀を振り上げ、ぬらりひょんを腹から頭にかけて二つに裂いた。

 そしてほむらが止めを刺すべく銃を向ける……が、ぬらりひょんはほむらを視界にしっかりと入れている。

 他の誰を意識の外に追い出そうと、最大の脅威であるほむらだけは意識の外に出さない。

 ほむらの攻撃では絶対に止めにならない。

 故に――。

 

「……今よ!」

 

 ――止めを刺すのはほむらではない。

 

 ほむらの呼びかけに応じ、誰かが引き金を引いた。

 それと同時に岡が跳び退き、ぬらりひょんを重圧が押し潰して血の池を作る。

 やったのは、ステルスしながら炎上するタンクローリーの中に隠れていた玄野アキラだ。

 ほむらは、ぬらりひょんの特性を理解した時から自分では止めを刺せないと考えていた。

 故にZガンを玄野アキラに預け、隠れさせていたのだ。

 そう……最初に突撃したタンクローリーの中に、ずっとアキラは潜んでいたのだ。

 

(そうかッ……最初のタンクローリーの突撃は、ダメージを与えるのが目的じゃなかッた……ッ!

アキラがZガンの射程内まで近付く為に……隠れる場所を作ッたんだ!)

 

 玄野はここにきて、ようやく最初のほむらの無意味な攻撃の意味を悟った。

 ぬらりひょんに正面から大型車をぶつけた所で、それは何の意味もない。

 だがそもそも、アレは攻撃が目的ではなかった……アキラの為の隠れ蓑を用意する為だけのものだったのだ。

 普通に考えれば爆発炎上するタンクローリーの中に潜む事など絶対に出来ない。

 どう考えても焼け死ぬか、運がよくて重症になる。

 だがその荒業もガンツスーツを着ていれば、スーツが壊れるまでの間ならば可能になる。

 加えてアキラは吸血鬼だ。元々の耐久力が人間とは違う。

 

「おおォォオオッ!!」

 

 アキラがステルスしたまま更にZガンを連射する。

 次々とぬらりひょんの残骸を重圧が押し潰し、破片一つに至るまで原型なく破壊していく。

 連射に次ぐ連射、破壊に次ぐ破壊。

 それが終わった時、ぬらりひょんは完全にただの血の池と化していた。

 

「…………」

 

 まだ復活するかもしれない。

 そう思い、警戒を解かずにほむらはぬらりひょんの残骸……いや、残骸とすら言えない赤い池を睨み続ける。

 だが不意に、視界が突然ガンツの部屋へと切り替わった事で自分が転送され始めていると気付いた。

 どうやら、今度こそ本当に終わったようだ。

 

 今回は、流石に疲れた。

 しかし何とか生き残れたようだ……その安堵に、ほむらはようやく緊張を解いた。

 

 

 ぬらりひょんとの戦いが終わり、ほむら達はいつもの部屋へと戻されていた。

 いつものメンバーが部屋に集結し……だがその中にいるはずの一人がいない。

 玄野、ほむら、加藤、和泉……東郷、アキラ、ライス、ホイホイ、西……後ついでにキュゥべえ。

 しかし桜丘だけがどこにもいなかった。

 玄野はその現実を認められないように何度も部屋を見回し、今にも泣き出しそうな顔で震える。

 

「う……嘘だ……ッ。

い、嫌だ……嫌だ……聖……」

 

 玄野の姿に加藤は目を伏せ、ほむらも視線を逸らす。

 この世界は残酷で、どれだけ生き延びたくても死ぬときはあっさり死んでしまう。

 今までの参加者達もそうだったし、岸本だってそうだった。

 誰もがドラマチックに活躍できるわけではない。生き続けられるわけではない。

 そんな残酷で当たり前の現実を、改めて再認識させられる。

 

「おーいガンツー。採点ー」

 

 西だけが空気を読まずにいつも通りの声で、早く採点をしろとガンツを急かした。

 もし採点が始まったら確定だ。もう桜丘は帰って来れない。

 玄野は涙を流し、祈るように叫ぶ。

 

「ふうゥ……ッ、神様……神様……どうかッ……。

帰ッてきてくれ…………帰ッてきてくれ! 聖ッ!」

 

 

 

「……アレ? アタシ最後……?」

 

 

 

 祈りが通じたように、桜丘が頭から転送されてきた。

 全身が戻ってくると同時に玄野は桜丘を抱きしめ、もう離したくないかのように力を込める。

 

「ちょッ、玄野クン! 皆が見てる前で!」

「よかッた……本当に……戻ッてきてくれて……よかッた……。

う……ううゥゥゔヴ……よ゙がッだあ゙あァァァ……」

 

 玄野は皆が見ている事も気にせず、涙と鼻水を流しながら泣いた。

 ほむらも思わず笑みを浮かべ、らしくないと思ってすぐに無表情に戻る。

 この世界は残酷で、祈りなんてものは何の役にも立たない。

 むしろ害悪な宇宙生命体に利用されて絶望の末路を迎えてしまう。

 それでも、と思う。こんな人生だったのだ……一度くらい、幸せな夢を見てみたい。

 そんな気持ちが自分にもまだ残っていた事に気付き、ほむらは内心で自嘲した。

 

 今回もかろうじて犠牲者はいない。

 あえて言うならばアキラ以外の新人が戻ってきていないが、恐らくは帰ろうとして勝手に爆死したのだろう。

 もっとも、その事はもう加藤すらそこまで気にしていない。

 勿論悔いているし、助けたかったとも思っている。

 だが以前のように涙を流して悔いるような姿は見せていなかった。

 本人も知らぬ間に、この異常な世界に慣れて心が冷えてきているのだろうか。

 

「何とか……全員、戻ッて来れたな」

 

 玄野が涙を拭い、ほっとしたように言いながら仲間達を見る。

 どうやら彼の中でも新人は『全員』に含まれないらしい。

 逞しくなったと思うべきか、冷たくなったと思うべきか……。

 どちらにせよ、この世界に順応しているのは間違いないだろう。

 残酷な話だが、こちらの話を聞かずにスーツすら着ない素人を気にかけてられる段階ではなくなったのだ。

 以前までならば、まだその余裕もあった。

 しかし……もうそんな余裕はないと全員が悟っている。

 前のオニ星人の時から難易度が一気に上がり、最早自分達が生き残るだけで精一杯になっているのだ。

 

 その後はいつも通りの採点が始まった。

 東郷は50点獲得で、前回と合わせてトータル104点。

 和泉は48点。前回までの分と合わせてもトータル95点で100点に届かなかった。

 玄野は49点。トータル102点でまたしても100点到達だ。

 桜丘は35点。前回までと合わせても58点だが、上手く行けば次は100点に届くかもしれない。

 ライスは28点だ。トータル29点で100点への道は遠い。

 ホイホイは驚きの58点。案外このパンダは強いのかもしれない。

 西は75点。ステルスしつつ大阪メンバーの獲物まで横取りして稼いでいたようだ。

 ほむらは274点でトータル294点。天狗と犬神の点数が高かった上に、星人をかなり倒していたので当然と言えば当然の高得点だろう。

 これで100点獲得は東郷、玄野、ほむらの三人だ。

 この三人が選んだのはやはり、強い武器だった。

 今更逃げるつもりなどない。

 星人が表の世界にまで浸食してきた今、戦う為の力を手放すのは悪手だ。

 もしも星人がミッション外で現れたとしても、大事なものを守れない。

 ならば命の危険があろうと力を選ぶ。

 これにより玄野はZガンを、そして東郷はパソコンを手に入れたが……こんなものが複数あっても意味はない。

 残念ながら今回の東郷の100点クリア武器は、完全に外れだ。

 一方ほむらはガンツバイクを飛行可能にしたような飛行ユニットと、大阪の岡八郎が着ていたハードスーツを入手していた。

 しかし飛行ユニットはともかく、ハードスーツは回避主体のほむらとの相性が致命的に悪い。

 確かに攻撃力と防御力は段違いに上がるが、ほむらはこんなものを着ない方が強いのだ。

 しかもスーツは他の武器と違って一人一人の体格に合わせた専用のものなので他人に貸す事も出来ない。

 残念ながらこの最強スーツを使う事はないだろう。

 ……いや、囮や盾くらいにならなるか?

 

 そして初参加の玄野アキラはぬらりひょん撃破により100点。

 これで、解放される条件が整った。

 

「アキラ……1番だ。お前は、こんな世界にいちゃいけない……。

親父とお袋も、お前に期待してるんだ」

 

 玄野はアキラの肩に手を置き、このゲームから離れる事を勧めた。

 自分達はもう腰までどっぷりと浸かっている。今更抜ける事は出来ない。

 だがアキラはまだ引き返せる。

 こんな、次のミッションで死ぬかもしれない世界にいなくてもいいのだ。

 しかしアキラは一度玄野を見て、次にほむらを見詰め……口を開いた。

 

「2番だ。強い武器をくれ」

「おいッアキラ!」

 

 迷いなく答えたアキラに、玄野が掴みかからんばかりの勢いで詰め寄る。

 その顔には疑問と怒りが浮かんでいた。

 折角平和な世界に戻れるのに何故……!? そんな兄の怒りを受け止めながらアキラは答える。

 

「兄貴……俺はもう……人間じゃない……。

知らないうちに、吸血鬼とかいう化け物になッていた」

「だッ、だからなんだよ!」

「分からないのか? 俺はもう、あの星人とかいう連中と同じッて事なんだぜ……。

もしここから解放されれば……次にこのガンツとかいうのが標的にするのは俺かもしれない」

「そ、そんな事は……」

 

 あり得ない……とは言い切れなかった。

 このガンツは星人を殺す事を玄野達に今まで強いてきた。

 ならば吸血鬼を標的にする事は十分にあり得る話だ。

 ほむらはおもむろにパソコンを開き、過去に討伐対象になった星人のデータを探す。

 2回クリアで得たこのパソコンは見た目はそこらのノートパソコンだが、その中には過去に討伐対象にされた星人のデータも記されていた。

 

「玄野アキラの言葉は正しいかもしれないわ。これを見て」

 

 ほむらが皆に画面を見せる。

 それは過去にガンツの標的になった事のある星人が記されたページだが……そこに、吸血鬼がいた。

 そのミッションは結局時間切れで吸血鬼を殲滅し切れずに終わって失敗してしまったらしい。

 

「今や彼は吸血鬼の最後の生き残り……ここで解放されれば、次にガンツが狙うのは彼かもしれない。

ならいっそ、今はこのままこちら側にいた方が安全かもしれないわ」

 

 ほむらはアキラの判断を正しいものだと考えている。

 今、アキラがガンツの標的にされていないのは彼がガンツに囚われているからだ。

 もしそうでなければ、きっとガンツの標的に選ばれてしまうだろう。

 

「そういうわけだ……兄貴、俺もこの部屋に残るよ」

「……わかッた。だが無理はするなよ」

 

 こうしてアキラの残留が決まり、玄野兄弟が揃ってここの住人となった。

 続いてキュゥべえの得点が記されるが、こちらはやはり0点。クソの役にも立たない。

 所詮キュゥべえなどこんなものだ。

 そして加藤――10点。

 前回までと合わせて103点で100点に届いた。

 

「…………お、俺は……」

「加藤! 1番だ!」

 

 悩む加藤へ、玄野が送り出すように言う。

 加藤はアキラと違う。玄野とも違う。

 彼はこの部屋に守りたい者など残していないし、むしろ外の世界にこそ守るべき者がいる。

 加藤には弟がいて、彼を守らなければならないのだ。

 だからいつだって死ぬのを恐れていた。弟を一人にしてしまう事を心底恐怖していた。

 

「お疲れ様よ、リーダー」

「だ、だがッ、ここで止めたら……俺は仲間を置いて逃げる臆病者だ……ッ」

「……加藤勝。あんたは(タイガー)のように勇敢な男だ。

他人を案じ、常に危険に飛び込んでいく……。

だが(タイガー)のような男は、その勇猛さのおかげで、早死にすることになりかねない……臆病を恥じる事はない……」

「けど……俺だけッて……」

 

 桜丘と東郷も加藤の背中を押す。

 しかし戦友を残して一人だけ平和な世界に帰る事に加藤は抵抗があった。

 それに、元々玄野を巻き込んでこの部屋に来てしまったという負い目もある。

 しかし……それでも、どうしても、弟の顔がチラついてしまう。

 それに今回のミッションは本当に危なかった。

 次も生き残れるとは、どうしても思えない。

 だから彼は、絞り出すように一番と言おうとし……。

 

「はッ……おめでてー奴等だな。解放されたくらいで無関係になれるとか本気で思ッてンの?

もうすぐ、『始まる』ッていうのによ……」

 

 西丈一郎が、それを嘲るように笑った。




【一人で意識外から攻撃】
わざと落としたXガンのトリガーに弾丸を当てて背後から奇襲させる荒業。
上のトリガーには小石を挟んであらかじめロックオン状態にしてある。
実弾がなければ出来ない。

【連携攻撃】
ほむらが意識外の攻撃を行うのと同時に東郷が更に不意打ちをし、岡が背後から攻撃して最後にアキラが不意打ちでZガンを連射する不意打ち4連撃。
ほむらが散々ぬらりひょんを相手に戦ってぬらりひょんの注意を引き付けたからこそ可能。

【炎上するタンクローリーの中に隠れ続けるなど可能なのか?】
外伝のGANTZ:Gで主人公の黒名が自分ごと敵を炎の中に突っ込ませたので可能だと思います。
他にも炎のオニ星人と戦った桜井と坂田も何度か炎の直撃を受けても平気でしたし。
(桜井はスーツを壊された後に炭になりましたけど……)
まあもし無理でも、アキラは吸血鬼なので多少の無理は利くという事で。

【嫌だ】
主にガンツの男キャラが最愛の人を失った時に発する嘆き。
バリエーションに「いやだアアあ゙ァァ」や「いやだあァアあァアアあ゙ァあアあァア レイカあ゙ァアァァああ゙ぁァア ああ゙ァアアアアア あ゙ァーーーッ」や「いやだアアアあ゙ァあァ」などがある。
どれも凄い真面目なシーンなのだが文字にするとシュール。

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