GANTZ『焔』 作:マジカル☆さくやちゃんスター
加藤は結局一番の解放を選ばなかった。
西の言葉を信じたわけではないが、彼の語る言葉を嘘と切り捨てる事も出来なかったのだ。
あと一週間で始まる……そう西は語り、ガンツに表示された数字をほむら達に見せた。
数字は凡そ60万と少し。そしてそれは一秒ごとに減っており、秒数を示している事は明らかであった。
つまりガンツに示された残り時間は僅か一週間程度という事になる。
このカウントが0になった時に何が起こるのかは具体的には西も把握していないらしい。
だが彼は核戦争が有力な説、と言っていた。
恐らくは世界各地に自分達と同じような黒い玉の部屋に集められた人間がおり、その中の何人かはインターネット上で情報のやり取りをしているのだろう。
核戦争というのはその中で出た推測の一つに過ぎないだろうが、ガンツに秒数が表示されている以上は何かあるのは間違いない。
そうした不安が、加藤に部屋を立ち去る選択をさせなかった。
もう解放されても無関係ではいられない……吸血鬼が襲撃してきたのと同じように、オニ星人やぬらりひょん達が一般人を巻き込んだのと同じように……これからは、一般人も部屋の住人も無関係に全員が何かに巻き込まれる。
そんな確信と不安だけがあった。
変わり始めているミッション。
今までになかった戦場の変更。
そしてガンツに示された謎の残り時間。
それらが重なり、部屋の空気は重々しいまま解散となった。
玄野達が帰った後、ほむらは通販で買っておいた普通のパソコンでガンツについて調べ始めた。
ほむらの読みでは、西同様にガンツの事をインターネット上に上げている者というのは他にもいるはずだ。
頭の爆弾がどういう条件で作動するのかがイマイチ不明瞭だが、西のサイトを見るにネット上に書き込む分にはかなり緩くなる事は分かっている。
いかに小説形式を取っているとはいえ実名まで出し、起こった事を事細かに書き、サイトを閲覧しているうちの何人かはこれが現実に起こっている事だと確信する所まで至っているのに西の爆弾が作動する気配がない。
ここまで来れば、事情を知る者同士ならばネット上で話しても問題ないと思う者は今までにいただろうし、そう思ったならば自分達以外の部屋の住民とコンタクトを取りたいと考えたはずだ。
そうした者達が集まり、サイトを作っていたとしたら……そこには、多くの状況が共有されている。
西の情報の出所もきっと、そういったサイトからだ。
ほむらはそう読み、部屋の住民が集まるサイトを探していた。
「キュゥべえ。貴方は西丈一郎の言っていたカタストロフィについてどう思う?」
「現時点ではハッキリとした事は言えないよ。情報が足りないからね」
「貴方が掴んでいる限りの情報から導き出される、最も可能性の高い憶測でいいわ。
どうせ私よりは多くの事を掴んでいるんでしょう?」
「……確定ではないが、異星人からの大規模な侵略が起こる可能性が高い。
あの秒数は、それが起こるまでの推定予測時間だろう」
キュゥべえの返答はほむらの予測通りのものであった。
星人達は一つの目的……即ち『地球への移住』を目指している宇宙からの漂流者達だ。
それらは今まで少しずつ地球へ入り込んでいたが、いよいよ本隊が来るという事なのだろう。
ガンツのミッションとは、先遣隊を潰す為の小競り合い……前哨戦でしかなく、あの示された時間がゼロになってからが本当のミッションなのだ。
「つまり鹿目まどかも、もう無関係ではいられない。間違いなく巻き込まれる事になる」
「…………」
ほむらは無言で唇を噛んだ。
やっと終わったはずだったのに。終わらせたはずだったのに。
なのに運命はまたしてもまどかを巻き込もうとしている。
何度も繰り返して、最後には命まで捨てて……ようやく迷宮を抜けたら、そこはまた新しい迷宮だった。
これでは魔女との戦いで死んだオリジナルの暁美ほむらが浮かばれない。
だがまだ可能性はある。
暁美ほむらは死んだが、そのコピーである自分がここにいる。
いや、今となってはむしろ自分がガンツに呼び出されて複製されたのはこの為だったとすら思える。
「……いいわ。なら、私が全ての星人を始末する」
まどかにまた危険が迫るというのなら、何度でもそれを倒そう。
星人も魔女も関係ない。鹿目まどかが幸せに生きる明日の為ならば、いくらでも戦いに身を投じよう。
その果てにこの身が砕けようと、後悔なんてあるわけない。
元よりこの身は死者。とうに死んだはずの人間の複製に過ぎない。
ならば今更命など惜しむものか。
「恐らくミッションは次が最後だろう。大阪以上の戦いが予想されるよ。
まどかを守る為には、まずはそれを生き延びないとね」
前のミッションでは東京から大阪へと舞台が移った。
恐らくは各地でも同じように、星人のいなくなったエリアから他のエリアへ移動させられていたのだろう。
ならばきっと、残るミッションは多くない。
残り時間一週間という事を考えれば高確率で次がラストミッションとなる。
そして次はきっと、大阪以上の戦いが待っているのだろう。
だがほむらに恐れはなかった。
どんな星人だろうと来るならば来るといい。
何だろうが纏めて葬るだけだ。
その決意を固め、最後のミッションを待ち続けた。
◇
その日、ガンツの部屋は唐突に電気が点かなくなった。
最初は停電かと思い、次にブレーカーでも落ちたかと思ったがどちらも違っていた。
ほむらが拠点としているガンツの部屋だけが突然にライフラインを絶たれたのだ。
しかしこの事にほむらは動揺しなかった。
ただ、この部屋が役割を終えたという事だけを薄々理解しただけだ。
「次が最後のミッションのようね」
「そのようだね。もうこの部屋を使うのも最後だから電気と水を止められたんだろう」
ほむらは短い時間で着替えと武装を終えて玄野達が来るのを待つ。
しばらくしてから順に姿を現し、全員が部屋に集まった。
今の所は欠員はいないが、次にこの部屋に集まった時に全員が揃っているかは分からない。
「おい暁美……何で部屋の電気消してんだ」
「少し前から点かないのよ」
玄野の問いに答え、それから全員を見る。
何人かは露骨に緊張しており、いつもと違う雰囲気に気圧されているようだ。
「俺、暁美、和泉、東郷さん、桜丘、計ちゃん……と、弟さん。後、変なのと西と犬とパンダ」
加藤が全員いる事を確認し、しっかりと顔を見る。
彼も何となく予感があるのだろう。
このミッションで何人かと今生の別れになるかもしれないという、そんな不安がきっと全員にある。
「西か……テレビでえらい事になッてたな」
「ふん……別に……」
玄野が心配そうに言うが、西はどうでもよさそうにそっぽを向いた。
どうやら西はテレビで報道されるような事をやらかしたらしい。
一体何をやったのやら……と思うも、ほむらにとってはどうでもいい事なので特に口を挟みはしなかった。
「これ……最後のミッションなのか? 西?」
「さァね」
「お前、テレビで死んだッて言われてたぞ」
「あー、そう」
加藤の問いにはぶっきらぼうに答えるが、彼だってそんな事は分からないのだから答えようがない。
あくまで西は玄野達よりも多くの情報を持っている参加者に過ぎないのだ。
玄野もそれが分かったのか、またテレビの事に話を戻すも西の答えは適当なものだ。
「帰ッても居場所ねーんじゃねーの? これから警察に追われる身だろ」
「どーせ終わる世界だッて……警察もクソもあるか」
西はどうやら世界が終わるというのを本気で信じているらしい。
いや、終わらないにしても現体制が崩壊するだろう事は間違いないと読んでいる。
実際、それは間違えていない。
星人の侵略が始まれば警察もいちいち西一人を追っている暇などないだろう。
「ハァ……ハァ……クソ、気分悪ィ……。
俺達……生きて帰れンのかよ……」
「確かに……今回、生きて帰れる気がしないわ……」
まだ経験の浅いアキラが震えながら弱気を零し、それに触発されて桜丘が普段は口にしないような言葉を吐いた。
いかに気丈でも女性だ。ただでさえ恐ろしい殺し合いなのに、その空気が普段よりも重ければ不吉な予感を拭う事は出来ないのだろう。
「ハァ……ハァ……神様……どうか……神様……」
生きて帰りたいという気持ちが強いほどに死への恐怖は大きくなる。
桜丘は神に縋るように手を組み合わせ、祈りを捧げていた。
そんな彼女を和泉が鼻で笑う。
「はッ……神なんているかよ……。
人間の命は重くなんかない……見て来ただろ。すぐボロクズみたいに壊れちまう。
誰もが何処かで神がいると思ッている。でも神なんていない。
むしろ俺としては悪魔の方が説得力があるね……。
災厄は……悪い事は重なる……確率論なんか無視して重なッていく。
この世は悪魔に翻弄されるだけの場所なんだよ」
今日の和泉はいつになく雄弁で、そしてネガティブであった。
恐らくは彼も普段と異なるこの空気に何か違うものを感じているのだろう。
無意味に他人を怖がらせて冷静ぶろうとするのは一種の心理的逃避か、それとも平静を得る為か。
どちらにせよ、いつになく和泉は弱気だった。
「悪魔がいたとして……知ッたこッちゃないッて。
今まで生き残ッたのは知恵を使ッて持てる能力を駆使して生きのびようとした結果だ!
人間は! 人間は! 立ち向かうことができるはずだ!!」
玄野は恐怖を振り払うように、そして全員に言い聞かせるように叫んだ。
悪魔がいようと悪い事が重なろうと、それでも人間は立ち向かえる。
そう主張し、震える桜丘の肩を抱いた。
「不安を抱えたまま何もしないのは愚の骨頂だ。
最後の最後まで知恵を絞ッて……協力し合うんだ。自分達だけが頼りだ」
加藤も玄野に同調し、弱気を吹き飛ばすように決意を口にした。
今まで、楽な戦いなんて一度もなかった。
だが自分達は生き残ってきたのだ。
ならば最後まで諦めては駄目だ。最後まで戦うのだ。
そう彼は皆に伝える。
「……そうね。神も悪魔も私の知った事ではないけど、人は立ち向かう事が出来るわ。
相手が何だろうと私は戦い続ける。今までも、そしてこれからも」
ほむらも玄野や加藤の言葉に同意を示し、そして誰もスーツを着せていなかったパンダにスーツを着せてやった。
ちなみにライスは既にスーツを着た状態だったので放っておいても問題はない。
というより最近彼はほむらが着せずとも自力でスーツを着られるようになっていた。
やがてラジオ体操の歌が流れるが、これもいつもと何か違う。
音が途切れ途切れで、雑音混ざりで気味が悪い。
しかもガンツに表示された文字は文字化けしていて、挙句にターゲットの写真すらなかった。
そして緊張感が支配する中、まずは西の頭が消え始めた。
「転送始まったぞッ!」
「玄野クン! 必ずッ生きて帰るわよッ!」
「ああッ必ずだッ!」
「ハァッハァッ! クッソ! 死んでたまるか!」
加藤が叫び、桜丘が己を鼓舞するように玄野へ呼びかけた。
玄野もそれに頷き、決意を見せる。
アキラはやや緊張に押され気味か。少し不安だが吸血鬼なのでそう簡単には死なないだろう。
「……仕事を開始する!」
「涼子……遊園地に連れてくッて約束……守るからな……」
東郷はいつもよりも若干強めの口調で自分を奮い立たせ、和泉は誰かの名前を呟いていた。彼女だろうか?
「一人も欠けるな! 絶対! 一緒に帰ッて来よう!」
最後に玄野がそう言うのを耳にし、ほむらの視界が切り替わった。
視界に飛び込んで来た景色は少なくとも日本のものではない。
外国風の街並みを再現したテーマパークなどもあるので断定は出来ないが、恐らくは海外の何処かだ。
建物に書かれている文字などを見るにイタリアだろうか? 巴マミならば喜びそうな場所だ。
……いや、さしもの巴マミもこんな状況では喜ばないか。
何せ周囲には、ガンツスーツを着たイタリア人らしき人々が無残な死体と化して転がっているのだから。
「ンだ……これ……」
「イタリアのチームの人……?」
玄野が声を震わせ、桜丘も恐怖を隠せていない。
それはそうだ。パッと見ただけでも自分達東京チーム以上の人数が死体になって転がっているのだから、それだけでこの戦場がどれだけ危険なのかが分かる。
しかもその中には、大阪の岡八郎が着ていたあのハードスーツまで転がっているのだ。
「岡……の、スーツ……」
加藤が声を震わせ、茫然と立ち尽くした。
このスーツがどれだけ強力なのかは実際に目にして知っている。
ぬらりひょんには後れを取ったが、それでも信じられない程高性能だった。
しかもこのスーツは5回クリアでようやく入手できる物で、これを持っていると言う事はそれだけで歴戦の強者である事の証明になる。
それが死んでいる……スーツごと引き千切られたように上半身だけが転がっている……。
更に少し進むと、まだ息のあるイタリア人を見付ける事が出来た。
しかし彼も長くはないだろう。何せ下半身と生き別れ、臓物が道路に散乱してしまっている。
「Ormai e' finita……Sono tutti morti」
男は玄野達を見上げ、最後の力で何かを伝えようと話していた。
「Come chiunque altro……Morirete anche voi
Creperete tutti……
Ormai……non conta piu'nulla……」
それだけを言い、男は力尽きて動かなくなった。
ほむらは死体を一瞥し、前回のクリアで入手した飛行ユニットのスイッチを入れて玄野達へ話す。
「どうやらイタリアチームは全滅したようね。
彼が言うにはこの先にいる星人はどんなものでも破壊するらしいわよ。玄野さん達も気を付けて」
「わ、分かるのか、暁美!?」
「私の先輩にイタリア語が好きな人がいてね。まあ少しくらいなら」
「な、何て言ッてたんだ?」
「簡単に言うと……『自分達は全滅した。今頃他のチームも全滅しているだろう。この星人はどんなものでも破壊するから誰も敵わない。お前達も死ぬぞ。今頃は数えきれないほどの……』ってところかしら。
言葉の途中で終わってしまったから、この後に何て言おうとしてたかは分からないけど、『今頃は数えきれないほどの犠牲が出ている』ってとこだと思うわ」
巴マミとの同居の中で少しだけイタリア語を学んでいた……というより無理矢理学ばされたほむらは、男の最後の言葉をかろうじて理解する事が出来ていた。ティロ・フィナーレも馬鹿にしたものではない。
その言葉によるとイタリアチームは既に全滅しており、それでも敵が残っていた事から他国からも次々とチームが呼ばれているのだろう。
しかしそこまでしても尚ミッションが終わらず、死者は増える一方だ。
イタリアのチームが日本のように都道府県で分けられていると仮定した場合、その総数は凡そ百七と考えられる。
……つまり最低でもそれだけのチームが共闘した上で、それでも手に負えないからと他国から救援が呼ばれているという事だ。
どうやら今回の敵はよほど強いと見える。
「そこのハードスーツを見る限り、どんな方法かは分からないけど防御力は無視されると考えた方がいいわ。
なるべく接近戦を避けて遠距離戦を心がけて」
「暁美はどうする?」
「私は空から敵を減らすわ」
玄野達へ忠告し、ライスを抱えて飛行ユニットに乗せた。
残念ながら近接戦闘しか出来ないライスは今回のミッションでやる事はない。
ほむらはペダルを踏み込み、空へと上昇した。
【在りし日の一幕】
マミさん「無限の魔弾よ、私達に道を拓いて!
さあ行くわよ暁美さん! パロットラ・マギカ!!」
ほむら「…………エ、エドゥー・インフィニータ……」
マミさん「もう! もっとハッキリ言わないと駄目よ!」
ほむら(……新手の拷問かしら)
【後悔なんて、あるわけない】
本来はほむらではなく美樹さやかの台詞。
【テレビでえらい事になってた西】
このSSでは省いてしまったが、知らない人の為に説明すると西君はミッションに呼ばれる寸前にクラスメイトを(一名除いて)皆殺しにし、テレビで放送された挙句実名と顔もネットで拡散されていた。
【ダヴィデ星人】
GANTZにおけるラストミッションの敵。
大阪編では大阪チームと東京チームが共闘したのに対し、こちらは各国のチームが共闘しながらも次々と全滅させられている。
その事から全体の脅威度はぬらりひょんを上回ると思われる。
元々は14巻で発表された読者応募のオリジナル星人で一位を取ったものだったが、その際に原作者様が『そのまま使えそうなのでいずれ使わせていただくかもしれない』と言っており、有言実行した形での登場となった。
イタリアの有名彫刻をそのまま動かしたような外見で見た目は神々しい。
一体一体の強さはぬらりひょんほどではなく、ZガンやXガンで簡単に倒せてしまうのだが、恐るべきはその攻撃力。スーツどころかハードスーツの防御力まで無視して触れるだけで千切ってしまう。
完全に攻撃に特化した星人で、雑魚を含む全てのダヴィデ星人がその攻撃力を持っている上に飛行可能で、高い機動力を活かして襲って来る。
即死針があちこちから飛んでくるロックマンと思えば分かりやすいかもしれない。
大阪ミッションがステージ難易度高めでボス難易度が鬼畜ならば、こちらはステージ難易度がオワタ式レベル。