GANTZ『焔』   作:マジカル☆さくやちゃんスター

35 / 48
第34話 もう来なくていいのか?

 飛行ユニットに乗り込んだほむらは、まず素早く周囲の建物や地形を見た。

 戦場となっているのは、建築美を感じさせるいくつもの建物が点在する広場で、観光で訪れればさぞ楽しめるだろうと思える。

 広場には噴水があり、そこに飾られたイタリアの彫刻達は観光客の目を楽しませてきた事だろう。

 だがそんな伝統ある彫刻も星人達に取って代わられていたようで、今は動く彫刻が敵だ。

 裸の男女に天使、そして神を模した像が動き、歩き、死を振りまいている。

 噴水前には各国から転送されてきたと思われる様々な人種からなるスーツの一団がいて、必死に彫刻達と戦っていたが、戦況は思わしくない。

 中にはZガンを持つ者……つまりは1回以上クリアしている者も多くいるが、それが太刀打ち出来ずに死んでいく。

 彫像に触れただけでガンツスーツの防御力が何ら意味を為さず、千切れていたのを見た時は何の冗談かと思ったほどだ。

 

(ぬらりひょんとは異なり、完全な攻撃特化の星人……何でも壊すというのはこういう事……)

 

 ここに来る前に瀕死のイタリア人男性から聞いたアドバイスを思い出し、ほむらはXマシンガンを構える。

 そして飛行ユニットで飛びながら片手で狙いを付け、こちらに近付いて来る子供の天使像を躊躇なく破壊した。

 

(……攻撃力は凄いけど、防御力はそれほどではないようね。ぬらりひょんや千手のような再生もない……か)

 

 敵の特性を把握し、ほむらは武器をXショットガンへ切り替えた。

 Xガン程度の攻撃力で即死させる事が出来るならば、この武器が最も効果的だ。

 初期武器だけあって攻撃力はそれほど高くないXショットガンだが、この武器にはZガンやYガンにはないマルチロックオン機能がある。

 命中率という点で言えば全ての武器の中で最も信頼出来るのがXショットガンだ。

 更にステルス機能を起動させて姿を隠し、ほむらとライスの姿が景色に溶け込む。

 また、飛行ユニットにも同じくステルス機能があるらしく、その姿を完全に消した。

 そうして景色と同化してから敵をロックオンし、Xショットガンを連射する。

 すると意外にもこれが有効だったのか、彫像達は反応すら出来ずに死んでいった。

 どうやら攻撃力と速度、そして飛行能力はあるが、その反面防御力は並で、その上大半のダヴィデ星人はステルスを見破る手段もないらしい。

 完全に攻撃に振り切っている分、ぬらりひょんや千手観音のようなオールラウンダーな怖さはないという事か。

 何とも皮肉な話だ。

 ハードスーツやZガンを装備した熟練の戦士が次々と倒れていくこの戦場で、最も有効なのが初期武装だなどと……。

 だがステルスにも弱点がある。それは味方にも気付いてもらえないという事だ。

 XガンやYガンで戦っているうちはこれは大した問題ではない。

 だが主力武器がZガンになってしまうと、一気に弱点になってしまう。

 何故なら下手にステルスをしていると味方の撃った広範囲攻撃……即ちZガンに巻き込まれて即死する可能性が高いからだ。

 故に大阪チームを始め、熟練のチームほどステルスを使わない……いや、使えない。

 味方の大半がZガンを撃っている中でステルスなどしていては、敵ではなく味方に殺されてしまうからだ。

 特にあれだけ一か所に密集していてはステルスなど自殺行為だろう。

 

(熟練を集めたが故に、かえって選択肢を狭くしているわね……)

 

 集団戦とは強い奴を沢山集めれば強くなるわけではない。

 時には、互いが歴戦の戦士だからこそ足を引っ張り合って一人の時より弱くなってしまう事がある。

 残念ながらあの状況では、Zガンを持った熟練の戦士を10人集めるより、ステルスした西丈一郎が一人いた方が強い。

 この連携の難しさはほむら達魔法少女にも言える事で、互いの呼吸が合わないうちは佐倉杏子が邪魔で満足に射撃攻撃が出来ない事があったし、逆に自分の射撃が邪魔で佐倉杏子が本気を出せない事もあった。

 『いきなり目の前で爆発とか勘弁して欲しいんだよね』と美樹さやかに言われた事もある。

 これを完全に克服するには長い時間を要したものだ。

 

「ライス、あまり動かないでね」

 

 状況を理解して大人しくしているライスを落ち着かせつつ、Xショットガンを連射し続ける。

 なるべく敵の近くにいかない事で、味方からの誤射を避けつつ敵を減らしていく。

 その戦闘の最中、地上でやけに頑張っているハードスーツを見かけた。

 他とは動きが明らかに違い、腕のレーザーで彫像達を蹴散らしている。

 恐らくアレは大阪の岡八郎だろう。

 少し離れた位置にはロボットの残骸が転がっているが、まああの図体では今回の敵相手には何の役にも立つまい。

 他には同じく大阪のミッションで顔を合わせた山咲杏と眼鏡の青年も奮戦していた。

 変態男(桑原)は相変わらずスーツを半分脱いで余裕をかましている。

 

「うォッ、うおおおお! クッソ! 何なんだこいつ等!」

 

 更に少し離れた位置では玄野アキラがXガンを滅茶苦茶に撃って敵を遠ざけようとしている。

 思えば彼も不憫な男だ。

 最初の戦場が大阪で、その次がこれとは。

 ほむらはステルスを解除してからXショットガンのロックオン機能でアキラの周囲の彫像を纏めて破壊した。

 そうしてからアキラの前に停まる。

 

「乗りなさい!」

「あ……ああ! すまない、助かッた!」

 

 ほむらの呼びかけに応じ、アキラはすぐに飛行ユニットの後ろへ乗った。

 座席は既にほむらとライスで埋まってしまっているので周囲のリングの上くらいしか乗る場所がない。

 アキラの搭乗を確認してすぐに高度を上げてステルスを起動するも、天使像が何体が追ってきている。

 

「撃って!」

「わ、分かッた!」

 

 ほむらの指示でアキラが射撃を行い、天使像を蹴散らす。

 これでほむらは今までより大分運転に専念出来るだろう。

 しかしやはり最後のミッションだ。このまま楽には終わらせてくれない。

 空を飛ぶ彫像が数体、ステルスしているはずのほむらを追って来た。

 先程まで蹴散らしていた子供の天使像ではない、大人の天使像だ。

 やはり全ての敵が見失ってくれるほど甘くはないらしい。

 

「飛ばすわよ! 振り落とされないよう気を付けて!」

 

 天使像を置き去りにすべく速度を上げ、イタリアの街中を駆け抜けた。

 しかし曲がり角の先から新手が出現し、ほむらは咄嗟に機体を横にずらしてスレスレを通過する。

 だがまたしても先から天使像が現れた事で方向転換を余儀なくされ……その先を見て顔をしかめた。

 前進した先にあるのは建物と建物の間が密集した狭い路地だ。

 だがこの飛行ユニットは周囲を鉄の輪に囲まれているような奇抜な造形をしており、とても狭い路地を抜けられるように出来ていないのだ。

 

「おッおいッ! ぶつかるッ!」

「…………!」

 

 ほむらはペダルを踏み、グリップを握って更に速度を上げた。

 ハンドルを大きく右に切って強引に機体を横に倒し、狭い路地へと入り込む。

 ガリガリと左右の建物を削りながら突き進み、ほむらはネクタイを取ってグリップに結び付けて固定した。

 反対側をライスに噛ませてハンドルを今度は左に大きく切り、そして路地を抜けると同時に跳躍――空に躍り出て、追って来た天使像達へ落ちながらレーザー砲を向けた。

 狭い路地を抜けて追って来た事で天使像は一列に並んでいる。

 これならば一挙に片付ける事が可能だ。

 ほむらの発射したレーザーが天使像を纏めて薙ぎ払い、そして大きく旋回して戻ってきた飛行ユニットの座席へ乗り込んで再び操縦を再開した。

 

「すッげ! まるでアクション映画だ!」

「感心なんかしてないで撃ちなさい! 敵はまだ残ってるわよ!」

「お、おう!」

 

 あまりに現実離れしすぎて逆に一周回って変な落ち着き方をしてしまったのだろう。

 感心するアキラを叱咤し、ほむらは戦場へと飛び込んでいった。

 

 

 しばらく街中を飛び回り、倒して回っていたが気付けば敵の姿を見かけなくなっていた。

 どうやら大体は倒せたようだ。

 これはほむらだけではなく、各国のチームの奮戦のおかげだろう。

 犠牲を出しながらも彼等もしっかり敵を倒していたようだ。

 だがまだ一番の大物が残っている。

 向かい側の道から、各国のハンター達を踏み潰しながら巨大な彫像が歩いて来る。

 見かけは巨大な天使像だが、左半身が欠けていて中の骨組みが剥き出しになっていた。

 他の彫像と違って衝撃波を出す力があるらしく、それに触れただけでハンター達が肉塊に変えられている。

 

「……!」

 

 彫像がこちらに気付き、衝撃波を出してきた。

 それを察知すると同時にほむらは飛行ユニットに回避行動を取らせるが間に合わずに機体が削られてしまった。

 スーツや武器が破損しても次に戻っているように、どうせミッションが終われば復活するだろうがこのミッション中はもう飛行を続ける事は出来ないだろう。

 そう判断したほむらはライスを掴み、アキラへ声をかける。

 

「飛び降りなさい!」

「あ、ああッ!」

 

 制御を失った飛行ユニットから二人が飛び降り、直後に無人になった飛行ユニットが彫像に突撃して爆炎をあげた。

 落ちながらほむらはライスを手放し(スーツを着ているから落ちても平気だ)、Xマシンガンとレーザー砲を乱射する。

 アキラもZガンを撃ち、彫像の両腕を削ぎ落した上で多大なダメージを与えた。

 更に畳みかけるように着地と同時に跳び、建物の壁を蹴って別の建物の壁へ移動する。

 それを繰り返して彫像へ接近……近付いたところで壁を蹴る事で跳び、背後へ回り込んだ。

 そしてレーザー砲を発射。彫像の胸から上を消し飛ばした。

 

「I made it!」

「yaaaaaaaa!!」

「I can't believe!」

「Je l'ai fait!!」

「Wow!!」

 

 それを見た各国のハンター達から一斉に歓声が飛んだ。

 だがほむらは油断せずに距離を取り、Xガンを発射して念入りに彫像を完全に破壊した。

 するとあちこちから喜びの声があがり、耳を済ませれば英語で『帰れるぞ』や『終わったんだ』といった事を話しているのが分かった。

 どうやら本当に今のがボスだったらしい。

 ぬらりひょんに比べれば楽な相手だった、と思いながらほむらは部屋に戻されるのを待った。

 

 

 部屋に戻り、メンバーを確認する。

 玄野、加藤、アキラ、東郷、桜丘、和泉、ライス、後、パンダと西。

 ……それから役立たずすぎて時々存在を忘れるが、一応キュゥべえもいる。

 どうやら無事に全員生還出来たようだ。キュゥべえは死んでもよかったのに。

 予感なんて案外当てにならないものである。

 採点は近接メインの和泉が全く振るわず、逆に狙撃とステルスメインの東郷と西が100点を超えていた。

 二人は当たり前のように強力な武器を頼み、これで一応全員がZガンを持てるようになったので戦力としてはかなりのプラスだろう。

 東郷はこれで三回目のクリアなのでマシンガンを入手したが、正直これを使うくらいならZガンを撃っていた方が強いので微妙と言わざるを得ない。

 そもそも東郷は狙撃で力を発揮するので、Xショットガン以外は使わない。

 

「ガンツの調子がおかしいな……」

 

 玄野が不安そうに言うが、それも仕方のない事だろう。

 ガンツは先程からずっと文字化けしていて、動作が安定しない。

 それでも何とか得点の表示は出来るようだが、もういつ止まってもおかしくはないだろう。

 

「おわりッて書いてるぞ……」

「もう……来なくていいのか?」

 

 だがそれ以上に気になるのは、採点時に表示される『おわり』の三文字であった。

 こんなものは今まで一度としてなかったが、今回は全員にこの三文字が追加されている。

 玄野達に今あるのは期待が半分、そして困惑が半分であった。

 最初の頃はこんな地獄からは一日だって早く解放されたいと思っていた。

 いや、加藤は今でもそう思っている。

 だがこうも呆気なくおわりなどと言われて放り出されては、かえって困惑してしまう。

 続いてほむらの点数が表示されたが、それもこんな具合だ。

 

『ほ らちゃ 211 ン。おわり』

 

 これひどい。点数の高さでかろうじてほむらが211点獲得したと分かるが、そうでなければ誰の点数かも分からないレベルだ。

 これでトータル305点で一気に3回クリアとなり、累計で9回クリア達成となった。

 ほむらはいつも通りに2番と言おうとして一瞬、岸本の事を思い浮かべた。

 もう『おわり』と表示されているし、これがラストミッションならば、このタイミングで岸本を再生すれば地獄に放り込む事なく生き返らせる事が出来るのではないか? ……そう思ってしまったのだ。

 馬鹿馬鹿しいと思う。ガンツでの再生は蘇生ではなくコピーに過ぎないというのは自分で言った事だろうに。

 

「……2番。強い武器を頼むわ。

まあ、どうせ大阪の彼が使っていた巨大ロボットでしょうけど」

 

 迷いを振り切り、2番を選ぶ。

 しかし実の所、ほむらはこの2番にも大した価値を見出していなかった。

 手に入るものといえば、岡八郎も乗っていたあの巨大ロボットだろうがアレは見た目に反して弱い。

 そもそも使うのにハードスーツ着用が必須なのだからほむらとの相性は最悪だ。

 あんな愚鈍なスーツを着て戦う気などほむらには全くなかった。

 二番を選択すると同時にガンツが開き、中からリモコンのような物が出て来た。

 こんな物を何に使うのか……そう思っていると、玄野が騒ぎ始める。

 

「おい暁美! 外ッ、外に! ロボットが!」

 

 玄野に言われてマンションの外を見ると、何とでかでかと巨大ロボットが鎮座していた。

 こんなのを目撃されてはご近所さんに噂されてしまう。

 ほむらはとりあえずパソコンを開いてリモコンの使い方のページを読み、そして操作した。

 するとロボットがステルスし、姿を消す。

 どうやら七回クリアの武器があのロボットで、八回クリアで遠隔操作可能なリモコンが手に入るようだ。

 これならばハードスーツなしでもロボットを動かせるので戦力に数えてもいいだろう。

 そして九回クリアの武器だが……こちらは、何故か出てこない。

 いや、出てこないどころかガンツが完全に沈黙して、何も表示されなくなってしまった。

 

「おい、ガンツ? おいッ! 強力な武器はッ!?」

 

 玄野がガンツをガンガン叩き、中の男の耳に指をグリグリと突っ込むがうんともすんとも言わない。

 今回のミッションは最初からガンツの様子がおかしかったが、それでもこれは異常だ。

 ガンツが何の反応も示さないなど、今までになかった。

 本来ならばここで九回クリアの何らかの武器が手に入ったのだろうが……これではクリアした意味がなくなってしまう。

 しかしほむらはどうでもよさそうに、いつも通りの声で言う。

 

「もういいわよ、玄野さん。元々そんなに新しい武器なんて期待してなかったし。

それより、今考えるべき事は……本当に終わりなのかどうかよ」

 

 ほむらは元々、100点クリアの武器をそこまで欲していたわけではない。

 勿論強い武器があればそれに越したことはないが、別に無ければ無いでそれでよかった。

 それに、今気にするべき事は本当に終わったのか……そして今後どうするかだ。

 ほむら達は手分けしてマンションのあちこちを調べ、今までは一度出れば開かなくなっていたマンションのドアも自由に出入り可能になっている事を確認した。

 ガンツは動かない。部屋は自由に出入り出来る。

 この明らかな異常を前に、本当に終わったのかと疑問を抱きながら玄野達はそれぞれの帰路へついた。

 しかし部屋を出る直前、ほむらだけは立ち止まってもう一度ガンツを見る。

 

「…………」

 

 しばらく玉を見ていたほむらだったが、やがて何か得心がいったのか再び歩き始めた。

 それから数秒が経ち、やがて誰も居なくなってから玉が動く。

 

 そして玉の中から裸の男が顔を出し……すぐにガンツの中へと戻った。




【パンダ生存】
原作と違ってちゃんとスーツを着ていたのと、和泉が生存していたのが大きい。
ずっと和泉が抱えて走り回っていた。
そのせいで今回の和泉は全く点数を稼げていない。
ラストミッション終了まで犬とパンダを生存させたSSなどそうはあるまい……。

【遠隔操作リモコン】
8回クリアのオリジナル武器(?)。
このリモコンを使えばハードスーツなしでもロボを動かして戦わせる事が可能。
8回クリア以降の武器は完全に未知のエリアだが、カタストロフィ編で武器出し放題のはずの財閥チームがそれらしき武器などを出さなかったので既出の武器より強い物はないと考えられる。

【9回クリア武器】
ガンツの不調により登場せず。
実はこのSSの設定では9回クリア武器は『100点めにゅ~使い放題』とか、そんな感じゲームクリア後の全解放モード的なものを考えていた。

ちなみに巨人の宇宙船内に送り込まれた超巨大ロボも考えたが(1㎞以上はありそうなアレ)、あんなものを地球で使ったらそれだけで町が滅ぶと思うので流石にこれはないなと思った。

【ダヴィデにステルスは有効なのか?】
多分有効。
というかそうじゃないと田中星人にすら負ける西君がどう考えても死ぬ。
レイカのように狙撃に徹していればステルス抜きでもいけるかもしれないが、西君って割と余裕こいて敵に近付くし……。
なのでこのSSではステルスは有効とした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。