GANTZ『焔』   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第37話 貴方にやって欲しい事があるわ

 拠点を見滝原に戻してから、ほむらは資金に物を言わせて地下付きの空き家を購入していた。

 元々はバレエか何かの教室だったらしく、一階部分は鏡張りでスペースに余裕がある。

 生活空間は地下室に押し込まれており、住むにはやや窮屈な場所だ。

 駅からも遠く、その不便さもあって値段は割と安めで済んだ。

 この場所を選んだのはスペースが広く、ガンツバイクや飛行ユニットなどを置いておけるからだ。

 ロボットは流石に無理なので付近の山の近くにステルスさせているが、リモコンでいつでも呼び出す事が出来る。

 自分とライスの分を合わせて全ての武器を持ってきたほむらだが、しかしライスの分の武器は犬である彼には使えない。

 つまりXガン、Yガン、Xショットガン、Zガン、ガンツソードがそれぞれ一つずつ余っているわけだ。

 以前までは100点を取っていない他のメンバーに使わせていたが、東京を出る際にほむらは全て持ち出した。

 これについて文句を言われる筋合いはない。これは元々自分とライスの分の武器である。

 ついでに、ほむら自身も全ての武器を使うわけではないのでいくつかの武器は確実に余ってしまう。

 ならばそれらを、上手く使えそうな者に今の内に渡しておくのは悪い選択ではない。

 そう考え、ほむらはここにまどか達を連れて来ていた。

 

「うお……本当にSF映画に出てきそうな武器と乗り物……」

「さやか、迂闊に触らないで。もし間違えて人に撃ったら……」

「う、撃ったらどうなるの?」

 

 さやかが興味津々といった様子でXガンを見ていたので、忠告の意味も込めてほむらは床に転がっていたバランスボールにマジックでさやかの似顔絵を描く。あたしって、ホントバランスボール。

 そうして完成したさやかボールにXガンを発射した。

 すると撃ってから少ししてさやかボールが弾け飛び、さやかは顔を青褪めさせた。

 

「こうなるわ」

「お、おう……」

 

 さやかはそっとXガンを元の位置に戻し、距離を取った。

 マミ達も武器から距離を取るようにしているが、気持ちは分からないでもない。

 だがマミには慣れてもらう必要がある。

 万一の時には、それで皆を守ってもらわねばならないのだから。

 カタストロフィの時は勿論ほむらがまどか達全員を守るつもりだ。

 だがそれでも、多少は彼女達も自衛出来た方が生存率も上がる。

 だからほむらは、戦闘経験に長けたマミと杏子には武器を渡しておくつもりであった。

 

「今ここには私とライスの分の初期武器と、100点獲得で得た武器があるわ。

けれど見ての通りライスはこれらの武器を使えないから一人分が丸々余っている事になる。

だから巴さんにはXガンかXショットガンの使い方を覚えてもらうわ」

「えっ? わ、私?」

「この中で一番射撃に長けているのは貴女よ」

「でも私が使っていたマスケット銃は……」

 

 ほむらの言葉にマミが視線を泳がせた。

 同じ射撃タイプであってもほむらとマミは違う。

 ほむらは魔法少女時代から本物の銃を使っており、銃の扱いは紛れもなく彼女自身の技術によるものだ。

 故に武器が多少変わろうとその経験をそのまま流用出来る。

 だがマミの使っていたマスケット銃は魔法である。

 反動はなく、重さもない。本物の銃と使い勝手がまるで異なるのだ。

 だが今まで多くの魔女や使い魔を討ち取ってきた正確な射撃はマミの腕によるものである。

 ならば、彼女なら使えるとほむらは確信していた。

 

「大丈夫よ、貴女なら出来る。

それと杏子は、この剣を使って」

「剣か……槍はねーのか?」

「残念だけどないわ」

 

 近接戦闘に長けた杏子にはライスの分のガンツソードを渡す。

 本当はキリカにも剣を持たせたかったが、もう一振りはほむら自身が使う物なので流石に渡せない。

 なのでとりあえず、キリカにはライスの分のYガンを渡しておいた。

 飛行ユニットが手に入った今、Yガンを使う事はもうほとんどあるまい。

 武器を一通り見せた所で、今度は地下へ案内する。

 地下は既にほむらによる改造が始まっており、入り口部分などは鋼鉄の扉に挿げ替えられている。

 

「地下には防災リュックが人数分と、缶詰と水、それから発電機があるわ。

ここが絶対に安全っていうわけじゃないけど、地下室なら地上の建物よりは発見されにくいでしょう。

カタストロフィが始まったら、すぐに家族を連れてここに避難して」

「ね、ねえほむら……そのカタストロフ何とかっていうの、本当に起こるの?」

「カタストロフィ。何で最後の一文字で諦めるのよ。

……ほぼ確実に起こると思っていいわ。というより、起こらないならば私のような死人を復元して経験を積ませる意味がない」

 

 さやかの問いに呆れ混じりに答えながら、ほむらは自分を指さした。

 今までの戦いは全てカタストロフィに備えた兵士の選別と育成だった、とほむらは考えている。

 その割に非効率的な部分もあるが、それは逃げ道を塞ぐ為だろう。

 100点を取って解放されるというのは一見すると本末転倒に見える。

 100点獲得で解放されるという事はつまり、100点を取れるほどの優秀な素質を持つ者が戦線を離脱してしまう事を意味しているからだ。

 しかしこの100点での解放にも意味はあるのだ。

 仮に、こうして『頑張れば生きて帰れる』という餌を用意しなければ、ほとんどの参加者は生きる事を諦めて戦いそのものを放棄してしまうだろう。

 どうせ死ぬのだからせめて楽に死にたい、と自殺する者だって現れるはずだ。

 100点で解放されるというのは決して慈悲ではない。

 そうして生き残る道を提示してやる事で、戦わざるを得ないようにしているだけだ。

 加えて死者の再生……この救いを与える事で、100点を取った者でもそう簡単には逃げられないようにしているのが実に性格が悪い。

 その上で解放されても、本当に優秀な者は和泉のように帰って来る可能性がある。

 

 もう一つ、100点で解放される理由は……あまり考えたくはないが、賭けを盛り上げる為だろう。

 あれからキュゥべえに問い質してみたが、どうやら自分達の戦いはリアルタイムで賭けの対象にされていたらしい。

 そして賭けになっているならば、当然ながら避けるべきはマンネリ化である。参加者を飽きさせてはいけない。

 かつて東京チームでは西以外の参加者が毎回死んでいた事から分かるように、とにかく初心者は死にやすい。

 ベテランが加藤のように初心者を助けようとするならともかく、西のようなタイプだと簡単に一強状態が出来上がってしまう。

 これでは賭けが成立せず、マンネリが起こってしまう。

 だから、そんな一強状態が続くくらいならば100点を取ってさっさといなくなってくれた方が、賭けは盛り上がるのだ。

 そして、それらの条件を抜けて強い武器を選び続けて生き残るならば、カタストロフィにも通じる立派な兵士の完成だ。

 

「けど、どのニュースでもそんな事やってないよ。

いつも通りに、普通の番組がやってるだけで……」

「私達の戦いだって表には出なかったでしょう? それと同じ事よ。

表向きがいくら平和に見えても、裏ではどんどん事態が悪化し続けている」

 

 ほむらはそう言いながら人数分の時計を出して、皆に配った。

 時計には時間がセットされており、残り日数は三日ほどとなっている。

 

「暁美さん、これは?」

「カタストロフィまでの残り時間よ」

「たったこれだけの時間……なの?」

 

 たったの三日で日常が崩壊する。

 そんな事を言われても普通は信じられないだろう。

 しかし彼女達は魔法少女や魔女の事を知っている。

 故に一般人よりはまだ、このとんでもない話を受け入れる土壌が整っていた。

 

「家族で来いっていうけどさ……どうやってお母さん達を説得しよう」

「……難しいっていうなら手があるわよ」

「え? 本当?」

「ええ、手紙を出せばいいのよ『お前等の娘は預かった。警察に連絡せずに』……」

「ストップ! わかった、何とか説得するよ! 友達を犯罪者にするわけにはいかないし!」

 

 さやかが弱気な事を言っていたのでほむらは解決手段を提示したが、断られてしまった。

 ちなみにこれは冗談でも何でもない。

 自分が脅迫罪で捕まる程度で彼女達やその家族を守れるならば、ほむらは喜んで留置所に行くつもりである。

 しかし今は、留置所よりも先に行くべき場所があった。

 

「スペアキーは巴さんに預けておくわ。いつでもここを使ってくれていいから」

「それは分かったけど……暁美さんは、ここにいないの?」

「……少し、ね」

 

 マミの問いにほむらは背を向けたまま顔を向ける。

 

「カタストロフィ前にやっておかないといけない事があるのよ」

 

 

 ほむらがライスを連れて訪れたのは、東京にある黒い玉の部屋であった。

 電気が消え、もう誰も訪れる事のなくなったその場所には今もガンツが鎮座している。

 何も表示されず沈黙している玉に向けて、ほむらは静かに声を発した。

 

「出てきなさい。もう貴方が起きて(・・・)いる事は分かっているわ」

 

 確信をもって、断言するように言う。

 するとガンツが開き、中から観念したように裸の男がのそりと顔を出した。

 裸だというのに特に気にした様子はなく、何も考えていないような顔でほむらを見る。

 

「……凄いね……何で分かッたの?」

「部屋を出る時に少し気配を感じてね。玄野さん達には言わなかったけど、あの時から貴方が起きていた事は気付いていたわ。

恐らく、ミッションが終わった事で貴方も解放されたのでしょう」

 

 何でもない事のように言うが、実の所ほむら自身にもどういう原理で何故『気配』なんてものが感じられるのかは説明が出来ない。

 一度興味を持って調べてみた事があるのだが、『準静電界』と呼ばれる電気の膜がどうだとか、『ロレンチニ瓶』というサメの器官と人間の内耳が似ているだとか、そんな説明をされていた事だけはかろうじて覚えている。

 まあ要するに今でも原理はよく分からないという事だ。

 分からない……が、ともかく視覚や聴覚、嗅覚とは異なる感覚がほむらにはあった。

 

「それに気付いたのは私だけではないでしょう。ねえ? 西丈一郎」

 

 ほむらはそう言い、部屋の隅を見た。

 そこには何もない。

 だがバチバチと音が鳴り、顔をしかめた西丈一郎が姿を現した。

 今や全国で指名手配をされている彼に安住の地はない。

 警察の心配をせずに寝泊まり出来る場所など、ここくらいなものだろう。

 

「……お前……どういう目してンの? 何でステルスしてるのに分かるンだよ」

「見えてないわよ。ただ分かるだけ」

「意味わかンね……」

 

 不満そうな西に、あえて不要な説明はしなかった。

 説明したところですぐに分かるものでも、納得できるものでもないからだ。

 それに西と話す為に東京まで戻ってきたわけではない。

 今回来た理由は、足りない武器の調達と保険の確保の為である。

 

「ガンツ、貴方にやって欲しい事があるわ」

「うん……やるよ、何でも。何をして欲しい?」

「まず、私とライスが今後不用意に誰かに転送される事がないようにして」

 

 ミッションは終わった。

 だがこれで終わりだなどとほむらは一切考えていない。

 こうして黒い玉の部屋で戦わされてきたのは、兵力の育成と確保の為だ。

 ならカタストロフィの日には必ず、この黒い玉を各地に配置した大元の連中から呼び出しがかかるだろう。

 それこそ100点を取って解放された者だろうが記憶を戻された上で爆弾を付けて戻される可能性がある。

 しかしほむらにとって大事なのはまどか達を守る事だ。

 肝心な時にわけの分からない連中に転送されてまどか達を守れないなんて事になったら死んでも死にきれない。

 だからまずは、そのリスクを排除する。

 

「うん……分かッた……そうするよ」

「出来るのね?」

「大丈夫……西君もやッた事だから」

 

 やはり西は既に、強制的な転送への対策を講じていたようだ。

 流石と言うべきか、それとも玄野達に教えないのを薄情と思うべきか。

 まあ薄情さに関してはほむらも同類だ。西を責める事は出来ない。

 

「……うん、これでもう大丈夫。後は何をすればいい?」

「転送は自由に出来るのかしら。それと転送された場所からここに戻る事も」 

「大丈夫……出来るよ……。戻る時も言ッてくれれば戻せる」

「なら私とライスを見滝原市に移動させて。転送が必要な時はまた言うわ」

 

 自由に移動出来るならばそれは武器になる。

 こうして移動手段を確保し、ほむらは見滝原へと帰還した。

 これで万一見滝原が手詰まりになっても脱出出来るし、当日にはいざとなればまどかやさやかの家族を全員問答無用で地下室へ転送してしまえるわけだ。




【飛行ユニットが手に入った今、Yガンを使う事はもうほとんどあるまい】
Yガン「こいつは何を言ッてるンだ……!?」

【100点クリアに解放がある意味】
参加者にやる気を出させる為と、自殺防止の為と思われる。
『頑張れば日常に帰れる』という餌を与える事で逃げ道を塞いでいる。
また、本当に解放を選択しても和泉の手元に小型ガンツがストーキングしてきたように、隙あらば引きずり込もうとしてくる。
和泉がガンツの部屋に戻りたいと思っていたのも実は本人の意思ではなく、ガンツ側がわざと『楽しかった記憶』だけを簡単に思い出せるようにしていたのではないだろうか。
また、ラストミッションで頭の爆弾が取れたにもかかわらず、カタストロフィ編で財閥チームがメンバーを強制的に転送出来た事から、爆弾以外の方法でもガンツ参加者を識別しており、実は解放されていようが記憶と爆弾を戻した上であの場に呼ばれていた可能性もある。

【西君はどうやって玉男が起きている事に気付いたのか】
当たり前だが、ほむらのように気配で気付いたわけではない。
西は警察から逃れる為にこの部屋に潜伏しているうちに偶然玉男が動くのを目撃しただけ。

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