GANTZ『焔』 作:マジカル☆さくやちゃんスター
対岸の火事という言葉がある。
向こう岸で起こっている火事は自分に関係なく、災いにならないという意味の言葉だ。
日本人はある意味、ほぼ全員がこれに近い心理を持っている。
自分に害が及ばない限り、そこに現実感を抱けない。
どんな悲惨な事が起こっていてもそれはテレビの中の出来事で自分だけはいつも通りの日常が続くと心のどこかで呑気に構えてしまっている。
たとえ対岸から一直線に油が引かれてこちらに届いていたとしても……きっと、自分が煙に包まれるまで、本気の危機感を抱けないのだろう。
ほむらはニュースを見ながら、そんな事を考えていた。
――アメリカ合衆国が、壊滅した。
世界一の大国で軍事国家のアメリカが滅ぶという未曽有の事態を前に、人々は呆れるほどにいつも通りであった。
統制が取れているわけではない。冷静なわけでもない。
ただ危機感が麻痺し切っているだけだ。
インターネット上では『アメリカ壊滅ってマ?』とか『映画の宣伝やろ』とか『世界の終わりキター!』とか、そんないつも通りのやり取りが行われている。
会社も学校も休まず、人々はいつも通りに出勤して通学している。
空は血のように赤に染まり、明らかに普通ではないのに……それすら、人々は『終末感あるねー』程度の感想しか抱いていない。
「ほむらちゃん! 来たよ!」
家の外から声が聞こえたのでドアを開ける。
するとそこには、まどか達全員……そして、その家族も揃っていた。
どうやら無事に家族を説得出来たようだ。
まどかの母である鹿目詢子辺りは流石に判断力もあり、世界を包んでいる不穏な雰囲気に気付いているようで表情が険しい。
背には急いで買い漁ったと思われる防犯グッズや非常食を詰め込んだ大きなリュックを背負っていた。
この分だと会社も休んだのだろう。実に正しい判断である。
他には何故かまどか達の担任の早乙女和子までいるが……まあ、一人くらい増えてもいいだろう。
「あ、暁美さん……鹿目さんから聞いた時は半信半疑だったけど、生きていたのね」
「その話は後です。急いで地下へ入って。日本が巻き込まれるまで、もうそんなに時間がない」
何か言いたそうな和子を無理矢理地下室へ押し込み、そして皆にも入るように促す。
しかしまどかはなかなか動こうとせず、ほむらを心配そうに見ていた。
「ほむらちゃんはどうするの?」
「私は外で迎え撃つわ」
マミ達には自衛用に武器を渡しているが、それでも今はただの少女だ。必要に迫られない限り戦わせるべきではない。
だからここから先は自分だけで戦うというのがほむらの考えであった。
「そんな! ほむらちゃんも一緒に……」
「…………」
まどかは、きっと納得しない限りここから動いてくれないだろう。
たとえ自らの身が危険だと分かっていても、ほむらが一緒に地下に入るまで頑固に残り続けるだろう。
そんな事は分かっていた。
だからこそほむらは無言でまどかを抱き上げ、そして下にいた鹿目詢子に呼びかける。
「詢子さん! 受け止めて下さい」
「えっ? ええっ!?」
動かないならば動かしてしまえばいい。
ほむらはまどかを地下へ放り投げ、そして鹿目詢子はこれを慌てて受け止めた。
それを見届けて地下の扉を閉め始める。
「ほむらちゃん! 大丈夫だよね!? また、いなくなったりしないよね!?」
「……」
まどかの問いに答える事は出来なかった。
そもそもほむら自身が、自分の命をそこまで大事に思っていない。
死んででもまどか達を守る事……ただそれだけを使命としており、その後の事など一切考えていないのだ。
地下からはまどかの他にも皆の、早く地下に来いという声が聞こえるがほむらは全てを無視した。
「ほむらちゃん! ほむらちゃん!」
悲鳴のようなまどかの声を無視して完全に扉を閉め、これで外にいるのはほむらとライスと、ついでにキュゥべえだけとなった。
地下室の扉の上から使い道のないハードスーツを置いて重石代わりにし、まどか達が出て来るのを封じる。
このハードスーツは頑丈なので、少しならば盾にもなるだろう。
そうしてまどか達を避難させたほむらは家の外に出て、赤い空を見上げる。
「間に合ったわね」
そう呟くほむらの視界の先にあったのは、空を埋め尽くす巨大な鉄の塊であった。
いや、本当は鉄なのかどうかすら分からないのだが鉄に見えるので、とりあえずそう呼んでおく。
宇宙船……だろうか? 初めて見るそれは、少なくとも長年想像されていたUFOのような形状はしていない。
どちらかといえばシルエットは蜘蛛に似ており、複数の脚で今にも地面に降り立ちそうだ。
宇宙船からは次々と堅牢なアーマードスーツを纏った人のようなものが降下し、我が物顔で地球の地を踏んでいるが……そのサイズは人類とは比べ物にならない。
大きさにして10mくらいはあるだろうか? 一人の例外なく、全てが巨人だ。
更に人ほどの大きさを持つ虫のような気持ち悪い生物が次々と降下して手あたり次第に人々に襲い掛かっていた。
アレは宇宙人が使役するペットのようなものだろうか?
他にもビルより巨大なロボットがあちこちに降下しては無差別に建物を破壊して回っている。
世界は一瞬で地獄へ変わり、あちこちから人々の叫びが聞こえて来た。
今この瞬間に、日本は宇宙人と戦う戦場へと変わってしまったのだ。
「ガンツ! 巨大ロボットを転送して!」
ほむらが叫び、それと同時にロボットが彼女の背後へ姿を現した。
リモコンをキュゥべえへ投げ渡して操作を任せ、ほむら自身はZガンとXガンを持つ。
その隣にライスが並び、牙を剥きだしにして唸った。
「行くわよ!」
「ウォウ!」
同時に駆け出し、まずはステルス。
近くにいる虫をXガンでロックオンしながら巨人をZガンの照準に捉えて躊躇なく連続で発射した。
重圧が巨人を押し潰し、血肉が池を作る。
だが躊躇はない。戦火を切ったのは向こうで、これは戦争だ。
ならば敵を全て殺さない限り平和はない。
Xガンの引き金を引いて目につく範囲にいる限りの虫を全滅させ、更にほむらは跳ぶ。
ライスは迅雷の如く駆け回って次々と虫を噛み殺し、キュゥべえが操縦するロボットが巨人を踏み潰しながら近付いて来る巨人側のロボットを殴っていた。
「ガンツ、バイクを転送して!」
ほむらが指示を出し、すぐにバイクが転送された。
その上に飛び乗り、市街地を一気に駆ける。
走りながら虫をXガンでロックオンしては射殺し、敵が集まっている場所へ急行した。
そしてバイクから跳躍して乗り捨てる事で巨人の足へぶつけ、ほむら自身は空を舞いながらZガンで巨人を次々と血の海へ沈めていく。
「ガンツ、飛行ユニット!」
巨人の拳が迫る。
だがほむらは身を捻って拳の上に乗り、Zガンで巨人の頭を潰した。
それから転送されてきた飛行ユニットに乗って飛翔。
間一髪で、接近してきた別の巨人の拳を回避した。
Zガンで更に巨人を圧殺しながら飛び、空高く飛び上がる。
そして飛行ユニットのグリップにネクタイを巻き付けてから飛び降り、次の武器を指定した。
「Xショットガン二つ!」
ZガンとXガンを投げ捨ててXショットガンへ武器を換装。
上空から敵を視認し、狙撃する。
一度ではない。何度も何度も、遠くにいる敵を撃ち殺して数を減らしていく。
そこに旋回してきた飛行ユニットが迫り、乗り込んで再び飛行した。
「Zガン!」
Xショットガンを捨てて、先程捨てたZガンが手元に戻る。
飛行しながらそれを連射して巨人を更に潰し、肉片へと変える。
そうして進むと、今度は檻のようなものが見えた。
どうやらあれで地球人を捕獲しているらしい。
ほむらはそこに移動を開始し、その先にいた巨人が慌てて銃のようなものを構えた。
「剣二つ!」
今度は武器をガンツソードへ換え、ZガンとXガンを前方の空へ放り投げつつ飛行ユニットから跳躍した。
そのまま巨人の銃へ刃をめり込ませ、更に回転。
銃を斬り裂き、巨人の腕を足場に疾走して巨人の両目へ剣を突き刺す。
剣を引き抜きつつ顔を踏み台にして後方宙返りし、遅れて飛んできた飛行ユニットを蹴って再度突進。
跳びながら回転し、巨人の頸動脈を叩き斬った。
それどころか勢いを殺さずに、檻の入口まで切り裂いて人々を解放する。
「下にバイク!」
剣を腰に戻して、落ちてきたZガンとXガンを回収しつつ落下する。
更に先程巨人の足にぶつけたバイクをガンツの転送で落下先に戻し、バイクの上に着地すると同時にすぐに乗り込んで疾走した。
ほむらを乗せたバイクは高速で走り、捕まえようとした巨人の足元を通過する。
それと同時にガンツソードを伸ばして巨人の足を切断し、倒れた直後にZガンで顔を粉砕した。
一方で乗り捨てられた飛行ユニットは近くのビルの屋上を削りつつ、無事に不時着していた。
「ひいいいっ、い、嫌だああああ!」
「な、なな中沢! た、助けて!」
「助けて欲しいのは俺だよ!」
そのまま次の敵を探すほむらの耳に、妙に懐かしく情けない声が聞こえてきた。
視線を向ければ、かつてクラスメイトだった中沢と上条恭介が虫に追われている。
上条恭介はかつての世界で、間接的とはいえまどかの契約の遠因になっていた男なのでほむらとしては実はあまりいい印象を抱いていない。
正確には彼のせいでさやかが契約し、更に彼が志筑仁美と付き合う事でさやかが魔女化し、そのさやかの為にまどかが……という感じで彼に罪はないのだが、それでもどちらかといえば嫌いだった。
とはいえ、見殺しにするのは目覚めが悪い。
仕方なくバイクで突進して虫を轢き殺し、一度停車して声をかけた。
「あっちの方向に逃げなさい。向こうはまだ敵の数が少ないわ」
「え? き、君は……暁美さん!?」
「え!? し、死んだはずじゃ……」
死んだはずの人間が現れるという事態に混乱する男二人を無視し、そのままほむらはバイクを発進させた。
とにかくまずは、この付近の敵を全て始末する。
休んでいる暇など無い。
ワルプルギスの夜から皆が命をかけて守った見滝原を、宇宙人の好きになどさせない。
「~~~~~!」
巨人が何か叫びながら走ってきた。
ほむらはそれを始末するべく武器を構え……次の瞬間、巨人が勝手に潰れて死んだ。
いや、勝手に潰れたのではない。誰かがZガンで倒したのだ。
攻撃を行ったと思われるスーツの一団が走ってきたので、ほむらは一度バイクを停めて様子を見る。
「き、君ッ、君すごいね! さッきから見てたんだけど、どんどん敵をやッつけて!
今まで見た事ないけど、別のチームの人?
あッ、その、僕はこの付近を担当してるチームの内木ッていうンだ」
「私は黒名蛍。それで……」
「今は自己紹介なんかしている場合ではないでしょう。用がそれだけならもう行くわよ」
「あッ、ま、待ッて!」
どうやらこの一団は見滝原周辺を拠点とするチームのようだ。
それは別にどうでもいいが、用がそれだけならば時間の無駄である。
ほむらは不愛想に返し、さっさとバイクを出そうとするがそこに黒名蛍と名乗った少女が慌てて待ったをかけた。
年齢は高校生で、マミと同い年くらいだろうか。
スタイルのいい茶髪の、キリッとした顔立ちの美少女だ。
立ち位置的に彼女がリーダーだろう。
「私達、こんな事になっちゃッて、もう駄目かと思ッて諦めかけてた。
けど貴女の戦いを見て、まだまだ諦めるのは早いッて思えたンだ。
何か、手伝えることはないかな? 私達も一緒に戦わせて欲しいの」
「……なら、一般人をなるべく多く助けてもらえるかしら。
そうしてもらえれば、私も敵を倒すのに集中出来るわ」
「わッ、わかッた! 任せて!」
ほむらはそれだけ指示し、バイクを走らせた。
実力は分からないが、まあ嬉しい援軍と一応思っておこう。
Zガンで巨人を始末しながら、ほむらはまどか達を隠した辺りを見る。
そこではまだ巨大ロボが頑張って敵を倒しているようで、敵が近付けていない。
ならばこのまま、付近の敵を掃討するだけだ。
ほむらはまどか達の脅威となる敵を殺すべく、何度目かも分からない引き金を引いた。
◇
夕暮れにさしかかった。
数多の巨人と虫で出来た屍は文字通りに山を築き、その上でほむらは夕日を背に立っていた。
敵はもういない。
いや、まだまだいくらでもいるのだろうが、少なくともここに送り込まれた戦力は全て片付けた。
ついでにあのガンツチームもどこかに消えてしまったが、恐らくは強制転送がかかったのだろう。
とりあえず、まず第一陣は凌いだ。
次に襲撃があるとしても、これだけの被害を出した以上は時間がかかるだろうし、まずは調査に乗り出すだろう。
一度まどか達の様子を見ようとほむらは家があった位置まで戻り、地下室の扉を開けた。
「暁美さん! 無事だったのね!」
まず真っ先にマミが気付き、嬉しそうに顔を綻ばせた。
だがそれも一瞬の事で、何か慌てているように声を荒らげる。
「暁美さん、どうしよう……鹿目さんが……」
「まどかに何かあったの?」
マミの言葉に一瞬緊張するも、まどかがここから出られるはずはないし、ここに敵が入り込んだ形跡もない。
ならばまどかが敵に襲われたという事はまずあり得ないだろう。
なら精々、慣れない環境で体調を崩したとか、そんなところか。
そう思う事でほむらは冷静さを取り戻そうとしたが、しかし次の言葉で硬直してしまった。
「鹿目さんが、魔女に攫われたの!」
Q、剣二つ出したけど、一本は杏子に渡してなかったっけ?
A、一本はほむら自身の分として、もう一本は多分QBの分のガンツソード。
よく考えてみたら剣は他にもパンダや、どうせ使わない西や東郷の分も余っているので割と使い放題だった。
【見滝原付近のチーム】
ゲスト出演としてGANTZ:Gのチーム出演。
どこのチームかはGANTZ:Gにも書かれていないのでぼかしてある。
見滝原もどこかは正確には記されていないが、群馬説があるので(というか見滝原のモデルが群馬の前橋市とされる)、もしかしたら群馬チームなのかもしれない。
原作にも出た群馬チームの吉川カイジさんは多分別行動で鉄骨渡りをしている。
【本当はGANTZ:Gのチームはどの地域担当なのか】
恐らく栃木チーム。
GANTZ:Gでは最初に『下野動物園』という場所でミッションが行われている。
恐らくこれは上野動物園をモデルにしたもので、実際上野動物園の入口と酷似している。
しかし上野だと東京なので原作チームと位置が被ってしまうし、何よりガンツの世界には上野動物園が他に存在している。(パンダのホイホイが飼われている動物園が上野の動物園らしい)
なので下野動物園≠上野動物園であり、少なくとも東京ではない。
名前の通りに下野にある動物園と考えた場合、GANTZ:Gの黒名達は栃木チームである可能性が高い。
もしかしたらこのSSの見滝原は栃木にあるのかもしれない。
【ブラック企業玉男】
ほむらの人使いが荒すぎて割とやばい。
多分そのうち過労死する。
まあどうせこいつはどのルートを通っても死ぬけど。