GANTZ『焔』   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第4話 それぢわ ちいてんをはじぬる

 ねぎ星人を倒すと、ほむらは再びあの部屋へと戻されていた。

 やはり、指定された敵を倒す事でゲームが終わる仕組みになっているらしい。

 しかし黒い玉が指定してきたのは小さい方のねぎ星人なのに、その後に出て来るでかい方を倒すまでクリア扱いにならないのは意地悪というしかないだろう。

 他に倒すべき敵がいるならば、その事も最初から教えておいてくれればいいのに。

 ほむらの後に続けてキュゥべえが転送されてきたが、転送の仕方が随分とえぐい。

 黒い玉から光の線が出て、下半身から順にまるで再構成されるようにして転送されてくる。

 自分もこうだったのかと思うと、あまり転送される姿を他人に見られたくはなかった。

 それから少しして、今度は少年が転送されてきた。

 彼は部屋を見回し、そしてほむらに気付くとニヤリと嫌らしい笑みを浮かべる。

 

「お前凄いな……俺以外で生き残るってだけでも久しぶりなのに、スーツなしで星人を倒しちまうんだもんな。

ていうか……身体能力どうなってんの?」

「……さて、ね。貴方が秘密を隠しているように誰にでも秘密はあるわ」

 

 死ぬ前は魔法少女で、その身体能力だけ引き継いでしまいました。

 そんな間抜けな事を言ってもまず、『こいつおかしいんじゃないか?』と思われるだけだろう。

 それに彼に話して何かメリットがあるとも思えない。

 なのでほむらは黙秘しておく事にして、浴室へ向かった。

 血の付いたコートをシャワーで洗って何とか血が目立たない程度に落とし、よく絞る。

 濡れたコートは気持ち悪いが、新しい服を買うまでの辛抱と思えば問題ない。

 部屋に戻った頃には犬、高校生、女性が転送されており、最後にヤンキーの青年が転送されて生き残りが全員この部屋に揃った。

 

「今回死んだのは、あの馬鹿なヤクザ二人と眼鏡、金髪、それと政治家のおっさんだけか。

すっげえ生き残ったじゃん。こんなのいつ以来だろうな。

……っと、それよりそろそろガンツが採点始めるぜ」

「ガンツが採点? この玉の事か? お前が名前付けたの?」

「いや……前から。前の……誰かが名付けた」

 

 少年が黒い玉を見ながら言う。

 ガンツ、とはこれの名前らしい。

 玄野への答えを見るに、少なくとも彼が名付けたわけではなく()からそう呼ばれていたようだ。

 玉――ガンツには『それぢわ ちいてんをはじぬる』と書かれているが、この誤字はわざとなのか、それとも素なのか……。

 もしわざとならば、読みにくいだけなので直して欲しいものだとほむらは考えた。

 まず最初に犬が前に歩み出し、ガンツの前に座る。

 

『犬。0てん。

やるき、なちすぎ。ベロ出しすぎ。シッポふりすぎ』

 

 酷い評価であった。

 犬が尻尾を振って舌を出しているのは当たり前の事なのに、これは何を言っているのだろう。

 というか、何故犬をここに連れてきてしまったのだろう。

 動物を連れて来るにしても、せめて熊とかライオンならば少しは違っただろうに。

 いや、それはそれでこちらに襲い掛かってきて邪魔になるだけか。

 

『巨乳。0てん。

ちちでかすぎ。ぱんツはかづにうろつきすぎ』

 

 続いて表示された画像は、全裸のままの女性であった。

 デフォルメされてはいるが、酷い扱いである。

 しかし乳でかすぎ、という一点においてだけは同意せざるを得ない。

 あんなものは戦闘においては邪魔なだけでしかない。巴マミといい、この女といい、何故あんな余計なものをぶらさげているのか理解に苦しむ。

 別に悔しいわけではない。断じて嫉妬などしていない。

 

『かとうちゃ(笑)。0てん。

かとうちゃ(笑)どいて。そいツころせない』

 

 かとうちゃ(笑)というのはオールバックの青年の事らしい。

 受けを狙ったのだろうが、あまりの外しっぷりに場の空気が少し冷えたものとなった……気がした。

 

『西くん。0てん。

TOtAL87てん。あと13てんでおわり』

 

 こちらは今までと違って、それほど酷評されてはいない。

 この時点で既に87点……という事はつまり、やはり彼は以前からこのゲームに参加しているという事になる。

 そして後13点で終わりという言葉は逆に言えば、100点を取らない限り続くという事でもあった。

 

『くろの。0てん。

巨乳みてちんこたちすぎ』

 

 ほむらは引いた。

 とりあえず彼が巨乳好きで、自分とは分かり合えない事だけを理解したのだ。

 彼は必死に、違うと皆に弁明しようとしている。

 

『ほむら。3てん。

TOtAL3てん。あと97てんでおわり』

 

 ほむらは一応点数を取ったからか、特に酷評はないようだ。

 もしここで貧乳とか書いていたら壊してやるところだったが、ガンツは賢明な判断をしたと言える。

 そして最後にガンツに表示されたのは、キュゥべえの絵だ。

 

『へんなの。0てん。

なにもしなちすぎ。ほむらのかたにのりすぎ』

 

 どうやらキュゥべえまで採点対象らしい。

 よく考えればほむらと一緒にこの部屋に送られたのだから、彼だけ特例なんて事があるはずもなかった。

 とはいえ、戦闘能力のないキュゥべえでは今後もずっと0点を継続していく事だろう。

 

「えっ? 肩のそれってぬいぐるみじゃないのか?」

「わ、私もてっきり……クールな子なのに不似合いなぬいぐるみを持ってるなーって……」

「何だそれ。猫なのか、それとも兎なのか。見た事ねえ生き物だぞ」

 

 どうもキュゥべえはぬいぐるみか何かと周囲に思われていたらしい。

 つまりほむらはクールなのに肩にぬいぐるみを乗せている奇妙な少女に見えていたわけだ。

 というか今更だが、やはりキュゥべえは魔法少女以外にも見えてしまっているらしい。

 やはりここにいるのは雑にコピーされた偽物でしかないという事か、とほむらは考えた。

 

「これは……人為的に生み出された、まだ世に出回っていない新種のペットよ。

劣性遺伝同士をかけ合わせたり、異種交配させたり……まあ、そんなとこ……」

 

 本当の事を言うわけにもいかないので、今即興で思い付いた嘘を適当に話しておく。

 真っ赤な嘘ではあるが、少なくとも『宇宙からやってきた生命体です』よりはまだ信じられるだろう。

 

「それよりも私なんかより、質問するべき相手がいるんじゃない?」

 

 とりあえずボロが出る前に矛先を変えてしまうべきだ。

 そう考えたほむらは、少年へと視線を向けた。

 

「そ、そうだ! お前、聞きたいことが山ほどある!」

 

 それからは少年への質問責めであった。

 これはどういう状況なのか、自分達は生きているのか。

 そして、何故最初から知っている事を話さなかったのか。

 それらはほむらにしてみれば既に予想出来ていた事で、答えもやはり予想通りでしかなかった。

 今夜のような戦いはずっと前から繰り返されており、少年は前からいるだけで基本的には自分達と変わらない事。

 今ここにいる自分達はコピーで、オリジナルは本当に死んでいる事。

 ほむらにとって収穫だったのは、外でこの事を話すと頭が破裂するという情報であった。

 また、その中で彼等の名前も知る事が出来た。

 経験者の少年の名は西丈一郎(にし じょういちろう)

 高校生二人は背の低い方が玄野計(くろの けい)で、背の高いオールバックが加藤勝(かとう まさる)

 巨乳少女は岸本恵(きしもと けい)というらしい。

 質問は更に、何故最初から話さずに見殺しにしたかという方向へ移って行ったが、ほむらとしてはそこは疑問でも何でもなかった。

 真実をいきなり話しても人がそれを信じるとは限らない。むしろ疑われて敵対してしまうかもしれない。

 人は弱いから、自分に不利益な真実は否定したがるのだ。

 その事をほむらは、過去の経験から痛いほど思い知っていた。

 加えて言えばあの四人は仮に生き延びさせたとして、それで今後役に立ったとは思えない。

 ヤクザ二人は言うに及ばず。むしろこちらを攻撃してくる可能性すらある。

 金髪も論外。あまりに浅慮すぎる。

 眼鏡は悪い意味で一般人だ。どのみち生き残る事など出来なかっただろう。

 仮に西が最初に真実を明かして、それで何かが変わったとはほむらには思えない。

 とはいえ、わざわざ弁解してやる必要性もないので無言を貫いておく。

 そうこうしているうちに西は姿を消し、部屋にはほむら達四人と二匹だけが残された。

 

「ど、どうする……?」

「どうするったって……」

 

 未だ困惑から立ち直れていない三人を放置し、ほむらは先に玄関まで向かう。

 その後を慌てて三人が追い、ついでに犬も走った。

 そしてドアに触れてみれば……今度は触れる。

 ドアノブを回し、出る事も出来る。

 

「どうやら出れるらしいわよ」

「か、帰れるのか……」

 

 玄野の言葉に、ほむらは目を細めた。

 帰れるのは恐らく一時的にだろう。

 しばらくすればまた呼び出されるのは間違いないが、ここでそれを言って喜びに水を差すのも抵抗があった。

 

「なあ……えっと…………ごめん、君、名前なんだっけ……」

 

 玄野がほむらに何か言おうとしたが、ここで言葉に詰まってしまった。

 彼はほむらの名前を知らなかったのだ。

 無理もない事だ。何せほむらはここにきてから一度も名乗っていないのだから。

 

「……暁美ほむら」

「そ、そう、暁美ちゃん……さん?」

「呼び捨てで構わないわ。貴方達の方が年上でしょうし」

「ええと……いくつなんだ? 随分落ち着いてるというか、場慣れしてる感じだが……」

「14歳よ。さっきの西という彼と同年齢ね」

「じゅ、14……最近の中学生は何というか、大人びてるんだなあ……」

 

 ほむらは外見的には実年齢との差異はない。

 しかし踏んできた場数が違う。潜った修羅場の数が違う。

 故に噛み合わないのだ。その外見と纏う空気がまるで一致しない。

 まるで老練の兵士が少女の皮だけ被ったかのような異質さがほむらにはあった。

 玄野も何となくそれを感じ、ほむらの年齢を掴み切れなかったのだろう。

 14歳といえば西もそうなのだが、あちらは得体の知れなさはあるものの、年相応の幼稚さと幼さが見えた。

 色々自分達の知らない事を知っているだけで、基本は斜に構えて気取っただけの子供だ。

 だがほむらにはそうした子供らしさが極度に少ないのだ。

 

「その、君はこれからどうするんだ? 俺達はとりあえずタクシーでも拾って帰るつもりだけど」

「とりあえず私は近くの店で新しい服を買うわ。帰るのはその後よ」

「そ、そうか」

 

 ほむらは彼等と別れ、別の道へと歩き始める。

 そして角を曲がった所で跳び、建物から建物へと跳び移りながら月夜の中に消えていった。

 

 

 どこかのマンションの屋上。

 そこでほむらは夜の街を見下ろし、黄昏れていた。

 着ている服はもう薄汚れたコートではないし、魔法少女の姿でもない。

 紫色のVネックシャツの上から紺色のジャケットを羽織り、腰から下は灰色のプリーツスカート。

 足には膝上まで届く黒いソックスを履き、相変わらず太ももをガッチリガードしてしまっている。

 すぐ横にはあの部屋から持ち出したスーツと、ガンツソードが置いてあるが、これは持ち出せるかと試しに持ってきたら本当に持ち出せてしまっただけで割と扱いに困っている。

 

「これからどうするんだい?」

 

 キュゥべえの問いにほむらは鬱陶しそうに目を向ける。

 あれからも何故かこいつは引っ付いて来るが、一体何のつもりだろう。

 そんな考えを読んだわけではないだろうが、顔に出ていたらしい。

 キュゥべえは質問もされていないのに勝手に話し始めた。

 

「そんな顔で見ないでくれ。言っただろう、僕はもうインキュベーターではないんだ。

他のインキュベーターと連絡を取れないか試しているんだけど、全く応答がない。

僕は君と同じ、ただのコピーさ。そんなに邪険にしなくてもいいだろう?」

「……なら、貴方を撃ち殺せば代わりは現れないのかしら」

「やめてくれ」

 

 ほむらがヤクザから拝借した銃をキュゥべえへ向けると、キュゥべえは相変わらず感情の変化は感じられないが明確な拒否を見せた。

 やはり、今までと違って死んでも代わりが現れる事はないらしい。

 銃口をグリグリとキュゥべえの顔に押し付けながらほむらは今後の事を考える。

 見滝原のアパートはもう解約してしまったし、今更両親の所に顔を出す気にもならない。

 そもそも、全てが終わった後の事など考えていなかったのだ。

 最後の魔女を倒して、自分が死ぬことで前の時間軸のまどかの願いを発動させ、それで終わるはずだった。

 だというのに、ガンツという妙なもののせいで考えてもいなかった『その後』を迎えてしまったのが今のほむらだ。

 今頃は満足し切り、安らかに永眠(ねむ)っているだろうオリジナルが少し恨めしく思う。

 

「とりあえず、しばらくはホテルかネットカフェにでも泊まるとして、やっぱり簡素でもいいから住処は欲しいわね。

こんな事になるのだったら、お金をどこかに保管しておくべきだったわ」

 

 帰る気などなかった。生き延びる気などなかった。

 だから後の事など考えず、金は全て寄付してしまったし部屋も新しい誰かが使えるようにワルプルギスの夜が来る前日に解約した。

 そんなほむらにとって、今となってはヤクザから奪った財布の中身が全財産であった。

 入っている額は合計で25万円ほど。大金には違いないが、ずっと生きていける額ではない。

 

「君は元々東京出身なんだろう? 両親に助けを求めればいいじゃないか」

「無理ね。ワルプルギスの夜が来た後に色々と情報操作をして、私はあのスーパーセルで死んだことにしたもの。表の世界では私はもう死人よ……葬式だって行われたわ」

「……」

「最後だと思っていたからね……身の回りの整理はもう済ませた後なのよ」

 

 ただの行方不明では、両親はいつまでも自分に縛られて探し続けるかもしれない。

 そう思ったほむらは、自分はスーパーセルで死んだという事にしてしまったのだ。

 だからもう帰れない。表の世界でも裏の世界でも、暁美ほむらは死人なのだ。

 何よりここにいる自分は暁美ほむらではなく、そのコピーでしかない。

 合わせる顔がない、とはこの事だろう。

 

「巴マミに匿ってもらえば……」

「私の死後に遺書が届くように手配してあるわ。今出て行ったら性質の悪すぎる悪戯を仕掛けたとして本当に殺されかねない」

「……準備は万端だったんだね」

「ええ。完全に裏目に出たけど」

 

 やった事が裏目に出るのは魔法少女の宿命のようなものだが、まさか死後にまでそうなるなんて誰が予想出来るのだろう。

 ほむらは溜息を吐き、コンビニで購入したカロリーメイトを頬張った。

 

「とりあえず、急ぎで金策をしないとね。

住む場所は……本当にどうしたものかしら」

 

 ほむらは憂鬱そうに言い、しかし魔女との戦いや全員を生き残らせるあの無理ゲーに比べれば何とかなるだろうと妙に前向きに考えた。

 今の彼女は全ての使命としがらみから解放されている。

 死などずっと昔から覚悟していたから今更怖くはないし、あの部屋にまた送られるならばそこで戦うだけだ。

 そこでまた死ぬというならば、それはそれで別にいい。

 

「……そういえばあそこ……誰も住んでないわよね」

 

 案外、住処は何とかなるかもしれない。

 そう思い、ほむらは今後の予定を考え始めた。




・明日は番外編込みで2回更新します。

【ほむらの服装】
モバゲーの『差し出すほむら』の衣装。
ただし髪の飾りはリボンではなくカチューシャのまま。

【ガンツは適当】
かなり上手い設定。
多少不条理な事があったり矛盾したりしても「ガンツは適当だから」の魔法の言葉で大体相殺出来てしまう。
本来ガンツの部屋の住民でないはずのタエちゃんが何故か今まで死んだメンバーの中に入っていて再生出来ても「ガンツは適当だから」で済む。
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