GANTZ『焔』   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第40話 私達は戦い続ける

 暁美ほむら同士の戦闘が始まった。

 ほむらが放ったXガンの一撃を、魔女となったオリジナルの背後に控えていた影が防いだ。

 いや、黒いワンピースを着ているオリジナルは所詮生前の肉体を無理矢理動かしているだけの人形に過ぎず、本体はこちらの影の方だ。

 ならばこの影こそ魔女と呼ぶに相応しいのかもしれない。

 此岸の魔女Homulilly。それがこの魔女の名前である事を、ほむらは誰に説明される事もなく理解した。

 まどかに対しては一切の敵意を見せていなかったが、ほむらに対しては刺すような殺意を叩き付けている。

 それも当然か、とほむらは納得した。

 何故なら暁美ほむらがこの世で最も嫌悪しているものは、いつだって弱い自分自身なのだから。

 言うならばこれは自己嫌悪。故にこの魔女はほむらに対してだけは、並外れた攻撃性を発揮する。

 

「……来なさい!」

 

 ほむらがリモコンを操作すると、その背後に轟音を立てて巨大ロボットが降り立った。

 巨大ロボットとHomulillyが正面から組み合い、ほむらとオリジナルも同時に駆け出す。

 ほむらがXガンを構え、オリジナルは魔力で創った黒い銃を構えた。

 二人はそのまま銃同士を衝突させ、左足を相手の右脚の外側に置く。

 そのまま左足を軸にターンを決め、相手の背後へ回り込もうとした。

 だが両者が同時にそれをやってしまえば、ただの息の合った同時ターンだ。

 まるで示し合ったように二人で円を描き、視線が交差する。

 そのまま全く同じ動作で銃を出し、ぶつけ、衝突させる事で相手の照準を外す。

 続けてもう片方の手で相手の隙を狙うも、こちらもやはり同じ動きとタイミングでぶつかってしまった。

 敵の攻撃を予測し、安全地帯に身を置いて必殺の一撃を叩き込む。

 洗練されたほむらのその動きは、二人が同時に行う事である種のダンスのような様相となっていた。

 銃を向けて弾かれ、弾き、同時にステップを踏んで一定の間合いを保ち続ける。

 同時に放った蹴りが交差して二人の身体を弾き、着地と同時に発砲しながら横に跳んだ。

 戦いは全くの互角だ。

 故にこの戦いの勝敗を分けるのは両者が持つ戦力の差である。

 ほむらとオリジナルが拮抗し、ロボットと魔女が均衡を保っている。

 だが魔女にはまだ使い魔がおり、数の上では魔女が圧倒的に有利であった。

 だがほむらには、ガンツより齎された地球外の超兵器がある。

 Zガンを連射する事で次々と使い魔が潰れ、数の有利をひっくり返した。

 

「邪魔よ!」

 

 使い魔を蹴散らしながら、ガンツロボットを蹴ってその側面を駆け上がった。

 まずは空から一気に邪魔な使い魔を狙い撃ちにして全滅させようと考えたのだが、そのすぐ隣をオリジナルが追う。

 流石に自分だ。考える事はバレバレらしい。

 そのままほむらとオリジナルは重力を無視したように壁を走りながら銃を撃ち合った。

 巨大ロボットの僅かな窪みや出っ張りを足場として壁の上で戦い、一定の距離を保ちながら駆け上がる。

 ロボットの側面を蹴って今度はHomulillyの身体に着地し、そこを足場にしてまた跳ぶ。

 二人のほむらが三角跳びを繰り返して空を舞い、断続的に発砲音とXガンの発射音が響き渡った。

 ロボットの壁を蹴ってオリジナルが身投げするように落下し、落ちながら新たに創造したサブマシンガンを連射する。

 ほむらはそれを追うようにロボットの身体を蹴って急降下し、Zガンを捨てて即座に腰のホルスターから抜いたXマシンガンで弾丸を相殺しながらオリジナルへ接近した。

 空中で二人の距離が縮まり、零距離に限りなく近い射程で戦闘が続く。

 相手を照準に入れつつ自らは照準から外れるように動き、時に格闘を織り交ぜながら優位を奪おうとする。

 身体の位置が目まぐるしく変わり、銃を手にした腕が交差し、同時に引き金を引き――オリジナルの右腕が僅かに弾けた。

 それと同時にほむらの右腕からも血が溢れ、二人は血を撒き散らしながら着地と同時に一度距離を空ける。

 

「……っ」

「……」

 

 ほむらもオリジナルも流石に痛みには慣れており、悲鳴の一つもあげずにすぐに次の行動へと移る。

 いや、そもそもオリジナルは痛みすら感じていないのだろう。

 その動きには淀みがなく、ほむらに全く後れを取っていない。

 再び互角の攻防が始まり、両者が最善手を打つが故の膠着に入る。

 射線の取り合い――相手の銃の軌道を逸らしながら自らの射線に敵を入れようとする。

 だが敵も同じように銃を弾くので、共に有効打に繋がらない。

 互いに動きの読み合いだ。何度も銃をぶつけ、銃を撃ち、先の先を読み合う。

 だが両方が暁美ほむらでは決着が着かない。

 銃が額に当たって血が流れ、その美貌を鮮血で染めながらもどちらも止まる気配がない。

 ほむらの腕をオリジナルの蹴りが跳ね上げ、無防備な彼女へ照準を合わせた。

 だがほむらは蹴られた勢いのまま後方回転してサマーソルトキック。オリジナルの腕を蹴り上げつつ体勢を戻し、しゃがんで水面蹴りへ移行する。

 オリジナルは軽く跳躍して避け、銃を向ける……だがほむらも予測していたように素早く銃を向けた。

 銃同士が衝突して狙いを外し、ほむらの髪を僅かに巻き込みながら銃弾が通過して、オリジナルの髪が僅かに不可視の弾丸によって千切れる。

 それを気にする事なく両者が同時に前に出て相手の間合いを潰した。

 唇が触れ合いそうなほど接近し、すぐに離れて再び互角の戦いが再開される。

 

「やめて……もう、やめてえ……」

 

 まどかは、この戦いをもう見ていられなかった。

 大事な友達が、自分同士で殺しあっている。自殺しようとしている。

 それをただ見ている事しか出来ない自分がただ、情けなかった。悲しかった。

 二人のほむらの攻防は既に数百手以上に上っているだろうか。

 しかし戦いの天秤は傾きつつあるとキュゥべえは考えていた。

 

「この戦い、魔女の方が勝つね。やはりコピーではオリジナルには及ばない」

 

 キュゥべえがそう断言した理由は体力の差にあった。

 ほむらが次第に疲れを見せ始めているのに対し、魔女は一切疲れないのだ。

 それはそうだ。所詮これは動く死体、ただの人形でしかない。

 疲れなど最初から存在しない。

 故に、この戦いの勝敗は最初から決まっていた。

 両者が最善の動きを続ける以上……先に動きが鈍った方が負ける。それだけだ。

 その予想を肯定するようにほむらの銃が弾き飛ばされ、魔女の銃がほむらへ突き付けられた。

 これにて勝負あり――キュゥべえはそう確信し、まどかは思わず目を瞑った。

 

「…………!」

 

 ほむらも目を見開き、死を覚悟した。

 この銃撃はまだ回避する事が出来る。

 だが一手の遅れがこの本人同士の戦いでは命とりだ。

 回避してもその次の攻撃で更に追い詰められる未来が先に分かってしまう。

 ここから数手先の絶対的な敗北を、読みに優れているからこそ確信出来てしまう。

 将棋やチェスと同じだ。優れた打ち手同士の対局において、勝敗が決するのは王手(チェック)をかけた瞬間ではない。

 それよりずっと前……何手も前から既に勝敗は決している。

 現状から打てるだろう幾通りもの可能性。それに対する敵の手を予測し、更にその先を予測し……そうして予測し続けた先に、どう足掻いても勝ち目がない事を哀しくも悟ってしまう事がある。

 だからレベルの高い打ち手は、素人が見れば『まだやれるんじゃないか?』と思えるような場面でも投了するのだ。

 ほむらもそれと同じだ。この銃撃を避けた先の可能性を予測し、その次の敵の行動を予測し……それを繰り返した果てにある、己の『詰み』を悟ってしまった。

 

 結局――運命は変わらないのだろうか。

 悪い事の後にいい事が待っているなんて事はなく、悪い事の後はまた悪い事が待っている。

 悪い事は重なっていく。確率論なんか無視して、悪魔に翻弄されるように積み重なる。

 魔女化するという悲劇の後には、複製が殺されてめでたくなし、めでたくなしで終わるのか。

 そう諦めかけたほむらの脳裏に、いつかの言葉が蘇った。

 

 

『悪魔がいたとして……知ッたこッちゃないッて。

今まで生き残ッたのは知恵を使ッて持てる能力を駆使して生きのびようとした結果だ!

人間は! 人間は! 立ち向かうことができるはずだ!!』

 

 

「――まだよ!」

 

 ほむらの瞳に生気が戻り、オリジナルが放った銃弾を回避した。

 その回避を予測していたようにオリジナルが動き、回避で崩れた体勢を更に崩すように足を蹴り払った。

 ほむらは地面に手をついて、片手の力だけで回転。蹴りを放つ。

 それをオリジナルがバックステップで避けると同時に空いている方の手でXマシンガンを連射した。

 オリジナルも即座にマシンガンで迎撃し、ほむらの側面へと移動する。

 すぐに体勢を立て直すも、その無駄な動きの分だけほむらの方が遅い。

 オリジナルの放った銃弾が足元を掠め、更に肩を撃ち抜く。

 鮮血で服が染まり、更に戦況は不利になってしまった。

 ……いや、不利どころではない。もう詰んで(・・・)いる。

 ほむら自身、そんな事は分かっているのだ。ここからでは相手がミスをしない限り絶対に勝ちはなく、そしてこの魔女は決してミスなどしないだろう。

 だからこれは無駄な足掻きだ。負けると分かっているのに、無意味に死までの時間を引き延ばしているに過ぎない。

 

(私は何をしているのかしらね……)

 

 実の所、ほむらにも自分のやっている事の意味はよく分かっていない。

 もう頭では分かっているのだ。足掻くだけ無意味だという事くらい。

 ここからの逆転はあり得ない。所詮自分は暁美ほむらの偽物で、本物には勝てなかった……それだけだ。

 それでも、頭では認めていても……心のどこかが否定している。

 このまま死ぬことをよしと思わない自分が存在している。

 そこまで考え、ほむらが思い出したのは……あの部屋で出会った仲間達の顔だった。

 オリジナルの暁美ほむらではなく、今ここにいる自分だけが経験したあの部屋での戦いの日々だった。

 ……決して諦めずに生きようと足掻いていた、『人間』の姿だった。

 

(それと比べて……我ながら情けない顔をしてるわね)

 

 ほむらは、自分と戦っているオリジナルを見て情けない気持ちになった。

 血の涙を流しながら、何もかもを諦めたような眼をして戦っている。

 きっと自分もそうなのだろう、と思うと尚更情けなくなっていっそ笑えてきた。

 

『あんた、何もかも諦めた目をしてる。いつも空っぽの言葉を喋ってる』

 

 これはいつかの時間軸で美樹さやかに言われた言葉だ。

 なるほど、確かに彼女の言う通りだろう。

 こんな顔をしていては、ああ言われても仕方ない。

 玄野達と比べて、何と空っぽな事か。

 そう思うと何だか腹が立ってきた。

 『私』はこんな所で一体何をしているのかと思った。

 インキュベーターの思い通りに呪いを振りまく存在になって、こんな結界の中で泣き続けているなど余りに悔しいではないか。余りに惨めではないか。

 一体いつまで……いつまで、逃げ続ける気なのか。

 魔女になって、それでもまだ自分だけの世界に逃げ込むのか。

 そう思うと……自分で自分を殴ってやりたい気持ちが込み上げて来て、仕方ない。

 

 敗北を積み重ねた果てにようやくまどか達全員が生き残ったこの世界で……このまま負けて逃げるなんて、文字通りに自分で自分が許せない。

 このまま諦めるなんて、認めてやらない。

 

「ッああああああ!!」

 

 ほむららしからぬ叫びをあげ、銃弾で脇腹を撃たれながら突撃し、オリジナルの額に思い切り頭突きを叩き込んだ。

 読みも何もあったものではない。ダメージ覚悟で突撃してそれで得られるのが頭突き一発分のダメージなどどう考えても割に合わない。

 そのがむしゃらさは今までのほむらにはなかったもので、どちらかといえば玄野計や加藤勝が持つものに近い。

 ほむらの目から諦めが消え、代わりに玄野のような力強い輝きが宿った。

 ここにいるほむらは確かに複製で、しかしオリジナルが知らない世界を体験してきた。

 オリジナルが知らない者達と共に戦って来た。失ってきた。そして勝利してきたのだ。

 

 そうだ、と思う。

 諦めるにはまだ早い。悪い事がいくら重なろうが、知恵と持てる能力を駆使して立ち向かえばいい。

 絶対に報われる保証はないし、時には無残に死んでしまうかもしれない。

 その残酷な現実をほむらは何度も見てきた。

 だがそれでも……人間は立ち向かえる。悪魔とだって戦える。

 そして立ち向かうべき相手は、オリジナルなどではない。

 まだカタストロフィは始まったばかりなのだ。

 ……こんなところで、戦わずに自殺している場合じゃない!

 

「……悲しみと憎しみばかりを繰り返す、救いようのない世界だけれど」

 

 今度はガンツソード。

 オリジナルの暁美ほむらが過去、ほとんど使用しなかった近接用の武器を用いた攻撃は、オリジナルの予測の範囲外にある。

 振るわれた刃がマシンガンを切り落とし、続けて薙ぎ払う事でオリジナルを後退させた。

 

「それでも人間は立ち向かう事が出来る。

知恵と能力を駆使して生き延びる事が出来る。

だから私は……いえ、私達(・・)は戦い続ける……この世界を守るために!」

 

 玄野達はきっと今、それぞれの大切なものを守る為に戦っているのだろう。

 大阪チームの岡八郎や山咲杏も。各国のチームも。

 この地球を守る為に、きっと戦っている。

 この地球は決して美しいばかりの理想郷ではないが、それでも守る為に命をかけている。

 ならば自分もこんな所でいつまでも不毛な自己完結(自殺)をしている場合ではない。

 戦うべき戦場は、こんな所ではないはずだ。

 

「だから――」

 

 決意が固まり、そして銃を捨てた。

 もう自殺なんてしない。

 背負った罪を恐れて死を望んだりしない。

 最後の最後まで戦って、戦って、そして生き残って見せる。絶対に守り抜いて見せる。

 死なんて、楽で甘い道にはもう逃げようとしない。

 玄野達はいつだって生きようと必死だった。必死に戦っていた。

 その姿は、知らずほむらの内にも変化を与えていたのだ。

 ほむらはオリジナルの胸倉を掴み、そして額を突き合わせる。

 

「貴女も、いつまでも自分の世界に逃げていないで戦いなさい!

何度も繰り返して来たのは、こんな所で魔女になって朽ちる為? まどかを泣かせる為?

インキュベーターの思い通りになる為?

違うでしょう。私達が繰り返して来たのは……あの子を守れる私になる為だった!

魔女になったって関係ない……私達の願いはその程度で消えるものじゃない!」

 

 何度も繰り返して来た。

 その全てがまどかの為だった。

 今日まで何度も繰り返して、傷つき苦しんできたすべてが、まどかを思っての事だった。

 ならばこそ分かるはずだ。ソウルジェムを濁らせたのは、もはや呪いでさえなかったという事が。

 

「ア、アアア、ア……」

「思い出しなさい。まどかだけじゃない……マミも、杏子も、キリカやなぎさ、ゆま……後ついでにさやか。

皆が私の帰りを待ってくれている。

だったらこんな所で死んでいる場合じゃないはずよ。

戦いなさいよ……帰るべき場所を守る為に。

私達の戦場は、ここじゃない! この先にあるのよ!」

 

 ほむらとは思えない熱い叫びに、まどかはただ茫然としていた。

 しかし彼女の心にあるのがかつてと違う、前向きな物である事を感じて思わず微笑んだ。

 思えば初めて会った時からずっと、ほむらはどこか自分を粗末にしていた。

 価値がないものであるかのように思っている部分があった。

 その彼女がどうしてこうまで変わったのかは分からない。

 だがきっと、考えを変えてくれる……氷の心を溶かしてくれるような、素晴らしい人達と出会えたのだろうと思えた。

 

「だから、いつまでも……」

 

 オリジナルの胸倉を掴んだまま跳んだ。

 そしてHomulillyの中へと飛び込み、そこにあったグリーフシードを掴み取る。

 

「……泣いてるんじゃないわよ!」

 

 

 

『貴女は、本当に私なのかしら?』

 

 気付けばほむらは、暗い空間で自分と向き合っていた。

 目の前にいる暁美ほむらはどこか疲れたような雰囲気を持っていて、目の下には隈が出来ている。

 ほむらはそんな彼女に向けて微笑んで見せた。

 

「さあ、どうかしらね。私自身、玄野さん達の影響で変わっている事は自覚しているわ。

でもそんなのは些細な問題でしょう?」

 

 ほむらの言葉に、魔女はクスリと笑った。

 そして涙を浮かべてほむらへ手を伸ばす。

 

『そうね。オリジナルも魔女も複製も関係ない。

私にとって大事なのは、いつだってたった一つのこの感情のみ。

こんなところで立ち止まっている場合じゃない……わね』

 

 ほむらも手を伸ばし、魔女の手を掴んだ。

 すると手の中のグリーフシードが光り、変質を開始する。

 

「行くわよ。私達の戦場へ」

『ええ。迷路の出口へあの子を連れ出すまでは、私達の戦いは終わらない。

ようやく、その事を思い出せたわ』

 

 

 

 Homulillyが消滅した。

 それと同時にオリジナルとほむらのシルエットが重なり、紫の光が溢れる。

 再構成――オリジナルと複製が完全に融合し、たった一人の暁美ほむらへと生まれ変わっているのだ。

 更に手の中のグリーフシードは完全に変わり、ソウルジェムでもグリーフシードでもない、キュゥべえすら知らない未知の物体(ダークオーブ)へと変わっていた。

 まだ変化は終わらずにほむらの服が見慣れた魔法少女の衣装へと戻っていく。

 紫の光が集まって黒い靴となり、続けて脚はダイヤマークが連なったタイツに包まれた。

 白いフリルが付いた淡い紫色のスカートに続けて黒いインナーシャツが上半身を覆い、その上から学生服に似た白い衣装が装着される。

 襟元は淡い紫色に包まれ、そして首には紫色のリボンが結ばれた。

 腰にも同じく紫のリボンが結ばれ、二本の尾が風になびく。

 左腕には彼女の象徴である時計の盾が戻り、今ここに魔法少女暁美ほむらが完全復活を遂げた。

 しかし今までと異なり、背中からは魔女のような黒い翼が生え、胸元には逆さにした時計の針のような刻印が刻まれていた。

 また、瞳の色も今までは青に近い紫だったものが紅に近い紫へと変色している。

 完全復活とは言ったものの、もう彼女は魔法少女ではない。魔女でもない。

 その存在にキュゥべえが明らかな驚きを見せ、声を震わせる。

 

「暁美ほむら……その姿は……いや、君は一体……」

「理解できないのも当然よ。ええ、誰に分かるはずもない。

この想いは、私だけのもの。私達だけのもの。

思い出したのよ。今日まで何度も繰り返して、傷つき苦しんできた全てが、まどかを思ってのことだった。

私のソウルジェムを濁らせたのは、もはや呪いでさえなかった」

 

 ほむらが手を掲げる。

 すると結界が晴れ、夕暮れの空が彼女達を照らした。

 

「貴方には理解できるはずもないわね、キュゥべえ。

これこそが、人間の感情の極み。希望よりも熱く、絶望よりも深いもの……」

 

 ――愛よ。

 ほむらがそう言うと、まどかの頬が紅に染まった。

 え? これってそういう意味? そう受け取った方がいいの?

 思春期の初心な少女はほむらの真意も分からず、ただオロオロしている。

 ちなみに、勿論そういう意味ではない。

 

「では今の君は……君は一体、何者なんだ?

魔法少女でも魔女でもなく、いったい、どこにたどり着こうとしてるんだ?」

「私が何者かですって? そんなの決まっているじゃない」

 

 そんな簡単な答えも分からないのか、と思いほむらは笑った。

 そして自信と力強さに溢れた声で宣言する。

 

「――勿論、人間よ」

 

 そう断言し、不敵に微笑んだ。




主人公最強タグ「いっけなーい! 遅刻遅刻ゥ!」
ほむら強化タグ「待たせたなァ!」

遂にほむらが魔法少女の力を取り戻しました。
ついでに魔女を飛び越えて悪魔ほむらにワープ進化しました。
このSSでは悪魔を自称していないので悪魔ほむらではなく以降は真ほむらとか融合ほむらとか呼ぶ事にしますが、ほぼ服装が違うだけの悪魔ほむらです。
ただ神まどかの力を奪っていないので事象の改変とかは出来ません。
時間停止は砂時計が既に落ち切っているので不可能ですが、劇場版を見るに自分の結界内ならば可能っぽいので結界展開中のみ可能とします。
戦闘力は以下の通りです。

身体能力:今まで通り。変身して魔力強化する事で更にパワーアップ可能
特殊能力:四次元シールド、飛行、イヌカレーウイング、魔女結界展開、(結界内でのみ)時間操作、ホムリリィ召喚、使い魔使役

Q、何で悪魔化しなかったの?
A、ベースがオリジナルほど捻じれていない複製ほむらの方だったから。
まどかを愛しているものの、オリジナルのようなヤンデレ染みたものではなく、あくまで無償の愛情。
異性に向けるタイプの愛ではなく、親が子に抱く愛に近い。
玄野達の影響もあり、人間から悪魔になるのではなく、悪魔に立ち向かえる人間として進化した。

【ガンツメンバーの影響を受けたほむら】
玄野達と共に戦う事でいつの間にか結構オリジナルから性格が変わっていた。
何だかんだでほむらは影響を受けやすいのでガンツメンバーの逞しさに感化されていたらしい。
しかしガンツ節だけはラーニングしない。

【少しデザイン変更】
完結後に少しだけ真ほむのデザインを変更し、胸元の魔女の口付けを悪魔ほむらの胸元のマークと同じマークに変えました。
(時計の針を逆さにして、菱形とくっ付けたようなアレ)

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