GANTZ『焔』   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第5話 地球の為に頑張って戦ってくれ

「そこは……うん、それで合ってるよ」

「そう」

 

 あの奇妙な夜から一夜が明けた。

 ほむらとキュゥべえはとりあえずネットカフェで一晩を過ごし、ついでとばかりにパソコンを使用して金策に走った。

 株、FX、バイナリーオプション……今の時代はネット環境さえあれば誰でも稼げてしまう。

 勿論それらは失敗すれば破滅に繋がりかねないので、初心者が安易に手を出す事は決して推奨されない。

 迂闊に手を出せばFXで有り金全部溶かした人の顔を晒す羽目になるだろう。

 健全に生きるならば避けて通るべき道である事は言うまでもない。

 そんな蛇の道とでもいうべき邪道だが、しかし今の頼る者がないほむらは通らざるを得なかった。

 

「凄いわね。こんなに簡単に稼げるものなの」

「僕等インキュベーターは人類を長く見て研究してきたからね。この程度ならばいくらでも予測出来るさ。

感情という不確かなものに振り回されるわけでもないデータならば、僕等の領分だよ。

言っておくけど簡単に見えても、自分でやろうと思わない方がいいよ。簡単に財産を失うからね」

「覚えておくわ」

 

 ほむらは画面の中の額がどんどん上昇しているのを見て、こいつに頼る日が来るとはと軽い自己嫌悪に陥っていた。

 だが仕方ないのだ。14歳の、しかも既に死んだ事になっている小娘などアルバイトすら出来ない。

 どうせ有り金を全部溶かしても、元々ヤクザの金だし痛くはない。

 そんな気持ちで臨んだのだが、思いのほかキュゥべえが役に立ってしまった。それがほむらには癪なのだ。

 

「とりあえずこのくらいでいいだろう。当面の生活費は確保出来たんじゃないかな」

「十分すぎるわよ」

 

 今の時代はネット環境さえあれば通帳だって作れてしまう。

 今回ほむらが作ったのは海外の、こうした取引専用の通帳だが金を引き出すのは普通に出来るだろう。

 問題は、流石にこれを作る上では個人情報が必要だったので仕方なく入力した事だが……まあ、海外の通帳だ。ここから自分の生存が割れる事はない……と思いたい。

 

「とりあえず万一凍結される可能性を考慮して、早めに引き出す事だね」

「そうするわ」

 

 パソコン上の履歴を念入りに消し、キュゥべえのチェックも経てからシャットダウンした。

 海外の銀行なので日本まで送金されるには時間がかかるし手数料も発生するが、それは仕方のない事だ。

 それまでは、ヤクザから奪った金で凌げるだろう。

 ほむらは本棚から適当に数冊の漫画本を取り出し、パラパラとページを捲る。

 思えば、魔法少女になってからはずっとまどかを救うために奔走していたので、こういう娯楽などに手を出したことがない。

 昔は本を読むのが好きだったのだが、最後に漫画など読んだのは一体いつだっただろう。

 

 使命から解放され、自分の為だけに無意味に時間を潰す……その事に妙な心地よさを感じながらほむらは、怠惰に流れていく時間を享受していた。

 

 

 

(やはり、あのガンツという玉は人間が造り出したもののようだね)

 

 キュゥべえはほむらの肩の上で、彼女の読む漫画のページを意味もなく目で追いながら考えていた。

 パソコンに疎いほむらは気付かなかったが、キュゥべえはパソコンの操作をする振りをしてとある場所へとハッキングを仕掛けていた。

 その場所の名はマイエルバッハ。近年に急成長したドイツの企業だ。

 ガンツというのは、その企業が造り出した物で正式名称をブラックボールという。

 それを日本の財閥チームが買い取り、各都道府県に一つずつ配置したもののうちの一つ……それがガンツの正体であった。

 中に入っていた人間は、ランダムに選ばれた人間のクローンであり、あれ自体はただの翻訳者だ。

 

(驚いたね。宇宙には僕等も知らないような未知のテクノロジーを操る宇宙人がいたようだ)

 

 ガンツに使われている技術自体は無論、地球人のものではない。

 どこか別の惑星より送信された軍事技術を、原理も解明出来ぬままに地球人が再現しただけのものだ。

 ガンツの技術は造り出した者達ですら完全に解明出来ているわけではない。

 宇宙から送信された数式を元に、言われるがままに組み立てただけのものだ。

 しかしやはり地球人だ。ガンツを造る技術自体は高度でも、それを保護するセキュリティがキュゥべえから見れば原始人レベルである。

 おかげで情報は閲覧し放題で、必要な情報は大体見る事が出来た。

 地球にはインキュベーター以外にも宇宙人が飛来しており、今行われているゲームはそれを排除する為であり、来るべきカタストロフィに備えて戦士を育てる為だ。

 だがそれ以上に、あのゲームは見世物としての役割が強いのだ。

 あの戦いは全て、世界中の権力者にリアルタイムで配信されて賭けの対象になっている。

 特に人気が高いのは大阪の岡八郎という男だが、ほむらも初参戦にして見せつけた圧倒的な能力から期待のルーキーとして注目を集めている。

 宇宙人に関しては、無論インキュベーターはそれら宇宙人の大半を既に把握していたし、逆にインキュベーターの存在はそれらの宇宙人や地球人に把握されていない。

 何せインキュベーターは原始時代からずっと地球にいたのだ。年季が違う。

 しかし少女ばかりに目を向け、感情エネルギーの搾取のみに専念していたせいで地球人がこのような技術を手にしていた事には気付けなかった。

 ともかく情報は揃った。

 この先にほむらが戦う事になるだろう異星人の能力。

 ガンツ武器の扱い方。

 全てのミッションが終わった後に待っているカタストロフィの内容。

 

(まあ、これはほむらに言わなくていいだろう。聞かれていないしね)

 

 今のキュゥべえはその気になれば世界中のブラックボールを掌握してほむらに強い武器を与える事も解放する事も出来る。

 何なら賭けの対象にしている権力者やマイエルバッハの会長、及び財閥チーム全員をガンツのシステムに捕らえて『自分でやれ』と宇宙人との殺し合いに放り込む事だって難しくない。

 しかしキュゥべえは今の所、それらを実行する気はなかった。

 強い武器など与えなくても、あのワルプルギスの夜すら倒してみせた暁美ほむらの実力ならば生き延びるだろうし、何よりカタストロフィで地球が滅ぼされるのはキュゥべえにとってもいい事ではない。

 確かにインキュベーターは地球から撤退したが、依然として地球が魅力的な資源を持つ星である事は間違いないのだ。

 契約は出来なくなったが、他の方法で感情エネルギーを集める方法も後で見付かるかもしれない。

 だがそうなった時に地球そのものが死の星になっていては意味がないのだ。

 なのでカタストロフィで地球を襲撃する者達を退ける為にも、むしろ暁美ほむらにはこのまま残ってもらわねば困る。

 ワルプルギスを始めとする魔女が残っていれば、そんな宇宙人など勝手に魔女達が蹂躙してくれただろう。

 世界各地の魔法少女さえいれば、カタストロフィでやって来る宇宙人など殲滅出来ただろう。

 だが、そのどちらもほむらが終わらせてしまったのだ。

 そして世界中のガンツの戦士を見たが、現状でほむら以上の実力者は存在していない。

 ならば彼女には責任を取る義務がある。

 とりあえず今は、ほむらが権力者の気紛れで殺されてしまわないように頭の中の爆弾を取り除くくらいでいいだろう。

 

(期待しているよ、暁美ほむら。

精々、地球の為に頑張って戦ってくれ)

 

 

 あれから大体一月ほどが経ち、ほむらは再びあの部屋へと転送された。

 だが何もかもが分からなかった前回と違い、今回は転送される事が分かっていたので準備は万端だ。

 転送されてきたのはほむらだけではなく、買い揃えていた最低限の家具や日用品、食料、水もセットである。

 前回、服や持っている物が一緒に送られた事から触れてさえいれば荷物も持ち込めると思っていたが、案の定であった。

 まだ他に誰も来ていないのも運がいい。どうやら今回は最初に送られたようだ。

 この部屋は一度出てしまえば次に呼ばれるまで入れないが、出さえしなければ居座りは不可能ではない。

 ほむらは色々と考えた末、ここを自分の活動拠点にしてしまう事に決めたのだ。

 何せ今の彼女は世間では故人だ。行く場所がないし、いつまでもホテル暮らしをしているわけにもいかない。

 その点このマンションの一室は普段は絶対開かないし、管理費や維持費もガンツを用意した何者かが払っているのだろう。

 もしかしたらこのマンションそのものがグルかもしれない。

 つまり、ほむらのような存在しない人間が住むには、うってつけなのだ。

 あるいは初めからそれを想定してマンションなどにした可能性もある。

 とりあえず家具を配置するのはミッションが終わった後だ。

 ほむらは急いで家具と日用品を押し入れに押し込み、何事もなかったように壁際に座って次の転送者を待った。

 

 まず最初に来たのは西だ。

 彼はほむらに気付くと、薄ら笑いを浮かべて反対側の壁に寄り掛かった。

 互いに他者に干渉される事を嫌う者同士、妙な無言の秩序がそこにあった。

 次に来たのは前回参加者の玄野、加藤、岸本、そして犬だ。

 玄野は何故かいきなり顔を青ざめさせているが、何かあったのだろうか。

 その次は新顔となるガラの悪い男が四人。前回のヤクザを彷彿とさせるが、あれよりは裏の人間特有の気配がしないので、単なる暴走族か何かだろう。

 更に美形の男と、その男の腰に抱き着いている髪の長い女。

 男の方はヘルメットを被っており、何かに跨るような姿勢のまま送られて来たのでバイクに乗っていて事故死でもしてしまったのだろう。

 最後にお婆さんと、その孫と思わしき少年が来たところで転送は終わった。

 

(暴走族は一般人よりは戦闘向きでしょうけど、協調性は恐らくなし。

お婆さんとあの小さい子は明らかに論外。何故ガンツはあんな二人を……。

あっちの顔のいい人と髪の長い女性はよく分からないわね)

 

 ほむらは新顔となる八人を軽く観察し、いずれも足手まといとの評価を下した。

 しかし暴走族がどうなろうと知った事ではないが、流石にお婆さんと少年は哀れと思うしかない。

 あれでは、100点を取って解放など絶対に不可能だろう。

 見たところ良心的かつ大人しい人格者のようだが、気性も年齢も戦闘に向いてなさすぎる。

 

「皆、聞いてくれ!」

 

 加藤が経験者としての責任感からスーツの着用を皆に勧めるが、案の定暴走族四人からは嘲笑の的にされただけであった。

 それでも根気強く説得し、何とかお婆さん、少年、美形の男にだけは着せる事に成功している。

 もっともあの三人では、生き延びる事が出来るのは美形の男くらいか。

 その後一人一人玄関で着替える事になったが、岸本の番になったところで暴走族のうち三人がその後を追うように部屋を出て行った。

 

(全く……世話の焼ける)

 

 ほむらは溜息を一つ吐き、部屋を出た。

 玄関まで行くと予想通りに男達が裸の岸本を襲おうとしていたので、声をかける。

 

「貴方達、やめておきなさい」

「あん? 何だ、このガキ」

「混ぜて欲しいのかあ?」

「ヒャハハッ、もう少し胸を成長させてから出直して来いよ!」

 

 ほむらは無言で、最後に余計な事を言った男の顔にガンツソードの柄をめり込ませた。

 前歯が全て折れ、血が床を濡らす。

 そのまま男は壁に叩きつけられ、気を失ってしまった。

 

「こ、このガキ!」

「よくも!」

 

 他の男二人が激昂して飛び掛かってくるが、単に喧嘩慣れしただけの素人などほむらの敵ではない。

 一人目の男の腹に膝をめり込ませて沈め、二人目の男が殴りかかってきたので避けて背後に回り込む。

 

「あて身」

 

 ドスッと手刀を首筋に叩き込んで失神させ、ここに転がっていても邪魔なので男達の足を束ねて掴んだ。

 ミッション前にいきなり三人を気絶させてしまったが、丁度いいのでこのまま寝ていてもらおう。

 どうせ起きていてもロクな事はすまい。

 

「あ、ありがと、暁美さん。また助けられちゃったね……」

「次からは加藤さんか誰かを見張りに立たせる事ね。警戒心がなさすぎよ」

 

 ほむらは冷たく岸本を睨み、気絶した男を引きずって部屋へと戻った。

 やはり彼女はこの場に向かないのかもしれない。

 前回に一度襲われかけたというのに、何故何の警戒もなくここで着替えて襲われないと思うのか。

 脳に行くべき栄養が全て胸に行っているとしか思えない。

 これは彼女の無思慮さに対する呆れである。断じて嫉妬ではない。垂れろ。

 部屋に戻ると全員が驚愕の顔でほむらを出迎え、特に暴走族のリーダーと思われる男は激しい動揺を見せた。

 

「こ、康介! 信介、春哉! このガキ、そいつらに何しやがった!?」

「この馬鹿共が岸本さんを襲おうとしていたから黙らせただけよ。

それとも、貴方もこいつらのご同類かしら?」

「……それは……いや、そこまでは俺も……」

 

 ほむらが事実をありのまま述べると、彼はバツの悪そうな顔でそっぽを向いた。

 どうやらリーダーだけあって、少しは他人の事を考える事が出来るらしい。

 ろくでもない人間である事は間違いないが、他の三人よりは大分マシな人物のようだ。

 

「何だ。あの胸がでかいだけの女をわざわざ助けるなんて、お前も偽善者かよ」

「別に……単に気に入らなかっただけよ。これからも出入りする事になる玄関で薄汚い真似をされるのは不愉快だわ」

「なるほど、そりゃそうだ」

 

 西は余程偽善者というか、善人ぶっている人間が嫌いなのだろう。前回も随分加藤を侮辱していたのを覚えている。

 しかし世の中を動かし、秩序を形成しているのは大多数の偽善者だ。

 人間というものが誰でも悪しき性を抱えて生きている事などほむらにとっては今更語られるまでもない事実である。

 しかしだからといって偽善ぶる事さえ止めてしまえば、人はただの獣となり、ここで気絶しているような馬鹿へと成り下がる。

 全員がそうなってしまえば秩序も何もあったものではない。

 その辺りの割り切りが西にはまだ出来ていないのだろう。

 

「その、暁美……ちゃん。そろそろスーツに着替えた方が……」

「その必要はないわ」

「し、しかし……スーツを着ていた方が生存率が上がるのは君も知っているだろう?」

 

 加藤はほむらにもスーツを着用して欲しいようだが、ほむらは今の所必要性を感じてはいなかった。

 前回のねぎ星人が弱すぎただけなのかは分からないが、あの程度ならばスーツなど着なくてもやっていける。

 今のほむらは魔法少女のスペックを持つ超人なのだ。その腕力、脚力、スタミナ、耐久力はスーツを着た人間すら遥かに凌いでいた。

 というか、こんな見知らぬ人間だらけの場所で着替える気はない。

 

「じゃ、じゃあ……計ちゃん」

「それだけど、加藤……どうしよう」

「え?」

「……スーツ……忘れちまった……」

 

 どうやら玄野は前回にスーツを着たまま帰り、そして忘れてきてしまったらしい。

 これは彼、死んだかもしれないわね……などと思いながらほむらは目を閉じて転送されるまでの時間を待った。




【ねぎ星人~田中星人の期間及び、ガンツ作中の経過時間】
原作ではねぎ~田中の間は不明。
ただ、西が死んでから復活するまで半年の期間があり、その間にこなしたミッションの数が5つ(仏像、チビ、かっぺ、ゆびわ+タエ、鬼。ゆびわ星人とタエは同日なので別扱いはしない)だった事から、ミッションの間の空白期間は一月以上と推定される。
ミッションは全部で9つだが(ねぎ、田中、仏像、チビ、かっぺ、ゆびわ+タエ、鬼、ぬらり、ダヴィデ)
初期では15歳だった玄野が最後の方では17歳になっている事から考えても、ミッションが終わってから次のミッションに呼ばれるまでの期間は割と長い。
しかし初期で中学生2年だった西が終盤でも中学生だった事から2年経過はあり得ない。もし2年経過してしまうと西は卒業して高校生になる。
(ただし半年以上死んでいて長期不登校だった事から原級留置になった可能性もゼロではない)
玄野は序盤の時点で誕生日間近であったと考えれば2歳増えていても説明が出来る。
ガンツ全体の時間経過は恐らく一年以上2年未満くらいだと思われる。大体一年半くらい?
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