とあるオタク女の受難(戦姫絶唱シンフォギア編)。 作:SUN'S
風鳴訃堂を殴り飛ばした瞬間、彼女は支えを無くしたように地面へ倒れ伏していた。彼女を抱き上げるように起こすと心臓が有る筈の左胸に穴が出来ていた。
辛うじて呼吸することは出来ているが、彼女の超人的な身体機能でも数分が限界だろう。風鳴訃堂を倒すことを諦めれば救えるかもしれない。だが、彼女は屋敷の奥から出てくる風鳴訃堂を指差していた。
君は、自身の命より世界を選ぶのかッ。
「愚かな女は死んだか…。弦十郎、貴様はどちらを選ぶ?儂と共に日本を守るか?それとも…」
「俺は目の前で女殴られて引き下がれるほど大人じゃねぇんだよッ!」
「やはり、貴様はウツケだ」
甘ったれた言葉を掛けてこようとした風鳴訃堂を怒鳴り、弱々しく呼吸している彼女を抱き上げると殴り合いの衝撃や物が飛んでこない位置まで運んでいき、風鳴訃堂を倒すところを見えるように岩に凭れ掛かるように手の中から降ろし、彼女の流した血の染み着いたワイシャツを脱ぎ捨てる。
「俺がウツケならテメーは屑だろうがッ!」
風鳴訃堂が音速で放った片手刺突を拳を叩き合わせるように受け止め、革靴の爪先で鳩尾を蹴り潰す。一瞬、ほんの一瞬だけだが内臓の圧迫される痛みで身体を硬直させた。
アームドギアを掴む手を脇に挟み込んでがら空きの顔面へと拳を叩き付け、仰け反ろうとした風鳴訃堂を手繰り寄せて頭突きを叩き込む。ペキッと鼻の骨が折れる音が頭蓋骨を通して聞こえてきた。
「ぶぉづぉ!?」
風鳴訃堂は鑪を踏むように後退しようとした瞬間を狙って右の裏拳をがら空きの顔面へと放ち、腕を引き戻す反動を利用して右脇腹へと拳槌を打ち込み。地面を踏み潰すように震脚、地電流を右拳に集束させるイメージで一気に放つッ!!
数ヵ月前、俺が響君に教えた「稲妻を喰らい、雷を握り潰す」ように放つ。これは彼女から教えられた技の中で最強の一撃ッ!!
「これが愛の力だッ!!」
身体に蓄えた地電流を赤い雷撃に変化させ、右拳を伝って風鳴訃堂と風鳴本家を吹き飛ばした。あんな大技を放った代償は大きい。右腕には引き裂けたような無数の傷が出来ている。
「…流石に…キツ…い…な…」
血の滴り落ちる右腕を押さえながらドサッと音を立てて彼女の隣に座り、俯くように眠っている彼女を見詰める。
結局、世界を救うために覚悟してきたのは俺じゃなくて彼女だった。俺は彼女の命と引き換えに覚悟を決めたようなものだ。
そんなものが欲しい訳じゃない。
「……俺は君のことが好きみたいだ……」
ゆっくりと彼女の頬を撫でると耳に掛けられていた髪の毛が手の甲に重なり、死んでいる彼女へと口付けした。次の瞬間、彼女の左胸へと光り輝く六角形の物が吸い込まれていった。
まさか、生き返るのか?
そんな淡い期待を願いながら彼女の胸に耳を押し当てると微かに心臓の脈打つ音が聞こえてきた。
「ははっ、彼女達には感謝しないとな?」