ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜 作:転寝
ちなみに、今回から咲の性格が徐々に明るくなっていく…予定です。
暇潰し程度にでも見てくだされば幸いです。
咲がいろはに過去を語り、いろはが彼女を仲間として受け入れてから三日が経った。
あの後、これといって咲との関係が変化した訳では無かったが彼女はよく笑うようにはなった。積極的とは言わずとも話しかければちゃんと会話はしてくれるし、ももこ達との昼食に咲を誘った事が切っ掛けで彼女達とも交流が生まれていた。虚ろな表情を見せていた彼女はもうどこにもいないと言ってもいいくらいで、いろははそれを嬉しく感じたし自分がやった事は正しいのだと思えた。
ももこ達…特に同じクラスであるレナも魔法少女である事を知った時、咲はかなり驚いていた。なんでも、この町に来る前は魔法少女はあまり見かけなかったのだという。
「この学校ってそんなに魔法少女が多いんですか?」
昼休み、咲も交えていろは達がいつものように弁当を食べていた時、突然咲が訊いてきた。ももこが箸を止めて答える。
「別にこの学校に限った話じゃないけどね」
「じゃあ、神浜にはかなり魔法少女がいるんですね…」
「ま、そうかな。咲ちゃんの住んでた所にはそんなにいなかったの?」
ももこが訊くと、咲は少し考えてから言った。
「多分…あまり他の魔法少女って見た事ありませんでしたし。あ、でも魔女が見える人はいましたよ」
「それは、魔法少女になる素質を持った子って事?」
咲はふるふると首を振る。
「あ、いえ、そうではなくて…えっと、その人…男の人なんです」
一瞬、奇妙な静寂が辺りを覆った。
男の人?魔法少女じゃなくて?
「は、はぁ!?それって何、霊能力者とかそういう類のヤツって事?」
レナが皆の心中を代弁する。
「普通の人だよ。ただ魔女とか使い魔とかキュウべぇが見えるだけの…」
「それ、普通の人とは言えない気がするけど…」
かえでのツッコミに皆が同意した。
「でも、そんな人がいるんだね…」
「優しい人だよ。わたしを助けてくれたし、色々アドバイスもしてくれた…魔女の結界に入っても動じないし、変といえば変な人だけど…でも、良い人なんだ」
語っているうちに咲の声が熱を帯びてきた…ような気がして、いろははおやっと思った。隣にいるレナも彼女の様子に気付いたのか少しニヤっとしている。
「そっか…そんな人なら一度会ってみたいな」
少し興味が湧いてきた。咲がそこまで慕っている人とはどんな人なのだろうという好奇心もあったし、何より魔女が見える男の人なんて聞いた事が無い。
それから話題は彼がどんな人物なのかという話になり、(恐らく無自覚に)熱を込めて語る咲の様子を微笑ましく思いながら弁当を食べる。
こうして、以前より少し賑やかになった昼休みは穏やかに過ぎていった。
* * *
「咲ちゃん、ちょっといい?」
放課後、帰ろうとしていた咲をいろはが呼び止めた。
「どうしたの?」
今日は…というか今日も用事は無い。部活には入らない事にしているし、魔女が出なければいつも通り帰ろうと思っていた。
「これから時間ある?」
「うん、特に用事はないけど…」
いろはの顔が輝いた。
「じゃあさ、『調整屋』に行かない?」
「ちょうせいや…?」
何を調整するのだろう?咲が首を傾げていると、いろはが説明してくれた。
「調整屋は魔力の強化や魔法少女の紹介をしてくれる所だよ。神浜の魔女って強いから、皆調整屋で調整を受けて戦うの」
「そんなことが…」
魔力の強化というのがよく分からなかったが、自分はこれから神浜で戦っていく身だ。行っておいて損はないだろう。
「どうかな?」
「うん、行ってみたいな」
咲は答えて、鞄を手に持ち立ち上がった。
* * *
学校からかなり歩いて、人の気配がまるで無い廃墟に辿り着いた。いろはの話ではこの奥に調整屋があるとの事だが…。
「こんな所にあるの…?」
「うん。調整屋さん…
「へぇー…」
戦えないが他人を強化できる魔法少女?
ますますどんな人なのか分からなくなった。
いろはは慣れたように奥へと進んでいき、咲も廃墟のガラクタにつまづいて転びそうになりながらも着いていく。
やがて奥に着いた。壁のステンドグラスが幻想的な雰囲気を醸し出すその場所には1人の魔法少女らしき人が居た。彼女が調整屋なのだろう。此方に気づき、笑顔で招き入れてくれる。
「あらぁ、いろはちゃんじゃない。いらっしゃぁい」
「みたまさん、こんにちは」
間延びしたような口調が特徴的な彼女は咲を見て、「この子は?」と訊いてきた。
「琴音咲ちゃん。最近引越してきたんです」
「ど、どうもはじめまして…琴音咲です」
咲はやや緊張しながら挨拶をした。
「咲ちゃんね。わたしは八雲みたま。調整屋よ。よろしくねぇ〜」
みたまは咲の手を握ってきた。ほんわかとした人だなと思う。
「調整の事は聞いてるかしら?」
「はい、いろはちゃんに教えてもらいました。魔力の強化や魔法少女の紹介をしてくれる場所だって…あの、本当にそんな事が?」
「一度体験してみたらビックリすると思うわよ〜」
にわかには信じがたかったが、自分は一度、神浜の使い魔に手痛くやられている。今後もああいったものと戦う事になるなら、調整というものを受けてみてもいいかもしれない。そう改めて思い、「お願いします」と言った。
するとみたまは意地悪そうな笑みを浮かべて、
「調整をするのはもちろん構わないけど、お代は持ってるのかしら?」
お代。その言葉に咲は固まった。
自分の財布にはいくらかの現金はあるが、中学生の持つそれなんてたかが知れている。調整の相場というのが分からない以上、気安く頼むべきでは無いのでは?
一瞬にしてそんな考えが過ぎり、咲は狼狽する。
その時いろはが言った。
「私が払いますよ」
「えっ…」
「いろはちゃんが?それでいいの?」
みたまが笑みを崩さずに訊ねる。いろはは頷いてスカートのポケットからグリーフシードを取り出してみたまに渡した。
「どうも〜♪」
みたまは満面の笑みを浮かべてグリーフシードを受け取った。それを呆けた様に見ていた咲はハッとなり、慌てて言う。
「そ、そんな!わたしなんかのために…」
「咲ちゃんもこれから神浜の一員。困っていたら助けるのは当たり前だよ。それにこれはささやかなお祝いの気持ち。これくらいやっても…いいよね?」
いろはの微笑みが咲の心をじんわりと温かいもので埋めていく。だけど同時に微かな罪悪感も感じた。だから咲は言った。
「ありがとう…でも、今度いろはちゃんが困ってたらわたしが助けになる。この恩はその時に絶対に返すよ」
「……うん。分かった」
それを見ていたみたまがパンと手を叩いて言った。
「うんうん、いい話ねぇ〜…じゃあとりあえず、始めましょうか」
「あ、はい。よろしくお願いします!」
緊張感が沸き上がり、思わず勢い良く頭を下げてしまった咲を安心させるように微笑み、みたまはとんでもない事を言った。
「じゃあ、服は脱いでそこの籠に入れてね〜♪」
……場の空気が九割ほど凍り付いた。残りの一割は沸騰したのかもしれないが。いや、そんな事より…。
「服…脱ぐんですか!?」
確かに近くにある寝台の脇には荷物入れらしき籠があるが…やっぱり手術みたいなものなのだろうか。
暫く思考が停止していた咲だったが、やがてぎこちなく周りを見渡し始めた。
此処に居るのはいろはとみたまだけ。施術中に誰か入ってくるかもしれないが、流石に男性ということは無い…筈。
…当たり前の事だが、恥ずかしくはある。でも、調整を受けないと神浜ではやっていけないのかもしれない。なら…。
まだ半分ほど思考が停止したまま、咲の手が制服のリボンに伸び…するりと抜きとった。
「…あら?」
みたまが驚いた様に目を見開き、いろはに至っては絶句している。
自分が何をしているのかが良く解らないまま、制服に手をかけ―
「ちょ、ちょっと咲ちゃん!?」
我に返ったらしきいろはが慌てて咲を止めた。
「みたまさんはソウルジェムを弄るだけだよ!服を脱ぐ必要はないよ!?」
「あ……………え?」
そこで漸く思考が回復した。咲は自分がやろうとしていた事に気付き、今更ながら真っ赤になる。
「わ、わわわ………っ」
かなりテンパっているらしく、言葉がうまく出ない。
「み た ま さ ん ?」
「分かった、分かったからいろはちゃん!顔が笑ってないわよぉ!?」
…後から聞いた話だが、いろはも初めて調整屋に来た時に同じ目に遭っていたらしい。どうやら八雲みたまという魔法少女は人をからかうのが好きなようだ。でもそれで調整への緊張感が吹っ飛んだのもまた事実なのだった。
調整は次回に持ち越しになりました…。