ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜 作:転寝
魔法少女。
悪しき魔女から人々を守るために、日夜戦う存在。
願いの成就と引き換えに課せられた使命を果たすために、少女達は今日も戦っている。
*
とある魔女の結界では、今まさに一つの戦闘が終わろうとしていた。
「やあっ!」
気合の声と共に、八分音符の形をした魔力の弾が魔女に直撃した。
「~~~~~~~~~~~~!?」
至近距離からの攻撃に悲鳴とも咆哮ともつかない声を上げ、魔女が怯む。
魔力弾を放った少女はすぐさま距離を取り、手に持った指揮棒を構え、魔力を溜め始めた。
その後ろから使い魔が攻撃を仕掛けてきた。少女は慌てて後ろを向くがすでに遅い。その攻撃が少女に直撃する―前に、突如として光の矢が使い魔に直撃。悲鳴を上げる間も無く、使い魔は消滅した。
クロスボウを構えた少女が指揮棒の少女の隣にふわりと着地する。
「大丈夫!?」
「うん。ありがとう!」
指揮棒の少女―琴音咲はクロスボウの少女―環いろはに微笑み、それからまた魔女を見据える。
「いろはちゃん、魔力が溜まったら…」
「うん、コネクトで決めよう」
魔力はまだ溜まらない。その間、いろはは魔女が動かないように攻撃を加えていた。
この魔女はあまり強くないものの、耐久力だけはあるらしくやたらとタフだった。通常の攻撃では倒せそうにない。
然し、調整を受けた魔法少女にはコネクトという合体技が使用できるのでそれで倒そうという作戦を取っていた。
そういえば先程から使い魔の姿が見えない。集中して魔力を溜められるので良い事ではあるのだが、一体どこに行ったのだろう?
「使い魔ならももこさんが引き付けてくれているよ」
咲の思考を読んだかのようにいろはが言った。
「ももこさんが…」
今日はレナとかえでは居ない。レナは委員会で、かえでは家庭菜園の堆肥を買いに行っているとの事だった。それでいろはとももこと共に下校していたのだが、その時に偶々魔女の結界を見つけて入ったという訳である。
咲は今回が調整後初の戦闘である。以前神浜の魔法少女に手痛くやられていた事もあり、かなり緊張していた。自分の固有魔法―「沈静」の魔法―で無理やり緊張を鎮めたが、それでも恐怖は消えない。
だが、自分は一人じゃないのだ。自分には信頼できる仲間が居る。それで、恐怖は少し薄れた。
今は、自分に出来る事をやるだけだ。
「溜まった…!」
気付くと、魔力は最大限溜まっていた。
「いろはちゃん!」
叫ぶと、魔女に攻撃を加えていたいろはが頷き、攻撃を一時中断した。
それを待っていたかのように魔女が動き、攻撃してきた。
範囲は狭いが強力な攻撃。当たればひとたまりもない。
大きく後方に跳んでそれを回避し、いろはと手を合わせる。
コネクト…咲が溜めた魔力を、そのままいろはへと送る。
いろはが構える。
そして…
「いっけええええっ!」
クレッシェンドの形状の矢が撃ち上がり、魔女に命中する。
魔女は血を撒き散らしながら倒れ…消滅した。
*
「ふたりとも、大丈夫か!?」
結界が消えると、やや遠くにいた魔法少女―十咎ももこが駆け寄ってきた。
「はい、何とか…」
「私も大丈夫です」
結界が消えて安堵し、思わずその場にへたり込む。
「はぁ…」
深く息を吸い込み、自分が生きている事を確かめた。
「咲ちゃん、お疲れ様」
いろはが笑顔で言った。自分はこんなに疲れているのに…いろはとももこは平然としている。これが場数の差というものなのか。
「ありがとう…」
差し出された手に掴まり、立ち上がる。
「よく頑張ったな。あの魔女硬かったろ?」
「はい。でもコネクトが上手くいって良かったです」
「そうだね、戦い方もちゃんとしてるし、いいんじゃないかな?」
いろはの言葉に咲は少し照れながら言った。
「前の町では一人で戦う事が多かったから…でも、いろはちゃんとももこさんが居て安心できたよ」
「安心できた…か、それなら良かった。そういえば、咲ちゃんの固有魔法って…」
「あ、わたしの固有魔法は沈静です。落ち着いた判断が出来るようにする…みたいな」
「なるほどね。応用次第ではいろんな事に使えそうな魔法だな…」
「ですね…」
咲が何気無く携帯端末を見ると、もうかなり遅い時間だった。
「お母さんに怒られる…」
連絡は入れていないから今頃心配しているだろう。少々青褪めながら咲が呟くと、ももこが苦笑いしながら、
「アタシらの事はいいから、先に行きな」
「すいません…」
グリーフシードはいいですからと言ってから一礼し、咲は急いで帰っていった。
咲の姿が完全に見えなくなるまで手を振った後、ももこが手の中にあるグリーフシードを見ながら物憂げに呟いた。
「グリーフシードはいいですから、か…」
「ももこさん?」
「いろはちゃん、咲ちゃんはまだ知らないんだよな。魔法少女の真実は…」
「はい…この前みかづき荘に来てくれた時も、話し辛くて…」
「いつかは、言わなきゃだよな…」
「はい…手遅れになる前に、言わないと…」
―
夜の帳がゆっくりと下りる中、二つの影は、ぼんやりと佇んでいた。
*
帰宅して直ぐ母親に小言を言われ、少々げんなりしながら、琴音咲は自室で携帯端末を弄っていた。
メッセージアプリを立ち上げ、小説家の青年にメッセージを送る。これまでの事、そして神浜で出来た仲間の事を…。
直ぐにリプライが返ってきた。この返信スピードから察するに執筆に飽きて端末を弄っていたのだろう。メッセージの内容は至ってシンプルなものだった。
『よかったね』
相変わらずだなと少し苦笑する。いつか、彼にも自分の仲間を紹介したいと思いながら返事を打った。
『はい!ここから、前に進んでいきます…皆と、一緒に!』
―わたしの物語は、ここから始まるんだ。
*
〇〇県、冬天市。
市内に所在するとあるアパートの一室で、小説家志望の青年は携帯端末を弄っていた。
咲が推測した通り、執筆に飽きて端末を弄っている訳だが…その口元は僅かに綻んでいた。
琴音咲が、無事に仲間を見つけた。それに喜んでいるのだ。
最初に咲の過去を聞いた時、彼女はとても暗い目をしていた。
だけど、自分ではそこから咲を救えない…それは分かっていたから、あくまでも知り合いとして接する事にしていた。
もし彼女を救えるとしたら、同じ魔法少女だけだと思っていた。だから心から良かったと思った。
然し、神浜か…。
一度行ってみてもいいかもしれない。神浜には自分の友人もいるし、どんな所なのか確かめてみたかった。
とはいえ自分一人では無謀だろう。彼処の魔女は強いと聞いている。魔女が見えるだけの自分だけでは直ぐ餌にされるのがオチだ。
…あまり気は進まないが、「彼女」に頼むしかない。
そう決めて、青年は端末で電話を掛けた。
「…もしもし、
*
…時は少し遡り、咲達が魔女と戦っている頃。
神浜の某所にて、それは起きていた。
「が…ぁっ」
薄暗い場所に、苦悶の声が響き渡る。
「だから言ったじゃないか。あたしはアンタらとは行動しないって。ただそれだけなのに襲いかかってきてさ…アンタがあたしにかなう訳ないだろ」
「き…さま…」
二人の人間が居た。
一人は黒いロープを纏った少女。ボロボロの状態で床に倒れている。
もう一人は姿が分からないが、声色から女性…それも少女だと分かる。
「アンタらマギウスの翼の黒羽根は弱者の集まり、烏合の衆だ。そんなのが束になっても環いろは所か、あたしだって殺せないよ」
「貴様だって…黒羽根だろう…」
「元黒羽根ね。それに、あたしは白羽根になる気は無かったし。アンタらみたいな出来損ないを率いてもつまらないだろう?」
黒羽根と呼ばれた少女は必死に起き上がろうとするが、もう一人の少女が背中を踏み付けてそれを阻止する。かなり力を入れて踏み付けているらしい。黒羽根は呻きながら、少量の血を吐いた。
「まあいいや。アンタと遊ぶのも飽きたし。別に殺してもいいけど、それはやめよう。アンタにはあたしの元で
「何を…」
「言うより体験してもらった方が早いからね…」
そう言うなり、少女は手に持っていた物を黒羽根に振り下ろした。
肉を裂く生々しい音と絶叫の二重奏がひとしきり続いて、不意に静かになる。
「じゃあ、まずはその辺に居る魔女をあんたのお仲間と狩ってきなよ。それで帰ってきたらまた次の
少女は軽い口調で言った。
黒羽根は暫く床で痙攣していたが、やがてふらりと立ち上がり、血を流しながら何処かへと去っていった。
「やっぱり、この力は本物だ…これなら…」
―理想のセカイを作る事が出来る。
闇の中で、少女は嗤った。
*
幾つかの思惑が神浜に集い始めている。
この物語は、次第にその思惑に翻弄されていく事になる。
だけど、それはもう少し後の事。
琴音咲の物語は…まだ始まったばかりだ。
これにて、「ある少女の物語」第一章は終了となります。
元々これが最終回の予定でしたが(構想時は長く続けるつもりは無かった)不思議な事に、まだまだ続きます。
大して面白くも無く、つまらない駄文であるとは思いますが、一応完結を目標にしているので書き続けます。最終回を迎えた時に読者が一人も居ないという事態にならないようにしたいな…。
とはいえ、次回以降更に迷走していく予定なのでどうなるかは分かりませんが…。
次回から第二章…の前にとある方とのコラボ(短期連載ものにする予定です)を挟みたいと思います。
漸く一歩を踏み出せた咲の物語をこれからも見守って下されば幸いです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!