ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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第二章のプロローグです。


第2章「宿命に抗う物語」
表裏の交錯


「運命なんてな、金魚すくいの網より薄くて、簡単に破れるもんだってことを覚えておけよ!」

 

――――前原圭一(『ひぐらしのなく頃に』)

 

 

 光り輝く満月が、夜空にぽっかりと浮かんでいる。

 黒一色の空の中でその部分だけがまるで絶望の中で抗う人間の様に異様に明るかった。   

 月だけでない。星もまた、微細な輝きでありながらも夜空にその光を浮かび上がらせている。

 だが…暫くすると、月は雲に覆い隠され、空は黒に染まった。いつの間にか星もその全てが雲に隠れてしまっている。

 その後、夜の間は空に光が浮かび上がることは無かった。

 

 

 和泉十七夜(いずみかなぎ)は夜道を歩いていた。

 バイトの帰りでそれなりに疲れてはいるが今日は給料日だったので心中は晴れ晴れとしている。早く家に帰ろうと思い、自然と早足になった。

 十七夜が住む大東区は神浜市の中でも特に治安が悪い場所として知られている。実際夜になると何やら怪しい活動をしている連中もちらほら見られ、夜に出歩く一般人は余りいない。

 それでも時々擦れ違う人はいる。今も、数メートル先に人影が見えた。

 気にせず歩き、擦れ違う…瞬間、人影から低い囁きが聞こえた。

「和泉十七夜だな?」

「………!」

 その人物は、黒いローブを纏っていた。十七夜はその姿を嫌という程見ている。

「黒羽根か…」

 黒羽根は無言で十七夜に迫る。()()()()()()()()に異を唱える黒羽根は少なくない。そのうちの一人かと十七夜は思ったが…。

「質問に答えろ。和泉十七夜だな?」

「…だったら、どうするというのだ?」

「……消す」

 黒羽根が呟く様に言った瞬間、十七夜は魔法少女姿に変身してその場に屈んだ。

 一拍置いて、先程まで十七夜が居た場所に銀色の閃光が瞬いた。

(首筋を狙ってきたか…)

 十七夜は武器である乗馬鞭を構え、相手から距離を置く。

 

 ―次の瞬間、両者は同時に動いた。

 

 黒羽根は得物であるダガーを突き出し、十七夜のソウルジェムを狙って突進した。十七夜はそれに反応する様に動き、首を傾けてダガーを躱してから擦れ違いざまに乗馬鞭を振るい、相手の首筋に強力な一撃を叩き込んだ。

 戦力差は歴然だ。ベテランである十七夜に黒羽根が適う筈も無く、黒羽根はそのまま崩れ落ちる―筈だった。

 やれやれと呟いた十七夜は相手が倒れているのを確認しようと振り返ったが…その時には黒羽根は既に十七夜の懐へと入っていた。

「……ッ!」

 バックステップで距離を取ろうとする十七夜だったが、相手は直ぐに距離を詰め、ダガーを振るう。

 乗馬鞭は殆ど密着状態の戦闘には向いていない。防戦一方のまま、時折頬や首を掠る斬撃に冷や汗が流れる。それと同時に、彼女の言いなりになればいいという強い誘惑を感じた。相手の固有魔法かなにかだろう。十七夜はそれを精神力で跳ね除けた。

 蹴りを入れようともしたが、相手はいつの間にか両手にダガーを持っており、的確にガードしてくる。相手はかなり戦い慣れている様だ。此処はただ道が広がっているだけで、建物や街頭等も少ない。読心を行おうにも攻撃が激し過ぎてその暇さえない。

 死ぬつもりは毛頭ないが、このままだと体力が尽きるだろう。

(このままではまずいな…)

 

 その時、十七夜は()()に気付いた。

(なんだ…?)

 何かが唸るような重低音が此方に接近してくる。次いで、強い光が二人を照らした。

『!?』

 二人は同時に飛び退こうとするが…その瞬間、化け物の様なバイクが高速で滑り込んで来て、黒羽根を勢い良く轢いた。

 黒羽根はボールの様に高く飛び…数十メートル程吹っ飛ばされたあと地面にゴミの様に落下した。そしてそのまま動かなくなる。

 あまりにも突然すぎる光景に十七夜が絶句していると、先程黒羽根を轢いたバイクから一人の少女が降りてきた。

 深い青色のバイクスーツのスレンダーな少女。首元にはこれまた深い青のスカーフを巻いている。

 その少女は十七夜を一瞥し、言った。

「あなた、魔法少女?」

「そうだが…それでは、君もか」

 少女は頷いた。

水無月霜華(みなつきそうか)。覚えなくていい」

「和泉十七夜だ。助力感謝する」

 十七夜は緊張感が消えない顔のまま黒羽根が吹っ飛ばされた方を見る。彼女は既に消えていた。逃げたのかもしれない。

「…さっきのは?」

「話すと長くなるが…敵…とも言えるし味方ともいえる」

「そう」

 霜華は興味無さそうに頷き、再びバイクに跨る。

「……もしあなたが本当に私に感謝しているのなら」

「…?」

 霜華の口が動いた。だが言葉は聞こえない。エンジンが掛かったバイクの轟音に遮られたからだ。

 そしてそのまま彼女は走り去っていった。

 十七夜は暫くそれを見詰めてから、先程の霜華の口の動きを頭の中で再現した。

 彼女は確かにこう言っていた。

 

 

 

 ―私を満足させて…そして、殺して。

 

 

 先程霜華のバイクに吹っ飛ばされた黒羽根は不機嫌そうに歩いていた。ローブはボロボロだったが、傷は既に癒えている様だった。

 やがて、彼女の行く手にもう一人魔法少女が現れる。紫色のローブを着たその姿を見て黒羽根はより一層不機嫌そうに口を結んだ。

「どうだった?和泉十七夜は」

「……途中で邪魔が入った。アイツさえ居なければ殺れていた」

「へぇ…勝算はあったんだ。魔法を使って支配しちゃえば良かったじゃないか」

「何度かしようとしたさ。だがヤツの精神力に跳ね除けられた」

「それはそれは…よっぽど心が強いんだ」

 感嘆したように言う紫ローブの魔法少女を睨み、黒羽根はまた歩き出した。

「…行くぞ、かかし」

「はいはい」

 かかしと呼ばれた魔法少女もまた、黒羽根に付いて歩いて行く。

 やがて二人は暗闇の中に消えていった。

 

 

 

 

 その後、和泉十七夜は自分が戦った謎の黒羽根の事を仲間に伝えるのだが、それはまた別の話である。




戦闘シーン難しい…。
十七夜の言葉遣い等、間違っていたらごめんなさい。
尚、今回出てきた黒羽根は一章ラストで出てきた元黒羽根の魔法少女です。黒羽根を辞めた今も時折ローブを着て行動しているという設定となります。
今回本格的に登場した水無月霜華さんは矢吹風月様が考案した魔法少女となります。この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。
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