ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜 作:転寝
時は、和泉十七夜が黒羽根と戦う二週間前に遡る―。
*
琴音咲は呆れていた。
咲の目の前には二人の少年が居て、一心不乱にラーメンを啜っている。テーブルには他にもチャーハンが置かれているがこれは咲が注文したものだ。
此処は咲の友人である由比鶴乃の実家である中華飯店「万々歳」だ。たまたま訪れたこの場所で昔の知り合いと再会し、何故か自分が彼らの昼食を奢る事になった。目の前の少年達がその知り合いである。因みに客は彼らだけだ。
彼らは咲の後輩で、冬天中学校の吹奏楽部に所属している。そこまで親しい訳でも無かったが、それでも久しぶりの再会で頬が緩んでいた。そこに付け込まれたのだ。
「どう?美味しい?」
鶴乃がカウンターから二人に訊いた。二人のうち眼鏡をかけた方の少年は笑顔で頷き、あとの一人は無視している。
「おいしいです!」
「おお!その気持ちをぜひ点数に!」
鶴乃が目を輝かせながら身を乗り出す。万々歳恒例の格付けチェックみたいなもので、咲も初めて来た時は鶴乃に訊かれた。そして客の回答はだいたい決まっている。
「んー…50点位ですね」
その言葉に鶴乃がガックリと項垂れる。咲はそれを見て苦笑した。鶴乃にダメージを与えたと気付かない少年は首を傾げる。
「やっぱり50点なんだなー」
鶴乃と共にカウンターの中に居た深月フェリシアがニヤっと笑う。フェリシアが万々歳でバイトしていると聞いた時はかなり驚いたがエプロンをしているその姿は意外と似合っている。最も、調理では無く接客担当らしいが。
「あの…何か悪い事言っちゃいましたか…?」
眼鏡を掛けた少年が申し訳なさそうに訊いた。
「んあ?大丈夫だよ。いつものことだ」
フェリシアが言うと彼は複雑そうな表情を浮かべながらラーメンの汁を飲み干した。
彼の名は
「
樹と呼ばれた少年は箸を止め、ボソリと言う。
「………90点」
―万々歳が、一瞬だけ震えた。
『き、90点!?』
鶴乃、フェリシア、咲が声を揃えて叫ぶ。少年は頷き、お冷を一気に飲み干した。これで五杯目だ。
彼の名は
彼は「第二の吹綿秕」と呼ばれている人物で、練習はサボる、片付けはしない、ついでに大会にも出ないという怠惰の塊の様な男だった。実力も低く、正直いって何故吹奏楽部に入ったのか疑問に思う程だったが、彼は他の人とは違う何かを持っていると咲は思っていた。だからこそティンパニを任せたのだ。
噂では、ティンパニを任されてからはサボる事も少なくなったという事だが、目の前の彼を見る限り何も変わっていないようにも思える。
何故小鳥遊と安藤がつるんでいるのかは謎だが、二人は仲が良い。前まではもう一人女の子が居て、三人で行動していたのだが彼女は…もうこの世には居ない。
いや、今はそんな事より―。
「90点って…安藤くん、後の10点は?」
「…家から遠い」
それは当たり前だろ―とその場に居た全員が心の中で突っ込んだ。
「樹は自分が食べれる物なら美味いで済ませますからね…」
小鳥遊が苦笑した。
「じゃあ参考にならねーじゃん!」
「まあ確かに…」
鶴乃は再び項垂れた。然し暫くしてからがばりと身を起こす。
「それでも90点…これを励みに精進だー!」
その時、店の引き戸がガラリと開いて一人の女性が姿を現した。
「食い終わったかい?ガキ共」
「はい、ご馳走様でした!」
「それは咲に言いな」
女性は手をヒラヒラと振る。咲は彼女を睨み付けた。この女性こそ、中学生二人を唆した張本人である。
「
「まあそう言うなって」
「なぁ咲、誰だソイツ?」
フェリシアが訊いた。どうやら来店した時の自己紹介を聞いていなかったらしい。
「…わたしの伯母さん」
「おばって言うな。お姉様と呼べ」
女性も咲を睨み付ける。
「とにかく、わたしは払わないよ!お小遣い少ないんだから」
女性は咲の財布を奪い取り、げんなりした顔になる。
「
「なんで!?というか未来ちゃん仕事は?」
「休みだよ。やーすーみ」
女性はまたヒラヒラと手を振った。安藤以外は口論をする二人を見て呆気にとられている。
…この女性の名は
「休みって…
「シキとヨースケは家に居るよ。アタシはガキ共の引率でここに来たんだ」
「頼んだ覚えは無いんですが…というかなんで知ってるんですか」
小鳥遊がため息を着いて訊いた。因みに洋介というのは未来の夫である凪坂洋介の事で、詩季というのは凪坂夫妻の子供である凪坂詩季の事だ。
「神浜に行くって本屋で話してただろ?それがバッチリ聞こえたんだよ。で、久しぶりに姪の面でも拝みに行くかと思ってな」
「来なくていいよ…小鳥遊くん達もごめんね…」
「あ、いえ!僕達は大丈夫ですけど…」
「メガネもこう言ってるし、大丈夫だろ」
未来はそう言って、伸びをする。メガネって呼ばないで下さいと小鳥遊が言ったがそれは華麗にスルーされた。
「食い終わったなら帰るぞガキ共。
その言葉を聞いた途端今までお冷を飲んでいた安藤が立ち上がり、カウンターに千円札を叩きつけた。
「ふぉっ!?」
いきなりの事で驚く鶴乃だったが、直ぐにレジスターに札を入れ、安藤にお釣りを渡す。次いで小鳥遊も鶴乃に千円札を渡してお釣りを受け取った。
「渚ちゃんの命日、明日だよね?」
「僕達明日は忙しいので。帰ったら墓参りに行かなきゃなんです」
友達ですからね―そう言った小鳥遊の表情は寂しげだった。
渚というのはかつて小鳥遊達と一緒にいた女子―
後で判明した事だが、渚は咲より前に魔法少女になっており、魔女との戦いの末に死亡したとの事だった。死体で残ったのは頭部のみ。警察は殺人の線で原因を調べていたが真犯人が見つかるはずも無く、麻薬でイカれたバカが(架空の)犯行を自供したのでソイツを捕まえて事件は終息した。勿論安藤達は本当の死因を知らないし、真実を伝えても信じないだろう。
今も、彼らの中で渚の死は不明瞭なもののままなのだ。
一同は黙り込む。そんな雰囲気を打破するかのように未来がぶっきらぼうに言った。
「金払ったなら行くぞ。咲、麻紀にもっと小遣い貰えよ」
「これ以上は貰えないよ…じゃあ、小鳥遊くん達…またね」
「はい、さようなら!」
小鳥遊が手を振り、未来に続いて店を出る。安藤も立ち上がり、出口へと向かう直前にボソリと呟いた。
「…その指輪」
「…え?」
「店員も同じ指輪を付けている。なんなんだ?それは」
指輪―ソウルジェムの指輪の事だ。
「えっと…」
咲が答えあぐねていると、安藤は興味を失ったのかそのまま店を出た。
ありがとうございましたーという鶴乃の声ががらんどうの店内によく響いた。
*
「いやぁ、咲ちゃんの伯母さんって凄い人だねー!」
「あはは…普段はああだけど意外と優しいんですよ」
三人が去った後、咲はチャーハンを食べ終えて会計を済ませ、鶴乃達と談笑していた。
その時引き戸が開き、桃色の髪の少女が姿を見せた。
「こんにちはー」
「おお!いろはちゃん!」
少女―環いろはは咲達に微笑むと後ろを向いて、席は空いてますよと言った。
「なんだ、客を連れてきたのか?」
フェリシアがいろはに訊いた。いろはは頷く。
そして姿を見せたのは―。
「おー、ここが万々歳か!」
「みたいだね…ん?」
姿を見せたのは二人の男性だった。一人は今時の若者といった感じの男、もう一人は…。
「あ…」
咲は彼を見て言葉を失った。彼も驚いた様に咲を見ている。
「琴音君…久しぶりだね」
「…はい、お久しぶりです」
柔和そうな顔の青年…彼は咲の恩人である小説家志望の青年その人だった。
「え?二人は知り合いなの?」
「なんだセージ、知り合いなのかよ?」
いろはと今時の若者風の男が驚いて言った。その言葉に彼が我に帰り、鶴乃、フェリシア、そしていろはを見る。
「そうか…この子達が君が言っていた友達か…」
青年は納得した様子で何度も頷く。周りは状況を把握出来ていない様だった。
「じゃあ…自己紹介しないとだね」
青年は咲をちらりと見て、それから全体をぐるりと見渡して言った。
「僕は
前半に出てきた安藤、小鳥遊、未来の三人はこの後もちらほらと登場する予定の所謂脇役キャラとなります。渚が魔女に殺された話はそのうち本編で詳しくやる事になる…筈です。
最初は森岡だけを登場させるつもりだったのにオリキャラ大量投入回となってしまった…。