ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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戦闘シーンです。
グロ表現や陰惨な表現など、人によっては不快に思う内容が含まれております。予めご了承下さい。


邂逅の契機

 真実は、時に人を鈍らせる。

 真実はいつだって過酷なものだという言い回しがあるが、それは真実にある種の「恐怖」が付き纏うからである。真実を知った事による衝撃が恐怖に転換するから「過酷」なのだ。

 そして琴音咲は、今正にそれを実感していた。

 

 

 始まりは、親に頼まれたお使いだった。

 それを渋々といった感じで済ませようとして町中を歩いていると、不意にソウルジェムが魔女の気配を察知した。すぐ近くに魔女が居る。

 咲が魔法少女の真実を知ってから数日が経ち、流石に落ち着いたとはいえ真実を知ってしまった後では足が竦む。元々魔女退治は命懸けであり、咲自身も窮地に立たされた事は何度もある。

 然し―魔法少女としての正義感がそれを一蹴した。

 咲は自然と魔法少女姿に変身し、結界を見つけて侵入した。

 

 そして今。咲は早くも魔女の結界に入った事を後悔していた。

 目の前に居るバケモノ―「魔女」が、いつ自分の魂を砕くか分からない。たまたま当たった攻撃が、自分の命を奪うかもしれない…そう考えると、身体が震え、足が竦み、動かなくなる。

 そもそも魔女の外見が醜悪だった。何やら触手じみた無数の手足がうねうねと動き、その中心には腐食した何らかの生き物の顔がある。昔読んだファンタジー小説の中にもこんな感じのバケモノの描写が(何故か挿絵付きで)あったがここまで醜悪では無かった。

 使い魔は何故か居なかったが、それならそれで有難い。生理的嫌悪感を堪えつつ、咲は魔女と相対する。心中で「運が無い」と嘆きながら…。

 親がお使いを頼まなければ、その途中で魔女の気配を察知しなければ…こんなバケモノと戦う事も無かったかもしれない。

 然し魔女を放っておく事が出来ず、自分一人だけで無謀だと思いながらも結界に入った。その結果がこれだ。

 勿論周りに他の魔法少女は居ない。一人でやるしかない…幸い相手の動きは余り早くないらしい。矢継ぎ早に攻撃を繰り出せば、自分一人でも倒せるかもしれない。

 

 咲は早速攻撃を仕掛けた。魔力を溜め、それを音符の形をした複数の魔力弾として解き放つ。

 然し魔力弾は相手の本体(と思われる腐食した部分)に直撃する―直前で触手に遮られた。確かに動きは遅かったが、触手の数が多過ぎる。これでは攻撃が届かないではないか。

 咲の顔に焦燥が滲む。魔女が何故か攻撃してこない事を不審に思いながら只管魔力弾を撃ち込むが効き目は薄い。

 ならば―大きく距離を取って、魔力を溜める事に集中する。限界まで魔力を溜めて、何処か一点に放つのだ。複数の小さな魔力弾ではダメージが薄い。なら大きな魔力弾を放てばいけるかもしれない。どの道咲に残されているのはこの方法しかない。

 やがて、魔力が溜まりきった。大きく跳躍してそれを放つ。

「いっけええええっ!」

 巨大な八分音符の形状をした魔力弾が触手と激突した。今度は弾かれる事無く、寧ろ触手を引きちぎりながら進み、本体にクリーンヒットした。

(やった!)

 咲は心中で快哉を叫ぶ。かなりのダメージを与えられたのではないだろうか。

 然し。

 

「え…」

 

 脚に違和感を覚え、見ると先程切り落とされた触手が独りでに動いて脚に絡みついていた。

「………!」

 喉元まで出かかった悲鳴を辛うじて呑み込む。

 切り落とされた触手には先程までは無かった筈の目玉が付いていて…混乱する思考の中、ひとつの事実に思い当たった。

(()()()使()()()()()()…!)

 腐食した部分が魔女の本体で、触手は武器だと思っていたが…違った。触手は本体を守る使い魔だったのだ。

 つまり攻撃しなければ使い魔が分裂する事も無い。そうすると本体を討伐するのが難しいのだが…とりあえず使い魔は魔女を守るだけとなる。攻撃して来ないのも使い魔の習性故だろう。

 だが、触手を切り落としたならば、魔女を守るという役目を失った使い魔はどうなるか―その答えが、今の状況だ。

 沢山の触手が咲にまとわりつき、動きを封じて嫌という程身体を締め上げてくる。

「ぁうっ…ぐっ…この…!」

 藻掻くが、拘束は緩まない。身体が軋み、骨が砕けていく音が響き渡る。それと同時に耐え難い激痛が身体を駆け巡る。

「ああああああああぁぁぁっ!」

 魔法少女はソウルジェムを破壊されると死ぬ。裏を返せばソウルジェムを破壊されない限り死ぬ事は出来ないという事で…こんな拷問じみた時間が、いつまでも続く…死への恐怖よりその事に対する恐怖が勝った。

 

「……いや…嫌あああああああああああっ!」

 

 ―嫌だ。死にたくない。痛いのは嫌だ。何もかもが…嫌だ。

 

 涙と涎で顔を汚しながら、咲は只管喚いて叫んだ。言葉にならない言葉を撒き散らした。

 それを五月蝿いと思った訳では無いだろうが、使い魔の触手が首を締めた。

「ぁ……がァッ…」

 視界が明滅し、重苦しい闇が咲を覆っていく。

 首を絞められたからか、地面には自分が漏らしたと思わしき尿が水溜りを作っていた。それを恥じる余裕も―今は無いが。

 

 

 …自分はここで死ぬのか。

 仲間と歩いていくという誓いを立てたばかりなのに。それを果たせずに、自分は…。

 …せめて、ドッペルが出せればと思う。自分のソウルジェムは濁っている筈だ。ドッペルを放出すればこの状況も打開出来るかもしれない。乱用が危険だという事は承知しているが、それ以外に方法がないのもまた事実だった。

 然しあの自分の底に堕ちる様な感覚はやって来ない。それどころか、苦痛で意識が朦朧としてきた。 

 身体が痺れる様な感覚。

 そして―意識は呆気なく暗転した。

 

 

 この後、琴音咲がどうなったのかという事は―実は余り問題では無い。

 彼女はこの後魔女に喰われ、死を遂げた…ここまでの描写を見る限りはそう思うだろう。

 然し、結論から言うと彼女は助かった。運が良かったというべきか…この魔女の結界を偶然発見し、主である魔女を討伐しようとした魔法少女によって助けられたのだ。

 その魔法少女というのは環いろはでも七海やちよでも無く、咲とは全く面識が無い人物だった。

 そして彼女はこの物語に決して少なくない影響を齎す事になる人物でもある。

 

 

 その魔法少女の名は― 生方夏々子(うぶかななこ)

 琴音咲にとっては、敵にも味方にもなりうる「中立」の魔法少女である。




今回のラストに名前だけ登場した生方夏々子さんはhidon氏が考案したキャラクターです。次回大活躍する予定なのでお楽しみに。(実は2章のプロローグで既に出ていたりしますがそこは後程…)

さて、久しぶりの戦闘シーンでしたが如何でしたでしょうか?
リアリティを出そうとした結果があの戦闘シーンでしたが…今後もこういった描写が増える…かも。
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