ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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物語は静かに動き出す

 琴音咲が魔女に殺されかかっていた丁度その頃。

 生方夏々子は街中を当てもなく歩いていた。

 暇であるという訳ではなく、相棒とはぐれたのである。といっても夏々子の相棒は自分勝手で人の事なんか気にしないからこういった事は日常茶飯事である。だから夏々子も特に心配したりはしていなかった。

(とはいえ、独りだと暇ではあるけどね)

 家に帰ってもやる事は無い。かといって外に居ても何か興味があるものは見つからなかった。

 

 さて、本当にどうしようか―夏々子がそう考えた時、魔女の気配を察知した。

(いやまあ暇っちゃ暇なんだけど魔女が出てくるのはそれで困るんだよね…)

 夏々子自体はあまり強くない魔法少女である。どちらかというと他人のサポート役が向いていると自覚している彼女にとって、一人での戦闘はかなり大変なものであった。要は面倒臭いのである。

 だが、結界の前まで来た時、そんな気持ちは一瞬にして吹っ飛んだ。

(魔法少女がひとり…殺されかけてる)

 これは良くないな―率直にそう思った。

 だから、結界に飛び込んだ。

 自分が介入した所でどうにもならない事は分かっていたが、それでも見過ごす訳にはいかなかった。

 そういった点で、生方夏々子は「優等生」だと言えるだろう。

 然し、彼女はある面において異常な人間なのだった。

 

 

 結界に入って暫く進むと、その光景が目に入った。

 一人の魔法少女が、何やら触手めいたものにまとわりつかれ、もがき苦しんでいる。意識を失いつつあるのか、動きは次第に緩慢になりつつあった。触手は少女にまとわりつくのに夢中で夏々子には気付いてない様だ。

(ヤバイ…)

 防衛本能が警鐘を鳴らしている。生理的嫌悪感と共に、今少女の身体を貪っている触手のターゲットが自分に変わったらどうなるかを想像してしまい、冷や汗が流れた。

 素早く周りを観察する。無数の触手の向こう側に何やら幾つかの触手がくっ付いた腐食したものが転がっていた。魔力反応を確かめてそれが魔女であると判断する。ではこの触手共は使い魔か。

 魔女は何らかの攻撃を受けたのか死にかけの様だった。ボロボロで血を流しているし、先程から動きもしない。

(あと一発喰らわせれば死ぬだろうな。だけど…)

 この触手の大群をどうやって潜り抜けるか―それが、問題だった。

(ここは一発、占ってみるとしようかね)

 夏々子は武器である水晶を玉の形に変化させ、固有魔法を発動した。

 

 生方夏々子の固有魔法は「風水」である。

 この魔法を使うと矢印が出現し、それが指し示した方角に向かって進めば、最良の結果が得られるというものだ。

 矢印は魔女や魔法少女戦においては対象のどこを狙えばいいかを指し示し、その位置を攻撃すると幸運が得られる。要は相手のウィークポイントを突けるのである。

  基本的に自分の相棒を占って彼女を幸運へと導いている夏々子だったが、魔法少女戦では相手も占うので相棒に睨まれたりする事も多々ある。これは固有魔法というより夏々子自身の問題であり、彼女は対人戦では何があろうと「中立」なのである。

 然し魔女戦ではその限りではない。だから夏々子は自分ともう一人の魔法少女が助かる道筋を占った。

 出現した矢印によると、触手を飛び越える様に跳躍して魔女に攻撃を加えれば良いとの事だった。この魔女は腐食しているからか全身が弱点の様なものらしいので、取り敢えず攻撃すれば良いらしい。

(でもこれ、下手したら触手の海にダイブするぞ…)

 うわあ嫌だと呟いたが、他にいい方法は無い。やるしか無かった。

「ええいままよ!」

 夏々子は助走をつけて自分が跳べる最大の高さまで飛び上がった。そして触手の大群を飛び越えようとしたが勢いが足らずに身体は重力に従って落ちていく。

「ヤバっ!」

 焦る夏々子だったが直ぐに気を取り直して水晶を槍状に変化させ、魔力を込めて魔女の方へとブン投げた。

 槍は魔女を貫き、血飛沫が舞い散る。魔女は痙攣した後、動かなくなった。

 …その一部始終を夏々子は触手にまとわりつかれながら見ていた。あの魔法少女程酷い事にはなっていないが、やっぱり気持ち悪い。魔女が死んだ瞬間触手も消えたのが唯一の救いだった。

 

 

「さて…」

 これからどうしようかと夏々子は考えた。

 目の前では少女が相変わらず倒れている。取り敢えず生きてはいるようだが、状態はあまり良くない。放っておいたらそのうち死ぬだろう。

 やれやれと呟いて、携帯端末を取り出す。そして救急車を呼んだ。

 救急車が来るまでの間、ぐったりとしている少女に魔力を流し込んでみる。単に魔力切れで倒れている可能性も否定出来ないし、もし傷を負っているのならば魔力が多い方が治りが早いからだ。

 それにしても―。

「死にかけるってのは、こういう事か…改めて実感したよ」

 少女の額には脂汗が浮かび、表情は苦しげだ。決して安らかな顔などでは無い。見ると、少女は失禁までしている様だった。…それ程の苦痛と絶望を味わったのだろう。

(一歩間違えたら、アタシがこうなっていた訳か…)

 相棒に救われなかったら、今頃自分はこの世に居なかっただろう。

 だから、相棒の行いを許容しているのだ。殺人という、最低な行いを。

 人を殺すのは悪い事である。そんな事は小学生でも分かるし勿論夏々子も分かっている。なら何故相棒を止めないのか。

 それが、相棒の()()だと考えているからだ。個性が無ければ人格が破綻する。だから、夏々子は咎めない。

 これこそが、生方夏々子の異常性である。彼女はどんな人間でも興味を持つと受け入れてしまう。それが犯罪者だろうと関係無い。極端な話、受け入れた相手に殺されたとしても夏々子はそれを受け入れるだろう。そのくらい度量が広いのだ。中立の立場にいるのもその異常性故である。

 

 

 救急車が来ると、夏々子はどさくさに紛れて同乗した。どうせ暇だし、顛末を見届けようと思ったからである。生き延びるならそれでいいし、死んだらそれでおしまいだ。どちらにせよ、見届けようと思った。

 少女が持っていた学生証から、彼女の名前が琴音咲だと判明した。咲は病院に着いてから直ぐにICU(集中治療室)に運ばれてゆき、思ったより重傷である事に驚いたが取り敢えず待つ事にした。家には連絡を入れてあるので遅くなっても大丈夫ではある。持っていた文庫本を読みながら、咲の回復を待った。

 暫くすると咲の母親が来て、散々お礼を言われた。それに内心辟易していたら医者が出てきて、命に別状は無いと伝えられた。

 それでおしまい。夏々子は咲の母親に「もう遅いから帰った方がいいですよ」と言われ、病院を出た。

 

 

 家に帰る途中、相棒に出くわした。

「どこをうろついていたんだい?」

 夏々子の問いかけに相棒は答えない。だが何をしていたかは察しがついた。

「また殺ったのかい?しょうがないねぇ…」

 大方、マギウスの翼の黒羽根とトラブルになって殺したのだろう。ここ最近は何時もそうだ。

 そんな事が起きているのにも関わらず死体が見つからないのは相棒の固有魔法が関係しているのだが…まあそれはどうでもいい。

「まあいいや。アタシはね…」

 夏々子は自分に今日起こった事を話した。相棒はそれを聞いているのかいないのか、さっさと歩いていく。これもいつも通りの光景である。

「……で、その子…琴音咲っていうんだけど、その琴音さんが…」

 そこまで話した時、夏々子は相棒がこちらを凝視している事に気付いた。琴音咲という名前に反応したらしい。

「琴音…咲だと?」

 相棒の低い声。

「そうだよ。知ってるの?」

 相棒は答えず、ブツブツと呟く。

「…そうか、魔法少女になってたのか…ハッ!これは面白い!」

 夏々子は相棒のこんな様子を見た事がなかった。…こんなに上機嫌なのは初めてだ。

「…かかし」

 不意に、相棒が自分を呼ぶ。

「なんだい?」

「琴音咲の事を調べるぞ」

「いいけど…どうして?」

「決まってるだろ…」

 相棒は此方を振り返った。

 酷く、昏い笑みを見せながら…。

 

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2章も折り返し地点に来ました。
はっきり言って物語の本筋からは少々逸脱している章ではありますが、もう少しだけお付き合い頂ければ幸いです。
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