ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜 作:転寝
精進します。
ちなみに前回の話、レナといろはが同じクラスなのを忘れて書いたため、あんな事になっております。まあレナはソウルジェムに気づかなかったという事で…←おい
放課後になり、いろはは夕陽が射し込む教室を出た。友人達はそれぞれ用事があるらしく急いで帰っていったし、初等部にいる妹も先に授業が終わっているので既に帰っているはずだ。ならば一人でのんびりと帰るのも悪くは無いだろう…そう思いながら学校を出た。見慣れた風景は既に夕陽によって染め上げられていて、何時もながらそれを綺麗だと思った。
外は柔らかな風が吹いていて心地良かった。自然と鼻歌が溢れ出て、そのハミングも柔らかに大気へと溶けていく。無論、気分は最高である。今住んでいる所まではゆっくり歩いても20分程で到着する。それまでこの時間を楽しむ事にした。
だが、それに水を差すようにいろははある気配を感知する。人ならざるもの…魔女の気配だ。すぐさま思考が切り替わり、ソウルジェムの指輪を元の宝石型にしたいろはは魔女を追い始めた。
* * *
やがて、とある路地裏へと辿り着いた。そこは普段不良の溜り場として認知されている場所なのだが、今は人は一人も居ない代わりに魔女の結界の入口があった。
魔女は通常、「結界」という根城に隠れており、魔法少女は結界の中に入り、その結界の主たる魔女を倒している。中には結界を持たない魔女もいるが、それは本当に特殊な例だ。ちなみに結界内に一般人が入り込んでしまった場合、まず助からない。そもそも一般人には魔女や使い魔は視認出来ないからそれは事故や事件として処理されるという訳だ。
念の為、結界内に入る前にもう一度魔力探知を行ってみると、結界内には魔女や使い魔とは異なる魔力がある事が分かった。恐らく他の魔法少女だろう。
一瞬、どうしようか迷った。魔法少女同士でのグリーフシードの取り合い等、様々なトラブルが起こる可能性があるからだ。然し、魔法少女のものと思われる魔力反応は弱く、小さい。苦戦しているのは明らかだった。それを見て迷いが吹き飛んだ。
いろはは魔法少女姿に変身し、結界の中へと入っていった。
結界の中は、一面が砂に覆われていた。遊具が突き刺さり、子供が遊んだ後のような様相を呈している。
(これは…砂場の魔女の結界…)
砂場の魔女―自分が神浜で初めて出逢った魔女だ。当然あの時の魔女とは別個体だろうが、いろはにとっては印象が強い魔女だった。
魔女は結界の奥深くに居るだろうが、結界内に散らばっているはずの使い魔すら居ないのは少々妙だった。もう少し進めば居るかもしれないと思い取り敢えず奥へと進んでみる。
そして、少し歩いた所でその光景を見た。
「あぐっ…」
一人の少女に使い魔が群がり、執拗に攻撃を加えていた。多方向からの攻撃は尽く少女に当たり、その度に苦悶に満ちた声が漏れる。
「………っ!」
いろはの身体が自然に動いた。自分の武器であるクロスボウを構え、使い魔の大群に向けて矢を放つ。それは見事に当たり、使い魔はわらわらと散らばっていく。
「大丈夫!?」
使い魔を牽制するように矢を連続で放ちながら少女に駆け寄ると、彼女はぐったりと倒れていた。燕尾服に包まれた華奢な身体はボロボロで、あちこちに打撲を負っている。だが、見たところ致命傷となる傷はないようでいろはは安堵した。すぐさま治癒の魔法を使って治療してから彼女をおぶさり、結界の入口を目指す。使い魔の追撃が時々頬を掠めて背筋が凍ったがそれでも足を止めず走り続けた。
* * *
結界を脱出したいろはは、近くの公園のベンチに少女を寝かせ、自分は公園内の自動販売機に水を買いに行った。
自動販売機から出てきた水を取って彼女の元へ戻る途中、不意に懐かしさが込み上げた。神浜に来たばかりの頃に砂場の魔女の結界で手痛くやられ、ももこに助けられた事があったのだ。今の状況はまさにその時をなぞっているようだった。
少女の元に戻ると、少女は既に目を覚ましていた。上半身を起こし、少しぼんやりとした目でいろはを見る。
「大丈夫?」
いろはは少女に訊いた。少女は弱々しく頷いてから改めていろはを見て呟くように言った。
「もしかして、同じクラスの…?」
「え…?……あっ!」
…そこで漸く気が付いた。結界内にいたこの少女は、転校生である琴音咲だったのだ。
いろはが買ってきた水を差し出すと咲は驚いた様に目を見開いた。
「いいの?」
「もちろん。その為に買ってきたから」
「……ありがとう」
水を受け取り、一口飲む。それで一息ついた咲は、いろはに頭を下げた。
「助けてくれてありがとう。えっと…」
「環いろはだよ。これからよろしくね…琴音さんは神浜に来たばかりだし、ここの魔女や使い魔ってほかの街のものより強いから」
それを聞いて咲が少し表情を曇らせる。
「やっぱり…使い魔なのに、あんなに強いなんて…」
「私も最初はそう思ったけど、戦ううちに慣れたから琴音さんも慣れると思うよ」
咲は不思議そうにいろはに訊いた。
「最初は…?もしかして環さんも神浜の外から?」
「うん。前は違う町に住んでたけど、今は妹と一緒に下宿してる」
「そうなんだ…」
「だから大丈夫。私もサポートするし、神浜の魔法少女はみんな親切だから」
いろはが笑顔でそう言うと、咲は俯いてぼそりと呟いた。
「………かな」
「え?どうしたの?」
咲は再び繰り返した。
「
「…それは、どういう」
「わたしと一緒に居ると、みんな不幸になるから…」
咲の声は重く、沈むような声だった。表情もどんどん暗くなっていく。
「琴音さん…」
「わたしは一人じゃないといけないんだ。あの人には仲間を作れって言われたけど、そうすればその仲間が悲しむことになる。わたしは、一人じゃなきゃだめなんだ…!」
握りしめた拳、震える言葉。咲は俯きながら、痛みに耐えるかのように顔を歪めていた。
「琴音さん!」
いろはが呼びかけると、咲はゆらりと立ち上がった。その顔は生気を失った亡者のようで、思わず足がすくんだ。
「ありがとう、環さん…わたしは、大丈夫だから。一人でも、頑張れるから…」
そう呟いてからふらつく足取りで公園を出ていく咲を、いろははただ眺める事しか出来なかった。
咲の表情は虚ろで、それがいろはに本能的な恐怖を齎していた。足が動かない。立ち上がることすら出来ない…そんな状況の中で、ただ一つの疑問が頭を駆け巡っていた。
(なぜ、琴音さんはあんな事を…?)
気づくと日は落ちきり、闇が神浜を覆い始めていた。
主人公がいきなりおかしくなりましたがそこら辺は打ち切りにならなければ後ほど明かされていく予定です。ちなみにこの話は一回書き直したもので、(正確に言えば完成したデータを消してしまったから書き直さざるを得なかった)書き直す前はもっと明るい雰囲気でした。…なぜ変わってしまったのか、自分でもよく分かりません。
読了ありがとうございました。