ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜 作:転寝
その後、咲は直ぐに目を覚ました。だがそこに夏々子は居なく、何故かいろは達が自分を介抱してくれていた。
「咲ちゃん…目を覚ましたんだ」
いろはが安堵したように言った。
「わたしは…」
自分がどうなったのか訊こうとした時、それを思い出した。確か自分は固有魔法を暴発させたのだ。然しそこからの記憶が無い。
「琴音さん、血塗れで倒れていたのよ」
やちよが言った。その言葉に咲は驚く。
「血塗れ…!?」
「そうだ。環君が居なかったら危ない所だったぞ」
やちよの隣に居る白髪の少女が腕組みをして言った。その隣にはかなり背が小さい小学生らしき少女も居る。
「おい!今アタシの事小学生って言ったな!」
「えっ…」
咲は目覚めて早々戸惑う事になった。何だか色々とよく分からない事が多過ぎて頭がパンクしかけていた。
*
「……それで、その人が咲ちゃんの携帯を使って私達に教えてくれたの」
いろはから話を聞いた咲はふと思い付いて携帯端末を立ち上げた。するとメモ欄に書いた覚えの無いメモが残されているのを見つけた。
『アンタが試した手は悪手だ絶対につかうな。あと特訓はアタシの都合により中止する。でもアンタは十分やってけるよ。攻撃より避ける事を考えれば大丈夫だ。またなんかあったら連絡してくれ 夏々子』
急いで書いたであろうその文章を見て、咲は急に不安になった。
(もしかしたらわたしのせいで夏々子ちゃんは…)
自分が夏々子を傷付けてしまったのではないかと焦り、慌てて夏々子に連絡する。
すると直ぐに夏々子が電話に出た。
「夏々子ちゃん、ごめんね…」
『いきなりだな。何かされた覚えは無いぞ?』
「でも、魔法を暴発させて…」
『ああ、その事か…アタシは大丈夫だから心配するな、それより…』
暫く躊躇うような間があって、それから夏々子が声を潜めて言った。
『………つけろ』
「えっ?」
『
咲は凍り付いた。
何故、夏々子がその名前を…?
「それって……」
訊き返そうとした時、プツリと通話が切れた。画面の向こうの世界が死に絶えたかのように、後には静寂だけが残った。
咲は携帯端末を持ったまま立ち尽くす。頭の中が益々こんがらがって思考が上手く纏まらない。
「咲ちゃん?」
いろはの心配そうな声が聞こえてくる。それを遮るように頭の中で、「吹綿秕に気をつけろ」という言葉が反響していた。
*
生方夏々子は咲からの電話を切ると前を歩く相棒の様子を伺った。相棒は夏々子が電話をしていた事は気付いていたものの相手が咲だという事には気付いていないようで夏々子はほっとした。バレたらただでは済まないと分かっていたからだ。
(だって、フェアじゃないし)
咲が自分と敵対するであろう相手の事を知らないのはあまりにもフェアでは無いと夏々子は思った。だからこそ彼女に忠告したのだ。いきなりの事で咲は戸惑うだろうが…それでも知らないよりかはずっと良い。
(後でハッキリと伝えなきゃな…)
魔法少女はテレパシーが使える。通信の範囲はあまり広くは無いが特定の魔法少女と話すのにはうってつけだ。電話と違い、思念を飛ばすので盗聴されるという事も少ない。ただ、必ずしも無いとは言い切れないが。
それにしても、相棒は先程からずっと歩き続けている。どこに向かっているのか訊いてみても答えてくれない。
「ねえ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないかい?」
流石の夏々子もうんざりしてきた。相棒に何度目かの問いかけをすると、今度は物凄く不機嫌そうな声で返答が帰ってきた。
「あたしをバイクで跳ね飛ばしたヤツを見つけたから文句でも言ってやろうと思ってね」
ある日、相棒は一人で和泉十七夜を襲撃した。いつも通り全く意図が読めなかったが、大方彼女の固有魔法―読心魔法が欲しかったのだろう。とにかくそれで十七夜と戦闘になったのだが、彼女と対等に戦っている時に邪魔が入った。
突然現れた化け物の様なバイクに轢かれ、その所為で十七夜を取り逃してしまったのだという。それからというもの、咲が魔法少女になったと知った時までずっと相棒は不機嫌だった。
だが―。
「見つけたって…どうやって」
「探させた」
当たり前の事を訊くなという顔をして相棒は言った。
「そこまでするかなぁ…」
夏々子は呆れた。確かに相棒は自分の思い通りにならないと気が済まないという性格ではあったが…。
「うるさい。とりあえず着いてこい」
相棒はまた前を向いて無言で歩き始めた。
陰気な路地裏を抜けると広まった場所に出た。神浜は大都市として知られているがこういった怪しい場所も多い。そして怪しい場所には危ないものが潜んでいるというのもまた常識である。
10人ほどの黒羽根が何かを取り囲んでいた。相棒が近付くと輪の一角が空き、輪の中にあるものが見えた。
それは人間だった。深い青色のバイクスーツを着た少女。恐らく彼女が相棒の言っていたバイクの魔法少女なのだろうと夏々子は判断した。少女の隣には魔法少女としては異質であろう巨大なバイクが停まっている。何となく、狼みたいなバイクだという感想を抱いた。
「アンタがあの時あたしを跳ねたバイク野郎か…」
「だったらどうするの」
バイクの少女が明らかに面倒臭そうな口調で言う。それに対して相棒は凄味のある笑みを浮かべた。
「そりゃあ、謝ってくれるならそれはそれでありがたいさ。だけど跳ねられた時かなり痛かったからね。それ相応のお返しはさせて貰う」
はぁ、と少女は俯いて溜息を吐いた。それから顔を上げて鋭い声で言い放つ。
「それだけの為にこんな所まで連れて来たの?御託は要らないからとっとと掛かってこいよクソ野郎共」
突然の変貌に夏々子は驚いたが相棒は益々笑みを深くして黒羽根達に一言命じた。
「やれ」
黒いローブが一斉に少女に襲いかかった。それは獲物に飛び掛る鴉の冷徹さを宿し、少女の命だけを狙っていた。
黒羽根は烏合の衆で、一人一人は弱い。だがまとまってかかればその限りでは無い。相棒の配下となった黒羽根達は特にそうだ。
自分に向かってくる黒の奔流に、然し少女は怖気付く事無く冷静に動いた。
流れる様な動作でバイクのハンドル部分を掴む。魔力が全身に流れ、強化された筋肉が躍動する。
彼女はバイクを両手で振り回した。ハンマー投げの様に回りながら躊躇無く黒羽根に叩き付け、尽く吹っ飛ばしていく。黒羽根側からしてみれば、それこそバイクに跳ねられた様な衝撃に襲われただろう。吹っ飛んだ黒羽根は壁に激突し、酷い者は衝撃で頭をカチ割られたりしていた。
「そんな事もできるんだ…」
バイクを振り回すって、アクション映画かよ―夏々子は面白い様に吹っ飛んでいく黒羽根を見ながらそう思った。元々中立なので関わる気は薄い。
相棒はというと、想定内だという様に頷き、武器であるダガーを取り出した。
「…それで?これっぽっちで終わり?」
少女がバイクを持ったままで訊いた。相棒はフンと鼻を鳴らし、そんなわけないだろと呟いた。
「かかし、占いな」
「なんで」
「いいから早くやれ」
はいはいわかりましたよ―やけくそになりながら夏々子は占った。すると驚愕の結果が出た。
「………ほえー」
思わず声を漏らす。
「何かわかったか」
「…コイツは無理だ」
夏々子は驚きながら言った。
「弱点が見つからない」
かかしちゃんが準主人公と言っても過言では無いかもしれない。