ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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裏路地にて

「…なんだと?」

 相棒が眉を顰めた。

「本当だよ。アタシの魔法をもってしても弱点が見つからないんだ」

 こんな事は初めてだった。夏々子の魔法で弱点が見つからないのならこの少女には本当に弱点が無いのだろう。

 お手上げだ、と夏々子は水晶をしまった。今回はどちらの味方もしない事にして壁に寄りかかる。

 相棒は相手の出方を伺いながら考えを巡らせているようだったが、軈てぽつりと呟いた。

「…でもまあ、動きを封じればどうにでもなる」

 その言葉と共に一人の黒羽根が少女を羽交い締めにした。先程の攻撃で頭をカチ割られた筈だがまだ動いている。まるでゾンビのようだ。

「さて」

 相棒が片手でダガーを回しながら少女に近付き、楽しそうな声で言った。

「アンタにはこれからあたしの元で働いてもらうよ」

 少女は僅かに眉を顰めた。然し相棒はそんな事お構い無しで続けて言う。

「そこら辺に転がっているゴミよりかは役に立ちそうだしね。名前位は訊いておこうか」

「…水無月霜華」

 夏々子はその名前に聞き覚えは無かったが、相棒は少し驚いたように目を見開いた。

「冬天の亡霊狩りか…」

「知ってるのかい?」

 夏々子が訊く。冬天というのは相棒の出身地である冬天市の事だろう。だが相棒は魔法少女になって以来冬天市には寄り付かなかった。夏々子が知らないのだからそこまで有名な魔法少女では無いはずだ。

「冬天市最強の魔法少女とか言われてるヤツだ。だが…案外大した事はないのかもな」

 あの街と一緒でレベルが低い―相棒は吐き捨てる様に言ってダガーを振り上げた。

「水無月ね、覚えたよ。じゃ」

 躊躇無く振り下ろされたダガーが霜華を襲う―瞬間、彼女は大きく身体を捻って黒羽根を無理矢理振り解き、ダガーを躱そうとした。然しダガーの方が一瞬早く霜華の肩を深々と斬り裂いた。

「そう来なくちゃね」

 相棒が返り血に染まりながら上機嫌で言う。霜華は何事も無かったかのように相棒に接近し、鋭い蹴りを放とうとした。

 だが、

「…?」

 霜華の爪先は相棒の眼前で停止した。わざとでは無い。脚が霜華の意志に反して勝手に停止したのだ。

「どうした?攻撃してみろよ」

 相棒が煽る。霜華は何とか彼女に一発叩き込もうと藻掻くがどの攻撃も全て相棒の眼前で停止してしまう。

「出来ないだろ。あたしの固有魔法が効いている証拠だ」

 相棒はヒラヒラと手を振る。

「あたしの固有魔法は精神汚染だ。魔力を込めた攻撃を当てて精神を操る事が出来る…さっきダガーで攻撃した時は魔力を込めてたからね…これでもうあんたはあたしに攻撃出来ないよ」

 霜華が何かに気付いた様に低い声で言う。

「じゃあ、あのローブのヤツらは…」

「全員あたしの魔法の支配下だ。アンタとは違ってかなりキツめに魔法を掛けてあるから自我も無い。只のあやつり人形さ」

「…それがアンタの望んだ事か」

 霜華は小馬鹿にした様に言った。

「悲しいヤツだ」

「…なんとでも言え。あたしはあたしなりの正義の為にこれを使ってるんだ」

「アンタ、唯のバカだろ。個人の望む正義なんてもの、社会の中ではクソほどの役にも立たないって事が分かってない…まあ、嫌いではないけど」

 霜華の嘲笑への返答は太腿へのダガーの一撃だった。

「口の減らないヤツだ。ま、嫌いじゃないけどね…」

 相棒は薄らと笑みを浮かべ、霜華の太腿の傷を指で弄った。だが霜華は顔色一つ変えない。軈て飽きたのか相棒は指を引っこ抜いた。

「アンタ、余程自制心が強いんだね…まあいいや。とりあえずアンタはこれからあたしの下僕だ」

「嫌だって言っても聞かないんだろう…分かった。アンタがある条件を呑むなら下僕でもなんでもやってやる」

 相棒の目が細められる。少しばかり苛立っているのが分かった。今まで支配してきた相手はそんな事を言わなかったからだろう。だけども此処で苛立ちをぶつけたら交渉は決裂する。相棒の魔法を受けている以上ある程度意のままに操る事は可能だろうがそれだけでは彼女は満足しないだろう。

 だから相棒は無理に顔を歪めて笑みらしきものを作った。

「…その条件とやらを聞こうか」

 霜華はなんでもないような顔をして言った。

「映えある生と唯一無二の死を私に与えて」

「………は?」

 相棒は何言ってるか分からないと言わんばかりの目付きで霜華を見た。これに関しては夏々子も全くの同意見だった。一体何を言っているのだろう?

「ただ一度きりしかない為、生は激しく、貴い。一瞬にして永遠であるため、死は重く、尊い…だからこそ生は映えあるものでなくてはならないし死は唯一無二であるべきだ」

「……何かの宗教か?」

 ややズレた相槌を打つ相棒と大真面目な顔で言う霜華の姿が滑稽だった。

「色々あって得た結論。だけど、今の私じゃそれは得られない。固有魔法の所為で死ぬ事も出来なかったから…でも、今回は何故か固有魔法が発動しなかった。…もしアンタの元でそれが得られるなら私はなんだってする」

「理解出来ないな。生も死も何も変わらないクソッタレなものだろうが」

 相棒が吐き捨てる様に言った。

「だが…まあいいだろう。あたしに着いてくればそこそこ面白い事にはなるだろうしな。それが映えあるものか否かはアンタが決めな」

 夏々子は相棒が約束を守る気が無い事を察していた。霜華がそれを見越しているのかは分からないが彼女は頷いた。

「ありがとう。アンタの名前は?」

「訊いてどうする」

「呼ぶのに不自由する」

「あそう」

 相棒は面倒臭そうに名乗った。

 

「吹綿秕。覚えなくていい」

 

 夏々子の相棒―吹綿秕はまた歩き始める。

「ちょっと、どこ行くのさ」

「戻る」

「黒羽根達は?」

「置いてく。あんな烏合の衆、居たって何にもならない」

 はぁ、と夏々子は溜息を吐いた。秕の固有魔法に操られた黒羽根は異常にタフなのでそのうち復活して勝手についてくるだろうが、それにしてもあんまりな扱いだ。

「アンタ、水無月霜華って言ったっけ?早くついてこないと見失うよ?」

 何時の間にか傷が回復していた霜華に向かってそう言った後、夏々子は秕の後を追い始めようと歩き出す。

「……ねえ」

 数歩も歩かないうちに霜華に呼び止められた。

「何さ」

「アンタはどうして秕の近くにいるの?支配されてるの?」

「別に何もされてないよ。ただアイツと居る事でアタシが何かしら成長出来ればいいってだけさ」

 霜華は小さく呟いた。

「…変なヤツ」

「アンタには言われたくないね」

 夏々子は素っ気なく言い、秕の後についていった。

 

 

 …吹綿秕が率いる奇妙な集団が咲達と関わるのは、まだ少し先の話である。




次回からはまた咲を中心とした話に戻ります。
霜華の本格的な出番は3章になるかと。
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