ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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何かが始まる

 それから少し経ったある日の事。

 神浜の魔法少女達が、とある公園に集まった。

 今日は「神浜マギアユニオン」の結成日である。参加する意志のある魔法少女が一堂に会し、新たな門出を祝う日だ。実際かなりの魔法少女が集まったし、幸先の良いスタートを切れたと言えるだろう。

 だが、そんなお祭り騒ぎの中に―琴音咲の姿は無かった。

 

 

 咲は自室のベッドで自分の不運を呪っていた。まさかこんな大切な日に風邪を引いて動けなくなるとは…自分には不幸を司る神様が取り憑いているのではないかと疑いたくなる程だ。最も、そんなものがいればの話だが…。

 しかも相当タチが悪い部類の風邪らしく、なかなか熱が下がらない。くしゃみやら鼻水やらはひっきりなしに出るし、ついでに頭痛も酷い。インフルエンザかと疑ったが検査をしたらどうやら違うようだった。あまり納得がいかない結果ではある。

 不貞腐れて枕に顔をうずめる。いろはには事前に連絡してあったが彼女に欠席の連絡を入れようと決意するのには随分と時間が掛かった。咲は魔法少女なので回復は早いだろうがそれでも今日一日は動けそうにない。咲が長い間支持してきた「魔法少女は風邪を引かない」はガセネタだった様だ。

 それに、一人になるとどうしても夏々子の警告が頭に浮かんでくる。「吹綿秕に気をつけろ」…何故夏々子から秕の名前が出てきたのか、何故咲が秕に気をつけなければいけないのか…分からない事だらけで頭がこんがらがった。

 そんな感じで悶々としているうちにやって来た眠気に身を任せようとしていた時、頭の中で声が響いた。

(……き、咲、聴こえるかい)

 咲は驚いて声をあげそうになった。それは紛れも無く生方夏々子の声だった。魔法少女のテレパシーだ。

(夏々子ちゃん?どうしたの?)

(…ああ、ちゃんと聴こえてるのか。ちょいと話があってね。今は新西の駅前にいるんだが出てこれるかい?)

 咲は風邪を引いていて無理だと言った。

(そう…じゃあこのまま話そうか。アンタ、秕の事気にしてるんだろ?)

(…うん)

(アイツが知っていてアンタが知らないのもフェアじゃないからな…今から言う事は全て真実だ)

 そう前置きして、夏々子は話し始めた。

 

 

 アタシと秕は元々マギウスの翼の黒羽根だった。まあ他のヤツらと違って心酔してる訳じゃなかったけどね。アタシは興味があって入っただけだし秕は…分からないな。まあそれはどうでもいいか。

 その中でアタシは秕に救われた。魔女に殺されかけた所を助けて貰ったんだ。アイツにしてみれば助けた気は無かったんだろうけれど、それでアタシは秕に興味を持って、つるむようになった。アイツは嫌がってたけど最終的にはアイツが折れた。アタシの固有魔法が欲しかったんだろうよ。最も、アイツは誰も信用してない。アタシだって信用されているか怪しいものさ。

 

 アタシはアイツの行動を殆ど容認している。例えそれが人殺しだろうとね。…そう、アイツは人を殺している。勿論後始末は徹底しているから見つかる事は無い。というかアイツの固有魔法はそういう事に向いている。「精神汚染」…半殺しにして固有魔法で強制的に従わせるのさ。まあ勢い余って殺しちまう事もあるらしいけど。…これを知ったアンタが警察に相談しても無駄だ。死体が見つからないんだからね…。ちなみにだけど襲われてるのは黒羽根が圧倒的に多い。アイツにとっては最も与しやすい相手だからだとアタシは思ってる。

 …そういう事を何故容認するのかだって?

 …さあ、何でだろうね。

 

 そんな感じでアイツと行動している時、たまたまアンタを助けた事を話したんだ。そしたらアイツは目を輝かせて「あたしを裏切ったアイツを、絶望に突き落として終わらせる」って言った。こればかりはアタシの所為だ。済まない…って言ってもどうにもならないだろうし、出来る限りのサポートはする気でいる。特訓をしようって言ったのもそういう事があったからさ。

 兎に角、秕はアンタを殺そうとしている。一応警戒しておいた方がいい。アイツが何かおかしな動きをしたなら直ぐに伝える様にはするけどそれが出来ない場合もあるから。

 

 …不安なのは分かる。アタシがこんな事言っても良いのかは分からないけれどハッキリ言ってアイツはおかしい。

 でもな、咲。アンタはアイツに無い物を持ってる。それが何なのかは…アンタなら分かるはずだ。

 …とりあえず忠告はしたよ。後はアンタ次第だ。まあがんばりな。

 

 

 夏々子は殆ど一方的に言うと「じゃあ」と言ってテレパシーを切った。

 咲は無理矢理身体を起こした。熱の苦しみなど、何処かに吹っ飛んでいた。

 …秕が自分を恨んでいる事は分かっていた。それに値する事を咲はやってしまった。大切な友人などと言いながら、彼女に全てを押し付けてしまった。その責任は、今でも感じている。

 自分が秕に身を差し出して彼女に殺されたら…全ては丸く収まるだろう。それは分かっている。

 だが、それは出来ない。してはいけない事だ。咲は秕を傷付けてしまった過去と向き合い、歩き出す事を決心していた。だから、それはあくまでも最終手段なのだ。

 夏々子は「アンタはアイツに無い物を持ってる」と言った。それが何か…咲には何となく分かっていた。

 自分は秕より劣っている。彼女は全てにおいて咲の上に立っていた。吹奏楽部に居た時だって、彼女が居なければ全国大会に出る事は出来なかっただろうと思う。それくらい、才能に溢れた人物なのだ。少なくとも咲はそう思っている。

 では、秕に無くて咲にあるものとは何だろうか?

 

 それはきっと、「仲間」だ。

 

 夏々子の口ぶりからして、恐らく秕には仲間が居ない。夏々子とはただつるんでいるだけであって、秕にとっては仲間では無いのだろう。固有魔法を悪用している事からも、それは読み取れた。

 咲が秕に勝るとしたら、これしか無い。

 確かに仲間は弱点になりうるものだ。人が誰かを愛する事で強くなるという事はまず無い。それは唯の幻想であり、寧ろ人は誰かと居る事で弱くなる。何も失う物が無い人間は何かを守ろうとする人間より強い。そういった意味では、秕は咲を凌駕していると言えるだろう。

 だが、仲間は決して弱点になりうるだけのものでは無い。仲間が居る事で何かを成せる事もある。今のいろは達だって、仲間と共に大きな事を成そうとしている。

 皆を巻き込んでしまう事に対しての罪悪感はある。以前の様に、自分が原因で誰かが傷付くかもしれない。

 

 ―私も一緒に背負うよ。咲ちゃんが背負ってるもの。

 

 でも、いろはは言ってくれた。一緒に背負うと言ってくれた。

 だから、咲は…。

 

 

 翌日、神浜マギアユニオンの連絡網に注意喚起が回った。

 咲が得た情報と和泉十七夜が襲われた一件を照らし合わせ、ある黒羽根の一団が怪しい動きをしていると幹部達は断定し、それを通告したのだ。

 それが功を奏したのか、秕は少しばかり行動を控えるようになったと夏々子が連絡してきた。

 だけど、秕がこれで収まる訳が無いと咲は分かっていた。

 

 こうして琴音咲の物語は、吹綿秕によって翻弄されていく事になる。

 この物語がどの様な結末を迎えるのかは…まだ、誰も知らない。




次回、2章最終話です。
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